TALES OF THE ABYSS ~ Along With the Nargacuga ~   作:SUN_RISE

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どうも、作業用BGMを『meaning of birth』に変えたSUN_RISEです。
これはテイルズ屈指の名曲だと思ってます。
異論は……認めます。テイルズにも名曲は数多いですからね。

本命が非常に難産していて、息抜きにこちらの小説を書いたら捗る捗る…。
おかげで、実質的に本命とサブがひっくり返ってしまっている状況です。トホホ…

ま、まあエタっている訳では無いので、大目に見て下さい、はい。

では本編、始めていきましょう。



第3迅:邂逅

ルーク達が巨木を出てから、30分ほど経った。

状況に動きは全くといっていいほど無い。周囲には人っ子一人見当たらないし、チーグルもずっと木の中に引きこもったままだ。少なくとも、あと一時間はこんな状態が続くだろう。

 

…ティアと一瞬目が合った時は、気付かれたかと思った。

でも、警戒した様子で辺りをきょろきょろと見回してたし、どうやらナルガ()の気配を察知することはできたが、姿を見つける事はできなかったみたいだ。とりあえず、森に溶け込めているようで何よりだな。

そういえば、イオンの行動もゲームとは違ってたな。ティアと同じようにこちらを見ていたし、チーグルの木の中に入っていくのはイオンが最初だったはずなのに、今はルークが最初に入っていっている。小さな事だが、ゲームの状況との乖離が発生してたな。

 

 

…あー、それにしても気になるな。

ナルガ()の気配、感知されてるんだよな。元々、隠密行動に長けているはずのナルガの気配が、だ。

音は立ててないし、姿は見られてない。匂いを察知されたのかとも思ったが、今いる場所は風下だ。それに風もそこそこ強いから、残り香も殆ど無いはずだ。

 

なんだろう、五感以外にもなにかあるのか? …女の勘とか第六感とか、そういうのは無しにしておこう。どっかの紅白巫女じゃあるまいし、そんなに直感が鋭いんだったらアクゼリュスの悲劇とか事前に止めれただろうし。何か別の理由があるはずだ。

 

…そう言えば、ゲームでルークとティアの超振動特訓イベントがあった時に、ティアが音素(フォニム)の流れを読むのが大事だとか言ってたような気がするな。

よく覚えていないが、この世界の人間なら誰もが少なからず持っている力だとも言ってた気がする。もしかして、それか?

 

ありえない話じゃないな。

もしナルガ()という存在が音素(フォニム)の流れを乱しているのなら、その乱れを感知されていてもおかしくは無い。特にティアは、預言(スコア)を詠みこの世界の礎を築いたとされる女性、始祖ユリアの血縁者だ。他の人間より、そういう能力に優れていたとしても不思議じゃない。

…俺自身が音素(フォニム)の流れを読めないから、確認する術は無いが。

 

よし、せっかく時間があるんだしナルガ()音素(フォニム)の流れを読めるように訓練してみるか。

それなら、音を立てずに済むしな。…え、なんでかって?

 

ゲームの流れ的には、そろそろジェイドもライガの住処に到着している頃だろうし、そうなると森の周囲にはマルクト軍が展開されているはず。

万が一気付かれれば、精鋭揃いのマルクト兵との死の鬼ごっこ(デスゲーム)確定だ。しかも鬼にかの死霊使い(ネクロマンサー・ジェイド)まで含まれているとなれば、最悪の場合命は無い。せめてジェイドがアンチフォンスロットを食らうまでは、鬼ごっこは勘弁してほしいものだ。

 

 

…とまあ、そういう訳であまり音を立てられないのだ。

だからこの訓練は暇潰しに丁度いいだろうし、音素(フォニム)の流れを読めれば音素(フォニム)を操れるようになって、最終的には譜術が使えるようになるかもしれないしな。

ゲームだと魔物にも譜術を使える奴が沢山いたし、ナルガ()もそのうちできるようになるはず。

 

属性も決めておくか。火が苦手なナルガ()が、火の譜術とか使えるようになるとは思えないし。

そうだな…ナルガだから、風の音素(フォニム)が一番親和性が高そうだな。…風の上級譜術(サンダーブレード)は電撃だが、多分大丈夫だろう。他のテイルズシリーズで出てたような、風主体の譜術(ゴッドブレスとか、サイクロンとか)が使えるように特訓すればいいんだし。

 

よし、まずはイメージトレーニングでもしてみるか。

風の音素(フォニム)が木々の間を流れていく姿をイメージ…………

 

 

……風の音素(フォニム)って、どんな形してるんだ?

てか、そもそも音素(フォニム)ってなんだ?

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

…あれから、ちょうど一時間が経った。

結論から言おう。

 

 

まったく、まっっっっっっっったく、手掛かりすら掴めなかったッ!!!!!!!!

 

 

イメージもへったくれもねえよ、オイ。

音素(フォニム)の本質なんてさっぱり分からないし、そもそもナルガ()も俺もこの世界(アビス)の住人じゃないから、感覚とかそういうのにも頼れないし。

よくよく考えたら、この世界の住人でさえ譜術使える奴なんてそうそう居ないし、上級譜術を使える奴に至ってはほんの一握りだけだ。

ゲームの主要メンバーでさえ、ガイとルークは剣に音素(フォニム)を纏わせる事はできるが、一切譜術を使えないしな。

 

あ~あ、初っ端から躓いちまった。どうしようか。

ソーサラーリングをかっぱらったら、手掛かりぐらいは掴めるか? あれ付けると、炎が吹けない子供のチーグルも吹けるようになるんだろ?

でもそうすると、確実にルーク達と敵対する事になるしなぁ…。やっぱやめとくか。

 

…ジメジメしてるんだよな、ここ。ナルガの姿をしてるからなのかそこまで不快じゃないけど、流石に長時間となると()が精神的に辛い。…体が動かせないとなれば、なおさらだ。成果が出なかったとなれば、さらに輪をかけて辛い。

ん~、やる事も無くなったしどうしようか…おっ?

 

足音が5つ、近付いてくるのが聞こえる。

そのうち4つは聞き覚えのある足音、間違い無くルーク一行+ミュウのものだ。

 

と い う こ と は …

 

「ここが、ローレライ教団の聖獣チーグルの住む木、ですか」

 

キタ~~~~~~~~!!

メイン鬼畜眼鏡きた!!

これで勝……てはしないわな。誰に勝つというのだ誰に、というかナルガ()が負けるわあいつ(ジェイド)に。まだアンチフォンスロット食らってないし。

 

 

おっと、平常心平常心…。

あまりに状況が動かないものだから、飽き飽きしていた所だ。

ルーク一行がジェイドを伴って来たという事は、ライガクイーンは死亡したか、少なくとも瀕死の重傷を負ったという事だ。

よし、これで状況がうご…

 

「…なにやら、強い気配がしますね」

「大佐も感じますか?」

「おや、貴女もなのですか、ティア?」

「はい。…ここに来ると、強い視線みたいなものを感じます」

「ふむ…」

 

やば、ジェイドもかよ。なんかこっちの方向いてるし。

ティアと同じように目線をきょろきょろさせてるから、場所まではバレてないみたいだが。

 

…時間をおいても、これか。『匂いで察知』説の可能性がほぼ消えたな。

やっぱり『音素(フォニム)の流れ読んでる』説は正しいんじゃないか? どんだけ万能なんだよオイ。

 

おっと、こうしちゃいられないな。

潜伏場所がバレた時の為に、速攻で撤収できるよう準備しておくか。最悪鬼ごっこも辞さない覚悟で、今は絶対に逃げ切ってやる。

 

 

…さて、どう出る? 死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド?

 

「…まあ、いいでしょう。幸い敵意は感じないようですし」

「いいのですか、大佐?」

「はぁ、何でもいいからさっさと行こうぜ」

「そうですね、私も忙しい身ですし。子守をしながら魔物と戦うというのも、大変なんですよ」

「…どういう意味だよそれ」

「おや、特に深い意味は無いのですが」

 

ナイスだルークよ。

興を削がれたって奴かは分からないが、ジェイドが軽薄そうな笑みを浮かべて木の中に入っていってくれたな。

 

 

…とりあえず、何事も無く済んだか。本当に良かったよ、死の鬼ごっこ(デスゲーム)する羽目にならなくて。

それにしても、なんとなくそんな気はしてたんだが…。本当にジェイドまで気付くとはな。

 

ただまあ、ジェイドが忙しい身なのは()()じゃなくて()()だしな。

ゲームの流れ的に言えば、ジェイドはマルクト帝国の皇帝『ピオニー九世』が敵国キムラスカの王『インゴベルト六世』に宛てた親書を預かっているはず。

それを一刻も早く届けたいだろうし、連れてる兵の消耗も抑えたいだろうしな。敵意が無いなら別にいいって本人も言ってたし、あちらから攻撃を仕掛けてくる事もおそらく無いだろう。…あの鬼畜眼鏡の事だから、100%とは言い切れないが。

 

 

だから、俺はひたすら待つだけだ。

少なくとも、こちらから攻撃を仕掛けるなどと言う愚策を弄するつもりは無い。機を見て、当初の予定通りライガクイーンの所に行く。

 

…移動は夜にしよう。念には念を、だ。

ライガクイーンが居なくなった事で、新たな脅威が森に入り込んで来ないとも限らないしな。

だいぶ日も傾いてきたし、夜までそんなに間が空かないからライガクイーンが生きていたとしても問題無い。

 

ナルガ()が最も力を発揮できる状況になるのを待って動くとしよう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

夜の(とばり)が完全に下りた。

今夜は……満月か、綺麗な月だな。この世界の満月は、ちょっと青みがかってるんだな。

 

あれからすぐ、ジェイド達は木から出てきた。姿が見えなくなってからも耳を澄ませていたが、足音は遠のいていくばかり。その後も、巨木付近では人間の足音一つ感じる事は無かった。

ナルガ()の存在には薄々気づいていたみたいだが、どうやらスルーして行ってくれたようだ。ありがたい。

 

 

今、ナルガ()は木々の間を飛びながらライガクイーンの住処に向かっている。

邪魔な木を切り、太い枝を足場に高く跳び上がり、再び滑空する…。

そんな体に染みついた動作を繰り返しながら、目的地へと文字通り一直線に駆け抜けていく。

 

 

…一時間ほど前から、どこか森の雰囲気がおかしい。

森全体が、まるで悲しみに暮れているかのような重く暗い空気に包まれている。例えるなら、通夜の雰囲気に非常に良く似ている。魔物の気配は感じるのに、あるはずの喧騒というものが一切感じられないのだ。

 

 

…音が聞こえた。大きな鳥が羽ばたくような音と、狼のような生き物の遠吠えだ。特に遠吠えは、おそらくナルガ()でなくとも聞こえるくらいに大きく森の中に響いている。

 

 

…完全にマズったな。これはおそらく、()()がここに来ている。

セントビナーで六神将(ローレライ教団の私設軍隊『神託の盾(オラクル)騎士団』の中でも、特に戦闘能力の高い幹部六人の事。簡単に言えば、ルーク一行の敵)が集結する前からライガクイーンの死を知っていたという事は、ルーク達が去った後からそれまでの間に()()はここを訪れていた事になるが……このタイミングだったのか、意外に早いな。ゲームでは描写されていなかったから、全く分からなかった。

 

 

…どうする、行くか?

 

森がこうまで暗い雰囲気に包まれているという事は、ライガクイーンは死んでいる可能性が高い。

ただ、自分の目で確認した訳じゃないから確実とは言えない。それを早く確かめておきたいのだ。

 

そして、もう一つ重要な事がある。

 

ナルガ()は、ソーサラーリングを持った長老チーグルとは会話できた。だから、同じようにソーサラーリングを持っているミュウとは会話できるのだろう。

それはつまり、ナルガ()はミュウを通してルーク一向と意思疎通が図れる、という事だ。

 

なら、()()はどうだ? ()()と、ナルガ()は会話できるのか?

いくら魔物と会話する能力を持っているとはいえ、ナルガ()は別世界の魔物だ。会話できる保証はどこにも無い。今なら、それを確かめる千戴一隅のチャンスになる。

そして、()()ナルガ()が会話できる事がはっきりすれば、今後ナルガ()が取る行動の選択肢が大きく広がる。

 

 

…ただし、リスクはかなり大きい。

まず、会話の結果次第では戦闘になる可能性がある事。もちろん、最悪の場合は会話すらできず殴り合いになる。そしてその場合、俺にとって相性最悪な相手が一匹いる事もかなりのリスクとなる。

 

次に、ナルガ()の気配についてだ。ナルガは隠密行動を得意とするモンスターのハズだが、何故だかナルガ()はこの世界の者からすればかなり強い気配を発しているようだ。それは、ティアやジェイドの様子からも明らかだと言わざるを得ない。

故に、接近を察知されて万全の状態で迎撃される可能性が非常に高い。

 

最後に、()()以外の六神将が付いてきている可能性がある事。ゲームでは、六神将が単独で行動している場面はあまり無く、大体が他の六神将と二人組(ツーマンセル)以上だったように思う。今回も、もしかしたらそうかもしれない。

 

 

さて、どうするかな…。

 

 

 

 

…よし、覚悟は決まった。

相手は間違い無く強敵だが、最悪一戦交える事も覚悟しよう。勝算が無い訳でもないし、強敵相手なら今の自分がどこまで戦えるかを試すチャンスだとも言えるしな。今後ナルガ()が行動する幅を広げるためにも、ここはリスクを負っておくとしよう。

 

もちろん、無策で行くつもりは無いが。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ライガクイーンの住処である大木まで来た。今は、その木の枝に乗っかっている。

…やはりと言うべきか、木のうろが相当大きいな。入り口も、20メートルあるナルガ()の体躯がつっかえずに入り込めそうなくらいに大きい。

そりゃあ、ライガクイーンも根城にする訳だ。餌もあるし(というより、待ってれば餌が向こうから勝手にやってくるし)、綺麗な水場もあるし、こんな優良物件を手放したいとはだれも思わないだろう。

 

おっと、当然だが正面から入る様な真似はしない。いくら広いと言っても天井がそこまで高い訳では無いし、ナルガ()が動き回るには少々手狭だ。機動力をむざむざ殺すような状況に飛び込む必要はあるまい。

とりあえず、木の裏手に回り込むとしよう…。

 

 

(迅竜移動中…)

 

 

多分、この辺りだろうな。…木の皮を通して、喋り声が聞こえる。

 

「…どうしたの?」

(気配がする……とびきり大きな気配だ)

(随分とでかいわねえ。敵意は無いけど、近くにいるだけで圧倒されそう)

「えっ…」

 

やっぱりバレてる、しかも()()じゃなくて()()()()に。まあ、想定の範囲内だが。

…余計な事を考えている暇は無い。()()が戸惑っている間に準備を済ませてしまおう。

 

 

木に穴を、ぶち開ける。この辺りが一番薄そうだな。

いくぞ……はあぁぁぁぁ!!

 

 

必殺!! ビターン!!

 

 

…よし、穴が開いた。我ながら結構派手に壊したもんだ。さて、中はどうなっている?

 

 

…まあ、大方予想通りといった所か。

ライガクイーンは、間違いなく死んでいる。首を深々と切られているし、流れた血も乾いて黒ずんでいる。

傍らには、割れた卵が幾つもある。ライガクイーンが生前に産んだものだろう。

そして…

 

「あなたは、何者?」

 

やはり、いたか。神託の盾(オラクル)騎士団六神将・妖獣のアリエッタ。

小柄な体格に眉尻の下がった気弱そうな表情の女の子(ただし、実年齢は16歳)だが、魔物と会話し心を通わせる事のできる稀有な能力の持ち主だ。その能力の為か、彼女の周りには力ある魔物が常に付き従っている。

それだけではない。魔物に目が行きがちではあるが、アリエッタ自身もかなり優秀な譜術士(フォニマー)(譜術を扱う人の事を、TOAの世界では一般的にこう呼ぶ)だ。魔物も含めた総合的な戦闘能力なら、六神将でもトップクラスだろう。

ただし、アリエッタは色々事情があってライガクイーン、つまり魔物に育てられている。その過程で魔物と話す能力が身に付いたんだが、代わりに人間の常識やら言葉の知識やらが所々欠如していて、精神的にも知能レベル的にもやや幼い。

 

(アリエッタに、近付くな)

(あらら、相当のデカブツね。どうしようかしら…?)

 

そして今は、アリエッタに付き従う魔物が二匹いる。

先に喋ったのはライガ(成体)、黄色で狼みたいな姿をした魔物だ。そして、後に喋ったのはフレスベルグ、四肢と翼を持つ大きな青い鳥の魔物だ。

ん? フレスベルグって(めす)だったのか。

 

…それにしても、魔物組の言葉が理解できたか。その魔物組がアリエッタと話せるのだから、ナルガ()がアリエッタと話せる可能性が非常に高くなったな。

 

(不審な魔物め、ここから立ち去れ)

 

…やっぱり警戒されてる。まあ当然か、いきなり天井をぶち破って変質者が現れたようなもんだしな。…ナルガ()は変質者じゃないぞ?

それにしても、小さな女の子(見た目と精神年齢が幼いので、こういう表現にしておく)がうつむいているのを見るのは、なんだか罪悪感を感じるな。

ナルガ()がやった訳じゃないから、別に堂々としていればいいんだが。

 

(…? なんだ、その悲しそうな目は?)

(珍しいのね、魔物でそんな表情するヤツなんて、初めて見たわ)

 

…魔物同士だと、表情も読み取れるみたいだな。

ライガは感情表現が薄くて何を考えてるのか分かりにくいが、フレスベルグは感情が顔に出やすいみたいで、今はこちらを探るような表情を浮かべている。

なら、こちらからも言葉を発させて貰おう。俺にも、確かめたい事があるからな。

 

(…何でもないさ。用事が済んだら、さっさと退散するよ)

(ふん、信用ならんな)

(別に、あんたらに信用されようがされまいが、俺にはどうでも良いが)

(余裕ね。まあ、すぐ襲ってこない所を見ると悪い魔物じゃないみたいだけど)

 

…悪くない魔物というのがどういうヤツなのか聞いてみたい所だが……やめておこう、俺もさっさと本題に入りたい。

 

(俺にとって重要なのは、そこの人間の子の事だ)

(…なんだと?)

(俺の事が信用できるかどうか、あんたはどう考えてるんだ?)

「…アリエッタは……」

 

そう、重要なのはアリエッタとナルガ()の会話が成立するかって事だ。

そして、ナルガ()の問い掛けに返事したという事は、アリエッタにはナルガ()の言葉が通じたって事だな。

 

とりあえず、この場に来た最大の目的は達成だ。ナルガ()はアリエッタと会話できる、意思疎通ができる。それが分かっただけでも、今日は十分な収穫だ。

別に、ここで退いても良いんだが…。

 

「…今は、それどころじゃないの…」

 

…目が真っ赤だ。やっぱり泣いていたのか。

まあ、それも致し方ないな。アリエッタにとってライガクイーンは、育ての親だからな。そりゃ、悲しいに決まってる。

 

(…そこのライガを殺したヤツ、か。心当たりはあるが)

 

だから、少しだけ情けをかけておこう。情けは人の為ならず、ってな。ここで恩を売っておけば、後々それが役に立つかもしれないし。

…いたいけな子供を騙すようで良心の呵責が半端ないが、別に嘘を言ってる訳じゃないからな。実際に誰が殺したか知ってるし、嘘を吐くつもりも無いし。…打算的ではあるけどな。

 

「…え? ママを殺した人、知ってるの!?」

(貴様じゃないのか?)

 

このライガの返しは予想していた通りだったので、こちらも用意しておいた返答を返す。さて、どう返してくるかな?

 

(匂いで分かるだろ? 俺が殺ったか、そうでないかは。俺から、そこで倒れているライガの血の匂いはするのか?)

(………)

 

どことなく悔しそうに黙っている所を見るに、俺が犯人じゃないって分かってて聞いてきたんだな。狼みたいな見た目だから鼻が利くんじゃないかと思っていたが……やはりそうだったか。

…あと、魔物の癖に意外と頭いいなコイツ。人の事言えた義理ではないが。

 

(…さて、教える前に自己紹介だけしておこうかな)

「自己…紹介?」

 

…流石に、自己紹介の意味は知ってるよな?

まあ、もしかしたら魔物には自己紹介なんて考え方そのものが存在しないのかもしれないが。

 

(そう、俺はナルガクルガってんだ。別名、迅竜とも呼ばれてる)

「ナルガ…クルガ…じんりゅう?」

(知らないな、そんな魔物がいるのか?)

(私も、聞いた事無いわね)

 

逆に、知ってたらおかしい。この世界にナルガクルガという魔物はいないんだから。

 

(まあ、当然だろうな。それより自己紹介も済んだし、聞きたい事があるんじゃないのか?)

「…!! そう、ママを殺した人!! 誰なの!?」

(落ち着け、アリエッタ。嘘かもしれない)

(だったら、後でこの森の魔物に聞いて確かめてみればいいんじゃないか?)

(…それも、そうね)

 

…大体、性格が掴めてきた。ライガは慎重派で、フレスベルグは姉御肌といった所か。

ゲームじゃ分からなかった事が見えてくるってのも、意外と面白いな。これも、現実だからこそ体験できる出来事という訳か。

 

(…一人は赤い髪の男、剣を腰の後ろに差してる。一人は青い軍服の男だが、マルクト軍の中でも相当立場が上の奴しか着られない軍服だったな)

「赤い髪…青い軍服…」

(…最後の一人は、黒い服の女。前髪で右目を隠してる)

(………)

(結構長い時間森の中をうろうろしてたみたいだから、そいつらを見かけてる魔物も結構いると思うぞ)

 

さて、伝えるべき事は伝えた。これで、ナルガ()に心を開く切欠ぐらいにはなってくれるといいが。

 

(話は以上だ)

「…どうして、教えてくれたの?」

(…さあな、深い意味は無い)

「………」

(じゃあな。縁があれば、また会う事もあるかもな)

 

返事は聞かずに、さっとその場から離脱する。なんとなく、これ以上邪魔してはいけないような気がしたしな…。

 

 

では、予定通りねぐらに戻るとしよう。

まったく、今日は濃い一日だったな…。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

さて、何事も無く拠点に戻ってきた。やはり、アリエッタ以外に人の気配は無いようだ。

 

…戦闘にならなくて良かったよ、本当に。強敵相手に一対三の戦いとか、モンハンじゃあるまいし辛すぎる。

自分の力を試す()()なら、追い詰められても大丈夫なように確実な逃げ道がある状態で、ほどほどに力を出して戦うのが理想だと思うし。

 

命が懸かった場面での全力戦闘とか、確かに憧れはするが……実際は避けたい所だ。

まあ、この激動の世界で生きていく以上、いつかはそう言う場面が来るんだろうけどな。

それまでに、どれだけ力を付けられるか……それが、俺の今後の課題だな。

 

…だから、音素(フォニム)の取り扱いは早くできるようになりたい。誰かに教えを()うか?

といっても、選択肢はかなり限られてくる訳だが…。

 

 

現実的に考えれば、アリエッタだろうか。彼女は生粋の譜術士(フォニマー)だし、音素(フォニム)の取り扱いにはかなり手慣れていそうだしな。

でも、暫くはライガクイーンの死と復讐の念で頭がいっぱいだろうな…。

 

…今は、やめておくか。

 

 

なら、ミュウか?

でも、言ってはなんだがガキだぞアレ。とても、理論的に教えてもらえるとは思えない(それは、アリエッタにも同じ事が言えるが…)。

 

 

…そう言えば、ソーサラーリング無しでチーグルと話せるのか確かめてないな。あの時は時間が無かったし…。

もし話せるのなら、長老辺りに聞けば音素(フォニム)の扱いとか教えて貰えそうだな。

 

よし、明日は早めに起きて、チーグルの木までもう一度行ってみるか。

今なら、ライガの脅威も消えてゆったりと過ごしてるだろうし。

 

 

とりあえず、今日はもう寝よう。

腹は幾分減っているが…今は、アリエッタが森にいる。

狩りはせず、彼女たちが去るまでおとなしくしている事にしよう…。

 





読んで頂き、ありがとうございます。

音素(フォニム)の流れを読む~云々の部分は、(おそらく)独自設定です。
音素(フォニム)の流れを読む ⇒ 音素(フォニム)を(ある程度)操れるようになる ⇒ 譜術を使えるようになる、という段階を踏んで譜術が使えるようになるのではないかと考えました。
まあ、ゲームでも『音素(フォニム)の流れを感じる』事から超振動制御の特訓が始まっているので、あながち間違ってはいないと思いますが。
…どちらにせよナルガ()には音素(フォニム)の取り扱いはまだ早かったようです。

あと、アリエッタさん登場です。キーキャラクターです。
今は人間の言葉が話せないナルガ()も、彼女がいれば意思疎通は可能ですからね。…意思疎通は、ほんとに大事。話ができないと、誤解が誤解を呼んで良くない方向に事態が進行していきますからね。
そうそう、ライガとフレスベルグの口調も独自設定です。ライガはアリエッタの兄を、フレスベルグは雇われ女傭兵をイメージしてみましたが、違和感無かったでしょうか? …え、フレスベルグは雄だろって? そこは独自解釈という事でお願いします。

では、次話もお楽しみに。
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