WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.13

"ひなぎく"が前倒しで定期修理に入った二日後の大阪警備府駐車場

「これが我が海軍沿岸警備部隊が誇る覆面車両、トヨタクラウンNモデルだ」

トヨタクラウンNモデル、平たく言うと日本警察の採用している覆面クラウンの海軍、特に沿岸警備部隊仕様だ。

「今日はこれで違法漁業従事者逮捕に向かいます。

アンダースタンド?

あと、今日はテレビの取材がある。

言動には、注意するように」

「了解」

二人は車に乗り込む。

佐竹中尉は、キーを差し、エンジンをかける。

「今回の取り締まりは、水産庁資源管理部管理課特命係と共同で行う。

相手には十分に敬意を払うようにというのが、警備府司令官の九十九少将の言葉だが、常識だよな?」

「ええ、分かっています。

それで特命係ですか?

某警察ドラマのやつみたいですね?」

「そんな感じじゃないが、海軍にも特設部隊ってあるだろ?

部隊編成基準に」

「ありますね」

日本皇国海軍における特設部隊とは、常設の各艦隊より選抜された艦艇、人員をもって編成された部隊である。

「それみたいなもので、普段は他部署で働いているんだ。

彼らは先行して、被疑者宅を監視している。

何かあれば、すぐにこちらへ連絡が入るはずだ」

車の外を流れていく景色を、佐竹中尉は眺めつつ、クラウンを走らせていく。

「了解」

 

[日本警察機構密着24時、次は日本の海の治安を守る海軍沿岸警備部隊。

彼らは常に、緊急事態に備えている。

場所は大阪警備府。

そこには、海に陸に空に活躍する精鋭たちがいる。

海軍沿岸警備部隊の職務は、多岐にわたる。

海洋権益の保護、領海警備、沿岸防衛、そして密漁者の逮捕などである。

そして、今回は密漁者の元締めを逮捕するために、海軍沿岸警備部隊は水産庁と協力し捜査を進めてきた。

証拠固めの段階を過ぎ、今日確保に向かうのだ。

そして、衝撃の結末が待ち受けているとは、その場にいた誰も予想できなかった]

 

「指定された住所はここみたいですね。

一旦通り過ぎて、その先で止まりますけど、あのバンが水産庁ですか?」

左に曲がった後ろには、目立たなそうな3台のバンが止まっていた。

「ああ、執行は09:00(まるきゅうまるまる)を予定しているが、君は車内に待機していてくれ。

男に逃亡の恐れがある」

クラウンを角に紛れるように止めると、水産庁職員からの合図を、そして時間が過ぎるのを待つ。

「じゃあ、バックして門前の右を塞ぎます。

そうすると相手は車で逃げても左しかなくなりますから、追跡は容易です」

「分かった。

9㎜拳銃(ピストル)は持ってるな?

必要なら、発砲してでもやつを止めろ」

「了解」

車内の時計が8時53分を回った。

佐竹中尉はゆっくりクラウンを家の前につける。

さっきのところを見るとバンからも、10人ほどの人間が下りてくる。

 

[我々、取材班は特別な許可を得て、水産庁職員の側にもカメラを置くことができた]

 

「8時53分か」

時計を見た職員の一人が言う。

「後ろで、海軍さんが動いてます。

容疑者の家の前に、クラウンをつけるつもりでしょうか?」

「奴らはアホか。

奴さんに気付かれんど」

「仕方ない。

何人か下りて、出入り口を固めろ。

私も出る」

バンのスライドドアを開けて、地面に下り立つ。

「もしかしたら、奴さんの退路を絶つつもりなのか?」

 

[男が何時に家を出るかなどは、数ヶ月にも及ぶ内偵活動によって、確認されている]

 

家の玄関から出てきた男が車に乗り込もうとしていた。

「××××(個人情報保護のため修正)やな?

密漁対策基本法違反で、裁判所から捜索差押許可状(ガサ状)と逮捕状が出とる。

おとなしく観念せい」

水産庁の密漁Gメンとも呼ばれる漁業監督官が声をかける。

ボンネットの前には、水産庁職員がいて、発進を阻止する構えだ。

「うっさいんじゃ、ボケェ」

そう怒鳴った男は、車を急発進させて、ボンネットの前の水産庁職員をはねとばす。

「艦長!」

佐竹中尉が叫ぶ。

さらに、数名の水産庁職員が2台目、3台目のバンから下りてくるが、ここでの事態には間に合わない。

佐竹中尉は心の中で、遅い、と叫んでいた。

「二階堂少佐、追跡を頼む」

水産庁職員の言葉に、二階堂少佐はホルスターからピストルを取り出そうとしていたが止めて、車に飛び乗った。

そこでアクセルを踏み込み、急加速する。

パトランプ(あおとう)つけてください。

強引にでも止めます」

メーターのスピードは、時速180㎞を軽く越えた。

目前に、白いセダンが見えた。

「こちら沿警21から各方面」

『こちら大阪警備府、どうぞ』

『こちら大阪府警本部、どうぞ』

「現在、密漁者が車両にて逃走中。

車種は、×××の××××、色は白、ナンバーは、堺・370(さんななまる)、××-××。

対象車両は、ときはま線を東進、現在、北条町一丁交差点を右折、泉北1号線を南進。

応援を要請。

どうぞ」

『『了解』』

『こちら沿警23。

"ふぶき"の間宮だが、ときはま線を西進中、10分もすれば合流できる。

どうぞ』

「了解」

『大阪本部から各局、現在、被疑車両が泉北1号線を南進し、泉ヶ丘方面へ逃走中。

警戒中の各局にあたっては、追跡中の海軍車両を支援せよ』

『こちら西堺5、深井駅裏おります。

現場急行します』

『南堺3、泉ヶ丘周辺警戒中、待機します』

『黒山6、岩室東交差点付近おります。

岩室方面へ移動します』

『南堺1、西陶器小付近おります。

泉北1号線方面へ移動します』

『機捜20、現場急行します』

『交機31、田園大橋直上おります。

待機します』

被疑車両を囲む包囲網は、完成し狭まりつつあった。

『了解。

被疑車両の逃走方向にある、和泉、泉大津の各局にあっては、十分に警戒せよ。

終わり』

 

[逃走していた車両だったが、完全にその姿を捉えた]

 

「こちらは沿岸警備部隊だ。

前方の白いセダンに告げる。

即刻、停車せよ。

繰り返す、こちらは沿岸警備部隊だ。

前方の白いセダンに告げる。

即刻、停車せよ」

サイレンが鳴り響くなか、白いセダンは諦めない。

深井駅前の交差点は片側二車線の道路が交差する形になっている。

「交差点、緊急車両通行します」

 

[逃走する車両は、交差点にスピードを緩めずに侵入した。

朝の交通量の多いときでもあり、非常に危険だ]

 

「止まれ。

事故るぞ」

二階堂少佐が叫び、停止を求める。

『沿警21へ、こちら沿警23。

もうすぐ後ろにつく、どうぞ』

『西堺5、合流します』

「了解」

一向に止まらない逃走車に、佐竹中尉の血は騒いでいた。

(上等じゃ。

無理にでも止めたらぁ)

「前に出て、無理矢理止めます。

衝撃に注意してください」

国防大学校の運転講習で、扱かれる60名のうちの一人が、佐竹中尉である。

これは将来のスキルアップに備え、希望者から選抜されて行われるものである。

これを修了すると、峠でレースしている某漫画真っ青な運転技量(ドライビング・テクニック)を手に入れ、なおかつ車であれば、何でも操縦できるようになるという恐ろしい講習である。

「分かった」

アクセルを全開に噴かして、スピードを上げる。

時速は180㎞を越え、200㎞近くまで上がっている。

そして、徐々に間隔が狭まる。

 

[間隔は徐々に狭まり、車が大きく見えるようになった。

そして、横に並んだ。]

 

「止まれ。

左に寄って止まれ」

高速以上の速さで走る2台に、何とか追随しているのが、沿警23の覆面パトカーと西堺5、南堺1のパトカー、交機31の白バイであった。

「現在、泉ヶ丘、JOINパークそば、左折、大阪狭山方面向かっております。

どうぞ」

『南堺3、合流します。

どうぞ』

「了解。

犯人は既に、捨て鉢になっている可能性が高く、非常に危険です。

接触は十分に注意してください。

どうぞ」

唸りをあげるエンジンの音を聞きつつ、佐竹中尉は目の前の逃走車に目を向ける。

前に出ようにも、周りの車が邪魔で上手くいかない。

むしろ、接触事故を起こしていないのが、不思議なくらいではあった。

『大阪本部から各局、マル対は泉ヶ丘のところを左折。

大阪狭山、富田林方向に逃走。

黒山、富田林の各局は警戒せよ。

終わり』

 

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