TALES OF THE ABYSS ~ Along With the Nargacuga ~ 作:SUN_RISE
どうもお久しぶりです、SUN_RISEです。
二ヶ月も間を空けてしまい、申し訳ありません。ずっと使い続けていた8年モノのパソコンがついにダメになってしまいまして……。
Core2Duo + Vista + メモリ2GBで、よくこれまで働き続けてくれたものです……さらば、わが戦友よ。
そして新たな相棒よ、よろしく頼む。
さて、今回の話なのですが一つだけ注意点を。
途中「(~~~)」とカッコ書きしている会話文がありますが、これは ~~~ の内容を誰かが人間の言葉に訳していると考えてください。魔物の体を持った人間が主人公、という小説の特性上、今後もこれを使う事があるかと思いますのでよろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞお楽しみ下さい。
ルグニカ平原に吹くものより、少しだけ強い風が
……おそらく、海が近いのだろう。微かに潮の香りを含む風が黒い毛にまとわりつき、逆立っていた毛をしんなりと落ち着かせていく。本来は不快に感じるところだが、やけに草木が少なく乾燥した山を通過した直後な事もあって、
気のせいか、国境線を越えてからガラリと雰囲気が変わった気がする。気候区分的には似通っているであろう国境線近くでさえコレなのだから、ここから南下すれば更に明確な違いが表れてきそうだ。ゲームでは敵モンスターの種類ぐらいしか差異が無かったのだが、現実として体験するとこうも雰囲気が違うものなのか。
……正真正銘の人間であった頃の、忘れかけていた懐かしい高揚感が脳裏に蘇ってくる。旅路で見知らぬ土地に来た時の、あのワクワクとドキドキが入り混じった何とも言えない気持ちだ。もしかしたらこれは、『この身がモンスターと成り果てたとしても、そうそう
『やはり、ルグニカ平原とは風の雰囲気が違いますね。潮風……というのでしょうか? ここの風は海の香りが強くて、なかなか新鮮ですね』
『ん? 潮風は初めてなのか?』
『はい。噂には聞いていましたが、不思議な感触ですね』
シルフも興味津々といった様子で、
辺りにルーク一行を追ってきた六神将がうろついているかもしれず、また直近で軍港イベントが控えている以上ノンビリできるような状況では決してないが……せっかくだし、今だけは俺もこの高揚感を楽しみたいと思う。
……さて、思い返せば随分とこの体にも慣れたものだ。最初は戦々恐々、この世界の魔物に話が通じるのか……とか、食事はどうなるのか……とか、
もちろん、今も不安な事はたくさんある。アビス世界の歴史との関わり方、アリエッタや六神将やルーク一行との関わり方、今後に向けた
それでも今は『どうにかなるのでは』と思えてしまう。
不明確とはいえど、そこには確かな自信が芽生えてきている。その根拠が、金剛亀や大老樹との戦闘で体感した
だが、張りぼてだろうが反動だろうが不明確だろうが、自信は自信だ。自信は人生を前向きに歩む為の大切な
そんな不明確な自信を確実なものとしたいからこそ、軍港襲撃イベントにはとことんこだわる。ゲームでは数分で流されてしまう程度の小さなイベントであっても、言うなれば『歴史に喧嘩を売る』ような行為に一定の成果(この場合は死亡者ゼロ)が得られれば、不明確な自信を明確なものにできそうだからな。
『……あの』
『……うん? なんだ?』
『貴方は人間に……ご自分の元の世界に戻りたい、と考えていますか?』
……考えを整理しつつ潮風が毛を撫でていく感触を楽しんでいると、不意にシルフが質問を投げかけてきた。
人間だった頃に戻りたいか、ねぇ……。
『元の世界に戻りたい……のかな、俺は』
『迷っているのですか?』
『いや、そうじゃないんだが……』
人間だった頃の生活もなんだかんだで気に入ってるから、戻りたくないと言えば間違いなく嘘になる。
確かに変化の少ない退屈な生活ではあったが、生命の危機なんてものとは殆ど無縁だった。
かといって
というのも、所詮はプログラムの結果として動かされているに過ぎなかったゲームキャラクター達が、この世界ではちゃんと生身の存在として話す事ができ、声を聞く事ができ、そして彼らが自分の意思を持って自由に生きるのを見る事が出来るからだ。ゲーム世界を現実のものとして体験できる事に対するワクワク感が、俺の中には確かにある。
その分多くの危険はあるが、ナルガクルガの能力に俺の知識を合わせれば、
それに……
『……それに?』
『俺はまだ、
『………』
『多分俺以外の誰もが経験し得ないであろうこの貴重な体験を、俺は無駄にしたくない。悔いのないようにやれるだけの事はやっておきたい』
だからこそ、今は……
『……今は元の世界に戻りたくない、という事ですか?』
『そうだな。もしかしたら、もう一生人間には戻れないかもしれないが……仮に戻る方法が分かったとしても、今は戻るつもりはないよ』
『あ……ごめんなさい、何も考えずに軽率な事を……』
『いや、構わないさ。
……結局のところ、どちらの生活も気に入っていて天秤にかけがたい、という優柔不断な結論でしかないんだがな。まあ、俺や
『ありがとうございます。
……ところで、話の腰を折って申し訳ないのですが……』
(タッ………タッ………)
『ああ、実はさっきからずっと気になっていた。軍港方面から聞こえてくるな……』
『どうしますか?』
『……とりあえず身を隠すか』
念のためと、身を隠しやすそうな森を
さて、その中でも一番太く高い樹は……あった、あれか。
(よっと)
もはや手慣れた感のある木登りを始め、真ん中あたりにあった一際太い枝に脚を掛ける。尻尾を幹に巻き付け、首を伸ばして外の様子を窺うように眺める。
これが、ナルガの樹上待機ポーズ(全て俺の勝手なイメージ)だ。長時間同じ姿勢をとっていても疲れにくいし、安定感もある。その状態で耳を大きく立て、潮風に乗ってくる微かなその音を拾う。
(タッ、タッ、タッ……)
……これは、明らかに『何者か』が近付いてきている音だ。不規則な風と葉の音しか聞こえない中で一定のテンポを刻むその音は目立つし、なにより生物以外にそんな規則的な音を出せるものなど俺は知らない。
ただ、接近速度は遅い。ちょうど人間が歩くぐらいのスピードで、その音源は接近してきている。ついでに音階的な特徴を言えば、その音はかなり高く軽い。音の主は、それなりに体重の軽い者であろう事が容易に推測できる。
『まず間違いなく人間……しかも子供か?』
『子供ですか? しかし……』
『まあ、
大人顔負けの戦闘力を持ち、魔物が闊歩する地を単独で行動可能な実力を持つ子供、か。
パッと三人ほど思いついたが、一人はその戦闘スタイル上単独行動する事がまずあり得ないし、もう一人はこのタイミングで軍港方面から歩いてくるはずが無い。
となると、アイツしかいないが……。
『………』
『……? シルフ、どうしたんだ?』
『いえ、一瞬不快な風を感じたもので』
『不快な風?』
『はい、足音が近付いた時に大きく風の流れが乱れたんです。……第一印象としては、どうも
……捻じくれた風、か。
『……へえ、なるほどな』
『……?』
まあ、ほぼ確定かな。今のシルフの一言で、推測が確信に変わった。
それにしてもやっこさん、周りの風の
『ならさっさと撤退しよう、長居は無用だ』
『……? はい、分かりました』
隠れて様子を見ようかとも思ったが、その対象が予想通りの人物ならば
触らぬ神に祟りなし、ここはなるべく音を立てないように、移動は脚力と腕力のみで、気配を殺しつつこの場を離れるとしよう。
いざ、さらば。
「……?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
移動音をなるべく小さくするため、森の中では樹の幹の間を飛び跳ねるように移動していく。どうしても森が途切れてしまう所は、目立たないよう伏せて地上を移動する。
滑空移動するより速度は落ちてしまうものの、これが現状最も目立たない移動方法。この体がいくら聴力に優れているといえど、用心するに越した事は無い。
それこそ、人目の届かない高高度の移動ができたら楽なのだろうが……流石に無傷で耐えられる程の身体機能を
いくらなんでも、単なる移動に命はかけられない。
『時間的に、そろそろ軍港の近くに出ると思うんだが……』
それでも移動を始めてから既に一刻が経ち、傾きかけた陽は地平線ギリギリから世界を照らすのみとなっている。
『なかなか見えてきませんね』
『……方角を間違えたか?』
ずっと薄暗い森の中を移動しているが、この体は森の中でも方角を見失う事は無いはず……。
……いかん、自信が無くなってきた。
『いえ、私も確認しましたが方向は合っています』
『そうか……』
……少し安心した。
それにしても、思ったより軍港が遠い。ゲームでもちょっと遠いと感じたのだが、いざ現実として体感するとこんなにも遠いのか。
『もう着いても良い頃だと思うのですが……』
『そうだな……?』
『……? どうしましたか?』
『今、向こうから声が聞こえたような気が……』
「……………たら……が………ん…ぬよ?」
……やはり、聞き間違いではなかった。場所は……おそらく、
完全に聞き覚えのある高い声だったし、こんな森の中で人の声がするといったらアリエッタでほぼ間違いないとは思うが……慎重に近付くとしようか。
「は……お………の……とは………を……たい………いて……に、……と……だな」
どうやらアリエッタの他に、もう一人いるらしいし。このタイミングで、一体誰と話しているのだろうか?
「…昼………のは…険、で……。私……達だって…たく…ん傷…くし……」
「必…な犠牲だ」
「……!? 私の友達が傷付くのが、必要な犠牲だって言うの!?」
距離を詰めていくにつれ、声が大きくはっきり聞こえるようになっていく。拙いながらも怒りの乗った声を発しているのは、やはりアリエッタだった。
そして……。
「……何だ、今更傷付かずして何かを得ようとか、甘い事考えてるんじゃないだろうな?」
もう一つの声の主だが、どうやらアッシュのようだな。
アリエッタと同じ六神将で、『鮮血のアッシュ』の二つ名を持つ剣士。ただし、性格はシンクほどではないものの捻くれていて、自分の価値をやや低く見る傾向にある。
……そして一つ、アッシュの事を説明する上で忘れてはならない事がある。
『……なるほど、彼がオリジナルルークなのですね』
『ああ、そうだ』
ティア達と行動しているルークはアッシュのレプリカ人間であり、アッシュはそのオリジナルという事だ。そのために、アッシュとルークは非常によく似た容姿を持っている。
ゲームではこの事が最初から最後まで非常に大きな意味を持ち、独特のゲームジャンル『生まれた意味を知るRPG』の中核を占める要素となる。
……とまあ、要は非常に重要な人物であるという事なのだが……。
「そうじゃない、けど……」
「これは、お前にも十分な利があるはずだ。うまくいけば奴らを誘い出す事ができる。仇が取りたかったのだろう?」
「………」
「沈黙は肯定と受け取らせてもらうぞ」
「………」
結構な時間寄り道・道草しまくってからここに来たはずなのに、見事にドンピシャで密会している場面に鉢合わせるのはどういう事だ? もうそのタイミングは、とっくの昔に過ぎたと思っていたんだが……。
『……せっかくのチャンスですから、アリエッタさんの所に出て行ってみてはどうですか?』
『どうですかって……六神将の、鮮血のアッシュがいるんだぞ?』
『アリエッタさんもいますし、アッシュさんがすぐに何かしてくる可能性は低いと思います。戦いを強要されるよりは、良いのではありませんか?』
『うーん、それもそうだな……』
確かに、シルフの言う事には一理ある。
アリエッタは魔物使い(彼女の場合『使役』とは少し違うが)であり、アリエッタの近くに魔物がいるのはごく自然な事だ。
そして
……よし、行くか。アッシュはこの世界の今後の在り方に対して、非常に大きな影響力を持つ存在だ。そのアッシュと(比較的穏和な状況で)接点を持つ機会が、今後も巡ってくるとは限らない。
シルフの言う通りせっかくのチャンスなのだから、行ける時は、行く。
(アリエッタ、待たせたな……っと)
あくまで今来たばかりな雰囲気を装い、さっとアリエッタの横に着地する。
……実は少し力を込め過ぎて、風の
さて、アリエッタとアッシュの様子はどうかな?
「……あ、迅竜さん」
「なっ……」
アリエッタには(よく見ないと分からない程度に微かではあるが)微笑みを、アッシュには鳩が豆鉄砲でも喰らったような表情を向けられた。……どちらもゲームでは一度も見る機会の無い貴重な表情だし、しっかりと赤眼シャッターで撮って容量∞の心のHDDに保存しておくとしよう。
それにしても、咄嗟に剣ぐらいは抜いてくるかと思ったが……あまりに驚愕が過ぎたのか、アッシュは完全に棒立ちになっている。
そんなに驚いたのか? いくらなんでも、多少は気配を察知できただろうに……。
……おいおい、まさか全く気配を感じなかったのか?
(あんたもまだまだ未熟だな。これくらいで驚いてたら、自然界では生きていけんぞ?)
「……?」
何故か首を
まあいいか、言葉が分からないならアリエッタに通訳してもらうとしよう。
「おい、アリエッタ。コイツは何を言って―――」
「迅竜さん。私のいる場所、よく分かったね」
心なしか、嬉しそうな顔でアリエッタが話しかけてきた(見事にスルーされたアッシュには、一応心の中で合掌しておく)。アリエッタと初めて顔を合わせてから、時間的にはそれほど経っていないのだが……不思議な事に、少しだけ彼女の表情の変化に気付けるようになった。
……あるいは、本当に表情の変化が大きくなったのかもしれない。もしそうだとして、
『ふふ、ライガさんが嫉妬しますよ?』
『まあ、嫉妬させておけばいいさ。……そういえばライガとフレスベルグが居ないな、偵察か?』
『おそらく。それにしても、仕事熱心な方達ですね』
『大方、アリエッタを危険に晒したくないからって気合が入ってるんだろうな』
まあ、アリエッタを思う気持ちはあの二人(二体?)が一番強いだろうし、当然といえば当然の行動かもしれない。
それに
(あー、実はちょっと迷ってな。アリエッタを見つけられたのは偶然だったが、よかったよ)
「そうなの?」
(ああ、まあ、会えたなら結果オーライだな。さて、話を進める前に……)
「……うん」
ちらりとアッシュの方を見る。それにつられてか、アリエッタも同じ方向を見た。
……とりあえず、まずは目の前で怖い顔をしているアッシュを何とかしよう。これ以上放っておいたら、非常に面倒な事になりそうだ。
「……おい」
「同時に喋るな、鬱陶しい。……アリエッタ、コイツはなんなんだ? 」
憮然とした表情でこちらを睨みつけたまま、だいたい俺が予想した通りの疑問がアッシュの口から出てくる。唯一予想と違ったのは、アッシュの聞き方が『コイツが迅竜か?』といった類のものではなく『コイツはなんなんだ?』である事。どうやらアッシュは、
……そう、『欠片も』だ。ルーク一行でさえミュウや、立場的に彼らの敵であるアリエッタを通じて
だがアッシュは、それを知らなかった。偶然、情報を得られる場面に居合わせなかっただけなのかもしれないが、少なくともそれだけではないと思う。
……例えば、ヴァンや他の六神将が意図的に情報を隠蔽していた、とかな。ゲームでは、ヴァンにアッシュの行動は完全に読まれていたようだから、現実でもその可能性は非常に高い。アクゼリュスの一件があるまでのアッシュの行動が後手に回っていたのも、多分そのあたりが原因なのだろう。
「迅竜さん。私の友達……でいいよね?」
(おいおい、そんな不安そうな顔するなよ。むしろ、俺から仲良くしてくれとお願いしたいくらいだ)
「そう、良かった……」
まあ、今回は六神将に感謝しないとな。
「……ふん、またいつもの仲良しゴッコか。お前も飽きないな」
そう、おかげでどれだけ
字面だけ見ると印象が良くないようにも思えるが、変に予備知識があって警戒されるよりはずっといい。何よりその相手が気難しく面倒な性格のアッシュともなれば、初対面で敵意を向けられなかったのは上々どころか最高の結果と言ってもいい。
……ところで、だ。
(アリエッタ、残念だけど君がどれだけ一生懸命睨みつけたところで、相手が怖がってくれるとは思えない)
「……でも」
(
アリエッタに向けていた目線を、アッシュに向け直す。
……一瞬、アッシュが僅かに怯んだように見えたが……気のせいだろうか?
「……なんだ、何か言いたい事があるのか?」
(アリエッタ、今から俺が喋る事を通訳してくれるか? 今からアッシュと話をしたい)
「うん、分かった」
まあ、細かい事はいいか。そんな事より、せっかくアッシュと話す機会が得られたのだから少しは実のある話をしないとな。
お互い、時間もあまり無いことだし。
「(さて、まずは軽く自己紹介といこうか。俺の名はナルガクルガ、魔物達の間では迅竜とも呼ばれている)」
「ふん、魔物の癖に丁寧な奴だな。……俺はアッシュだ。一応、そこのアリエッタとは同じ組織に所属している」
「(ああ、知っている。
「やけに詳しいんだな。アリエッタの入れ知恵か?」
おっと、早速食いついたか。適当に聞き流されるものだとばかり思っていたが、意外と早かったな。
……もしかしたら、それだけ時間が無くて焦っているという事かもしれないな。
今のアッシュは、アクゼリュスの崩落阻止を目的として行動している。そして、そのアクゼリュス崩落まで残された時間は少なく、敵は強大で、また近くには頼れる者もいない。それでは焦りや不安が募るのも、当然と言えば当然かもしれない。
「(いや、残念だがそれは違う。人間世界で言う所の『物知り』が俺の知り合いにいて、そいつから人間世界について色々と話を聞いている内に詳しくなっただけだ)」
「なるほどな。それで、その物知りな魔物の知り合いとやらが俺に何の用だ?」
「(時間が無いのだろう? だから、二つだけ伝えておこうと思ってな)」
「……何だ?」
「(まず一つ、軍港襲撃には俺も参加する。アリエッタの仇討ちを手伝う為にな)」
「……ふん、聞いてたのか?」
「(耳だけは良いんでな)」
「………」
……うわあ、露骨に興味の無さそうな顔だな。
アッシュとしてはルークをコーラル城に誘き寄せられればいいのだから、俺が軍港襲撃に参加する事などどうでもいいのだろうが……もう少しポーカーフェイスになってもいいのでは?
「(そして、もう一つだが……)」
……まあ、これに関しては俺も『一応伝えておく』以上の意味は無いし、アッシュの反応は元々期待していなかったから別に構わないが。
むしろ俺にとっても……おそらくアッシュにとっても、この二つ目が重要になる。
「(……この件が一段落したら、俺は
「……!!」
アリエッタを通して会話をしなければならない関係上、あまり直球過ぎる言い方はできなかったが……表情から察するに、どうやら気付いてくれたようだな。
「(さて、俺の用件はこれで終わりだ。アッシュからは何かあるか?)」
「……いや、特に無い」
「(そうか)」
「俺はもう行く」
「(ああ、気を付けてな)」
「………」
背を向け、ちょうどコーラル城がある方向へとアッシュが走り去っていく。……一瞬表情が見えたが、複雑な顔をしていたな。
これが今後どんな影響を与えていくのかは分からないが、少なくとも俺とアッシュ、互いにとって悪い結果にはならないと俺は思う。……少なくとも、今はそう信じておくしかない。
……さてと、後は……。
「……迅竜さん、山を越えるって、山の向こうに何かあるの?」
……ああ、よかった。
やはりアリエッタは、レプリカ計画の前段である『焔の光替え玉計画』の事を知らなかった(便宜的に俺が命名した)。あるいは聞いても理解できなかったのかもしれないが、どちらにせよこれから俺がとる行動の意図を誤魔化すには好都合だ。
もちろん、悪意があって誤魔化す訳ではない。もう遅いかもしれないが、できる事ならアリエッタにはあまり深くレプリカ計画に関わって欲しくないし、万が一俺に付いてこっそりアクゼリュスにでも来てしまったら、巻き込まれてとんでもない事になるかもしれない。
……まあ、どんな理由を付けようとも結局は嘘を言って騙している訳だから、罪悪感は拭いきれないのだが……。
(……ここに来る途中で山の近くを通ったんだが、そこに生えてた木の実が美味しくてな。何となくまた食べたくなったんだよ)
「どんな木の実?」
(名前は分からないが、赤くて甘い匂いがする木の実でな。腹が減っていたから、思わず食いついてしまった。本当はもう少し探して食べたかったんだが、あまりアリエッタを待たせるのもどうかと思って切り上げてきた)
「……私も、食べてみたい」
(ああ、機会があれば一緒に行こう)
「……うん!!」
……ああ、その満点の笑顔は俺の良心にチクチク刺さるからやめてくれ……見続けたらボロが出そうだ。
早く話題を転換しなければ……おっと、そうだ。
(ところで、襲撃の準備はいつ始める?)
アッシュとの唐突な邂逅があったせいか、もう少しでここに来た目的を忘れるところだった。
「あ、そうだった。もうすぐみんな帰ってくるから、集まったら相談、乗ってくれる?」
(ああ、もちろんだ)
アッシュと話している間に、日没まで残り僅かとなっていた。いくら魔物の夜目が利くといえども、夜間の偵察はリターンが少ない。
そろそろ、ライガ達も戻ってくるだろうな……?
(……おっと。噂をすれば、か)
重々しい足音と、複数の羽ばたき音が聞こえてくる。おそらくライガとフレスベルグ、そしてアリエッタが連れてきた魔物達であろうその集団が、ゆっくりとこちらに向かって来ている。
「うん、みんな戻ってきたみたい」
(………)
……いよいよ、か。
この軍港襲撃イベントは、ゲームではさらっと流されてしまったイベントだ。
だがこの戦闘では、キムラスカ側にもアリエッタ側にも多くの犠牲者が出ていた。軍港に横たわりピクリとも動かないライガやキムラスカ兵の描写が、ゲームには確かにあった。
「……? 迅竜さん、どうしたの?」
……ここまでは、基本的にゲームの流れに沿うように行動してきた。死ぬのが分かっていてライガクイーンを見捨てた事と、フーブラス川で
(ん? 大変な作戦だが、みんなで生き残れたら一番いいなって考えてただけだ)
だが今回は違う。これは、ある意味で
……それはもしかしたら、絶対的な死の運命に対するちっぽけな抵抗なのかもしれない。あるいは、未来を劇的に変えるバタフライエフェクトとなるのかもしれない。
(よし、みんなも交えて作戦会議といこうか)
「うん、うまくいくといいね」
(いいね、じゃないさ。絶対うまくいく、俺はそう信じてる)
「うん」
作戦決行は夜明け前、まだ時間はある。それに向けて、まずは作戦会議をするとしよう。
……さて、どれ程強くとも所詮は一魔物に過ぎない
楽しみだ。
読んで頂き、ありがとうございます。
さて、この話を書き上げている間に……。
何と、お気に入り件数が500件を突破しました!!
読んでくださっている皆さんには、感謝してもしきれません。今後とも、どうか本小説をよろしくお願い致します。
さて次回は、気付いたら長々と引っ張っていた軍港襲撃イベントです。ゲームではさらっと流されてしまったイベントですが、個人的に不満というかこだわりがあるのであえて大きく取り上げてみました。
それでは、次回もお楽しみに!!
P.S
モンハンクロス、遂に発売しましたね!! ナルガが出ると聞いて早速購入、仕事もあるのでのんびりとプレイしています。
……通常種とは戦いましたが、白疾風との邂逅はまだまだ先になりそうです。