特殊設定、捏造設定有。
ヒロイン未定。
の、更に続き。前世編これにて閉幕。
ああ、これは死ぬな。
瓦礫の山を這うように移動しながら、他人事のようにそう思う。
プリンセスが部屋に来なくなってから、どれくらいの月日が経ったのかは分からない。だけどキングから、プリンセスが度々地球へ御忍びに行っているという話を聞いて、俺は月の王国が滅びる日が近付いていることを察した。その時、思いの外長生きできたなと思っただけで、それ以外に思うことは無かった。対策も立てなければ助言もしない、ただ滅びの時を待つことしかしなかった。
だから、俺の部屋が崩れて外へと出ざるを得なかった状況でも、慌てることは無かった。慌てる余裕すら、無かった。
「げほっごほっ……ひゅー…………」
息をするのが苦しい、身体が異常に重い。このまま動かずに居てしまいたい。どうせそう間を置かずに死ぬのだからそうしたかったのだが、何故かそれは駄目なのだと思い、こうして俺はナメクジのように動いている。
血の痕があった、人の死体があった。空気が、異常に澱んでいた。でも、それでも気を取られず、突き動かされているこの衝動は、一体何なのだろう。
自分自身が分からないまま、だけど迷いなく進んでいった、その先。
「いやぁぁぁああああ!!」
あの娘の、声が聞こえた。あの娘へと向かう、凶刃が見えた。重たかったはずの身体が、自然と軽くなる。火事場の馬鹿力であることを理解しながら、ただ見知らぬ赤髪の女性に庇われているプリンセスの元へと駆け出した。そして――
――ずぶり。
そんな音と共に、食道から熱く粘りけのある液体が逆流するのを感じた。
「げぼっ……ごぼっごぼ……っ」
吐き出された赤い液体が、プリンス・エンディミオンと思わしき青年へと吐き出される。
「な、あ……?」
「リ、ヴァイ……?」
「――っ退いてください!」
貫通した剣が自然と抜かれ、身体が地面へと崩れ落ちた。それと同時に、目から光が戻ったプリンスを術士然とした女性が押し退け、俺に治癒術をかけ始める。
彼女は、一体何者なのだろう。不思議に思ったがそれは後回しだと、俺に向けてる杖を押し退けた。
「何を「いい……どうせ、けがなく、ても……すぐしぬ」――っ!」
俺の暴挙に声を上げようとした女性は、しかし俺の言葉に沈黙した。恐らく、俺の身体がどうなっているのか、治療を通して薄々と察していたのだろう。短時間で気付けた女性に、気力を振り絞って言葉を紡ぐ。
「それ、より……プリンセス、を」
「――――分かりました。地球国王宮筆頭呪術士である我が身に賭けて、セレニティを護ることを誓います」
地球国で唯一操られなかったのはプリンスだけだったはずなのに、何故プリンスが操られ、逆にこの女性は操られなかったのだろう。それが不思議でならなかったが、些細なことだと鈍い頭は打ち捨てた。
「いや! やだよ……リヴァイ! いっちゃやだぁ……!!」
それよりもプリンセスが正気に戻ったプリンスを差し置いて、俺の死に際に涙を流していることの方が問題だった。待って、ホント待って。俺のせいでエンセレもといまもうさフラグ消失とか本当に待って。俺ちびうさ含めた君ら親子関係が本当に好きだったの、だからそれだけは勘弁してほしい。そんな場違いなことを考えながら、最期の気力を振り絞ってプリンセスへと言葉を紡ぐ。
「なかな、いで……オレ、さいごにおま、を……まも、れて……うれし……んだ」
「私は嬉しくもなんともないわ! どうしてそんなことを言うの!?」
涙を流しながら怒るプリンセスに、俺は墓まで持っていくつもりだった真実を彼女に告げる。
「いもうと、まも……のは、あに……やくめ、だろ……?」
その言葉はちゃんと、彼女に届いただろうか。出来れば届いてほしいと願いながら、俺の意識はそこで途切れた。
* * *
『妹を護るのは兄の役目だろう?』
プリンセスを護り死んでいった幼子が最期に告げた言葉がもたらした衝撃は、どれ程のものでしょうか。『リヴァイ』という名のセレニティの友人に対して、弟子兼友人の友人であること以外特に思い入れのなかった私ですら一瞬思考が止まってしまったのだから、彼を元気にするために遥々地球国の筆頭呪術士たる私に御忍びで教えを請いに来たセレニティや、セレニティがあまりにも『リヴァイ』のために生きていたせいで嫉妬を募らせあの悪魔に付け入られる隙を作り操られてしまったエンディミオン様は、もっと酷いはずです。特にエンディミオン様はセレニティを殺しかけた挙句、それを防ぎ正気に戻してくれた彼女の兄たる『リヴァイ』を殺してしまったのだから尚のこと。
確かにセレニティは『リヴァイ』のために脇目も振らずに努力をしていました。けれども私は、セレニティが叶えてはいけない恋心を必死に圧し隠していたことに気づいています。エンディミオン様がセレニティに惹かれていたように、セレニティもまたエンディミオン様に惹かれていたのです。つまりエンディミオン様は検討違いな嫉妬の末に、セレニティの兄を殺してしまったということになります。そのことに関して、私から言うことはありません。一時とはいえ愛するエンディミオン様の心を占めていたセレニティに、並々ならぬ嫉妬を抱いていた身としては、あり得たかもしれない自分と同じ立場になってしまったエンディミオン様には、何も言うことが出来ません。
ですが今は戦争中です。私も含め、惚けている暇などありません。そうしてセレニティとエンディミオン様に声を掛けようとした時、エンディミオン様は何かしらの覚悟を決めた様子で剣を持ち、立ち上がりました。
「――何処へ向かわれるおつもりですか?」
その背中に私が問い掛けると、エンディミオン様は振り向く素振りひとつせずに仰いました。
「けじめを着けに行く……俺が言えた義理ではないが――セレニティを頼む」
「畏まりました、プリンス」
「――!? いや! ダメ!! 行かないでエンディミオン!!」
駄々を捏ねるセレニティを結界に閉じ込め、エンディミオン様が向かった先とは逆へと私は連れていきます。
「どうして……どうしてエンディミオンを止めないの!?」
「それが、あの方の僅かに残った矜持を汚すからです」
唯でさえ、エンディミオン様は地球国の王子でありながら、闇に呑まれました。両陛下すらも呑まれたのだから仕方がないという気持ちも無くはないですが、私という地球国唯一の例外がいる以上、免罪符にはなり得ません。
「――――この世には、二種類の戦いがあります。命を護る戦いと、誇りを護る戦いです。エンディミオン様が今から挑むのは、誇りを護る戦い――例えその果てに命を落とすことになろうとも、それを止めることは貴女でさえも赦されません」
地球国の呪術を教える時のように、また彼女が道理に合わない我儘を言った際に諭すように、私はセレニティに言い聞かせます。何時もならそれで沈黙するセレニティですが、今回ばかりは違っていました。
「――――んなの、そんなの! 唯の言い訳じゃない!!」
王家の証である額の月が、瞬く間に輝きました。
「誇り? そんなもののために命が喪われるくらいなら、私は誇りなんて投げ棄てるわ! 遺される人の気持ちも考えないくせに、勝手なことをしないで!!」
「――っセレニティ!?」
それに目が眩み閉じてしまった内に、セレニティは私の結界を容易く破り、エンディミオン様の後を追い始めました。それに対して苛立つどころか、私は思わず苦笑してしまいました。
自分の価値を、エンディミオン様が死地へと赴いた地球国王子としての理由を理解できていない。その時点でセレニティは、まだまだ為政者に相応しくない甘ったれた子供なのでしょう。けれども、誰よりも命を尊ぶ彼女だからこそ、甘さとも言える優しさを持ち続けている彼女だからこそ、私はセレニティの力になりたいと思うことが出来たのです。
* * *
存在を秘匿とされた月の王子によって正気に戻った地球の王子、月の王子と地球の王子によって覚醒した月の姫君、そして唯一闇に呑まれなかった地球の呪術士がいた。三人は全ての元凶たる悪魔に立ち向かったが、健闘虚しく敗北してしまう。そして、三人の手によって消耗した悪魔は、最後まで残っていた月の女王によって封印され、悪魔がもたらした災いにより命を失った者達は、女王の全てと引き換えに転生が約束された。
斯くして永年の栄華を極めた月の王国は滅び、その歴史は闇へと葬り去られる。しかし、未来の希望の種はすくすくと、芽吹き花咲かんと成長する。
これは、真なるハッピーエンドへ続くお話。
●リヴァイアッシュ(オリ主君)
プリンセス・セレニティの双子の兄。月の王国滅亡まで生き延びていたが、死を覆すことは当然できなかった。自分のせいでエンセレもといまもうさフラグ消失に危機感を覚え、最期の最期でひた隠しにしてきた真実のひとつを教えて死亡した。元々死ぬことに恐怖は無かったが、長いヒキニート生活とプリンセスを護って死ねたので今世の生に割と満足している。
●プリンセス・セレニティ
『美少女戦士セーラームーン』の主人公、月野うさぎの前世。天真爛漫な勉強嫌いだったが、リヴァイを助けるために勉強を進んで行うようになった。延命の
原作と比べると、この時点で既にかなり精神的に成長している。
●プリンス・エンディミオン
『美少女戦士セーラームーン』のヒーロー兼ヒロイン、地場衛の前世。地球国の王子としてその役目を全うしていたが、セレニティと邂逅したことで彼女に想いを募らせていく。どれだけ距離を縮めたいと思っていても中々出来ないでいたが、それでも知人以上友人未満の関係にはなれた。とある会話の中で出てきたオリ主君に対して、その境遇に心を痛めていたがそれ以上にセレニティの心を占めていることに羨んでしまい、そこを突かれて操られる羽目になってしまう。
好きな人と恋仲になれないわ、操られてしまうわ、嫉妬し殺してしまった相手は実は好きな人の兄だったわでオリ主君の存在により一番割を喰ってしまった人。その事実をオリ主君が知ったら、間違いなく頭を抱えた後頭をめり込ませる勢いで土下座する。
●???
オリ主君のことがあってセレニティが教えを乞いに行った地球国の筆頭呪術士。若い故に弟子は取っていなかったが、セレニティの熱意に押され渋々教師の真似事をする羽目になる。呪術士の弟子としては優秀ではなかったがセレニティの天真爛漫さに次第に絆され、気がつけば友人関係となっていた。そしてその結果、地球国の人間で唯一操られることを回避できた。
駆け足気味ですが、前世編はこれにて閉幕。え? 原作編? …………続けれたら、良いですね(目逸らし)。