ヒロインは受付嬢予定。
「……これで良し、と」
村長さんから与えられた部屋を一通り確認し、俺はそう呟いた。回復薬やハチミツといった道具の一部や今まで貯めたお金は、次に来る新人さんのために残しているが、それ以外は俺がここに初めて来た時と一際変わらない。その様子に満足し頷くと、俺は今まで住んでいた家を後にした。
ユクモ村は温泉が名物の小さな村だ。龍人族の女村長を中心に、明るく気立ての良い性格の村人が揃っている。そして何より、流れのハンター達が依頼を求めて集う集会所があるのが一番の特徴だろう。
俺もまた、依頼を求めてユクモ村へと来たクチの新米ハンターだった。故郷から一番近い訓練所を首席で卒業した俺は、王都で華々しい成果を上げようと考えていた。集会所があるとはいえ所詮小さな村でしかないユクモ村はただの通過点でしかないと、生意気にもそう考えていた、世界を知らない若造だった。幸いにも俺は、ユクモ村へ向かう途中で遭遇したジンオウガに魅入り、ユクモ村の専属ハンターになるとこに決めたのだが、あの時ジンオウガに出逢わなければ、きっと王都で恥をかいて潰れていたに違いない。
こうして運の良かった俺は、時に挫折を味わいながらも順調に成長し、若いながらにHR7という上位ハンターの一角に足を踏み入れた。
外に出た直後、普段と変わらない太陽の眩しさに思わず目を細める。この日の高さからいって、目的の竜車がユクモ村に到着するまで後半刻といったところだろう。今まで世話になった人達や仲良くしていた人達への挨拶回りは先日済ませていたため、些か暇になってしまった。
「あら、もう準備が出来たのですか?」
残りの時間をどう過ごすか持て余していた俺に、風鈴の鳴るような澄んだ声がかけられた。この声の持ち主は、ただ一人しかいない。
「村長さん、おはようございます」
「はい、おはようございます」
村の外から集会所への一本道を挟んで反対側、赤い敷物が掛けられたベンチの定位置に、龍人族の伝統衣装を身に纏った村長さんはいた。丁度良いと思い、俺は村長さんに尋ねる。
「隣、良いですか?」
「構いませんよ」
気品のある彼女の笑顔に促され、俺は遠慮なく隣に腰を落ち着けた。そのままぼんやりと、行き交う人々やそれに影響されることなく在り続ける自然を眺める。穏やかに移ろう景色は初めて来た時と何ら変わらない。その日常の尊さに、俺は頬を緩ませると共に肩を落とす。
「お辛いですか?」
その様子に気付いたのか、村長さんはこちらを見ることなく尋ねてきた。それに対し、俺もまた村長さんを見ることなく答える。
「辛いと言うより、寂しい……でしょうか」
「そうですか」
「はい。ここには、思い出がありすぎるので」
そう、俺はそっと目を伏せた。
良い思い出であれ悪い思い出であれ――圧倒的に良い思い出が多いが――、今の俺にとっては総じて寂しさを増長させるものに過ぎない。
「だから、ここを離れるのですね」
「はい。弱く、無責任なのは重々承知していますが」
実に情けないと思う。本当なら直ぐに乗り越えなければならないのに、熟練のハンターは、直ぐに切り替えられていたのに、俺はこうして燻っている。長年慣れ親しんだ得物の太刀さえも、触れられずにいる。ユクモ村専属のハンターは俺しかいないと言うのに、随分な低落だ。
何より、そんな醜態を見せている俺を、静かに見守ってくれる人達の優しさが、心にきた。
「いいえ、誰もハンターさんを責めませんよ。貴方はこの二年間、十分に私達を助けてくれました」
「それは、前にも聞きました」
「ええ、何度も言いますよ。私達は幾度も、貴殿方に救われました。この村が今でも穏やかでいられるのは、村専属ハンターとして動いてくださったハンターさんのお蔭です。だから」
一拍間を置くように、村長さんは行き交う人々から俺へと視線を変えた。
「傷が癒えたら、またこの村にいらして下さい。また専属ハンターに戻るわけでもなく、流れのハンターとして留まるわけでもなく、ただの旅人として、この村を訪れてください」
優しい眼差しだった。どこまでも優しく、温かな、陽だまりの様な視線に、思わず目頭が熱くなる。この優しさが嬉しく、擽ったく、そして同時に酷い罪悪感に駆られてしまう。
村長さんも、村の人達も、俺がそう思っているのは承知の上だろう。だからこそ皆、俺が村を出ていくことに反対することも詰問することもなく、受け入れてくれた。だからこそ、俺は頷いた。
「…………はい、約束します」
何時になるかは分からない。きっと、多くの時間を費やすことになるだろう。それでも必ずこの村に足を運んでみせる。その誓いを、新たな旅立ちの日に、した。
そして俺は、ユクモ村を後にする。竜車から眺める空は、数年前に故郷を出た時と、同じ色合いをしている気がした。
●ハンターさん(名前未定)
若いながらに二年間でHR7に達した凄腕ハンターだが、あるクエストでの出来事が切っ掛けでその地位や名声を捨て、普通の旅人としてユクモ村を出ることになった青年。旅の途中でダレン・モーランを撃退したことが切っ掛けで『我らの団』の団長にスカウトされ、なし崩し的にハンター業を再開することになる(但し、ハンターランクは新規の状態で)。
ユクモ村では太刀使いだったが、我らの団では操虫棍使いとしてハンターをする。大型モンスター狩猟時は、絶対にオトモを連れていこうとしない。