様々な出来事が交差し、綾香の日常にさざ波を立てる
ここは戦場
安寧など求めてはいけない
逃げることは許されない
生きたければ、行くしかないのだ
綾香は目を開けた。体を起こして、夜のことを考える。
(あれは、なんだったの?)
夜の出来事。仮面の男との対話。部屋は昨日の寝た時と変わらない。
(屋敷には結界が張られているから侵入できないはず・・・)
綾香はベッドの横のカーテンを開き結界を確認する。
(異常なし・・・。ってことは夢?それにしては・・・)
「綾香さん起きてますかーー」
一階から桜の声がする。早く行かなきゃ、と不安を振り払うように綾香はベッドから出た。
昨日のことを考えながら、朝食のパンをかじっていると桜が話しかけた。
「凛さん、今日の成田19時くらいに尽くそうよ。士郎さんが迎えに行ってくれるんで心配ないですよ」
桜は綾香の心配ごとを勘違いしているようだったが、綾香はそれを口にはしなかった。桜に昨日のことを相談するにはあまりにも馬鹿らしいことに思えた。
「ありがとう、桜さん。あーでも今日でこの刺青みたいなのも取れちゃうのかー!ワイルドでちょっと好きだったのに」
「綾香さんったら」
お互いに笑っていたが、我ながらこんな下手な嘘をよくつくものだと綾香は情けなくなった。
綾香はテレビを見ていた。何か変わったことがあるかもしれない。そんな不安から何か事件が起こってないかニュースを見ていた。といっても一日中世間は平和な様子で、昨日のことはやはり夢だったかもしれない、と思い始めた綾香だった。時間はもう夕方の18時50分になっていた。今頃士郎さんは空港で凛さんを待っているのかな、と凛は考えていた。
「綾香さん。コーヒー飲みますか?」
よろしくー、と綾香はソファーに首をもたせかけながら答えた。首を戻してテレビをまた見始めた。テレビでは「冬木科学科-人工ロボット展」の紹介とともに天気予報が流れていた。妙にリアルで、アンドロイド?というのだろうか、人の顔に近づけすぎて、逆に人から遠ざかっているように見えた。
バタン
嫌な音が首筋をなでた。と、同時にカップが割れたであろう音が耳をつんざいた。綾香が後ろを振り向くと、桜が倒れていた。
「桜さん!!!!」
綾香は駆け寄り、桜の肩を掴んだ。
バヂッ
綾香の手が何かによってはじかれた。よく見ると桜の体を黒い電流がまとっている。
「これは・・・どうゆうこと」
もう一度桜の体に触れる。同じようにはじかれた。先程は動転して気づかなかったが、指には激痛が走っている。
「どうしよう・・・。そうだ!士郎さんに連絡・・・」
いきなりの出来事に今にもへたりこんでしまいそうな体を起こし、綾香はテーブルの上のケータイを取ろうとした。しかし、さらに綾香を追い打ちするように、死神の声は囁かれた。
―只今入ったニュースです。成田に19時着の飛行機が着陸直前に爆発したとのことです。この飛行機はロンドンからの便で多くの日本人、イギリス人が乗っており、安否の確認は取れていません。詳しくは分かっておりませんが・・・あっ!たった今新たな情報が・・・―
「ちょっと・・・なによ、これ・・・この飛行機って凛さんが・・・」
ピルルルルル
ビクッとした綾香だったが、ケータイには「士郎さん」と表示されている。綾香はすぐに電話にでた。
「綾香か!?」
「士郎さん!どういうこと!!今ニュースで・・・」
「そのことだ!おそらく魔術による攻撃だ。俺はいま飛行機の墜落の現場に向かっている。そっちは問題ないか」
「桜さんが・・・いきなり倒れちゃって、触ろうとしたら黒い電流みたいなのが」
「クソッ!一体何が起きてるんだ!いいか綾香、俺はすぐそっちに戻るから綾香は―ピピ―ガガッ―
「士郎さん!?ねえ士郎さん!?電話が・・・。とにかく桜さんを・・・」
瞬間、雷のような音が轟き、遠坂邸を震わせた。綾香はよろめきながらも、この音が何を意味するか感じ取っていた。
「まさか!!結界が!!」
綾香が叫んだ瞬間、天井を何かが突き破り、居間に破壊をもたらした。綾香は土埃に咳き込みながら、破壊の中心を見る。
「あれは・・・矢!?」
さっきまでソファーがあったところには、ガレキの山と、そしてそこに一本の銀色の矢がそびえ立っている。そうしているうちに第2射がきた。綾香は土埃を払いながら、桜のもとへ近寄った。
(まずは桜さんの安全を確保しなきゃ・・・。でも一体どこへ行けば・・・。そうだ、地下室なら)
桜の体には未だ黒い電流が巻きついていて、苦しそうな表情を浮かべている。綾香は桜の腕を自分の肩に回した。
「いっ!!!」
痛みが綾香を蝕む。綾香は歯を食いしばりながら、続く第3射がこないうちにと、急いで地下室へと向かう。綾香の背中に第3射の衝撃が走る。
(っ!!早くしなきゃ)
地下室の階段を転げるように、駆け下り、桜をソファーに座らせた。
(とにかく武器を・・・)
引き出しを開け、凛から渡された宝石を握る。
激しい音とともに、地下室の入口が爆発した。綾香はとっさに桜の体をかばった。運良くあまり木片も飛んでこなかった。しかし、それよりも悪いものが綾香の前に現れた。
「ふっ、地下室に逃げ込むとは、下賎な鼠め」
金属音が擦れる音が響く。綾香が振り向くと、そこには黄金の鎧をきた青年が立っていた。幼い顔立ちに、あざ笑うかのように笑みを浮かべていた。そこには一種のカリスマ性を感じさせるものがあった。
「あなた、何者よ!」
震える足を隠しながら、綾香は必死に言葉を出した。
「鼠が余に問いをかけるか。まあ良いだろう。貴様とていくら愚かであるとはいえこの状況が理解できないことはあるまい?」
綾香はゴクリとつばを飲みこんだ。これは聖杯戦争。おそらくあの立ち振る舞いや伝わってくるオーラからするに、英雄、つまりサーヴァントなのだ、と綾香は気づいていた。
「貴様のような小娘とて、聖杯に選ばれしマスターのひとりであろう。であるなら貴様のサーヴァントを出せ。余が肩慣らしに相手をしてやろう」
蔑みの笑みを浮かべる青年に、綾香は無言で応えるしかなかった。
「おい、なぜ黙っている」
綾香に問いかけた青年だったのが、何かに気付き表情を変えた。
「まさか、貴様。未だにサーヴァントを召喚していないだと・・・?」
笑みが消え、怒りを顕にする。
「この鼠が、心までもが小さいのか。誇りなき者には余が罰を与えてやろう」
青年は右手を目の前に掲げた。すると光の粒子が集まり、形作られ、1つの剣へと変わった。
綾香は危険を感じ、手に持っている宝石を投げつけた。それぞれから凛が込めた強力な魔術が発動したのだが、それらは黄金の青年のたったひと振りで消え去った。
「そ、そんな」
「そのような弱小魔術で余に傷がつけれるとでも?まあいい、苦しまぬよう一瞬で殺してやろう」
綾香は後ずさりしながら、この絶望的状況を打破する策を考える。ダメだ。私ここで死ぬんだ。黄金の青年は歩を進めている。綾香の足が桜が寝ているソファーに当たる。青年が歩みを止める。
「なんだ、そこの女は。余を前にして、寝ているというのか。この不届きものめ。そやつから殺してやろう」
「この人には手を出さないで!」
綾香の目の前を金色の何かが横切った。瞬間、綾香の体は吹き飛ばされ、壁の本棚に激突した。地面に落ちた綾香に本が数冊覆いかぶさる。
「うるさいぞ、鼠が。貴様とてすぐ死ぬことを忘れるな」
綾香は横の腹の鈍い痛みを引きずりながら、体を起こそうとした。
このままじゃ、桜さんが・・・でも私には・・また私は・・・
綾香は下を向き、涙を流した。手の甲に雫が落ちる。
涙でおぼろげになっている視界に赤い光が映る。
(なに・・・これ・・・)
気のせいではない。綾香の左手の甲が赤く光っている。正確に言えば、『令呪』が。それだけではない。左手に共鳴するように、床が赤く光っている。それはまるで力を取り戻したかのように、朝露を受けた地面のように、光があふれている。それは魔法陣だった。綾香は左手を見る。気づかなかったが、桜を運ぶときにカップの破片が当たったのか、手の甲から血が流れている。
剣を今にも振り下ろしそうに掲げていた黄金の青年はその手を止め、剣を消す。
「ほう、貴様。それを余の目の前で行うか。面白い。見せてもらおう」
綾香は召喚のために必要な言葉を知っていた。自分でも不思議だが、赤く輝く魔法陣を前に、綾香は完璧に詠唱の文言を頭に思い浮かべることができた。
「―告げる」
魔法陣がさらに力を得たように赤く輝く。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。」
自分にできることがあるなら。願いを実現できるなら。もう誰も失いたくない。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ―」
魔力が体を駆け巡る。痛みが全身を震わせる。少女は思う。ああ、この痛みは、私の裏切りの罰なのだと。頭に浮かぶのは、自分を助け、聖杯戦争へ向かう私を全力止めようとしてくれた二人の顔。遠坂凛と衛宮士郎。そして自分が裏切ったあの・・・。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者―」
赤い光は紫を帯び、蒼へと変わった。蒼い光はさらに輝きを増し、目もくらむような白い光で地下室を照らす。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―!」
白い煌びやかな光が泉のごとく溢れ、命を得た風が吹き踊る。少女はその光と風の中にひとしずくの涙をこぼす。
「良い!実に良いぞ!小娘!!貴様がここまでやれるとは!!」
黄金の青年が叫ぶ。瞬きを決してしまいとその輝きを見詰めている。
光の中から一人の者が歩み出した。サーヴァント。綾香はついにマスターとなった。もう後戻りはできない。彼を召喚してしまった。偶然か、必然か。そんなことは関係ない。
ただ彼を、サーヴァントを、彼の騎士を、彼女はこの世界に現界してしまった。
光から生まれた騎士は、その鎧もまるで白鳥のように白い光を発していた。
純白の騎士は、少女の目を見つめ、口を開く。
「問おう。君が私のマスターか」
こんなにも次の話が投稿できました
まあ今夏休みですからね
ってなわけで、やっと2話(正確には5話)目で主人公がサーヴァントを召喚できました
次からもどんどん話が動いて行くと思います
下手な文章で毎度悲しみを覚えますがよろしくお願いいたします