友人曰く、ポケモンの外伝新作がVRで発売されるのだとか。五感が再現された仮想空間でポケモンたちと思う存分に触れ合えるというそれは、かなり長い間ポケモンから離れていた俺にとっても大変に魅力的であり、俺がその購入に戸惑うことは一切なかった。
俺がプレイしていたのはいわゆる第二世代、金銀版だ。お世辞にも対戦が強いとは言えなかった当時の俺であるが、やはりお気に入りのポケモンというのがいた。ギャロップだ。炎のタテガミが美しくてカッコよくて何というか俺の心にぶっ刺さったのだ。急所に当たったってやつだ。今回のVRでのお目当てはもちろんこのギャロップで、その燃え盛る背に乗って草原や海辺や火山や砂漠を、世界の隅々まで縦横無尽に駆け巡っていくその姿を俺は夢想していた。
さっそくゲームにログインした俺は用意されていた自宅近くの森へと入った。友人曰く、このゲームにモンスターボールはないらしく、全ては友情ゲットとなるのだとか。そしてそのためには木の実で作ったお菓子でごきげんをとるのがいいのだとか。ちなみにポケモンは設定された性格によって味の好みが変わるらしく、欲しい性格に合わせた味のお菓子を用意するのが肝心なのだとか。俺は辛いクラボの実を背負った籠いっぱいにして帰った。友人がお菓子にするのを手伝ってくれるというのだ。俺はもらえるものはもらっておく主義だ。
俺は草原にきていた。バッグの中にはここ数日友人や友人の友人たちに手伝ってもらって作った大量のお菓子、ポフィンが詰まっている。目標は意地っ張りなポニータ。俺はおとなしいよりも跳ね馬じゃじゃ馬が好きだ。あっさり手に入るのではつまらない。そんなのはむしろこちらから願い下げだ。俺は何としても意地っ張りで強情で跳ねっ帰りのポニータを手に入れるつもりだった。最高なのはポフィンを差し出しても喜ぶどころかはたき落してくるような奴だ。とはいえ、そうでないポニータにじゃれつかれるのにも悪い気はしないのでよって来たポニータにはポフィンを惜しむことなく与えてやった。
ポニータの群れを渡り歩くこと一週間。ようやく俺の目にかなうポニータを見つけた。あいつは俺の持つポフィンになど目もくれず、ひたすらに草原を走り回っていた。どんなポニータでもポフィンをちらつかせればそちらに興味をひかれるのだが、あいつの興味は走ることただ一点に搾られていた。運命の出会いだと思った。俺が乗るのはもはやあいつ以外にはありえなかった。しかし問題があった。ポケモンをなつかせるにはポフィンやポロックといったお菓子を与えるのが常道だ。けれどあいつはそれに興味を示さない。これではゲットできないのだ。俺は帰って友人に相談することにした。
友人曰く、あきらめたら?
それはできない相談というものだ。俺はあいつに関してはあきらめるとか妥協するとかそういうのは一切する気が無い。このゲームを始めてからというもの俺の中ではギャロップに乗りたいという願望が膨らみ続けている。でもだからと言ってそれはどんなギャロップでもいいというのではない。俺の中には理想のギャロップというのがおり、そいつ以外と結ばれるつもりは毛頭ない。そう、つまり俺はあいつに恋をしているというわけなのだった。一目ぼれってやつだ。
草原に出るとここ一週間ほどですっかり俺に餌付けされたポニータ達がよってくる。俺はその中から一番体の大きなのを選んで背にまたがる。俺が思うに、走るのが好きなら一緒に走ればなつくのではないか。いやむしろ走りで勝てばなつくのではないか。いやむしろそうあるべきではないか。俺の中の理想が告げる。勝負に負けたあいつが俺を主人と認めるその姿を。俺はあいつに意気揚々と勝負を仕掛けるのであった。
結果から言えば惨敗だった。草原に一本だけポツンとはえた木を目印に始めたレースは体感で約2キロの道のり。それだけの間に明らかに500メートル以上の差がついた。いくら俺という荷物がハンデになっていたとはいえ、この結果はあいつの足が通常よりも1段も2段も速かったと考えるべきだろう。ああマズイな、これでは余計にあいつが欲しくなってしまうではないか。俺の想いは高まるばかりだ。
ポニータ達と特訓を開始する。俺というハンデがある以上一対一で勝つのは無理だ。ならば数で押すしかない。前を走るものが後ろを走るものの風避けとなりつつ全力で走り、速度が落ちる前に離脱し後ろの者の一人が前に出る。これを続ければ最高速を保ったままゴールできる、筈だ。ポニータ達の連携が形になったところで再戦に挑む。
勝利にはまだ遠い。400メートルを離された。しかしこれを覆さない限りはあいつは仲間にならないだろう。
ますます諦められないな、これは。
技を使えばよいのではないか。たしかこうそくいどうというのがあったはずだ。さっそく友人に相談する。友人曰く、このゲームに戦闘はないが、代わりに芸を教えたり一緒に遊んだりすることでポケモンに経験値が入るのだと。俺はポニータの大軍ををひきつれて草原を駆けまわった。こうそくいどうを覚えたポニータ10匹を従えて臨む三度目の正直。
残り100メートル。まだ届かない。あきらめるつもりはない。しかし策が無い。
やることがなく久しぶりに町で過ごす。いつもゲーム内では草原にいるか、自宅か友人宅だったから来る機会もなくほとんどスルーしてしまっていた。しかし来てみると町もなかなか良いところだ。様々な種類のポケモンがいてにぎやかだ。まあ、ギャロップが一番なのは明らかだが。とりあえず目に着いた端から撫でさせてもらって回った。頼まれた人たちも自分のポケモンがほめられるのはうれしいのか快く撫でさせてもらった。
ふむ。
仏の顔も三度までという。ここからが俺のターンだ。どうやら今までの俺はポニータにこだわりすぎていたようだ。あいつに勝つためにはポニータの力だけでは足りない。他のポケモンの力で補う必要がある。トゲピーのねがいごとで疲労に備え、ピジョットが大気を切り裂き道を作り、そして俺を乗せたポニータがこうそくいどうで駆け抜ける。これが俺の最後のプラン。いざ勝負。
そんな感じで俺はこのギャロップを手に入れた。ポニータからの進化は割とすぐだった。その走りは豪快の一言で大いに満足している。ところであの一帯のポニータ達は全て俺のポケモンという判定になっているらしく、俺はポニータマニアの名を戴いた。光栄の至りである。とりあえず手に入ったポニータは全部ギャロップにしておいた。友人曰く、俺の名はゲーム中に轟いたんだとか。
まあ何はともあれ俺は今日も走りまわっている。ギャロップは俺の言うこともきかず気ままに進路を変える。きらきらゆらゆらと燃えるタテガミを眺めながら、その優美さと雄々しさに俺は大変に満足しているのだった。