WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

3 / 65
プロローグ
プロローグ


1945年8月30日、1機の飛行機が厚木飛行場に降り立った。

9月2日に予定されている日本の降伏に先だって、連合国最高司令官総司令部(GHQ)の司令官であったマッカーサー元帥が、日本国内に入ったのである。

 

彼の執務する場所として、接収された第一生命館に腰を落ち着けたマッカーサー元帥のもとを訪ねた日本政府関係者に向かって放った彼のせりふは衝撃的であった。

日本(ジャパニーズ)(アーミー)

あっていいでしょ」

「えっ、いいんですか?

我々が受諾したポツダム宣言では、軍隊は解散と聞いていたのですが」

「えっ?」

「えっ!」

旧日本軍の扱いを巡って日本政府と連合国最高司令官総司令部(GHQ)との間では、そんな間抜けな会話が繰り広げられたという。

無論、口調はこの限りではなく、もっと厳粛なものだっただろう。

そこに、マッカーサー元帥が、思い出したように付け加えた。

「あっ!

日本に到着する前に、本国から電報が届きまして、此れを見ていただきたい」

そう言って、彼が差し出したのは、ハリー・トルーマン大統領から、日本の天皇、総理大臣に宛てた親書であった。

厚木に到着した公用使から受け取った親書を携えて、東京に入ったのだ。

「我々が、日本(ジャパン)に求める役割は、たった一つ。

それは、価値観を共有する資本主義、自由主義を守るために、反共の防波堤となることである。

そのために、我々はいくつかの改革を貴国に対し、要求することになる」

当初、日本政府内部で検討されていた憲法改正案以上の、内容に関してはより踏み込む形で、連合国最高司令官総司令部(GHQ)から原案が示された。

その原案に、政府部内にいた共産主義者が、交戦権の否認、軍隊の廃止を盛り込もうとしたものの、特別高等警察を改編する形で発足した国家警察本部公安局の要員によって、逮捕され阻止に成功した。

ソ連を含む連合国内で取りまとめられていた約定を破棄してまで、連合国最高司令官総司令部(GHQ)が日本軍の維持を選択したことには、米国大統領官邸(ホワイトハウス)の主の意向が働いていたことは想像に難くない。

当時のアメリカ大統領、トルーマンは、同じ連合国のイギリスの首相であるアトリーの承認のもと、日本軍を解体しなかったのは、マッカーサーの言う通り、20年後の国際情勢を睨み、日本を反共の防波堤とすることが目的だった。

その結果生まれたのが、原案で盛り込まれそうになった過剰なまでの平和主義を薄めた日本皇国憲法第九条である。

 

皇国憲法第九条

一項 日本皇国政府は国際紛争解決の手段としての戦争を放棄する。

   ならびに、武力による威嚇、侵略的行動、またはこれに類されるような軍事的行動はこれを認めない。

二項 日本皇国政府及び国民は平和という崇高な理想の元に生存する権利を有する。

   これは、如何なる国家、人民によっても阻害されることは許されない。

三項 前項の目的を達成するために、日本皇国政府は陸海空軍またその他の戦力を維持しつづける。

 

結果、日本帝国軍は日本皇国軍として再編されることになった。

憲法改正と同時期に、日本軍の組織改編が進められ、陸軍航空隊と海軍基地航空隊の一部とが合併して、空軍が設置されるなどして、大きな進展があったが、米軍が提示した課題のうち、取り扱いの問題となったのは沿岸警備隊(コーストガード)である。

「沿岸警備隊の創設?

沿岸警備隊って、何だ?」

「はい、沿岸警備隊というのは、国家における海上の治安維持を担う組織です」

まだ、霞が関に海軍省があったときに、この議論が持ち上がった。

どういう組織なのかいまいち理解出来ずに渋面の日本海軍士官に、説明に現れた米海軍及び米国沿岸警備隊の士官は終始丁寧であった。

従来、日本の海上治安維持は各鎮守府所属の諸艦艇によって行われており、それを全国的な組織として置こうと言う発想はなかったのだ。

「その沿岸警備隊というのは海軍の一部門として置いても構わないのでしょうか?」

「どういうことでしょうか?」

質問の意図が理解できなかったのか、米国人達は質問に質問を返した。

「つまり、我が国の海軍には海上護衛総隊が存在しております。

これを改編して編成しても大丈夫なのかと聞きたかったのです」

「その組織に必要な能力及び装備をつけるのであれば、大丈夫です。

大統領の意向で、ソ連や中華民国への賠償艦を除き、日本海軍の艦船は現状を維持されます」

唯一残った主力艦であった長門型戦艦の売却により、日本皇国海軍は大量の駆逐艦やフリゲートを、アメリカよりバーターで供与された。

主砲や殆どの艦内装備品を日本国内で取り外された"長門"は、ビキニ環礁での原爆実験に使用され、その生涯に幕を下ろした。

結果、大量の駆逐艦やフリゲートによって生まれたのが、日本皇国海軍沿岸警備部隊、英訳すると"Imperial・Japanese・Navy・Coast・Guard・Fleet"と呼ばれる部隊である。

国防六法と呼ばれる内の沿岸警備法を設置及び活動根拠とし、武器使用基準の甘さから、世界中の犯罪者から恐れられている。

その沿岸警備部隊は45000人の人員そして2兆6000億円もの予算を誇る。

検挙した人間の罰金や保釈金もすべて沿岸警備部隊ひいては海軍の予算となるために、財務省から予算を削られるたびに検挙率が上がるのはお約束である。

1946年の第1次隊の編成完結以来、日本の海防の最前線に立ち続けた彼らの練度や装備の質は、中小国の海軍を上回り、過去に起こった第二次竹島沖海戦第二夜戦と呼ばれる国境紛争においては韓国海軍の広開土大王級駆逐艦に一歩も引かず装備の劣るはずの海防艦で圧倒したという伝説も残っている程である。

その様子を上空からP-3Cで見ていたシャア好きの米海軍将校はシャアボイスで三回も違う事を呟いたという。

広開土大王級駆逐艦に海防艦が立ち向かって行った時にこう呟いた。

「見せてもらおうか。

日本の海軍の実力とやらを」

まだ戦いは始まったばかりで、余裕というか、楽しんでいるような口ぶりである。

しかし、戦いの中盤くらいに海防艦が正面から砲撃戦を挑んだ時にはこう叫んだそうで。

「イッツクレイジー」

完全に素が出ていた。

そして最終的に駆逐艦を撃沈した時に落ち着いたように見せてこう言ったという。

「にっ、に、日本の海軍は、ば、化け物か?」

そこには、純粋な焦りと化け物への畏怖がこもっていた。

その結果、この年からハワイで2年に一度行われる環太平洋共同演習(RIMPAC)に連合艦隊とは別で沿岸警備部隊にご指名がかかるようになったという。

準軍事的組織であるとは言え、本質自体は海上警察と何ら変わりない組織であるところの沿岸警備隊が参加を要請されたり、招待される国は、日本以外にはない。

この事実を以て、日本皇国海軍は世界の海軍関係者すらも恐怖する存在となった。

世界第二位とも言われる外洋作戦部隊である連合艦隊、そして世界最大、最強を誇る沿岸防衛部隊である沿岸警備部隊、米軍ですらも怖れる日本の楯であり、矛の部隊である。

 

そして、2017年4月

日本いや世界中の海は危険であった。

全世界の海域で航行する貨物船の何割かが、消息を絶ち、行方不明になった。

何かしらの怪物が現れた訳でも、海賊が跳梁跋扈している訳ですら無い。

ただ、天気が荒れやすくなっているのだ。

たかが天気と思われるかもしれないが、船乗りが航海中に一番警戒するのは周辺の海象、つまりは天気である。

現代においても天気一つで船が沈むことも有り得るのだ。

多くの船舶の犠牲の後に、世界は対策のために重い腰をあげた。

というのも、世界の海洋というのは古代より、政治的な謀略の舞台であったからで、どうしても対策に乗り出すことにいやがる国というのは存在したからである。

まず行われたのは、準軍事的組織である各国の沿岸警備隊の連絡調整機関としての国際(International)海上(Maritime) 保安(Safety)機構(Organization)、略してIMSOの設置である。

そこを受け皿として、各国の収集した海象の情報を、世界規模のデータベースを構築し、常に更新された情報が世界中の商船に対して頒布されている。

また、海賊や密輸といった国際犯罪情報の共有も行われており、政治的な問題の絡まない範囲での、協力が行われている。

それでも世界中の通商、特に海運は止まってはいない。

それも偏に日本皇国海軍沿岸警備部隊やその他の国の沿岸警備隊の活動があってこそである。

 

  

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。