WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.21

提督の決断

「あー、はい。

いやしかし、それを当然のように言われるのは困ります。

斯く戦争というのは金がかかりますので、それは分かっております。

はい、はい」

電話を切った海軍軍令部総長である田中覚治海軍大将は、部下である従兵に問いかけられた。

「海軍次官は何と?」

海軍内での文官、つまり幹部官僚トップである海軍次官が、何かしらの無茶をねじ込んできたのだろうと、従兵は見当をつけていた。

文武同格という言葉が、国防省内では一般的になっている。

文官でも武官でも、国防省内では同格に扱われるということである。

そのために、次官職より上の位である各軍の部長は文官でも武官でもなく、国防大臣政務官がそれを兼任している。

しかし、それは名目でしかないのだ。

日本全国で十数万から数万の部下を指揮する軍人と、その10分の1ほどの部下しかいない各軍の次官では、見えない格が違う。

何せ、国防大臣の承認印さえあれば、緊急措置としての予算執行が認められている統合参謀本部会議議長を初め、陸軍の参謀総長、海軍の軍令部総長、空軍の作戦本部長と実力者が揃い、また彼らは、内閣のいや、総理の主催する国家安全保障会議(NSC)の構成要員でもある。

ここでは内閣の中でも、外交、国防に関連した機関であり、必要に応じて外務省、国防省、警察庁などの現場側の人間(くろうと)が召集される。

「今回の紛争で金が幾ら飛ぶのかっていう叱責だよ。

それらの兵器を扱う我々だ。

そのくらい分かってる。

ミサイル1発の発射で数千万円が消え、艦船が1隻沈んで何百億が飛び、兵士1人が戦死して、どれだけのお金が必要になるかぐらいわな」

「もちろんです。

上は将官、下は兵卒に至るまで、その兵器の種類、予算、そして威力に至るまですべてを把握しているはずですが、何か?」

「いや、それでいい。

痛みを与えるものは、その痛みを理解しなくてはならないからな」

「その通りです。

連合艦隊隷下の艦隊は既に、竹島に向かって移動を開始しています。

それでよろしいのですか?」

「構わん。

それらの艦隊が到着する頃には決着がついているだろうが、韓国政府に対しては、大規模な示威行動が必要だ。

そのためなら、5個艦隊が艦隊機動を披露してもいいんじゃないか?」

「確かに韓国政府の最近の言動には、目に余るものがありましたしね」

慰安婦問題やら歴史認識問題などで、日本を国際的に非難することを繰り返すことで、優位に立とうとする歴代の韓国政府の戦略には、その言葉にどれ程の真実が含まれていようとも、そのやり方を含め世界各国からは嫌悪感や不快感を示されることが多い。

「眠れる獅子よろしく普段は口の中の牙を見せんが、その獅子を1度起こすとどんな事態を招くのか、韓国大統領府(青瓦台)の面々には指咥えて見ていてもらおうか」

海軍軍令部総長である田中大将はそう言いながら、手元にあった韓国領海封鎖を含む実効的経済封鎖に関する命令書にサインしていた。

この命令は、即座に軍が共同で使用している空軍立川通信所から東シナ海上空を飛行中のEP-3D通信中継機を通して、第六艦隊の各潜水艦に伝わった。

超長波によるVLF通信によって伝えられた電文は、"ツシマ"と言う一言だけだった。

第六艦隊の潜水艦乗りたちは、事前に配布された暗号命令書のツシマの項を確認して、それぞれが作戦行動に移っている。

「立川通信所からの送信完了の通信を確認しました。

猟犬たちは大海に放たれました」

命令書を立川通信所に転送しに出ていた従兵が、戻ってくるなり報告する。

前大戦の反省として、軍令・作戦指揮系統のスリム化を図っている。

こうすることによって、戦前戦中のように、司令官の頭ごなしに直接命令を発するようなバカ参謀を減らす努力をしているのだ。

「それで竹島方面の戦況だが、沿岸警備部隊や連合艦隊とも協議した結果、竹島の防衛は陸空軍を主体とすることに決まった。

当の海軍は主力を含め、対応できそうにない…」

連合艦隊は部隊を横須賀、佐世保、呉、舞鶴、大湊の5個の鎮守府に置いている。

そのほとんどが領土問題の発生している地点より遠い。

竹島で言えば、松江警備府が直近の海軍施設である。

それでも200㎞近く離れている。

第一線の艦隊をそんな辺鄙な場所に、長期間も拘束できないし、その余裕は平時の海軍にはない。

「対応できたとして、精々が海防艦が1隻程度だ。

よって、我々は領海封鎖に全力を注ぐ」

その言葉を受けた従兵が報告する。

「六艦隊は既に各待機点を中心に、通商破壊戦の用意を進めているでしょう。

また、佐世保鎮守府艦隊のイージス艦"こんごう"が黄海に入り、空軍と協力して領空封鎖の準備を終えました。

あとは、駐在武官がロンドンで接触した北朝鮮軍関係者にも、38度線の封鎖を行うよう依頼しました」

従兵の言葉に、田中大将が大きく頷く。

「うむ」

これは後に、韓国最悪の1週間とも遅すぎた大統領の決断とも言われる長い1週間の始まりだった。

経済的損失は日本円に換算して数百億にも及び、韓国に投資していた各国は軒並み損害を被らされたのだ。

これは警告でもあった。

しかし、その意味を韓国政府いや韓国大統領が理解するまでに長い時間がかかった。

 

島根県警嘱託沿岸監視隊

竹島問題を抱える島根県警では、退職した警察官や軍人を集めて、海軍とも連携しながら沿岸監視を行っていた。

そして隠岐の島の入り江には小型漁船が見つかっていた。

この入り江は、出航禁止令が発令されたときの緊急退避場所でもなかった。

「ありゃあ、船だ。

だけんど、そんな通報聞いとらんぞ」

軽自動車を足にして、隠岐の島の沿岸部をパトロールしていた壮年の男二人が、海の上に浮かぶ船を見つけた。

一人が双眼鏡で確認すると、漁船のようだった。

「隠岐の島より島根本部」

『……こちら島根…部、隠…の島へ。

詳細…報告…よ』

警察が使用する無線の周波数帯と軍が使用する周波数帯は、混線や雑音を防ぐために、重ならないようになっている。

それに距離が開いているとはいえ、雑音が混じるということは、どこかで無線に影響が出るほどの強力な電波をやたらめったらに使っているのだろう。

「こちら隠岐の島、不審な船舶を発見。

至急、指示求む。

繰り返す、不審な船舶を発見。

至急、指示求む。

どうぞ」

『…島…本…、了…』

長い沈黙

『現…に留…って、情……収集…よ。

無…、危険と判……れ…退…てよ…。

繰……す、現場……まって、情報…収…せよ。

…論、危……判断す…ば退避し…よし。

以…、島……部』

さっきよりも無線から聞こえる雑音はさらにひどくなっている。

「隠岐の島、了解。

終わり」

無線をおいた男は、傍らに積んであったボルトアクション式のライフルを取り出す。

狩猟用として、許可が出ているライフルではあるが、狩る対象が鳥獣とは限らない。

あくまでも自衛用であることから、島根県警も黙認しているのである。

『…島根…部よ……岐の…へ』

「こちら隠岐の島、島根本部へ」

『……軍の出……要請……。

即……現…よ……避…よ。

…り……、陸……出動……請した。

…座に…場……退………』

「隠岐の島より島根本部。

何を言っている?

よく聞こえない。

もう1度言ってくれ」

『陸軍の出動を要請した。

即座に現場より退避せよ』

何故かこのときの無線の声は、ノイズの混じっていないきれいな声で聞こえてきた。

あとで聞いた話によると、ノイズがひどすぎたために警察の要請を受けて、陸軍がこの通信を中継していたという。

陸軍隠岐駐屯地には、陸軍竹島防備隊の残りの部隊が駐屯している。

その部隊がおっとり刀でこちらに向かっているのだろうか。

そんなことも思いながら、返事を返す。

「了解、隠岐の島は安全地帯まで退避します」

「島根本部、了解。

終わり」

軽自動車は、踵を返すとそのまま去って行く。

それを見ている影が2つあったのを、沿岸監視隊の二人は気づかない。

 

 

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