WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.18

横須賀鎮守府船越地下指揮所

日本皇国海軍の外洋作戦部隊を束ねるのが連合艦隊であり、その司令部である。

戦時中に、軽巡"大淀"から横浜市の日吉に移ってから、戦後、軍備の再編成の際に、横須賀鎮守府の一画である船越地区に移転した。

そこから、72年、一貫して陸上に司令部を置き続けている。

「第六艦隊の哨戒線に接触しました。

あの位置だと、伊-501"しょうかく"と戦闘に突入したものと考えられます」

モニターを見続ける連合艦隊司令長官に参謀が補足を入れる。

壁に掛けられた大型モニターには、竹島を含む日本全図が表示されていて、敵味方問わず部隊の展開状況が一目で分かるようになっている。

「儂の見るところでは、対馬防衛に二艦隊は必要ないね。

鎮守府の艦隊に任せればよろしい。

いま、動ける艦隊はすべて竹島に向かわせた方がいい」

米内光隆連合艦隊司令長官は言う。

「しかし、韓国海軍の3隻目のイージス艦を牽制するためにも、二艦隊は動かせないのでは?」

頭の固い参謀が、意見具申する。

「わざわざ、竹島に2隻も張り付けたんだ。

残りの1隻は本土防衛に残すのが常識だと思うが。

それに、貴官は沿岸警備部隊がそこまで弱いと思っているのかね?」

「いえ、そのようなことは」

「まあ、練度だけなら、連合艦隊よりも格上な連中だし、イージス艦の1杯や2杯、返り討ちにしそうですな」

もう一人の参謀が、髭をしごきながら言う。

「分かりました。

対馬沖合の木村提督へ、移動命令を発令します」

昔の大名行列と揶揄されたほどの司令部幕僚団の影はなく、今では数えるほどしかいない。

司令長官をはじめ、参謀を束ねる参謀長、そして各2名ずつの作戦と補給兵站、航空の参謀たち、あとは長官付きの副官と、司令部付きの従兵が3名ほどで構成されるのが、現在の連合艦隊司令部である。

陸上に司令部を置いているとは言え、この程度の人数であれば、連合艦隊所属の大抵の艦艇に移乗可能だ。

「現場で踏ん張っているのは、沿岸警備部隊だったな?」

「その通りです。

また、霞ヶ関の沿岸警備部隊司令部とはホットラインが繋がっております」

「交戦の回避は行われなかったようだな。

絶対に沈むなよ」

創設期に、英国王立海軍に指導を受けた旧海軍とその組織を受け継いだ日本皇国海軍は、見敵必戦の敢闘精神を持っていた。

だからこそ、自らの戦力差を理由として戦闘を中止して、撤退した事例は少ない。

「空軍無人偵察機隊よりの偵察写真です。

イージス艦が1隻、足りません。

被雷して沈没したか、損傷したので退避したものと考えられます」

「うん、そのまま沈んだみたいだね」

参謀の示した写真を一瞥しただけで、米内長官は判断を下した。

「しかし、長官。

軽率な判断は危険では?」

経験不足から判断のつかない参謀と違って、米内長官は大体の状況が掴めたようだ。

「沈んだと言える証拠は2つある。

まず1隻を除いて、駆逐艦の数が減っていないことだ。

普通、損傷艦を退避させるときには、護衛をつけるものだろう。

それに、駆逐艦群が陣形を崩してまで集結していることだ。

これは、溺者救助を行っているんだ。

だからこそ、照準用電探を使用できず対空戦闘ができなかったんだろう」

照準用レーダーの電波の強力さは、警戒用レーダーの比ではない。

そんなものを人体に照射するなど、まともな人間のすることではない。

そうなると、有人機クラスの大型機ならまだしも、偵察機材しか積んでいない小型機であれば、光学照準で撃墜するのにはかなりの無理がある。

「まあ、そのまま引き返してくれれば、御の字なんだけども、それを期待するのは難しいなあ」

付け加えるように、呟いた米内長官の言葉は日本皇国軍将兵すべての気持ちを代弁していた。

 

「独歩一小隊より中隊本部、送れ」

陸軍竹島防備隊は、2個独立歩兵中隊からなる独立歩兵大隊2個、地対艦誘導弾中隊、団司令部、通信小隊からなる独立混成団である。

通常は1個中隊が交代で駐屯しているが、状況が緊迫すれば、内地の部隊から増強を受ける。

が、基本は中隊規模の部隊である。

『こちら、中隊本部、独歩一小隊、送れ』

「島内のパトロールは完了した。

特に異状はない。

戦闘配備に戻る。

送れ」

『中隊本部、了解。

既に沖合にて戦闘が始まっている。

地下退避を命ずる。

送れ』

竹島では、既にすべての将兵が、実弾を装填した小銃を片手に地下壕に避難していた。

「独歩一小隊、了解。

終わり」

艦砲射撃を考慮して構築された地下陣地群は十分な抗堪性を持っている。

「下に向かうぞ」

小隊長である小湊真次少尉が部下たちに声をかけた。

最寄りの入り口から入り、所定の位置につく。

こういった坑道戦は、太平洋戦争中に旧陸軍が経験している。

生存者は少なかったが、その少ない経験者たちによって鍛えられたのが日本皇国陸軍竹島防備隊である。

例えば硫黄島の戦いでは、トン単位の砲弾・爆弾の雨を耐え抜き、およそ20000名の犠牲と引き換えに、およそ24000名のアメリカ兵を死傷させた。

そんな連中の弟子たちが、竹島の地下に掘られた坑道陣地で、6個の小隊が配置についていた。

一応は、1個中隊基幹ではあるが、総兵力では2個中隊に匹敵する。

「休めるのは今だけだ。

だから、今のうちに休んでおけ。

明日にはお客さんが上陸してくるかもしれんぞ」

増強独立歩兵中隊基幹の中隊戦闘群、計300名が坑道陣地の中で、息を潜めて待ち構えていた。

 

「乗艦用意。

竹島の陸さんを援護するぞ。

車両は置いてけよ。

邪魔だからな」

松江に駐屯する海軍特殊作戦部隊群海軍第二陸戦大隊、計400名が輸送艦"あさひ"に乗艦する。

米国の海兵隊に相当するこの部隊は、陸軍レンジャーやら特殊作戦やらの徽章持ちがそこかしこにいる。

もし、竹島防備隊が武運拙く壊滅しても、水上からは海軍の第一、第二陸戦大隊、陸軍の第4水陸機動旅団が、上空からは第6空挺旅団が、各々、竹島に襲来する。

それらの部隊が上陸するまでの間には、海空軍が海域を空域を徹底的に封鎖し、艦砲射撃と空爆を加える。

日本皇国軍による封鎖で、韓国軍上陸部隊は孤立し、士気はかなり落ちるはずだ。

となると、封鎖突破艦隊を編成して、竹島に送り込む他ない。

「大隊長、松江の艦隊を待つんですか?」

「その通りだ。

今、艦隊は漁船団を護衛して、松江に向かっているはずだ。

折り返しで、我々が竹島近海に進出する予定だ」

大隊長はそれだけ言うと、"あさひ"のCICへと向かった。

「島野中佐、部隊の乗艦状況は?」

「9割は完了した。

残りは、今急がせてる」

「別に急ぐ必要はありませんよ。

松江の艦隊が戻るまで、時間がかかるでしょうし……」

"あさひ"の艦長、桐村剛中佐は言う。

竹島から"あさひ"の待つ松江港までは、200㎞ほど離れている。

鈍足な漁船を伴っているのなら、かなり時間がかかるはずだ。

「沿警隊の艦艇が残ってるなら、そう簡単には上陸させないでしょうから、時間もありますし」

「それもそうだ。

まず、事故を起こさないことが大事だな」

 

東京都千代田区永田町・首相官邸

「それで、軍は何をやっている?」

「最前線の部隊はすべて、既に防衛作戦令に従い、戦闘に突入したそうです。

残りの部隊も、数時間以内に戦時態勢に移行するそうです」

総理の問いかけに、国防省から出向してきた国家安全保障担当補佐官が答える。

既に、陸軍部隊には実弾が配られ、海軍は出航し、空軍も移動を開始している。

また、日本皇国軍は、指揮権が内閣から半ば独立している。

これは、防衛作戦行動への独断専行が認められているからである。

戦後より日本皇国軍は海外に展開したことは少ない。

例えば、友好国クウェートがイラクに侵攻された湾岸戦争の際には、陸軍4個旅団、また海軍の各種艦隊、そして空軍2個航空団を派遣したが、それ以外では皆無である。

海外における軍の指揮権は内閣が掌握する。

権限が地域により異なる権域分離をはっきりさせているのである。

「分かった。

これからの私の仕事は、外交と臨時予算を通すことだな。

前線の将兵が、心置きなく戦えるように」

「その通りです。

前線の兵の犠牲を無駄にはしないでもらいたいものですが」

「邪魔な外務省は動かんよ。

国交がないからな」

「その点は心配なく。

うちの駐在武官が、米国で韓国軍高官と接触する予定です。

何かしらの進展は見られるでしょう」

「そうか。

今、竹島では戦闘に突入しているのか、前線の兵は死力を尽くして戦っているのだな」

総理はそう呟いた。

「牧野国家安全保障担当補佐官、後のことは頼む。

私は国会に行ってくる」

総理は背広を着込むと、地下の危機管理センターを去っていった。

 

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