元帥閣下の女学生生活はじめましたっ!!   作:のこのこ大王

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第29章 予想外

 

 

 

 

 

 

「さて、聞いていた話と違う訳だが

 どういうことか説明してくれないだろうか?」

 

 美少女・・・もとい綺麗な顔立ちの人間の感情の無い笑顔ほど

 怖いものは無いなと、テリアは思いながらも

 どう言えば目の前の相手が納得するだろうかと思案する。

 

 正直、自分からしてもいきなりのことだっただけに

 むしろ自分の方が説明して欲しい気分だったからだ。

 

「大急ぎで戻ってきてみれば、その用件が綺麗さっぱりと

 無くなっているではないか。

 

 いや、うちの副官どのは

 いつからそんな政治的能力まで身に付けられたので?

 

 いっそこれからは、その手腕に期待して政治や外交面でも

 活躍して頂く方が良いかもしれんな」

 

「そう言われても、正直こっちも突然過ぎて意味が解らなかったのだから

 私の責任ではないと思うのだけれど・・・」

 

 テリアは、ため息を吐きながらも反論する。

 

 

 ここは、レナード元帥の本拠地であるアスタブローグ。

 その中心地にあるレナードの屋敷の執務室。

 

 目の前に居るのは、美少女の姿をした元帥。

 てっきり道中で着替えてくるものとばかり思っていただけに

『その姿が気に入ったのか?』と言いそうになったが

 何とかその言葉を呑み込むことに成功する。

 恐らく今それを言えば、間違いなく不幸なことにしかならないからだ。

 

「大急ぎで戻ってきてみれば

 居座っているという皇女は、とっくに学園都市に向かった後とはな」

 

 椅子に座る元帥を見ながら、つい先日起こった出来事を思い出す。

 

『会えるまで居る』と言っていた帝国の皇女

 カタリナ・フェーン・リッツダールが

 ある日突然、忙しく動き出したかと思えば

 早々に準備を整えて学園都市に行ってしまったのだ。

 

 すっかり準備を整えた彼女が、いきなり現れたかと思えば

『元帥閣下によろしくお伝え下さい』と言って去っていた時は

 意味が解らず最低限の見送りだけになってしまった。

 まあ護衛騎士の選別は、既に終わっていたので

 護衛無しに出発させた訳ではないのが幸いだったが。

 

 あれだけ追い出そうとしても居座り続けた彼女が

 いきなりあっさりと出て行ったことに関して、思い当たることもなく

 困惑するしかなかった。

 

 だから正直、どうしてだと説明を求められても困るのだ。

 むしろ、あの女狐のような女が、どうしてあっさりと出て行ったのか

 こちらが聞きたいぐらいである。

 

 どうしたものかと思案していると

 ドアをノックする音が聞こえてくる。

 

「それぐらいで許してあげては、どうなのです?

 あれは、防ぎようがないほどの不意打ちなのですよ」

 

 部屋に入ってくるなり声をかけてきたのは

 同じく留守を任されている一人である、リーン=クレメントだ。

 

 小さな姿で、ちょこちょこと歩く姿は

 可愛らしいと思えるが、その中身は見た目に反して

 非常に恐ろしいものだ。

 

 まるで全てを見透かしているかのような言動で

 何度も、そういう力を持った想力者ではないかと疑ったこともある。

 

 彼女のおかげで、こちらへの追及が無くなり

 安心感から、ホッと息を吐く。

 

 

 

 

 

第29章 予想外

 

 

 

 

 

「そうも言うがな。

 偽装などの手間すら惜しんで帰ってきたのに

 それが肩透かしともなれば、不満の1つも口にしたくはなる」

 

「そんなに皇女に会ってみたかったのです?」

 

「どのような力なのか不明な想力者。

 興味があったことは事実だな」

 

 ほとんど情報が無く、噂程度の話でしかないが

 とある戦いで、一度だけ戦場に立ったことがあるらしく

 迫りくる敵兵を一方的に蹴散らしたという話が

 あるとか無いとか、非常に曖昧で不鮮明な話があるそうだ。

 

 実際、想力者ではあることは事実だそうで

 もし噂が本当ならば、個で軍を相手に出来るほどの力とは

 どれほどのものかということに興味があった。

 

「どうせ学園都市で学生をやるのですから

 機会は、いくらでもあると思うのですよ~」

 

 リーンの言葉に『まあな』と頷く。

 どちらにしろ同じ学園になるのだから

 授業など、力を見る機会は多くなる。

 そう考えれば、今を逃した所で問題はない。

 

「それに、向こうにも色々あるみたいですねぇ。

 どうやら本国に居る誰かの横やりみたいなのですよ?」

 

「ほう?」

 

 リーンは、持ってきた飲み物をそれぞれに配り終えると

 椅子に座り、一息入れてから話を続ける。

 

「出ていく2日ほど前から、人の出入りが激しくなったのです。

 相当な圧力があったのか、撤収まで手際が良すぎたのですよ」

 

「・・・いやいや、その話。

 私の方に報告上がってないんだけど?」

 

 聞いていなかった情報が出たのか

 思わずテリアが声を上げる。

 

「おや、そうだったのです?」

 

「・・・アナタねぇ」

 

 思わず頭を抑えながらため息を吐くテリア。

 

「まあ、その辺の連絡ぐらいは、ちゃんとしてやれ。

 で、話を戻すとだな。

 皇女に圧力をかけられる存在など、あまり居ないだろうに」

 

「考えられるのは、皇帝。

 次に皇子のどちらかなのですが、可能性があるのは上なのです。

 

 下の方なら、圧力よりも協力や懐柔を選ぶはずなのですよ」

 

「相変わらず身内で争うのが大好きな連中だな」

 

 帝国は、戦争前から皇子達による次期皇帝争いが発生していた。

 男しか継承権の無い帝国では、皇女など政略結婚の道具でしかなく

 継承争いには、あまり関わることはない。

 

 その争いは、戦争中にも継続して行われ

 元々5人居た皇子達の数を減らす結果となり

 今は、長男と四男しか生きていない。

 

 そんな度重なる暗殺合戦に、流石の皇帝も重い腰を上げ

 帝国から仕掛けた戦いであったにも関わらず

 帝国から休戦を呼びかけることになり、今の停戦状態になったのだ。

 

 逆に言えば、もし帝国に何の争いもなく

 国を挙げて戦争を仕掛けられていたら、王国は負けていたかもしれない。

 

「宰相や将軍という可能性が無い訳ではないのですが

 あそこの宰相は、それなりに有能なのですが

 内部争いを誘発するほどの権力志向でもないのですよ。

 

 将軍に関しては、権力争いをしそうな人間は残ってないのです。

 ・・・しそうな将軍は、どこかの元帥に全て討ち取られたのですよ~」

 

 そんなことを考えていると

 目の前の軍師殿から、謎の非難が上がった。

 

「まさか敵を討ち取ったことを責められる日が来るとはな」

 

 前線で槍を振り回しながら指揮をする将軍も居れば

 兵士に時間稼ぎをさせ、逃げ出すような将軍も居た。

 

 中には、一騎討ちを挑んできた者も居た。

 

 どういった将軍でも倒してしまえば敵軍の士気は、大幅に下がる。

 そうなれば戦いは、もはや決着したと言ってもいい。

 

 そうして勝利してきたのだから

 それ自体に文句を言われても困る。

 

「別に責めている訳ではないのですよ。

 そういうのが生き残っててくれれば、内戦への誘導も出来たかな~と」

 

「流石に内戦までは、皇帝が許すまいよ。

 それにグランド将軍などの古参も残ってる訳だし

 そういう連中は、まとめて粛清されてただろうさ」

 

 停戦が良い例である。

 内戦に発展しそうになっていた帝国は

 停戦することにより、それを回避した経緯がある。

 

「粛清させるのが目的なのですよ~」

 

「・・・相変わらず、エグイことを考える」

 

「え~っと。

 どういうこと?」

 

 唯一、理解出来なかったテリアが

 不思議そうに声を上げる。

 

「テリアは、もう少し頭の回転も鍛えるべきなのです。

 元帥代理として表に出る機会の多い貴女が

 その程度の理解度では、話にならないのですよ~」

 

「大きなお世話よっ!」

 

 リーンの言葉にテリアが呆れたような顔で怒る。

 その表情からは

『自覚はしてるのだから、いちいち言うな』といった所だろう。

 

 あまり追い込んでやるのも可哀想だと思い

 たまには、助け船でも出してやろうと

 テリアに向かって声をかける。

 

「まあ、要するにだ、テリア。

 例えば、リーンとシェンナが反乱を起こしたとしたらどうする?」

 

「捕らえて処刑する」

 

「即答過ぎて怖いのですよ~。

 もう少しぐらい迷うか、話し合いぐらいはして欲しいのです~」

 

 あまりに素早い即答に

 私からは苦笑が、リーンから苦情が上がる。

 

「まあ、まず処刑になるだろうな。

 でだ、軍団の幹部から裏切り者が出たとなれば

 リーンとシェンナだけ処刑して、それで終わると思うか?」

 

「・・・他にも裏切り者が居ないかを疑うわね」

 

「そうだな。

 そしてそれは、テリア側の視点だろう?

 例えば、ミーアの奴が常にテリアの行動を見張っていたら?

 気づけばエイダが、必ず傍で自分を窺っている姿を見たら?」

 

「・・・あまり気分が良いものではないわね。

 それってつまり私まで裏切るかもと監視してるって意味でしょ?」

 

「それが、先ほどのリーンの話だ。

 身内を粛清させ、疑心暗鬼にさせることで

 まだ裏切り者が居るかもしれないと

 皆が疑いの目を周囲に向けることになる。

 

 たったそれだけで、人間関係というものは崩れていく。

 特に、内戦まで起こりかけていた連中だ。

 対立している者同士などは、互いを信じられるはずもない。

 見え見えの嘘であっても、それを利用して相手を潰しにかかるだろう。

 ただでさえ帝国は、周囲を全て敵に回しているのだ。

 これ以上は、流石に限界だろうよ」

 

 帝国は、我が王国だけを敵にしている訳ではない。

 ガーランドは、半ば属国のコルスン帝国に任せるとしても

 西は、森の民と呼ばれる部族が中心の国家があり

 北側には、海があり、貿易も盛んな大国が存在している。

 

 そのどちらとも帝国は、仲が悪く戦争状態を継続中である。

 しかし幸いというか、残念というか

 どちらとも、もう数年ほど小競り合い程度で済ませており

 大きくぶつかってはいない。

 

「なるほど、嫌がらせとしては

 非常にめんどくさい類の奴ね」

 

「まあ、あの皇帝にそれが通用するかは

 また別の問題ですけどね~。

 

 それにこれは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーンが説明をしている頃。

 

 赤竜隊ではないものの、それに次ぐレナードの精鋭部隊に護衛された

 豪華な馬車の中で、不機嫌そうな顔をしたまま外を眺める皇女の姿。

 出発してからずっと無言だった皇女が、突然口を開いた。

 

「・・・まったく何なのよ、アレは。

 せっかくの機会を邪魔するなんて、ホント使えない人だわ」

 

 外を向いたまま不満を口にする皇女の言葉を

 反対側に座るメイド姿の近衛騎士、ナナリー=レガンタは

 どうしたものかと思案するも、スグにどうでもよくなる。

 こんな時、何を口にしても皇女の不機嫌が増すだけなのを

 経験から理解しているからだ。

 

「わざわざ皇帝の権限を利用するとは・・・。

 こういうどうでも良い時だけ、無駄に頭が働くなんて

 ホント無能も良いところだわ」

 

「―――皇帝の権力を利用、ですか?」

 

 黙っているつもりだったが、つい言葉が漏れてしまう。

 

 レナード元帥の本拠地である『アスタブローグ』

 そこに滞在していた皇女の元に届いた手紙。

 

 差出人は、父である皇帝陛下だ。

 

『寄り道や余計なことをせず、務めを果たせ』

 

 たったこれだけしか書いていない手紙ではあったが

 これが今の皇女の行動を咎めることなのは、明白だった。

 

 正直に言えば、不満でしかない。

 しかし今、皇帝陛下に逆らうことに意味は無く

 今後を考えてもここは、大人しく従った方が良いと判断した。

 だからこそスグに学園都市に向かうことにして

 アスタブローグを去ったのだ。

 

「お父様が、この程度のことでいちいち口を挟む訳ないでしょ。

 逆に私の行動を支持してもいいぐらいよ。

 

 それなのに・・・まったく、もう!」

 

 そう口にしながら再度、イライラし始める皇女。

 彼女からすれば、あの手紙を見れば

 誰が何をしたかなんて予想が付いて当然なのだ。

 それぐらい言わずとも察しろと目の前のナナリーに言いたくなるが

 それをグッと堪える。

 今言えば、完全なる八つ当たりだからだ。

 ナナリーも、それを察したのか

 黙ったまま軽く頭を下げた。

 

「今回の件は、どうせグラッツお兄様よ。

 自分が失敗したのに、私が成功するのが怖い・・・

 

 ―――いえ、私がレナード元帥と

 友好関係を築くことすら嫌なのでしょうね。

 

 下という線も無い訳ではないけど

 あの子なら、私を敵に回すような真似はしないわ」

 

 怒りを抑えつつ説明を続ける皇女に

 ナナリーは、内心ホッとしたのも束の間

 未だにこちらを見ず、ずっと外を見たまま

 淡々と話をしていた皇女ではあったが

 次第に、その端々に苛立ちが再度見え隠れし始めた。

 よほど気に入らなかったのだろう。

 

 本来なら、話しかけないのが一番なのだが

 ナナリーは、一度反応してしまっている。

 反応してしまった以上、無視する訳にもいかない。

 皇女に気づかれないように、ため息を吐くと

 会話を続ける覚悟を決めて口を開いた。

 

「グラッツ皇子殿下の意見で、陛下が動かれたと?」

 

「お父様が、今更あんなものを送ってくる訳ないじゃない!

 送ってくるとしても、もっと前に送られてきているわ。

 

 だとしたら、最近になって誰かが口添えしたってことよ!」

 

 こちらの言葉を予想していたのか、皇女が即答する。

 口元を豪華な扇子で隠してはいるものの

 眉間のシワを見れば、どのような顔をしているかは言うまでもない。

 

「だとしても、それがグラッツ皇子殿下だと断定出来ないのでは?」

 

「私を敵に回しても気にしない、もしくはどうでも良い人物で

 かつお父様・・・皇帝陛下に手紙まで書かせることが出来るのなんて

 あの無能ぐらいよ!」

 

「・・・流石に無能扱いは」

 

 よほど怒りが収まらないのか。

 ついに実の兄を無能呼ばわりである。

 

「無能よ、無能!

 

 こんな下らない嫌がらせだけ上手い無能とか

 皇子でなければ、とっくに排除されてるわ!」

 

 ナナリーから見ても、これほど荒れている皇女は、見たことが無い。

 それほどまでに、レナード元帥との出会いを邪魔されたことが

 不愉快で仕方が無いようだ。

 

 これは、今日一日間違いなく荒れたままだろうなと

 ナナリーは、また気づかれないようにため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、リッツダール帝国の首都である帝都オルヴァニスタの王城では

 皇帝が私室で一人、ワインを飲んでいた。

 

「・・・ふむ、どうしたものか」

 

 思案するのは、娘であるカタリナ皇女のことだ。

 ガーランドとランバルトに早々に喧嘩を吹っ掛けるなど

 やりたい放題ではあるが、それは予想内の出来事だ。

 

 そしてレナード元帥に直接会いに行くことも十分予想出来た。

 だが、会いに行った直後に即婚約を提案してきたのだ。

 レナード元帥に会えていないにも関わらずである。

 

 それほどまでに何かを見たのか、聞いたのか、知ったのか。

 いずれにしろ、その辺りの説明が一切されずにである。

 

 どうしたものかと考えていた所に、第一皇子のグラッツが現れた。

 何を言い出すかと思えば、カタリナの挑発行為と

 王国・・・というよりは、レナード元帥の本拠地である

 アスタブローグに長期滞在する予定だというのは

 一体どういうことかと、わざわざ言いに来たのだ。

 

 カタリナは、学園都市に学業に向かうという表向きがあるものの

 実質的には、人質であり余計なことをさせれば

 それだけ帝国の意図に気づかれてしまうと

 グラッツは、身振り手振りを交えて熱弁する。

 

 皇帝を目の前にして、まるで自分の考える帝国の動きこそが

 帝国そのものの未来であるかの如く語る息子に対し

 もう自分が皇帝になったつもりかと、呆れてしまう。

 

 そもそも勝手に暗殺などの後継争いを始めた挙句に

 身内で殺し合い、内乱寸前までもっていった張本人である。

 本来なら、処刑してもおかしくはないのだが

 そんな身内のゴタゴタを生き抜けない者に皇帝の資格はない。

 それにこれでも可愛い子供の1人だ。

 まあ話ぐらいは聞いてやろうと思い、口を開いた。

 

『お前は、何が言いたいのだ?と』

 

 すると長々と建前から話始めたが、要するに

 カタリナに余計なことをするなと釘を刺して欲しいとのこと。

 色々と言いたいこともあったが、これを理由にするのも悪くない。

 だからこそ、下らない提案を受け入れ

 カタリナに対して手紙を送ることにしたのだ。

 

「まあ、文句を言うだろうが

 全てグラッツが引き受けることになるだろうな」

 

 恐らく今頃、文句を言いながらも命令に従っているだろう

 カタリナの姿を想像して、笑みを浮かべる。

 

 その後、ワインを飲み干すと

 脇に置いてあったハンドベルを鳴らす。

 

 すると、どこから現れたのか

 部屋に人影が現れる。

 

「アスタブローグを徹底的に調べろ。

 同時に街でのカタリナの足取りに関してもな。

 

 何を見て、何を聞き、何を知ったのか。

 それら全てをだ」

 

 皇帝の言葉を聞いた人影は、音も無く消え去った。 

 

 

 

 

 

第29章 予想外 ~完~

 

 

 

 

 

 

 

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