特殊設定、捏造設定有。カムイ男女共に在り。
お相手なし確定(本編中は)、ifキャラは基本国際結婚確定な透魔ルート。
普段通りに寝て起きたと思えば、視界に入ったのは知らない妙にリアリティのあるコスプレをした金髪外国人のおっさんと間違いなくイケメンに育つ見目をした将来有望そうな少年。その双方が嬉しそうな、でもどこか申し訳なさそうな表情でこちらを見ている。
「…………だれ?」
誰だよ、アンタら。
そう問いかけようとして自分の口から出た声色に、思わず固まった。風邪は引いていないはずなのに妙にかすれた声。そしてそのかすれ声からでも分かるくらい、高い音。もう既に成人している男であるため自分の声が高くなるのはおかしいと、そう思いながら妙に重たい手を喉に宛がおうとして、視界に移った小ささに体が強張った。そのささくれ立っていない小さなもみじのような手は、明らかに十歳にもなっていないような子供のソレで、自分の意思で動くことから、間違いなく自分の手だ。それがどうしても受け入れられずに、更に情報を得ようと体を起こした瞬間、立ちくらみを起こしたかのように視界が回り、そのまま自分が寝ていた布団へと突っ伏した。
「モンド!!」
「大丈夫か!?」
モンドって誰だよ。
こちらを心配するかのように慌てたおっさんと少年に対し、心の中で突っ込んだ。口に出さなかったのはその余裕がないからで、普段通りだったら間違いなくオーバーに突っ込んでいたのは難くない。おっさんの腕によって再び体を横たわらせられたオレは、おっさん達へと顔を向ける。その向こう側に広がる景色は、中世ヨーロッパの貴族を思わせる部屋の内装で、自分の部屋でないことは明らかだ。誘拐にしては手厚い介護にあり得ないと思ったオレは、もう一つの選択肢を視野に入れつつ二人に尋ねる。
「モンドって、だれ……?」
その問いに、二人の顔が明らかに強張った。
『ファイアーエムブレムif』というゲームがある。生まれた国である白夜王国か育った国である暗夜王国のどちらかに与するか、或いはそのどちらも選ばない第三の選択肢を選ぶかによってストーリーが様変わりするシミュレーションRPGだ。そのゲームはおまけ要素に近い形で自由に結婚でき、更には子供まで出来るため、「手ごわい恋愛シミュレーション」などとも揶揄されることはあるがそれはそれ。ストーリーに粗はあったものの出てくるキャラクターが魅力的であったために好きな部類だった作品だ。尤も、自分はまだ暗夜王国しかプレイできていないのだが。
さて、何故いきなりおっさんと少年からゲームの話をしたかと言うと、その二人の名前が暗夜王国のガロン王と第一王子のマークス王子だったからだ。因みに、国の名前は当然暗夜王国で、オレはその二人の息子であり弟である王子、モンドだと言う。
んなアホな、と否定するのは簡単だが、二人の親身さが、オレの身体の小ささがそれを許してくれない。
(死んだ記憶も無いのに転生憑依ってどういうことだよ……しかも寄りにもよってモブキャラな暗夜王族とか死亡フラグの塊だし)
暗夜王国のガロン王には、正妃の他に大勢の妾がいた。それ故に多くの王子王女がいたのだが、多くの謀略と権力争いの末に残ったのは僅か数名。正妃腹の子であり次期暗夜王でもあるマークス王子と、それぞれ別の妾から生まれたカミラ王女、レオン王子、エリーゼ王女。そして白夜王国からガロン王自らが自分の子として攫ってきた我らが主人公、カムイだけだ。
自分がカムイの立場に成り代わったなんて楽観視はしない。だってガロン王が優しいから、良いパパさんな雰囲気醸し出しているし善政を敷いているっぽいから。確かにこんな父親ならマークス王子も尊敬して父親の期待に応えようとするわなーと納得できるほどの家族大好きな父親っぷり。白夜王スメラギを殺してカムイを攫った時にはあの化け物に成り代わられていただろうから間違いない。
(原作前に死ぬのが確定って……転生する意味無くない?)
マークス王子と敵対せずに生活していたとしても王子だから権力争いに間違いなく巻き込まれて暗殺されるだろうし、仮に生き延びられたとしても待っているのは始祖竜との命を賭けた殺し合い。そんな世界に何の因果か転生してしまったオレは、ならもう開き直ってなるようになるさと死ぬまで、暗夜王族として恥ずかしくない程度に教養を積みつつも、興味の赴くまま好き勝手生きることに決めた。元々、考えるのは苦手だからと自棄になっていた、とも言う。その結果たった数ヶ月の間にうっかりミスって死にかけるということを十回以上もしてしまったらしく、更には二度も記憶喪失となってしまったそうだ。短期間に二度ともなると流石のガロン王もオレを跡継ぎ候補から外すことに決めたようで、オレは王族のまま王位継承権を剝奪された上でカムイの軟禁地予定である北の城塞へ監禁されることとなった。
「…………なぁ、ギュンター」
手に持っていた本から目を離し、監視役として付いてきた壮年の騎士へと顔を向ける。
「如何なさいましたか、モンド様」
「そと出たい、兄上たちといっしょにいたい」
「自業自得ですな、諦めなさい」
「じぶんのミスでしにかけてきおくなくしただけなのに、父上かほごすぎるんだよー。しょうふくでなんのとりえもないオレなんかより、マークス兄上やアクアを気にかけた方がぜったい良いじゃんかー」
「それ以上自身を卑下する発言をなされるというのであれば、私にも考えがありますが?」
「あ、すみませんごめんなさいやっぱさっきの発言なしで」
ニコリ、と良い笑顔で笑う老騎士に背筋が凍り、口にした発言を撤回する。ギュンターの説教は正直、オレを殺しにかかってきた暗殺者の刃よりも恐ろしいから仕方が無い。
(好き勝手やったお蔭か、権力争いから隔離されるっぽいし、来るべき時に備えて知識を付けながら、まだ見ぬカムイ君またはカムイちゃんを待ちましょうかねっと)
そしてオレは、再び本に目を通し始めた。
* * *
慌てたように本へ向き直った幼き主に、思わず内心で嘆息した。この主はその年齢にしては道理の分かる聡明さを持ち、何よりも和を尊ぶ心根を持った優しい子供だ。しかしどこか自己犠牲の嫌いがあり、己の気に入った者を、文字通り命を賭けて護ろうとする危うさを持っている。先に主の発したマークス様、アクア様はその最たる筆頭で、大人の都合で嫌々権力争いに巻き込まれている他の御兄姉弟妹方や、使用人すらも護ることがあった。それ故か王城では何の後ろ盾も無いのにも拘らず次第にモンド様を慕う者が増え、それを危険に思った側室や貴族達がモンド様へと暗殺者を差し向ける日々。それで二度も記憶を失っていながら変わらぬ明るさと優しさを保ち続ける主の存在が、ガロン王や御兄姉弟妹の心をどれほど救い、そして主が死にかける度に喪う恐怖に怯えていることを、当のご自身は理解なされていないのだろう。
(いや、記憶喪失は三度目だったか……)
暗夜王族らしくないこの主は、暗夜王族の血を受け継いで入るが、ガロン王の実子ではない。今は亡きガロン王の妹君と、時を同じくして亡くなっている白夜王スメラギの弟君の間の子である。その複雑な血筋ゆえに妹君からは「王位継承権は与えなくて良い」と告げられていたらしいのだが、先祖返りなのか竜へ化身できるらしいことからそうもいかず与えられ、しかし三度も記憶喪失になったために剥奪された異色の経歴の持ち主だ。しかし主はそのことを何一つとして覚えておらず、ガロン王のことを父、マークス王子のことを兄、その他の御兄姉弟妹のことも己の家族だと素直に受け入れ接している。それ故かモンド様の出自を把握しているのにも拘わらず、ガロン王は実子同然に可愛がり、マークス様もまた実の弟として可愛がっており、御兄姉弟妹も兄または弟として受け入れられている。敵対派閥の御兄姉弟妹同士のぶつかり合いの最中にモンド様が顔を出せば、騒ぎが途端に静まるのが良い例だ。だからこそ、側室や貴族達に危険視されたわけなのだが。
モンド様は雁字搦めになった人の心の闇を柔らかく解いてくれる力を持っている。恥ずかしながら自分もまた、その恩恵に肖った身だ。故郷を妻子共々滅ぼされたためガロン王や民衆の命を軽視する王族そのものを殺したいほど憎んではいるが、だからとはいえ民が苦しみ祖国が滅ぶ様を見てはいられない。その程度には祖国に対する愛着を回復できたのも、偏にモンド様の笑顔のお蔭に他ならない。
(だが……いや、だからこそ、モンド様にはより効果的な形で死んでもらわなければならない)
今思えば、ガロン王や王族に殺意を覚えているものの、だからといって暗夜王国を民諸共滅ぼしたいとは思っていなかった。だというのにモンド様と関わる直前には、そんな昏い思想を抱いていた。まるで気付かぬ内に何者かから洗脳を受けたかのような思考誘導に思わず背筋が凍ったのを、今でも昨日のことのように思い出せる。恐らく、ガロン王も似たようなものなのだろう。いくらエカテリーナ様を喪い悲しみに落ちたとは言え、善政を敷いているはずの王が、自分の意に反したからとはいえ家族を故郷ごと焼き払うなどありえないのだ。
……………だからと言って、愛すべき我が妻子を殺したことは未だに許すことは出来ないのだが。
(しかし、懸念すべきことがあるのも事実)
つい先日の出来事だが、エカテリーナ様の次に正妻の地位に納まったシェンメイ様が亡くなられた。つまりガロン王は、愛する女を立て続けに喪ったことになる。自身の考えが正しければ、これからそう遠くない内に暗夜王国は荒れに荒れるだろう。その余波にいち早く巻き込まれるのは王族でも貴族でもなく、民衆だ。
それを出来る限り抑えるためには、王侯貴族全てをより早く全滅させる必要がある。しかしそれらが全ていなくなれば、他所の国の王族が暗夜王国に手を出すことは必至。
(なれば、儂の知る王族の中でもマシな部類であるモンド様を儂自ら徹底的に教育した上で邪魔者を全て排し、王に据えることも念頭に置くべきだ……)
さすれば王侯貴族の身勝手で、民衆の命が徒に喪うことも無くなるだろう。我ながら良い案やも知れぬ。
(さて、モンド様は儂の期待通り成長なさるだろうか)
尤も、そうならなかった場合は予定通り、ガロン王や暗夜王族に対しより効果的な形で死んでもらうだけ。どちらにしても利用価値があるだけに、どちらに転ぼうが構わない。
(これでも貴方には一度救ってもらった身。例え殺すことになろうとも苦しまずに送るゆえ、安心召されよ)
此方を気にしつつも決して視線を向けようとしない幼い主の背中を見ながら、そうほくそ笑むのだった。
◆ ◆ ◆
「…………どこだ、ここ」
普通に自室で寝たはずなのに、目を覚ませば見覚えの無い純和風な天井を見た時の心境がまさにそれだった。軽い体を起こして部屋の様子を確かめてみれば、田舎の家というよりは大名やお金持ちの商家の屋敷と言うのが正しいような立派な部屋で、ふかふかの布団やい草の畳の良い香りが鼻孔を擽る。陽の光も気持ちが良いため気分は頗る優れているのだが、その反面何故自分がこんな場所に寝かされていたのかが不思議でならない。
(誘拐……ないな、理由利点共にないし)
もっと情報が欲しくなって立ち上がる。自身の目線の高さと部屋の広さに違和感を覚え、咄嗟に自分の身体を確認した。上品な質の着物を着た、十歳にもなっていないような己の身体を見て、思わず悟る。
(知らない子供に憑依、或いは私そのものが子供化……)
頭が痛い、とはまさにこのことで、思わずその場に蹲り頭を抱えた。憑依か、或いは子供化か。転生という選択肢は、死んだ記憶が無いだけに除外しているが、どちらにしろ最悪だと言って良い。いや、子供化ならまだ良いか。記憶喪失だと臭わせればよっぽどのことが無い限り無下にはされない筈。問題は、知らない子供に憑依していた場合だ。
(頭にも包帯があるから記憶喪失になってもおかしくないとして、問題は人格の方)
こちとら自他共に認める女らしくない可愛げない性格をしている身だ。今更年相応の少女らしくとか無理ゲーにも程がある。幸いすぐ傍に人はいないことだし、逃げ出すことも考慮すべきかと思っていると、数人分の足音と共に子供達の声が聞こえてきて、私は思わず箪笥から布を引っ張り出し、明らかに一階ではない筈なのに窓の外へと飛び出して器用に壁に張り付き布を被った。
全て、無意識の行動である。
(――――って、何してるの私?)
自分の行動に混乱したのと、障子が開いた音が聞こえたのはほぼ同時。そして自分の混乱を収める前に、事態は更に混沌と化した。
「ハル姉さまがいない!?」
「何!? あんな怪我をしておいてどこに行ったんだアイツは!?」
「ねーたん? ねーたんおきたの? どこいったの?」
探せ!! いつも通り厳戒令を敷いて、城中隈なく探すんだ!!
そんな少年の言葉に呼応するようにドタバタと走り去っていく足音を聞いて、思わず頭が痛くなった。どうやらこのハルという少女には兄弟妹がいて、誰にも何も告げずに行方を晦ましいなくなることが日常茶飯事らしい。何とも言えない気分になりながら、部屋に戻ろうと顔を出すと、お淑やかそうでいて妙に食えなさそうな黒髪美人の女性と目が合った。
(あ、これ逃げられない)
にっこりと笑う女性に、戦慄しながら頬を引き攣らせた。
『ファイアーエムブレムif』というゲームがある。生まれた国である白夜王国か育った国である暗夜王国のどちらかに与するか、或いはそのどちらも選ばない第三の選択肢を選ぶかによってストーリーが様変わりするシミュレーションRPGだ。そのゲームはおまけ要素に近い形で自由に結婚でき、更には子供まで出来るため、「手ごわい恋愛シミュレーション」などとも揶揄されることはあるがそれはそれ。ストーリーに粗はあったものの出てくるキャラクター全てが魅力的であったために好きな部類だった作品だ。
さて、何故いきなりそのゲームの話になったのかというと、件の黒髪美人さんが主人公カムイの実母、ミコト様だったからである。ついでに言うと先程やって来た子供達はリョウマ、ヒノカ、タクミであり、私は彼らの従姉妹なのだとか。
「父と母、どっちの血……ですか?」
「貴女のお父様が、スメラギ様の弟だったのよ」
(寄りにもよって王族ですか……)
因みに、諸々のことを誤魔化すために記憶喪失ということにさせてもらい、ミコト様はあっさりとそれを信じてくれた。どうにもこのハルちゃんとやらの性格は、私に良く似ていたらしい、不幸中の幸いだ。因みに、何故私が白夜王国の王城であるシラサギ城にいるのかと言うと、国を出奔した両親が盗賊にやられて死んだために、私達家族が国に住まうことを認知していたイザナ公が、辛うじて生き残った私達双子をそれぞれの親族がいる白夜王国と暗夜王国に送った結果なのだとか。「互いにそれぞれの血が強すぎるから分けることにしたんだ~、ごめんね~」がイザナ公の言らしい。何それ凄く胡散臭い。
……と言うか、覚えてすらない双子の弟とやらは暗夜の血が濃いのか。家族大好き面はともかく、残虐性が受け継がれていなければ良いが――――って待て、今なんか聞き逃してはいけない言葉があった。
暗夜の血が濃い? だから弟を暗夜王国に送った?
百歩譲って私を白夜王国に送ったのは分かる。だって私の父親は王位継承権を持っていた王族、神の末裔かつ公王であるイザナ公が自ら手配するのも分からないでもない。そしてその原理で行けば、私の母親は……。
ひくりと、頬を引き攣ることが止められないままに、推測が間違っていてほしいと僅かな希望を抱きながら質問を口にする。
「母はなにもの、ですか?」
「暗夜王国現王、ガロンの実妹です」
(神は死んだ……)
白夜王族と暗夜王族の子供って要素盛り過ぎだ……と言うか、一体全体何がどうなってゴールインしたんだ両親……駆け落ちに成功したロミジュリ? 家から国にランクアップとか規模が大きいし、寧ろ良く成功したよね? 何だろう……覚えていない両親の性格が、色んな意味でフリーダム染みている気がする。
心なしか目が死んでいっているのを実感しながら、ミコト様が入れてくれた薬湯を口にする。苦くて仕方が無かったが、取り敢えず混乱する頭を落ち着かせるのには成功した。
それじゃあ、次に行ってみよう。
「このケガ、なんで……すか?」
「それはね、暗夜王国の方々が放った無数の矢からスメラギ様達を庇った際に受けたものなの」
勿論、記憶喪失である貴女は覚えていないのでしょうけど……と、ミコト様は辛そうにして言葉を濁す。その彼女の態度に、今の時間軸を直感した。
(複数人ってことは、カムイが攫われた後か……)
そうなると、もうスメラギ王はガロン王に殺されたか。いくら私が庇ったからと言って、ガロン王……もといハイドラが使い勝手の良い手駒になるスメラギ王を逃すとは思えない。
…………ん? いやちょっと待て。
「かばった?」
「ええ」
「わたしが、スメラギお……じうえを?」
「後は、リョウマとカムイとカグラも一緒に庇ったと聞きました」
いや待て、その内容は可笑しい。何をどうしたら十歳未満の子供が、大の大人どころか大人では無いとはいえ他三人を庇えるんだ。…………ん? ちょっと聞き覚えの無い名前がさらっと出たぞ?
「だれ?」
「リョウマはこの国の第一王子で、カムイとカグラは私の子です。三人とも貴女の従兄弟妹に当たります。カムイ達は貴方達姉弟と同様、双子なんですよ」
「そう……ですか」
そうか、カムイはダブル主人公か。……と、言うことは。
(カムイ♂が主要親世代の誰とくっついても子世代が全員揃う……!)
ミコト様が入れてくれた薬湯をすまし顔で飲みながら、ひゃほーいと内心で狂喜乱舞していると、騒がしくは無いが響く足音が近づいて来るのが聞こえてきた。
「ふむ、やはり部屋に隠れていたか」
あまりリョウマ達をいじめてくれるな、お前のことを心配していたんだぞ。
そう部屋に入ると同時にやって来た、子供らしく胸板を叩いてもがいている綺麗な水色の髪の女の子を抱えた、手入れをしていないようなぼさぼさ頭の黒髪の男性を見て、勿体ない・汚いと思う間もなく薬湯を吹いた。
傍目に見えたミコト様の悪戯っ子のような笑みが、とても恨めしかった。
* * *
『そこな仔竜とこやつらに免じて、貴様らの命は取らないでおいてやろう』
呑まれたか。
歪んだ笑みでカムイ達を連れ去ったガロン殿を見て、薄れゆく意識の中ただそう思った。
カムイとカグラが攫われてから、数ヶ月もの月日が流れた。その間に、二人を取り戻そうと忍びを遣わし、何故か代わりに彼方の王女であるアクアを連れ帰って来たなどと言ういざこざもあったが、怪我も無事治り概ねシラサギ城も落ち着きを取り戻した――ただ、弟の忘れ形見であるハルだけが、意識を取り戻さないまま。
包帯こそ巻いているものの怪我は治った。ミコトの側近であるオロチを筆頭とした呪い師達の尽力もあり、どれだけ遅く起きようとも今まで通りに動ける身体のままでいられている。見た目は最早健常者が寝ているだけだが、その日数のことを考えれば異常だろう。
「恐らく、負担が掛かったのでしょう」
そう告げたのは、さる理由から側妃として保護したミコトだった。
「竜に化身した上、絶命寸前まで陥ったのです。ですが、どれだけ時間が掛かるかは分かりませんが、きっと、目を覚まします」
その言葉から一週間、城が懐かしい騒がしさを取り戻した。リョウマより厳戒令を敷かれ慌ただしく城中の忍が動く中、それ以外の家臣達がとても嬉しそうに、しかしどこか呆れ顔で笑みを溢す。
「………………何か、あったのですか?」
その雰囲気に充てられてか、自分からは絶対に話しかけようとしないアクアが、珍しく口を開いた。乏しい表情ながらも落ち着かない様子で周りを見る新しい娘の頭を、優しく撫でる。
「なに、寝坊助で良く城を抜け出す問題児な姪御が、起きただけだ」
その言葉の何に驚いたのか、アクアは珍しく目を見開いた。音にこそなっていなかったが「モンドの……」と唇が動いたのに気づき、どうやらこの娘は暗夜にいる甥御のことを知っていて、かつ心を揺らせる存在であるらしいことが窺えた。これは良いきっかけになるやも知れないと、未だに此方に馴染もうとしないアクアを抱える。
「え!? ……お、おろしてください、スメラギ王」
「では、数カ月ぶりに起きた姪御に会いに行くとするか」
「ほりょを自分の子供のように抱えるのはいけないと思います」
「なに、お前はもうリョウマ達同様に我が子だ。遠慮するな」
「えんりょとか、そういうのではなくて……」
「はっはっは、ヒノカに比べると随分と軽いな。ちゃんと食事を食べているのか?」
「人のはなしはきいてください!!」
珍しく大声を上げたアクアに驚いた家臣達が、こぞって此方を見た。普段は子供らしくない達観とした雰囲気の彼女が、年相応に慌てている姿を目にし、驚きのあまり彼らの目から僅かながらにあった嫌悪の感情が抜けている。その視線に珍しく気づかず此方へと抗議し続けるアクアに、これから一層愉快なことになるだろうと、噛みしめるように笑うのだった。
●モンド(双子弟)
原作知識持ち(暗夜のみプレイ済み)転生主人公♂。諸国漫遊していた白夜王スメラギの弟と、同じく結婚相手を見つけるために世界を周っていた暗夜王ガロンの妹の間に生まれた子供。白夜暗夜双方の王族の血筋であるが、暗夜の血の方がとても濃い。先祖返りであるために竜に化身することが出来(一回目の記憶喪失のせいで覚えていない)、また関わった人々の心の闇を柔らかく解す力を持っている(本人自覚なし)。
非常に朗らかな性格をしており、深く考えて行動することがとても苦手。それ故にマイペースすぎる行動を多々取り家族大好きな空気を一切隠さず前面に押し出すため、マークスを差し置いて後継者になることを自分の意思で目論んでいる義兄姉からすらも呆れられ、しかし敵対意識を持てないほどに受け入れられている。馬鹿な子ほど可愛いと思われるタイプだが、こと教養においては(ギュンターによる歪んだ英才教育もあってか)暗夜王族の中でもマークスと張るレベルだったりする。また、身体能力もトップクラスだが、自分の身を護るのに生かされていない。
死んだ記憶がないせいか現状に現実味が持てずつい自分の命を疎かにしがちであり、そのせいか十回以上死にかけ三回も記憶喪失になったことがある。このままではいずれ死ぬことを危惧したガロンの手により北の城塞へ隔離された。ギュンターや側室・貴族連中から命を狙われているが、どうせ自分はすぐ死ぬからと思って大して気にしない(ギュンターに関しては気付いてすらない)。
双子の姉が白夜王国で王族をやっている。
名前の由来はドイツ語の【月(Mond)】から。
●ハル(双子姉)
原作知識持ち(全シナリオプレイ済み)転生主人公♀。諸国漫遊していた白夜王スメラギの弟と、同じく結婚相手を見つけるために世界を周っていた暗夜王ガロンの妹の間に生まれた子供。白夜暗夜双方の王族の血筋であるが、白夜の血の方がとても濃い。先祖返りであるために竜に化身することが出来(一回目の記憶喪失のせいで覚えていない)、また杖を使わずとも自他関係なく傷を癒せる力を持っている(本人自覚なし)。
常に無表情で口数も少ないが、空気を察するのが人よりもずっと得意。しかし敢えて空気を読まないマイペースでもあり、場を平気でかき乱したりもする(が、スメラギとミコトには逆にペースを乱される)。主に被害に遭うのは人一倍猜疑心と承認欲求の強いタクミや、暗夜王国から誘拐されてやって来たため周りに壁を隔てるアクア、そして自身の職務を忠実に熟す生真面目な忍兄弟。忍顔負けの身体能力を有する。
死んだ記憶がないせいか現状に現実味が持てずつい自分の命を疎かにしがちであり、そのせいか何度か死にかけ二回ほど記憶喪失になったことがある。その結果周りから過保護に囲まれる。だが、本人は平気でその囲いから抜けるため、周りの気苦労が絶えない。
双子の弟が暗夜王国で王族をやっている。
名前の由来は日本語の【陽(はる)】から。