WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.7

紀伊半島沖・太平洋上

低く垂れ込めた雲から降り頻る大雨、そして時折轟く雷鳴の中を"ひなぎく"は由良基地に向けて進んでいた。

「対水上電探に感あり。

反応から19トンクラスの漁船と思われます。

方位、191、距離、65000」

「こんな天候でか?

取り敢えず、本部に状況を報告し次第、距離、3000で停船命令を発令せよ」

日本皇国海軍は、海上通商保護そして海上治安維持の観点から、不審船には厳しく対応してきた。

それに悪天候の中を外洋に向けて出航する漁船なんて言うのは聞いたことがない。

十中八九、不審船と判断できる。

佐竹中尉は、指示を出すと共に、インカムを取った。

「艦長、非常事態発生。

我が国領海内に、不審船あり。」

『分かった。

で、先任、至急、第五分隊を召集せよ。

臨検準備だ』

艦長はそう命じた。

海防艦の第五分隊は臨検科と呼ばれ、海軍特殊部隊、通称:ヤシマでの訓練を受けた猛者が多い。

第一分隊から選抜された彼らは、陸軍からスカウトが来るほどの戦闘能力を保持している。

そして、特殊作戦徽章と呼ばれる高等特技章を肩に着けた下士官兵の姿は艦の中でも、凛々しく映える。

「了解。

しかし、この天候だとRIHB(リブ)や内火艇は使えませんね。

どう接敵しますか?」

佐竹中尉は挙げなかったが、水中工作員(フロッグマン)による水中からの制圧と言う手もある。

しかし、天候が天候だけに、二次被害の可能性もあり、考慮にも入れていない。

『これを相手にぶつける。

それしかあるまい』

「分かりました」

インカムを艦内放送に繋ぎ、情報を伝達する。

「第五分隊要員は、武器倉庫に集合せよ。

繰り返す、第五分隊要員は、武器倉庫に集合せよ。」

フッと、息をつくと、艦長が艦橋に着いたところだった。

艦長に報告する。

「武器倉庫に向かいます。

あとは頼みます」

「指揮は任せろ。

突入は強襲となる可能性が高い。

準備は万端にしておけ」

「了解」

佐竹中尉が、艦橋を出ていった直後、インカムを全艦に繋ぐ。

「全艦に発令。

臨検部署発動、各員は対戦車ロケット(RPG)及び小銃に注意。

そして航海科員、先任の代わりに1名、艦橋に上がれ」

「警備府司令部及び近畿港湾局、四国港湾局よりの交戦許可下りました。

また、近隣の土佐清水分駐所・由良分駐所より海防艦や対潜コルヴェット、ミサイル艇の増援があります」

国防関連六法により、軍の権限は強大と言えど、平時の武器使用は厳しく制限されている。

危害、威嚇射撃問わず訓練以外での銃火器の使用は、所属司令部及び国土交通省各部、詳しく言うと陸運局・港湾局・航空局の許可が必要で、これらの部署も軍に合わせて、24時間体制で待機している。

「対水上砲撃戦用意。

本艦はこれより戦闘状態に入る」

 

日本皇国海軍高知航空基地・沿岸警備部隊航空群第5航空隊

第5航空隊はP3C哨戒機やUH60JR救難機を保有し、24時間体制での領海警備救難体制を敷いている。

「発動機運転を開始せよ」

整備員が見守るなかを、右端から順に始動していく。

全てのプロペラが問題ないと判断した整備員は固く握った右手の親指を立てた。

「発動機、オールグリーン」

「了解。

オーシャンフラワーより管制へ。

離陸準備完了。

離陸許可を求む」

『管制より日本皇国海軍第51飛行隊(JN51SQ)、オーシャンフラワーへ。

離陸を許可する。

滑走路に進行せよ』

「了解」

P3C哨戒機はゆっくり誘導路上を進んでいく。

滑走路に入った哨戒機は、発動機の出力を最大にした。

『管制より上空にいる帝国航空(IAL)865便へ。

着陸は許可できない。

5分間、上空の待機空域にて待機せよ』

軍民共用空港として高知空港が、2004年に開港するまでは、海軍専用施設として運用されていた。

だから、航空管制も国土交通省ではなく海軍の管轄となっている。

「オーシャンフラワーより管制へ。

離陸許可を求む」

『管制よりオーシャンフラワーへ。

離陸を許可する。』

「了解。

感謝する」

滑走路をP3C哨戒機が進んでいく。

緊急時には戦闘機の離着陸も考慮された3000メートル級の滑走路を半分も使わずに、離陸する。

短距離離着陸(STOL)性能、これは、プロペラ機にしかない利点である。

するすると、順調に上昇していく。

北北東には厚く広がった曇天が、その下では、大雨の中で海防艦が不審船を追跡しているはずだ。

『方位、090、高度そのまま3000を維持し、次の指示があるまで、そのまま飛行せよ』

沿岸警備部隊が装備している船舶、航空機は、全て重武装の軍仕様である。

その事に批判がないわけではない。

しかし、太平洋戦争のトラウマが残る海軍首脳部には、戦時に対潜艦艇・対潜作戦機をいくら動員できるか、これが勝利の鍵だと考えていた。

だから、日本皇国海軍はP3C哨戒機含む対潜作戦機を300機ほど、装備している。

日本近海でのパトロールには、常に相当数の機体が飛んでいる。

冷戦時代の津軽・対馬両海峡では30分おきに、哨戒機が飛来する始末であったと聞く。

『詳しい情報は、海上の艦艇待ちだが、紀伊半島沖合にて不審船が確認された。

オーシャンフラワーは高度、1000の低高度より接近。

赤外線を用いて、情報収集に当たれ』

沿岸警備部隊航空群のP3C哨戒機には、本家皇国海軍艦隊航空隊のP3C哨戒機よりも高性能の赤外線探査装置(FLIR)を積み込んでいる。

無論、これは海上での行方不明者捜索のための装備である。

「了解」

真っ直ぐ紀伊半島に向かって飛ぶ。

大きく張り出した雲の中に入る。

大雨が窓に打ちつけ、雷鳴が閃光と共に轟く。

「電探で捕捉しました。

後方に、"ひなぎく"その前方。

距離、103000、相対速度、443㎞/h。

今のところ、逆探に反応なし」

「携SAMに注意。

赤外線撮影準備。

フレアー投下準備。

撮影開始と同時に投下しろ」

熱源追尾(IR・ホーミング)方式の携SAMは、フレアーをバラ撒けば躱せないこともない。

「赤外線撮影準備完了。

いつでもいけます」

「指示あるまで待機。

電探員、異状は無いか?」

「特にはありません。

距離、10000」

「音探員、撮影を開始せよ

通信員、LINK16(データ・リンク)を使って、市ヶ谷と海上の艦艇に転送してやれ」

P3C哨戒機の撮影した赤外線画像は鮮明に武器の存在を示してはいたが、それがどんな武器かまでは判別がつかなかった。

突如、機内を警告音が満たす。

「ミサイルにロック・オンされました。

退避行動を…」

「チャフをバラ撒け」

戦術航空士(タコ)の声を断ち切った機長の怒声で、機内が動き始める。

「了解」

武器員がチャフを改めて放出する。

携帯式のSAMの近接信管は、他の対空ミサイルと比べる必要もないくらい、性能で劣る。

しかも照準誘導を射手が直接行うために、よく揺れる船上から命中させるのは難しい。

発射されたミサイルも、チャフが効いたのか、P3C哨戒機を掠めることはなかった。

「我々も限界まで追跡する。

航法員、いつまで飛んでられる?」

「偵察の時に、燃料を喰った以外は、無駄遣いはしていないので、あと6時間は上空に留まれると思います」

 

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