WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.15

[何度目の警告だろうか?

逃走車はそれを無視して、走り続ける]

 

「高辺台東、通過。

なおも停車の気配なし。

各局にあっては、次が正念場です。

よろしくお願いします。

どうぞ」

『富田林8、了解』

『富田林3、了解』

『富田林5、了解しました』

『富田林1、了解』

『富田林2、了解。

あっ、たった今、対象を視認。

指示求む。

どうぞ』

「沿警21、了解。

現時点の場所で待機してください。

どうぞ」

『富田林2、了解』

「沿警21より各局。

これより、確保作戦を実施する。

最優先は自己の生命の保全である。

無茶や無理はしないでほしい。

以上、沿警21」

『沿警23、了解』

『西堺5、了解』

『南堺3、了解』

『黒山6、了解』

『南堺1、了解』

『交機31、了解』

『機捜20、了解』

『富田林3、了解』

『富田林5、了解』

『富田林8、了解』

『富田林2、了解』

『富田林1、了解』

二階堂少佐の言葉に、各局から応答が入る。

その間にも逃走車は、国道309号へと突き進んでいた。

『富田林1、閉塞作戦実行します』

「沿警21、了解。

くれぐれも無理はしないでください」

『富田林1、了解』

 

[そして我々は、衝撃の瞬間を目撃することになる。

前方のパトカーから逃げるように、右折した逃走車が見たのは、前方に立ち塞がる1台のパトカーであり、それにスピードを緩めずに突っ込んだのだ]

 

大きな衝突音に続いて、ガリガリと破砕音が響き、パトカーのバリケードは突破された。

「沿警21より富田林1。

被害状況を知らせ。

繰り返す、被害状況を知らせ」

呼び掛けても雑音ばかりで、応答がなかった。

無線機を片手に握り締めていた二階堂少佐は顔を上げると決断した。

「沿警21より各局。

本車は追跡を継続するが、2台パトカーを残置させ、現場を保存し、富田林1乗員の救助に当たれ。

以上、沿警21」

『『『『『了解』』』』』

全車から応答が入った。

ここからは、警察により一般車両が規制されていない区間である。

「沿警21より各局。

逃走車は国道309号に入り、川西方面に逃走。

どうぞ」

『大阪本部、了解』

国道309号は、三重県熊野市から大阪府大阪市に至る一般国道である。

特に富田林を通る区間は、片側二車線ではあるが、交通量も多く危険であった。

「さて、陸軍は問題外として、どう捕まえようか?」

 

[第一作戦が失敗した以上、速やかに二の矢、三の矢を考案し実行する必要がある。

何故なら、その間にも逃走車は逃げ続けているからだ]

 

「止めるにしても、スピードを落とさせないといかんよな。

あのスピードはぶつけたら、返り討ちに遭うし、なんと言うか、入り組んだ狭い路地にでも追い込まんとこいつは止まらんな」

佐竹中尉の呟きは、正論だった。

「沿警21より、富田林署管内。

逃走車は、川西南交差点を直進。

奈良方面へ逃走中」

『富田林6より沿警21。

板持南交差点に向かっており、2分後に到着予定。

どうぞ』

「了解」

板持南交差点は国道309号と府道21号とが交差する場所であり、直進すれば奈良県御所市、河南町方面であり、左折すれば富田林市街、河南町方面、右折すれば富田林市の佐備や東条地区、河内長野市に通じている。

「どうにかして、右に向かわせられませんか?」

佐竹中尉は言う。

「分からん。

私らにできることは、何もないからなぁ。

まあ、やってみるか。」

二階堂少佐はそう答え、富田林6に指示を出した。

「沿警21より富田林6へ。

逃走車を板持南交差点を東条方面へ誘導せよ。

手段は問わない。

どうぞ」

『富田林6、了解』

 

[海軍や警察との追いかけっこも、もう終わりが見えてきた。

そう、車が走るのは、エンジンがガソリンを燃焼させて、エネルギーを産み出し、それをタイヤに伝えて回すからである。

つまり、ガソリンが切れれば自然と止まるのだ]

 

命令を受けた富田林6はタイミングを計っていた。

そうして、絶妙なタイミングで道路を封鎖した。

煽りを受けて、逃走車は右折するしかなくなる。

右折した逃走車を追うように、沿警21のクラウンも右折する。

『富田林6より沿警21。

これより、309号を進み、その先の中佐備交差点にて合流します。

どうぞ』

「沿警21、了解」

富田林市立第三中学校の横を、猛スピードで走っていく。

校庭からは中学生の歓声が聞こえる。

ここまで来ると、田畑も多くなってきた。

大阪府内ではかなりの規模の穀倉地帯と言えるのが、富田林市含む南河内地域である。

「緊急車両、交差点進入します。

交差点進入します」

閑静で平和な町がサイレンの音に色に染められていく。

「止まれ。

左に寄せて止まれ」

しかもクラウンの燃料計はすでに、emptyの近くまで来ている。

「艦長、燃料が……燃料が足りません」

「そうか。

それは奴も同じはずだ。

これは奴との根比べだと思え。

それで佐竹中尉、銃と車、どちらの腕前の方が上かね?」

「普通に車ですね。

銃は、なんとか当たるレベルでして。

恥ずかしながら」

「そうか。

それでも使うときが来るやもしれん。

そのときは躊躇うなよ」

今は中佐備交差点を青信号で通過したところだ。

右折すると彼方(おちかた)や滝谷不動方面に、左折すると国道309号に抜ける農免道路がある。

ちなみに、農免道路というのはWikipediaによると、通常ガソリン(揮発油)の取引には揮発油税がかかるが、農林漁業用機械に消費されるガソリンについてはそれを免除することになっている。

しかし、取引の際にそのガソリンが何に使われるのかを確かめるのは現実的ではないため、農林漁業用機械に消費される分の揮発油税に相当する額を財源として道路を整備することで、揮発油税の免除に代えている。

この事業を「農林漁業用揮発油税財源身替農道整備事業」と言い、その道路を一般に農免農道(農免道路とも)と呼ぶ。

言ってしまえば、税金の無駄遣いである。

話を戻すと、現在、中佐備を抜け、龍泉と呼ばれる地区に入ろうかと言うところである。

この先には、東条駐在所が置かれ、警官が1人常駐している。

『富田林15より沿警21。

現在、東条駐在所前にて待機しております』

「了解」

駐在所のそばには、富田林市立東条小学校がある。

そこに逃げ込まれでもしたら、海軍や警察の責任問題に発展する。

 

[対面二車線の府道21号は、一車線の幅が狭く、運転する人にとってははみ出ることもある。

そんな場所でも、逃走車のスピードは大して変わらなかった]

 

「危ない、スピード落とせ」

逃走車を強制的に止めることは、諦めることにしたようだ。

「緊急車両、交差点進入します」

龍泉を過ぎ、パトカーは勾配の緩い坂に入っていた。

『河内長野8より沿警21へ。現在、東阪三日市線を甘南備方面へ走行中。

指示求む。

どうぞ』

「沿警21より河内長野8。

現在、逃走車は蒲と呼ばれる地区を通過した。

もうすぐ、甘南備に到達するはずだ。

現時点の場所で待機せよ」

無線交信の間にも、金剛コロニーと呼ばれる大阪府立富田林支援学校を中心とする障害者支援施設群の前を通過し、甘南備に入った。

とは言え、甘南備も広い。

今いる場所は、バス停で言うと甘南備口と呼ばれているところの手前である。

「沿警21より各局。

逃走車は右折。

半分の車両は追跡を継続し、半分は沿警21に追随せよ。

どうぞ」

『『『『『『了解』』』』』』

 

[そこで我々は、再び衝撃の瞬間を目撃することになる。

右折した先は、細く急な坂でスピードが出しづらい。

先に回り込んだ沿警21に逃走車は衝突した。

そのまま、逃走車は動かなくなる]

 

「動くな。

両手を上げて、車から下りろ」

佐竹中尉と二階堂少佐に銃を向けられた男は、ゆっくり車から下りた。

後続していた間宮中佐や運転手だった海軍兵、大阪府警の警官らは銃や盾を片手に待機している。

「道路交通法違反で現行犯逮捕する。

漁業法違反についても、詳しく聞かせてもらおうか?

いいな?」

両手に手錠をかけられた男を車を乗せてから、二階堂少佐は無線を入れた。

「沿警21より大阪警備府及び大阪本部へ。

午前9時42分、被疑者を道路交通法違反の容疑で現逮。

どうぞ」

『大阪警備府、了解』

『大阪本部、了解。

大阪本部より警戒中の各局へ。

西堺管内にて発生した特別事案は解決。

警戒体制を解除、通常勤務へと移行せよ。

以上、大阪本部』

 

「ありがとうございました。

迫力の画が撮れましたよ。

放送前に、編集したの送りますね」

大阪警備府庁舎内の応接室にて、二階堂少佐はテレビ局のスタッフと話していた。

「午後の新幹線で帰る予定ですから、もう出ます」

「分かりました」

 

「佐竹中尉、郵便を預かっております」

長かったようで短い追跡劇が終わり、佐竹中尉は受付にいた。

「ああ、ありがとう。

差出人は、ああ、あいつか」

封筒を一瞥して、封を切る。

[拝啓 佐竹紀一さまへ

4月に入り、東京の桜も見頃を過ぎたぐらいです

配属の内示を知らせずに、大阪に行ったこと、私は怒っています

4月の15日に、仕事で大阪に行くので、覚悟していてくださいね

ライブするから、暇だったら来てね♥

敬具 2015年4月7日 相良夕子

追伸、近々お母様がそちらに挨拶に向かわれると言っていましたよ]

便箋を投げ捨て、踏みつける。

封筒のなかを見ると、もう2枚紙が入っていた。

[捨てても無駄ダゾ♥

以下同文]

「畜生」

これも投げ捨てて、踏みつける。

最後の紙には、こうも書かれていた。

[これがチケット代わりダゾ♥

忘れるナヨ!

追伸、彼女を連れてきてもいいゾ]

「畜生、畜生」

「佐竹中尉、抑えてください。

どんな内容でも、踏みつけるのはまずいですって」

「離せぇ、離してくれぇ。

これは、これだけは処分しなくちゃならねぇ」

「落ち着いてください」

こうしてこの夜も過ぎていくのだ。

 

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