特殊設定、捏造設定有。
その時、魔王軍最硬と謳われる悪魔大元帥は思い出した。そして漸く、彼が主と仰ぐ人物が自身に告げた言葉の意味を理解する。理解して、深く溜息を吐いた。
そのことで彼が受け持っている生徒達に心配をかけてしまいフォローする必要が出てきてしまったものの、これからの苦労を考えると何の苦もなくそれをこなし、近い内に訪れるだろう仲間達にどう説明したものかと内心頭を抱えた。
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その時、勇者として祭り上げられていた普通の少女は思い出した。そのことに混乱しながらも、思い出す以前の自身の軌跡と、思い出した『以前』の自身の軌跡を比較し、何一つとして違いがないことに何とも言えない気分を覚え、頭を押さえて溜息を吐く。
余裕が無かったとはいえ今となっては黒歴史と言っても差し障りがない程悪魔を倒すこと以外に目を向けていなかった自分の所業には呆れて物も言えないが、これから量産することになる黒歴史だけは全力で回避しようと心に決める。最終的に世界を救った仲間達との思出話の一環としてそれを肴に酒を飲まれて恥ずかしい思いをするのはもう御免だった。
尤もその決意は、仲間達も今の自分と同じ体験をしていた場合無駄にしかならないのだが、今の彼女にそれを思い付くだけの余裕は無い。
来ないのだ。自分が濡れることを厭わず、人に傘を貸して仕事場へと自転車を漕いだお人好しが、一切通り掛からない。
そのことに少女は、一抹の不安を隠しきれずにいた。
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その時、暇だからという理由で堕天した悪魔大元帥は思い出した。そして現状をいち早く理解し、思い切り顔を顰める。『今』は味方である大神官に心配されたものの問題ないと返し、そしてその会話から相手は思い出していないことを把握する。
そこでさてどうするかと彼は考えた。『今』は味方である大神官はB級悪役ながら、長い間こちらを散々引っ掻き回した存在である。『以前』は途中退場するとはいえ、面倒であったことには違いない。
ここで始末するべきかとも考えたが、それは自分のアドバンテージを無くすことに他ならない。自分以外に思い出した者がいるか否か分からない今、手を下すのは下策だと思い直した。
そして彼は、ある程度は『以前』と変わらない流れで動こうと心に決めた。
ただ、『以前』を鑑みて強盗事件を起こすと面倒だなと溜息を吐いた。
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その時、自分から異世界事情に関わり続けた少女は思い出した。それに気を取られ普段はしないミスを続出し、店長やクルーの面々に心配を掛けさせてしまったが、それでも抜けきることが出来ない程の困惑を彼女は味わった。
違うのだ。他は全て『以前』と同じなのに、たった一人だけ違うのだ。些細なことでありながら、しかし『以前』のことを考えれば深刻すぎる違いに、彼女はえも言えぬ不安に襲われる。
だが、どうにかバイト中に持ち前の精神力で立て直し、ある人物に連絡を取るため携帯電話を手に取った。
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その時、堕天の邪眼光の大天使は思い出した。そして今にも自身の女神の元へ駆け付けたい気持ちになったが、神様の真似事をする上司の存在を思い出し、女神に迷惑が被らないよう我慢した。
どの道時が来れば、勇者の聖剣を取り戻す命と共にあちら側へと向かう機会が訪れる。それまでは決して動かないでおこうと心に決める。
尤も、その命を実行する気は一切無いのだが。
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その時、長く関わっていながら随分後に巻き込まれた女性は思い出した。思い出して、思わず眉間のツボを押した。だがそう時間を置かずに気を持ち直す。実際に自分の目で見ないことにはどんなことでも信じる気は無い彼女であったが、突如として裡に出現したものはすんなりと受け入れられた。
それが何故なのかは彼女には分からない。理解は出来ないが取り敢えず、同僚にして親友である異世界の少女の様子を見て、自身の行動を決めようと思った。
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その時、生命の樹の守護天使は思い出した。思い出して、自身が仕出かしたことを思い出し、乾いた笑みを浮かべた。途中からとはいえ自身の本心のままに行動し始めた彼は、再びあのネズミ状態を行わなければならないのかと深く溜息を吐く。
いや、その行動を億劫だとは思わない。だが、今後起こりうるトラウマを思い出し、普段の彼に似合わず思わず胃の府を押さえるのだった。
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その時、訂教審議会筆頭審問官である女性は思い出した。今しがた上役達の会話を聞いて苦しい思いをしていたのにも拘わらず、彼女の気分は上昇する。
上昇したところで現状彼女が措かれている立場は変わらないし、自分から動かなければ意味がないことも分かりきっていたが、それでも今後出逢うことが出来る仲間達の存在は、彼女の心に大きな余裕をもたらした。
気を取り直し、彼女はもうひとつの実家と言って差し障りの無い居場所へ向けて動き始める。ただただ、大切な人達との『再会』を心待ちにしながら。
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その時、岳仙兵団の第十五次戦団長だった男は思い出した。つい先程まで行っていたことを一旦止め、顎に手を当て思考する。
元々彼はこの世界のどの人間よりも、悪魔のことを理解している立ち位置にいた。部下や仲間を殺され、自身に屈辱と弱かった己に対する悔しさを突き付けた牛頭の槍戦士である悪魔大元帥を、己の理想だと思えている程の人物である。
そして男は笑う。自身の目に狂いが無かったことをに喜びを携えて。悪魔よりも厄介な人間と天使の同行を探るため、感情の昂りを抑えきれない笑みを浮かべ、男は動き始めた。
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その時、宮廷法術士の女性は思い出した。その瞬間現状を打破してみせた彼女は、即座に根回しを開始する。犬猿の仲よりも壊滅的な相手である蛆虫と比べることも烏滸がましい加齢臭男の影響力を限界ギリギリまで削ぐためだ。
だが、決してある時まではそれを気取られてはならない。あの腐った肉が失脚するのは、『以前』と同じでなければ意味がない。彼女を嵌めて訂教審議にかけた時、それが逆に自身の首を完全に絞めてしまうよう、気を付けて、念入りに事を進めなければならない。と言うか、そこまでして漸く、あの人生唯一の失敗に関する溜飲が下がるというものだ。
いつも通りのぼんやりとした表情で普段の仕事以外にも多くの事をやりこなした彼女は、一週間程で我に帰り、自身に対して呆れを多分に含んだ溜息を吐いた。いくら失脚させるためとは言え、あの粗大ゴミに時間を割いていたことが馬鹿らしくなり、直ぐ様通常業務に切り替えた。
とは言え、件の将軍()の影響力は、最早張りぼて以下に成り下がっていたのだが。
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その時、農夫の男は思い出した。だがそれを落ち着いて吟味する前に、娘として匿っている片翼の暴走を必死に止めざるを得なかった。この様子からして、恐らく片翼も思い出しているのであろう。自身以外のヤドリギである悪魔の名を仕切りに呼び、そちらへと向かおうとしている彼女をどうにか落ち着かせ、彼は深く考える。
妻からある程度の事情を聞かされており、こうして『以前』を思い出した彼は、この起きてしまった事象を疑う。
紆余曲折があったとは言え、『以前』は無事に終えることが出来た。故郷である世界が在るべき形へと変革を遂げることが出来たのだ。だというのに、こうして自分と片翼は、始まる前へと『戻ってきた』。これの意味することが善なのか悪なのか、彼には判断できない。だが、自身が到底及ばない何者かの意志が加わったことだけは理解できる。
そんな彼に出来ることは、片翼の暴走を抑えつつ起こりうる事態を静観し、情報収集に励むことだけであった。
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その時、天界に反逆した大天使は思い出した。そして『以前』の結末を満足に思う前に自身を取り巻く現状に苛立ちを覚えた。
『以前』を思い出させてくれた存在には確証を持てないが、『巻き戻した』存在には十二分以上に心当りがある。そこまでして自分を守りたいのかと、他種族を犠牲にしてまで自身を守ろうとする保身主義者に、今すぐにでも殴りたい衝動に駆られた。だが彼女はそれを行うことが出来ない。一時の感情に任せてそんなことを行えば、そこで全てが破産することを彼女は理解しているからだ。
幸い思い出しているのはこちら側の存在だけであることを何となしに確信した彼女は、『以前』と同じように暗躍することを決めた。そして『以前』以上に天界を引っ掻き回してやることに決めた。世界を在るべき姿に変え、後始末も無事に終え、長い間望んでも出来なかった親子三人の家族団欒を目前にしてこの所業だ。彼女の怒りは当然だと言えよう。
そう決意して、彼女は目の前の樹に対し願った。息子、或いは弟のように想っている悪魔と、大事な大事な一人娘が『以前』よりも健やかでいられますようにと、慈愛を込めて祈った。
* * *
そして、そして――
* * *
そして、少年は夢を見る。
それは、こことは違う世界の夢だった。
それは、悪魔や天使といった種族が存在する世界だった。
少年は悪魔だった。天使に育てられた悪魔だった。
少年は悪魔だった。魔界に秩序と平穏をもたらした、魔界史上類を見ない統一を行った魔王だった。
少年は魔王だった。焦りから道を誤り、徒に自身の民と人間の命を奪ってしまった愚かな王だった。
そして少年は目を醒ます。先程まで見ていた夢を、何一つとして思い出せないまま。
喪ったものを取り戻しかけた少年は、しかしそのことにすら気付かず日常を過ごしていく。自身が何者かの手によって消されたことを思い出せぬまま。別の何者かの手によってそれを防がれ、護られていること知らぬまま。
* * *
これは再会の物語。
これは再誕の物語。
これは再応の物語。
これは再建の物語。
そしてこれは――――真奥貞夫が存在しない世界の物語。
勇者エミリアによって深手を負い、ゲートを開いてアルシエル共々命からがら逃げ出している最中に何者かによる襲撃に遭い、魔王サタンが死んでしまった世界に他の主要メンバー全員が逆行する話。
魔王は厳密的に言えば死んでいないが、記憶を完全に失っているために動くことが出来ない。その魔王が抜けた穴を他のメンバーが全力で埋めようと頑張る話になる予定。