「ここか・・・」
一時間後、俺は横浜港北総合病院に来ていた。キリトの推測、そして春子の情報が正しければ、ユウキはここにいるはずだ。
俺は病院へ入り、受付に向かう。
「スミマセン、面会に来たのですが・・・」
「面会ですね?患者さんのお名前を教えていただけますでしょうか?」
・・・そういえば俺、ユウキの本名知らねぇわ・・・
「・・・名前は多分ユウキです。俺と同い年くらいの女の子で、こちらにあるメディキュボイドを使用していると思うのですが・・・」
俺がそう言った途端、女性看護師さんが「えっ・・・?」という顔をする。
「・・・あの、つかぬことをお聞きしますが、アルヴヘイム・オンラインというゲームをプレイされてますか?」
「へ・・・?あぁ、はい。やってますけど」
「・・・もしかして、アバターネームはアイズ・・・さん?」
「はい、アイズですけど・・・どうしてそれを・・・?」
「・・・少々お待ちください」
看護師さんはそう言うと、どこかへ電話をかける。
・・・どうしたんだ?
「お待たせしました。今、倉橋という医師がこちらに来ますので、そちらの椅子にお座りになってもう少々お待ちください」
「あ、はい・・・」
とりあえず言うとおりに座って待っていると、一人の白衣を着た男性医師がやってきた。
「あなたがアイズさんですか?」
「あ、はい。本名は小田切隼人といいます。倉橋先生ですか?」
「はい、倉橋といいます。いやー、まさか本当にアイズさん・・・じゃなくて、小田切さんに会えるとは思いませんでした」
「・・・あの、敬語とか使わなくて大丈夫ですよ?俺のことも隼人で良いです」
「本当かい?いやー、助かるよ。何せ敬語なんて使い慣れてなくてねー」
倉橋先生がホッとしたような顔をする。医者が敬語を使い慣れてなくて良いのか?
「改めまして隼人くん。僕が紺野さんの主治医を担当している倉橋です。よろしく」
「・・・紺野さん?」
「あぁ、ユウキくんの本名は紺野木綿季っていうんだ。僕はユウキくんって呼んでる。くん付けだと男の子みたいだって、ユウキくんによく文句を言われるけどね」
先生が苦笑する。
「それにしても、よくここが分かったね。ユウキくんがメディキュボイドの被験者であることも、メディキュボイドがここにあることも、ユウキくんは知らせてないだろう?」
「・・・ちょっとした情報通が知り合いにいるものですから」
「恐ろしいねぇ」
またしても苦笑する先生。
「さて、それじゃユウキくんの所に行こうか。会いに来たんだろう?」
「はい、お願いします」
先生に案内され、通路を進んでいく。
「そういえば先生、受付の看護師さんが俺のことを知っていたんですが・・・」
「そうなんだよ。実はユウキくんから、アイズって人がここに来るかもしれないって聞いていてね。メディキュボイドのことを何も話していないのに、ここに来られるはずがないって思ってたんだけど・・・念のため、受付に話を通しておいて正解だったね」
そうだったのか・・・ユウキ・・・
「さ、着いたよ。ここだ」
先生が持っていたカードをかさずと、扉が開く。中に入ると、部屋の左側に大きな窓があったが、黒く染まっていて向こう側が見えなかった。
「向こう側は無菌室だから入れないんだ」
先生はそう言うと、すぐ側にあったパネルを操作する。すると、黒く染まっていた窓が透明になる。覗いてみると・・・
「・・・ユウキ・・・!」
そう、そこにはユウキがいた。ベットに横たわっており、頭部が白い直方体の機械に覆われている。あれがメディキュボイドだろうか。
「・・・ユウキくんからは、隼人くんが望むのなら全てを話してあげてほしいと言われてる。・・・聞きたいかい?」
「・・・聞かせて下さい、先生。ユウキの病気って一体・・・」
先生は一呼吸置いて告げる。
「後天性免疫不全症候群・・・AIDSだよ」
***
ッ!・・・エイズ・・・
「エイズはね、今ではそんなに恐ろしい病気じゃないんだよ?早期に発見できれば、薬を使って発症を抑えることだって可能だし、普通に生活することだってできるんだ。ただ残念ながら、ユウキくんが感染したウイルスは・・・薬物耐性型だった」
「・・・つまり、薬が効きにくいということですか?」
「あぁ。ユウキくんは難産で、帝王切開が行われたんだ。その時、何らかのアクシデントで大量に出血して輸血されたそうなんだが、用いられた血液がウイルスに感染しているものだったんだ。出産後、ユウキくんのお母さんが受けた血液検査でウイルスが見つかってね。その時にはもう、ユウキくんも感染していた」
言葉を失う俺。そんな・・・
「ユウキくんは生後間もなく、薬による治療を受け始めた。一番危険な時期を脱してからは順調に成長して、小学校に入学したんだ。でも六年生に上がって卒業間近の時、ユウキくんの病気のことがどこかから漏れて・・・他の生徒の保護者から、ユウキくんが通学することへの異議申し立て、それに電話や手紙などによる嫌がらせをされてね・・・」
酷い・・・ユウキは何も悪くないのに・・・
「何とか小学校を卒業することができたんだけど、卒業直後にエイズの発症が確認されてね・・・エイズによって免疫力が低下すると、様々な病気にかかりやすくなってしまう。未成年のユウキくんは特にね・・・そんな時にメディキュボイドがうちの病院に試験導入されたんだ。だから僕は、ユウキくんに提案したんだ。メディキュボイドの被験者になってみてはどうか、ってね」
「・・・どうしてユウキを被験者に?」
「メディキュボイドは精密な機械だから、無菌室で使用することになる。無菌室なら、ユウキくんが他の病気にかかるリスクを大幅に減らせるんだ。それに現実世界ではないけれど、バーチャル・ワールドなら自由に活動できるからね。ご両親もユウキくんも相当悩んでいたけど、最終的にユウキくんは被験者となることを選んだんだ。以来ずっと、メディキュボイドの中で暮らしているよ」
「ずっと・・・?小学校卒業直後から・・・?」
「あぁ。もう二年半になるね」
「・・・ッ!・・・俺たちより半年も長いのか・・・」
「え?どういう意味だい?」
先生が尋ねてくる。俺は先生に全てを話した。SAO生還者であること、ユウキとの出会い、それに・・・現実世界で向けられる視線のことも全て。
「・・・そうか。隼人くんも辛い思いをしてきたんだね」
先生が悲痛な表情を浮かべている。今日初めて会った人の過去を聞いてこんな表情になるなんて・・・先生、アンタ良い人だな。
「・・・きっとユウキくんは、自分と隼人くんの姿を重ねてたんじゃないかな」
「どういうことですか?」
「二人とも共通している部分があるだろう?周りから向けられる視線も・・・同じ時期にバーチャル・ワールドにダイブし、長く過ごしてきていることも」
・・・言われてみればそうだな。俺とユウキには似通っている部分がある。ユウキには、俺の気持ちが分かっていたんだろうか・・・
「・・・そういえば先生、ユウキのご両親は・・・?」
「お母さんはこの病院に入院していて、今も病気と闘ってる。お父さんも毎日のようにお見舞いに来ていてね。ユウキくんとも会ってるよ」
「会ってる・・・?でもユウキはダイブしてるんじゃ・・・?」
『ボクならここにいるよ、アイズ』
ッ!今の声って・・・!
ユウキの方を見ると、メディキュボイドのパネル表示が「TALKING」になっている。その上のレンズがこちらに向けられていた。
「ユウキなのか!?」
『うん、ボクだよ。それにしても、まさか本当にアイズが来てくれるなんて・・・』
「当たり前だろ。とりあえず一発殴らないと気がすまないわ」
『え!?ボク殴られるの!?女の子なのに!?』
「男女平等だ」
『こういう場面で使う言葉じゃないと思うよ!?』
俺とユウキのやりとりを聞いていた先生が笑い出す。
「そういうわけだから、とりあえずALOで会おう。24層の大樹の前まで来い」
「あ、それなら奥の部屋にアミュスフィアがあるから使うと良いよ」
『うわぁ・・・怖いなぁ・・・』
ユウキがビビッている。・・・マジで覚えてろお前。
俺は先生に頭を下げると、奥の部屋に入り、椅子に座ってセットされていたアミュスフィアを被るのだった。
どうも~、ムッティです。
ユウキの病名が明かされましたね。
なお、原作と少し設定を変えています。
原作ではユウキの両親は既に亡くなっていますが、母親は闘病中とさせていただきました。
父親は病気ではないという設定です。
それから、ユウキの姉のランは出てきません。
出すべきかとも思ったのですが・・・
ご了承下さいませ。
さて、いよいよALOでアイズとユウキが再会します。
果たしてアイズは、ユウキにどんな言葉をかけるのか?
第十四話もよろしくお願いします。
以上、ムッティでした!