TALES OF THE ABYSS ~ Along With the Nargacuga ~ 作:SUN_RISE
前回はPC関連でバタバタした為に久しぶりの投稿となり、PC新調直後の今回はスピードを上げたかった……のですが。
結局、仕事が忙しくてダメでしたorz 人生なかなか上手くはいかないものですね。
それにしても、新しいPCは使い心地が全然違いますね。特に起動速度の差は歴然、始めは軽く感動すら覚えるほどでした。
どこぞの青き鉄道会社よろしく『古い物を末永く大切に使いましょう計画』が常時発動している自分。それだけに、引っ張るだけ引っ張って機をみて一気に最新化してしまうと、古い物と新しい物とのあまりの使い心地の差に愕然としてしまいます。
……まあ、某鉄道会社も好きで古い車両を使い続けている訳ではないとは思いますが。
見る分には(個人的に)大変物珍しくて良いのですが、いかんせん乗り心地が……たまに乗るとかならともかく、日常的に乗るのであればやはり新しい車両の方が快適ですね(かつては橙色の鉄道会社管内に、今は青き鉄道会社管内に住む人間の感想)。
さて、どうでもいい前書きはこれくらいにして本編へと参りましょう。
それでは、どうぞお楽しみ下さい。
※追記
28/02/14 誤表記修正、教えて下さった方ありがとうございます
夜のひんやりした空気が、しっとりと辺りを包み込んでいく。昼間に強く吹いていた風が夜は幾分和らぎ、小型の魔物のものであろう鳴き声と木々の揺れる音が少しだけ目立って響いてくる。
月齢は、新月。
天気は、曇り。
普段は空で煌々と輝く月も、今夜はその顔を完全に隠している。光源といえば軍港のあちこちに焚かれた松明の炎ぐらいしかない。
そのため、軍港を除く周囲のほぼ全てが黒のペンキで塗りつぶされたかのような暗闇に包まれている。
……僥倖、だな。
この作戦に参加する者の中に夜目が利かない者は殆どおらず、唯一夜目の利かないアリエッタも常にライガと行動してもらう予定なので問題は無い。もともと夜闇に紛れて奇襲をかけるつもりだっただけに、作戦決行に向けてお
『……ここか?』
『小高い丘……そうですね、ここだと思います』
そして今、俺達は軍港の近くにある小高い丘の手前、ちょうど死角になって軍港から見えない位置まで来ている。
うまい具合に
……このまま、良い状況が続いてくれればいいが……。
『さてと、軍港の様子はどうだ?』
『ちょっと待って下さいね……』
……実は一つ、懸念事項がある。
夕方にもライガが偵察していたのだが、その時はそれなりの数の見張りが立っていたそうだ。ついでに軍港のあちこちから蒸気のような、煙のようなものも上がっていたらしい。
まあ、キムラスカ王国からすればカイツール港は軍事の要衝だから、防衛のために多くの見張りを立てるのは至極当然の事だ。ライガが見た煙も、おそらくは炊事の時に発生する煙であろうとは思う。
……ただ、この時点で俺は嫌な予感がしていた。
その煙、本当に
『……えっ、これは』
……そして、どうやらその嫌な予感は当たってしまったようだ。
『思ったよりも見張りの数が多いな、ざっと200人くらいか?』
『もっと多いようにも見えます』
詳しい数は不明だが、かなりの人数のキムラスカ兵が軍港を囲む外壁の上に立ち、辺りを見回している。足音で推測するに200人……いや、壁の向こうからも微かに足音がするな。流石に就寝するにはまだ早い時間帯だからか、軍港内部で警備をしている兵も結構いるらしい。
夜の方が襲撃のリスクも高いし、おそらく夕方にライガが見た時よりも増員されているのだろう。時間的にもまだ宵の口で、交代してすぐなのか集中力が切れている様子も無い。
万が一でも相手の見張り体制が不十分なら、すぐに準備してそのまま攻めかかるつもりだったが……ライガの報告からどうせ無理だろうとは思っていたので、偵察と割り切った上で今はそれほど人数を連れてきていない。
……まあ、兵士といえども人間だし、もっと夜が深まれば勝手に集中力を切らしていってくれるだろうけど。
『……? それにしても、随分と後ろが静かだな?』
『あれ、本当ですね。どうしたのでしょうか?』
そういえば、アリエッタやライガ達も一緒に来たはずなのにずっと後ろで黙ったままだ。おかげでさっきからシルフとしか話をしていないのだが……どうしたんだ?
(……うん?)
振り返って見てみると、アリエッタは軽く俯いてギュッと人形を抱きしめている。ライガもライガで落ち着きなくソワソワしているし、フレスベルグに至ってはしきりに辺りを見回している。
……ああ、なるほどな。
(アリエッタ、そんなに緊張してどうしたんだ?)
「タルタロスの時も、そうだったんだけど……なんだか、不安で……」
(落ち着かんな……作戦開始はまだなのか?)
(悪いが、相手があの状態じゃ行かせられんな。条件が悪すぎる)
(……うー、何なのかしらね、この地に足がついてない感じは)
どうやら作戦開始を目前にして、ビリビリとした緊張感に
まあ俺も緊張はしているし、確かに大仕事の前には誰しもが緊張するものだが……それはアリエッタやライガ、フレスベルグでさえも例外ではないらしい。そういうのとは無縁だと勝手に思っていたんだが……。
(緊張するなとは言わないが、し過ぎてガチガチになるなよ? ……特に)
(……うるさい、言われなくともわ、分かっている)
(………)
ライガがそっけなく返そうとして、どもった。似合わなさ過ぎて、締まらなさ過ぎて思わず笑いそうになったが、何とか
……しかし、『過ぎたるは及ばざるが如し』とは昔の人はよく言ったものだ。適度な緊張は空気をキュッと引き締めてくれるが、ここまで緊張していたら引き締めを通り越して破裂してしまう。これでは本末転倒だ。
こういう時こそ、作戦立案者として気の利いた言葉の一つでも掛けれたら良いんだが……さて、どうしようか。
………。
……よし、やはりこの手がベストだろう。
特にライガが相手なら、な。
(……言うまでもないとは思うが、この作戦の
(………)
(お前がうまく立ち回れば、
ライガとは
それは、ライガにとってはアリエッタが一番大事な存在であり、自身の力はアリエッタの為にしか振るおうとしない事だ。……まあ、誰にでも分かると言ってしまえばそれまでだが。
(……!! ふん、せいぜい高みの見物でもしているんだな)
(なんだ、急にそんなニコニコして。さっきまであんなに緊張してたクセに)
(気のせいだ)
(あら、頼もしい)
「うん」
気のせいとか言い張ってるけど、どう考えてもバリバリ緊張してましたよライガさん?
……まあいいか、ライガの緊張もアリエッタを引き合いに出しただけであっという間に解けたし。それにつられてか、他の二人も幾分落ち着きを取り戻したようだ。
『なんだか、やけにライガさんの扱いが上手くなっていませんか?』
『そうか? 俺は大した事はしてないぞ?』
『……今、単純な奴は扱いやすいな、とか考えていましたね?』
『………』
『………』
(心の中で)ジト目でこちらを見てくるシルフに(同じく心の中で)薄い苦笑いを返す。
……まあ、シルフの言った事は確かに図星だが、それはライガが単純なせいだからな?
『はあ……程々にしておいて下さいね?』
それで色々と察したのか、シルフが一つ大きなため息を吐いた。
『まあ、あまりやり過ぎてアリエッタに不快に思われたらアウトだし程々にするさ。それより……』
話が途中で逸れてしまったが、軍港の偵察を続けるとしよう。
現時点で、
『あれですか? 貴方が気にしているのは?』
『ああ。まあ、ある程度覚悟はしてたんだがな……』
そう、俺が一番気にしていた事。見張りの人数がどうとか、集中力がどうとか、そんな事がどうでもいいと思えるほどに
『あの形……ラッパみたいですね?』
『そんな可愛いものだったら、何も苦労しなくて済むんだけどな』
一般的に、陣地防衛では見張り≒初動部隊という式が成り立つ。敵から見て一番近い位置に立っていて、なおかつあちらも敵を見つけるのが一番早い訳だから、緊急時に最初に動きだすのも見張り要員になる。
そしてあの譜業には、曖昧だが見覚えがある。兵が背負った箱から管が上に伸びて、頭の上空からラッパみたいなのが前方に突き出た特徴的な形の譜業……確か、ラッパ口から火が出てくるんじゃなかっただろうか? 記憶が曖昧でよく覚えていないが、確かそうだったはず。
もしそうだとして、火の苦手な
『……なんだか憂鬱になってきたな』
『あの、作戦立案者が戦う前から弱気になってどうするのですか……』
『仕方がないだろう、炎と雷は
『……雷が苦手な割には、風の
『風の形をしている間はいいんだよ。それがビリビリしだすと、どうしても苦手意識がな……』
ビリビリと言うとラノベで有名なあの子を思い出すが……うっ、考えただけで寒気がする。火を見るより明らかに寒気がしてくる。
人間の時から雷は苦手だったからなぁ……それがナルガの体になって、余計に苦手意識が深まってしまったらしい。
……でもまあ、やるしかないか。
少しでも作戦が迅速かつ正確に遂行されて、苦手な火やら雷やらに晒される時間が短くなる事を祈るとしよう。その辺は、実働部隊であるライガやアリエッタ次第だな……。
……ああ、そういえば。
『アリエッタさんが連れてきたグリフォンの事ですか?』
『ああ、すごい数だったな。100体はいたんじゃないか?』
『もっと沢山いたようにも思います。一体どこから集まって来たのでしょうか?』
『むしろ俺が聞きたいぐらいだ。アリエッタ、一体どれだけ人望……いや、魔望があるんだか』
夕方だったか、ライガが偵察から帰って来た時に後ろにいたグリフォンの数には驚いた。冗談抜きで、タルタロス襲撃時と同じぐらいの数はいたんじゃないだろうか?
……あの光景だけでも十分圧倒されたが、アリエッタに聞いてみて更に驚いた。なんと全員が夜間行動を得意とし、夜の戦闘で何らかの実績を上げた事のある者なのだそうだ。今も、この暗い中食料の調達に出ているのだとか……。
元々グリフォンは昼行性(だったはず)なので、夜間の行動に慣れた者はそれほど多くないはずなのだが……アリエッタに
『正直、考えを改めざるを得なかったなアレは』
数体でも来たら御の字と考えて作戦を組んでいたのだが……少し彼女を小さく見過ぎていた。流石『妖獣のアリエッタ』の通り名は伊達ではないな。
あまり積極的に動き回る
『でも、貴方にとっては嬉しい誤算なのでは?』
『ああ、あれだけの数のグリフォンがいれば、作戦も早く終わりそうだ』
その分
(さて、あの様子だとすぐに攻撃は無理だな)
(なぜだ? あの程度の数など、俺達ならば簡単に蹴散らせる)
(おいおい、見えてる分だけが敵だとは限らないだろう?)
(……後ろにも、兵がたくさんいるって事ね?)
(ああ、ずっと足音が聞こえていてな。今踏み込めば、見えている数の倍以上の兵が確実に押し寄せてくるだろうな)
(………)
この状況を最大限活かす為にも、作戦開始のタイミングを吟味するのは非常に重要だ。当然、今はまだ見張りが十分機能しているから無理だ。ここで突撃すれば、確実に双方甚大な被害が出てしまう。
ならどうするか。
(少し待つぞ)
(どれくらいだ?)
(7時間ぐらいだ)
(長いな、そんなに待つのか?)
(ああ。今から7時間後くらいが、人間が一番苦手な時間帯だからな)
(よく知ってるのね?)
(やけに人間の事に詳しい奴がいてな、そいつから延々話を聞かされたからよく覚えてる)
俺の世界であれば、今の時間はおおよそ午後七時ぐらいになる。
そして作戦決行は見張りが一番ダレる時間帯、日本的に言えばおおよそ
……その隙を、俺達はしっかりと狙わせてもらう。相手は四六時中ずっと集中していないといけないが、こちらは攻めかかるその時から集中すればいいしな。作戦決行まで、こちらはゆったりと英気を養わせてもらうとしよう。
(という訳で、だ。作戦開始まではまだ時間があるが……どうする?)
(……どうするって、何の事?)
分かんないかなぁ……こういう戦いを控えた場面で何をやるべきか、なんて言ったら一つしかないだろうに。
(何を食べたいか聞いたに決まっているだろう。……まさか、お前ら空腹のまま戦う気だったのか?)
腹が減っては戦はできぬ。
……などと格好付けてはみたものの、正直言えば
(……言われなくとも、今から食料を調達しに行くところだったのだ)
(……今思い出しました、って顔してるぞ?)
(う、うるさい。さっさと行くぞ、アリエッタ)
「え? う、うん」
ライガの顔に一瞬浮かんだ、ハッとした表情。それを必死に誤魔化しつつ、背中にアリエッタを乗せて森の奥へとライガが歩いていく。
……やっぱり本気で忘れてたのかよ。いくら緊張していたとは言えども、腹が減ってるのを忘れるとか相当だな。
『やっぱり面白いな、ライガをからかうのは』
『………』
再度のシルフのジト目を、華麗にスルーする。まあ長くなるかもしれない
……今は『魔生』とでも言った方がいい状況だが、あくまで心は人間なんでな。
(さて、と。俺達も行きますかね)
(そうね)
当然だが、ライガ達ばかりに食料調達を任せる訳にはいかない。最低でも自分が食べる分ぐらいは自分で捕るつもりだ。
……さて、あまりアリエッタを待たせるのもアレだし、そろそろ俺も行くとしようか。
今日は何を食べようかな……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
草木も眠る丑三つ時。
普段空に輝く月も今日は見えず、直近の森に潜む
すぐそこの軍港には多くのキムラスカ兵がいるというのに、
「あ~あ、夜の見張り面倒くさいなぁ……」
「今の時期ならまだマシだろ? 寒い時とかほんと地獄だぞ」
「この鎧、防寒性能低いからなぁ……」
「おい聞いたか? 今ケセドニアに漆黒の翼とかいう盗賊が来てるってさ、結構有名らしいぞ」
「マジかよ!? ははは、休暇でケセドニアに行った奴ら残念だったな」
「いや、意外と捕まえてたりしてな」
「いやいや無理だって、あいつらどんくさいし」
「zzz...zzz...」
……あちこちから聞こえてくる見張りそっちのけの談笑の声と、小さないびきのような音だけだ。肝心の会話内容も、実にどうでもいい事や俺がよく知っている事ばかりで大した情報になりそうにない。
……確かに俺は、こういう状況を期待していた。相手が生身の人間である以上、時間が経てば体力も集中力も削がれていくだろうと。だけどさ、流石に居眠りとか職務怠慢が過ぎやしませんかね? この軍港、仮にもキムラスカ軍の一大要衝なんですがこのザマは一体……?
会話もよそ事も一切せず見張りができている人数の方が圧倒的に少ないというのも、サボっている奴を誰も注意しないというのも、なんというか寂しい。こちらとしては動きやすくて非常にありがたいが、これでよく害意
『……もしかして、罠ではありませんか?』
『
『はい、そうは考えられないでしょうか?』
『うーん、なるほどな』
他の世界なら鼻で笑って流すような内容だろうが、この世界だと十二分にあり得るからな……。そういう意味では、あちこちでよそ事をしている見張りさえも実はこちらを油断させる為の一種のダミーで、実際はバレないようこっそり周囲を警戒している、あるいはすぐに防衛行動に移れるよう何かしらの準備をしている……という可能性も確かに考えられなくはない。
あるいは、より詳細な襲撃の内容を知られていて裏では兵器の準備が着々と進められている……という事だって十分考えられる。
……ただしそれは、相手の状況をこちらが何も分かっていない場合の話だ。今回は、それには当てはまらない。
『あり得なくないとは思うが、今回に限っては罠の可能性は低いと思う』
『え、何故ですか?』
『そうだな……』
聴覚に優れた
その分かる限りの情報を総合すると、キムラスカ軍が襲撃を予知して罠を張って待ち構えている可能性はほぼ無いという結論になる。
例えば、今聞こえているくぐもった寝息の音。宿舎で寝ている兵のものだと考えられるこの音は、それなりの音量を伴って実に様々な方向から聞こえてきている。夜だから当然と言えば当然だが、相当な数が寝床についているのは確実だ。
これが仮に罠を張っているとするなら、寝息など殆ど聞こえない……どころか、別の音が聞こえてくるはずだ。
例えば、迎撃準備で兵器を移動させる時に出る金属音……とかな。
ついでに言えば、見張りの様子からも何ら違和感を感じない。これも、罠が仕掛けられていると考えると矛盾が生じてくる。
焦りとか緊張感とか、隠したくても100%隠しきれないのが人間だ。どんなにメンタルが強く揺らがない人間でも、長時間の緊張に晒されれば必ずボロが出てくる。ボロが出るまでの時間が長いか短いかの違いでしかない。
そして、罠を仕掛けるという事は
……だが、現実は実にのんびりとした様子だ。緊張感の欠片も感じられない。
もしこれを罠と断ずるならば、あの談笑している兵や居眠りしている兵の多くが雰囲気に一切の違和感を感じさせないほどのハイレベルな演技をしつつ、更に辺りをこっそり警戒する事のできる人材という事になる。
『シルフ、あいつらをよく見てみろ。あれで俺達の襲撃に備えられてると思うか?』
『……いえ、そうは見えませんね』
そんな集団、もはや軍を超越した別次元の何かだ。もしそんな集団が本当にいるとしたら、正直勝てる気がしないだろう。
……でも現実は、アリエッタの襲撃に対して完全に後手に回ってしまう(ゲームだと軍事の要衝のクセしてあっさり船は壊されてるし、技師長も攫われてるし、しかも昼間の特攻で)程度の練度でしかない。
『……という事は、私達の襲撃は
『さあな、もしかしたらローレライ教団の奴は知ってるのかもしれないぞ?』
だからこそ、ローレライ教団は不幸な未来を決して表に出さない。光輝く虚像の未来だけを語る。
それが逆に、強硬に虚像を打ち破ろうとする者達を生んでしまうとも知らずに。
『……どうやら、
『ああ、そのようだな。……では、そろそろ始めるとしようか』
ゆっくりと、『棘迅竜砲』を放つ準備を始める。
大きな音を出す攻撃は本来奇襲には不向きだが、今回に限ってはしっかりとした理由がある。
(アリエッタ、うまくやってくれよ?)
アリエッタ達にはこの音を合図に、
……無論、音も光も使わず広範囲に同時に合図できるような方法があればベストだったが、現状ではこれが限界だったのだ。
……風を裂くような甲高い音が少しづつ大きくなり、辺りに響き渡っていく。
これでもう、やり直しはきかなくなった。居眠りしていた見張りの何人かは、この音で目が覚めたようだ。
さて、ここは譜術の詠唱文句を一部引用して開戦の声を上げるとしよう。
(さあ、狂乱せし夜の宴だ。せめて楽しくやらせてもらおうか!!)
棘にまとわせた風が限界に達した直後、それを軍港の入り口に向けて全力で放つ。
――ズドォォォォォーーーーン!!
それを合図に、いくつもの空を切る音が軍港に向けて殺到していくのが聞こえた。間違いなくグリフォンのものだろう。
同時に、一気に軍港内が慌ただしくなっていく。
「な、なんだ!?」
「襲撃か!?」
「くそっ、マルクトの奴らか!? しかし一体どうやって……!!」
『おー、良い具合に混乱してるな』
『暢気ですね……』
『まあ、今から焦ってたら囮なんて務まらんよ……っと!!』
次弾となる棘迅竜砲を放つ。
――ズドォォォォォーーーーン!!
今度は外壁に命中し、大きな風穴を着弾点に作り出す。音からそこに人がいない事は分かっていたので、あえて派手に破壊してみた。
(さあ、どこからでもかかってこい!!)
グリフォンの翼音をかき消すように咆哮一つ、気合を入れなおしキムラスカ兵と向き合う。
どうやら相手もこちらに気付いたようだ。
さあ、初めての対人戦、予定通り不殺で乗り切らせてもらうとしようか!!
読んで頂き、ありがとうございます。
さて、次回は引っ張りまくった軍港襲撃本番。
では、次話もお楽しみに。