Fate/twilight   作:インセク太

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3話B

明らかな死の予感がした。

これで終わりなのだと、この死は決定事項なのだと。

悔しい。悲しい。そんな思いは感じなかった。

綾香はアーチャーの強大な力を前に、『死』という存在を不思議なほど静かに受け入れてしまっていた。まるで、抗うだけ無駄だとでもいうように。

その場にへたりこんでしまった綾香。なすすべない状況で、綾香はアーチャーからほとばしる紫と赤の入り混じった炎を眺めていた。

「まだだ!!!」

強い声に綾香は少し心を取り戻す。声の主はランサーだった。

「諦めるなマスター。諦めは罪だ。例え絶望的な状況だとしても、そこに希望への想いがなければ次の生への可能性は生まれない。だから諦めるなマスターよ。君はそこで朽ちて良いのか」

綾香は歯を食いしばる。

「死にたくないよ!私は・・・ここで死んだら・・・。絶対に死ねない!あの子のためにも!!」

綾香は思い出した。何のために戦っているのかを。綾香は立ち上がる。炎の先を睨みつける。

「よく言ったマスター」

ランサーは主人の言葉を聞き、少し微笑む。

「クハハハハハハ!!!何をしようというのだ鼠よ!!貴様らがどう動こうと、余がこの宝具を発動した時点で勝負は決まっておるわ!!」

アーチャーが高笑いする。

「ねえ、ランサー。何か手はないの」

「残念だが、これといった手はない」

「なっ!!あんなこと言っておいて!」

「憤るなマスター」

ランサーは少しため息をつき、手で目を覆った。私に失望したのか・・・と思った綾香だったが、すぐ自分の思い違いに気づいた。ランサーが目から手をどけたとき、その目が変わっていたからだ。目つきが、というわけではない。根本的に、本質が変わっている。その目は青く光り、目尻からはまるでひび割れたように顔に線が入っている。

「ランサー・・・その目・・・」

ランサーは槍を構えなおす。目がさらに蒼さを増した。

(何かが、起こる・・・)

綾香はそう思った。瞬きせずにランサーを見つめる。

しかし綾香の考えは裏切られた。ランサーは構えていた槍をおろしたのだ。

「え、ちょっと、ランサー!?」

その様子を見、今まさに力をため終えた黄金の青年が叫ぶ。

「どうにもできないことを悟ったか!待たせたな!!余の矢を受けて、最後は紅く散るがいい!!」

「ランサー!なんで諦めるの!?このままじゃ!!」

ランサーの腕を揺する絢香だが、ランサーはもうすでに闘志を失っているようだった。

絶句してしまう絢香だったが、ランサーは口を開けた。

「大丈夫だ。マスター。戦いは終わった。」

「え」

瞬間、周りを包み込んでいた光が消えた。絢香は光の主を振り返る。そこには驚愕の表情を浮かべたまま、弓だけを構えているアーチャーがいた。矢は消えている。

口をポカンと開けたまま、絢香は事態が上手く掴めずにいた。

「な、んで?」

アーチャーの顔は怒りの表情へ変貌した。

「どういうことだっ!」

アーチャーの言葉は音の津波のように、絢香を貫いた。アーチャーはさらに言葉を続ける。

「なぜ、あそこで止めるのだ。この好機を逃すとは。そして、余に命令をするとはどういうことかわかっておるのか?」

自分に向けた言葉ではないと、絢香は察した。アーチャーは、この場にはいない誰かに向けて言葉を放っている。

絢香は考える。

(命令…?)

「まさか!」

「気づいたようだなマスター。そう。これは令呪による攻撃の打ち止めだ。奴のマスターはどういうことか令呪まで使って我々への攻撃をやめたらしい」

考えを整理する絢香。でもなんで?

アーチャーはこの場にはいない誰かと激しく口論している。が、それも終わったようだった。眉間に皺はよっているが、落ち着いた表情に戻る。

「ふん、まぁ良い。貴様らは今回見逃してやる。」

アーチャーは今度は絢香たちに話しかけていた。

「収穫がなかったわけではない。わかったことが一つある」

絢香たちの方に歩を進めていくアーチャー。

指で絢香達を指す。

「貴様らが、この聖杯戦争において最弱だということだ。1番初めにこの戦いから離脱するだろう。だが、安心しろ。今は殺さないでおいてやる。その鼠のごときか弱き生を今は楽しむがよい。そしてのたれ死ね。」

絢香は自分のスカートの裾を掴み、震える足を止めようとした。恐ろしい。目の前の金色の青年が恐ろしい。この言葉は真実かもしれない。だが、絢香は、ともすれば歯鳴りが止まりそうにない口を開いた。

「そんなの、やってみなきゃわからないじゃない。鼠だって追い込まれたら猫だって倒すわ」

「ふん」

アーチャーは小馬鹿にしたように笑い、絢香に顔を近づける。

「だがな、小娘よ。余は百獣の王だぞ。」

絢香はその顔を睨み続ける。

ここで負けたら駄目だ。

アーチャーが少し驚く顔をする。

絢香の眼力に怯んだわけでは決してない。アーチャーは絢香のアゴを手に乗せ、そっと上に挙げた。

「貴様…美しいな…」

予想外の言葉に絢香は拍子抜けしてしまった。

「な、な、…」

バッ、とアーチャーの手を振り払う絢香。

「バカにしないでよっ!」

「冗談ではないぞ、そなた美しいな。気に入ったぞ。眼鏡などかけぬ方がよいではないか。」

絢香は目に手をやる。眼鏡がなくなっている。最初にアーチャーに吹っ飛ばされて本棚に叩きつけられたとき、眼鏡もどこかへいってしまったのだと気づいた。

「ふっ、その弱き力、強気な態度、美しい顔立ち。良い女だ。いつかまた目見えるときがあれば余の側室にしてやろう」

「けっこうなお世話よ!」

アーチャーは目を閉じて少し笑った。が次に目を開けると鋭い視線をランサーに送った。

「そこの白いヤツ。貴様は余のマスターが宝具の使用を止めると気づいていたのか」

絢香はランサーを見る。

そういえば何故、ランサーはあの絶望的な状況で「大丈夫」と言ったのだろう?

「ふっ、どうだかな」

「まぁ良い。例えどのような能力があろうと余と渡り合う力があるとは思えん。だが白いヤツよ。貴様は次会うときは必ず殺す。では鼠共よ。さらばだ。」

その言葉とともに、アーチャーの身体は光の粒子となり、姿を消した。

あとには月明かりだけが残り、静寂が絢香とランサーを包み込んでいた。半壊した遠坂家の屋敷がさらにその静寂の調和をしていた。

その静寂に緊張が緩み、絢香はその場にへたり込んだ。

生きてる。そのことを絢香は実感していた。あの絶望的な状況で。訳も分からない奈落の底のような状況で。今髪をなびく風を感じることができる。体はあちこちがズキズキと痛みを発している。だが、その痛みさえ、絢香にとっては生の実感として心地よかった。

絢香は立ち上がった。

アーチャーに吹っ飛ばされたせいで本が一冊も入ってない本棚のところへ歩き、屈み込んだ。眼鏡は本の重なりによって生まれた隙間にあった。絢香は手にとってレンズを確認する。幸い傷もついてなかった。

「眼鏡をかけるのだな。私も眼鏡がない方がいいと思うぞ」

ランサーの言葉に絢香はキッと睨む。

「ふざけないで、ランサー」

「そのような目つきができるなら、心配はなさそうだな。てっきり、心が折れてしまったとおもった。大抵の人間はあのような状況に立たされたとき、心がバラけてしまうからな」

絢香は目を伏せた。

「別に平気ではないわ。今でも力を抜けば倒れてしまいそうよ。でもそれじゃダメなのは分かってる」

ランサーは絢香を見定めるような目つきで見た。体全体は震えていて、それを隠すように、右手で左腕を抑えている。

「あのときに比べればこんな状況…」

「?」

絢香の言葉がよく聞こえなかったランサーは、表情を読み取ろうとした。しかし、読み取る前に、絢香が顔を上げた。

「それより、あなたには聞かなきゃいけないことがたくさんあるわ。まず第一に、あの青い目は何だったの?」

「そうだな。あの目はおそらく私の宝具だろう」

「ホウグ?そういえばさっきからホウグって言葉が出てきたけどそれって?」

ランサーは驚いた顔をし、片手を頭に当てた。

「まさか、マスターは宝具がどういうものか知らないというのか・・・」

その振る舞いに絢香は苛立ちを覚えた。

「なによ。知らないものは仕方ないじゃない。さっさと説明しなさい」

「ふむ。宝具は簡単にいえば、我々英霊の切り札だ。多くは生前の武器などが宝具となる。宝具は英霊の象徴なのだ。最強の武器だが、同時に英霊の正体をばらしてしまう刺にもなる。」

「なるほどね。伝説上の人物の逸話をたどればどういう武器かも検討がつくし、弱点がわかるってことね」

「飲み込みが早い。先ほどの戦闘でアーチャーの宝具発動をやめさせたマスターはそのことを危惧したのかもしれん。奴の武器は赤と紫の炎を纏う弓のように感じたが・・・。どの人物か検討はつくか?」

「・・・私の知る限りではわからないわ。ただ力を溜めるまでには時間がかかるということはたしかね」

「あれほどの力だ。名のある英霊だろう」

「・・・ちなみにあなたはなんて英霊なの?宝具だけじゃわからなかったわ」

「私の名前か・・・。これは私の責任なのか、君の責任なのか。いずれにしろ、アーチャーの言葉は正しいのかもしれん」

「なによ。どういうことよ」

「私はな、マスター。私の記憶に一部損傷が起こっている。」

絢香は、悪い予感がした。アーチャーの「最弱」という言葉を思い出す。

「私は自分が何者か分からないのだ」

「――そんなッ」

悪い予感が的中してしまった。英雄の名前がわからない。英雄自身が自らが誰であるかを自覚していない。作戦を立てる上でこれほど難関なことがあるだろうか。それは自分の戦力がどれほどかが分からないということだ。

絢香は折れてしまいそうな心を立て直し、思考を変換する。

ここで、絶望することはない。しかし、アーチャーと戦えたのは良い経験だったであろう。宝具が使える、基本的な戦闘スキルがあることが分かったのだから。だが、戦闘については対アーチャー戦においてであって、他の英霊の戦いぶりを見なくては判断することができない。ともあれ、今はこれで精一杯やるしかない。

絢香は一つの疑問が出た。

「記憶がない・・・でも宝具の能力はわかるんでしょ?だったらその能力から探っていけば・・・」

「実のところ、何も知らないと言った方が正直だろうな」

「何も知らないって…でも使ってたじゃない」

「いやあの瞬間まで、私にも目に宝具があることを知らなかったのだ。いや、忘れていた、と言った方が正しいのか。私自身、負けるつもりはないとは言え、アーチャーの宝具に死の覚悟もしていた。宝具について、思い出すことができたのは、おそらく君の言葉のおかげだろう」

「私の、言葉?」

「そう、君ははっきりと死を拒絶した。そのとき、私の中にある光の筋が差したようだった。そこ光の筋を辿って行った結果、私の目は蒼く輝いていた」

絢香は考えた。

(ランサーはあの危機的状況に陥り、生き残るために、脳が隠された記憶を呼び起こした…と考えるのが妥当だけど)

絢香はランサーを見る。

(ランサーが言うように、私の覚悟が、ランサーの力を引き出すきっかけに繋がる可能生もなくはない。そんなことが?マスターの感情で、サーヴァントが影響されるのだろうか?)

「考えても仕方ないわね。ランサー。あの目の能力は、何だったの?未来を見るという力かしら?」

「断言はできないが、そういう能力だろう。私はあの目を発動させたとき、頭の中に、アーチャーがマスターによる命令で攻撃を止めるのを見た」

「未来が見える範囲は何秒先くらいなのかしら」

「何秒先、というのではないかもしれない。見えたのはアーチャーが攻撃を止めるというところだけ。おそらく、自身が直面している出来事の結果を現すのだろう。あのときの私は、アーチャーの矢がどのような攻撃をしてくるかということに集中していた」

「なるほどね。未来が見える…」

そこで絢香は未来視の重要なことに気づく。昔、未来視について凛から聞いた話を思い出した。

「そこで、未来が見えても、あなた自身は行動を変えることができるの?」

未来が見えたとしても、それは見えるだけかもしれない。アーチャーとの戦いでは、攻撃が止めるということになったからよかったものの、例えば自分の心臓に矢が当たる、という未来が見えていたならば…?

未来視は見えるだけで、変えられるわけではない。変えるのはまた別の力だ。

「そこなのだが、私も分からない。また使ってみないことには」

「今使うこともできる?」

ランサーは少し驚いた顔をした。

「スパルタだな君は。可能だがやめておいた方がいい。宝具は魔力の消費が激しいのだ。そして、今私達は敵から丸見えだろう。そのときに武器を見せるのは得策ではないと感じるが」

「それもそうね。ごめんなさい。とにかく、最初は拠点を作らなきゃね」

「ああ、そういうことだマスター。我々の戦いを見ていたものもいるだろう。早くここから立ち去った方が良い。」

絢香は廃墟となった遠坂家を見る。風が絢香の髪を撫で、ゴミクズとなってしまった家を吹き抜いた。

(凛さん…士郎さん…きっと無事でいるわよね)

ここで重要なことに絢香は気づいた。一気に頭の血が下に落ちる間隔。どうして忘れていたのだろう。

「桜さん!!」

黒い電流にとりつかれ、気を失っていた桜を思い出す。地下室のソファーに泣かしておいた。

「―――ッ」

ソファーの上に寝ているはずの桜はいなかった。周りを見てみる。瓦礫をどけて地下室をくまなく探す。しかし見つからない。

(さっきの戦いに巻き込まれて・・・でもそんなに地下室は巻き込んでないはずなのに)

地下室をでる絢香。

「ランサー、あなた、女の人が倒れていたのを知らない?」

「この家に君以外の人間がいたのか・・・。しかし、私が召喚されてから君以外の人の気配を感じていないぞ」

絢香は足元が崩れていくような間隔に襲われた。どういうことなのか理解できない。

「ともかく!この家に人がいないか探して!絶対にいるはずだから!」

絢香は近くにある瓦礫をどかそうとする。それは思った以上に重くて動かない。

「ランサー!手伝いなさい!」

「マスター。残念だが手伝うことはできない」

「ふざけないで!人の命がかかってるのよ!」

「いや、そういうことではない。敵だ。マスター」

「え?」とランサーの方を振り返る絢香。ランサーは厳しい顔をして、月を見ている。絢香も月を見上げる。

「ッッ!!」

月を背にし、空中に黒い影が参列している。これが敵であることは、手に持っている剣や、杖などで分かった。何より、痺れるような殺気が放たれていた。

ランサーは槍を構える。

そして、分かりきった事実を絢香に告げた。

「さあ、マスター。二回戦と行こうか」

 

彼女の夜はまだ開けることがなく、

それはまるで永遠と呼ぶほど長い。

彼女は未だ深淵の闇から抜け出せない。

十字架に釘で打ち付けられた聖人のように

彼女は夜に留められていた。

 




久しぶりの投稿で・・・ははは
今は大学も休み中なんで週一くらいでUPしていきたいです
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