ヒロインはジェニーを予定。
『――とまぁそういう訳で~、キミの存在がバレちゃうと色々面倒なことになっちゃうんだ~』
これは、幼い頃の話。中等部に上がるか上がらないか位の頃。心臓発作で寝ながら逝った母親が、俺へと宛てたメッセージ。ありとあらゆるハッキング・クラッキング技術を駆使しなければ開けることなく消去される遺言を、必死の思いで開けることが出来た俺は、その内容に開いた口が塞がらなかった。
『私が生きている間に世代交代が行われていれば問題ないんだけど~、これを見ているってことはそうじゃないんだよね~?』
何時もなら心地好く思っていた間の延びた話し方は、最早苛立ちしか覚えない。恋は盲目とは物語やテレビ等で良く聞くものの、ぼんやりとした見た目に反して恐ろしくシビアな母親が、そんな馬鹿なことを仕出かすとは思わなかったのだ。
『だからまぁ、海賊船弁天丸の船長が世代交代するまで~、頑張って各種関係者の目を誤魔化してね~、ショーちゃんなら出来るっ』
「っざけんなぁぁぁあああああ!!!」
叫んだところで俺の現状は変わる訳も無く、この時から俺は俺という存在を、私掠船免状関係に携わっているありとあらゆる国・企業・海賊に気取られないよう手を回し続けなければならなくなった。
* * *
「でもそれも、今日で終わりだ」
ある情報を画面に広げた俺は、思わず頬を緩ませる。母親の死よりかれこれ六年。思いの外早くそれは行われた。
私掠船免状持ちの海賊船弁天丸、その船長の代替わりが、本日付で認められた。取り決めにより、海賊の船長は実子にしか受け継ぐことが出来ない。端から見れば俺は愛人の子だし、先方(父親)は身に覚えることすら出来ないような手段で出来た子供だが、先代の弁天丸船長、ゴンザエモン・加藤の子であることに変わりはなかった。
母親は俺に船長の座を継がせる気は更々無かったし、そんな母親に育てられた俺は俺で、自身の産まれ方を知ったことで本妻や異母妹に申し訳ない気持ちこそ立つが、海賊の船長になりたいとは思わなかった。性格的にも能力的にも柄じゃ無いのだ。
「しっかし、女子高生海賊ねぇ」
異母妹の情報は、ハッキングで知っている。
加藤茉莉香。ランプ館と言う古風の喫茶店でバイトをしている、名門の御嬢様学校白凰女学院高等部一年生。部活は札付き揃いのヨット部に所属しており、ディンキーの腕前は非常に優秀。伝説の女海賊ブラスター梨理香の一人娘で、決断力と行動力を兼ね備えた努力家の秀才。年頃の女子高生らしい思考はあるものの、船長としての素質が十二分にあることは、練習航海時の対ライトニングイレブン戦で垣間見た。
ならもう積極的に情報を集めなくて良いだろう。と言うか、こんなストーカー染みたことはもうこれ以上したくない。
「弁天丸船長の後継も滞りなく終わった。これで漸く窮屈な生活しゅうりょー!」
今までは本当に窮屈だった。目立たないように、けれども埋没しすぎないように、程々、普通でいなければならなかった。更には万が一にも情報が漏れてしまったことも考えて、身軽に動けるよう余計な柵も生まれない生き方をしていたため、幼馴染みを除いて親しい友達も作れなかった。
「流石に今から作るのも何だし、友達は大学に入った後で良いか。…………さて、飯だ飯だ」
電子機器類を全てシャットダウンし、俺は自炊しにキッチンへと向かうのだった。
しかし、俺は気付かなかった。これからそう間を置かずして、異母妹や弁天丸に関わることになることを。
これは終わりではなく始まってすら無かったことを。
この時俺は、想定もしていなかった。
●ショウザエモン・ラングスタ
加藤茉莉香の異母兄、17歳(原作開始時)。
血筋のせいで母親の死後茉莉香が弁天丸の船長になるまで隠匿生活を余儀なくされた少年。自分が産まれた経緯が経緯であるため異母、異母妹に対し申し訳なく思っており、弁天丸船長交代前程ではないが、自身の正体を気付かれないように生きる気でいる。但し、幼馴染が『クラッカーのおリン』こと白凰女学院ヨット部副部長リン・ランブレッタな時点でお察しください。
髪と瞳の色は母親遺伝だが、顔立ちがモロ父親遺伝なので、クーリエのようなビン底眼鏡(伊達)をかけている。
海賊船弁天丸の元電子戦担当者を母親に持ち、母親から英才教育を受けたため、ハッキング・クラッキングの腕はかなりのものである。