WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.26

通商封鎖準備命令(ツシマ)、そして、通商封鎖開始命令(タケシマ)と来て、通商封鎖中止命令(オキノシマ)の通信はまだ来ないのか」

焦る艦長のを尻目に、副長は冷静に、しかし残念そうに、

「まだ来てませんよ。

少なくとも、今は」

と返した。

本気で戦争を望む軍人など、ほとんど存在しない。

それは、世界史を覗いてみれば理解できる。

侵略者として名高い人物は大抵が文官だ。

ナチスドイツのヒトラーないし、ソ連のスターリン、これらの人物は最前線で銃弾が飛び交うなかを、戦った経験はない。

ヒトラーは第一次世界大戦に従軍していたことは知られているが、前線と後方との伝令兵としてであって、塹壕のなかで激しく戦った歩兵や砲兵としてではない。

また、軍人であれば、士官学校や兵学校といった場所で古今東西の戦争を学び、戦場の悲惨さを知る。

21世紀にはその傾向に拍車がかかっている。

だからこそ、部下をそんな死地へと送ることに躊躇いが出る。

「音探員、警戒を厳となせ。

すぐにお客さんが来るぞ。

音響規制を発令する」

数瞬の逡巡の後、艦長は命じた。

"ずいかく"の艦内を黄色い光が包む。

艦長の言う通り、お客さんはすぐに来た。

「音探が目標を捕捉

海軍のデータベースに、該当なし。

韓国船籍の船舶の可能性大。

さらに2隻、韓国海洋警察……間違えました。

国民安全処海洋警備安全本部の警備救難艦がいます」

音探員の言う通り、音探から漏れ聞こえてくるのは、複数のスクリュー音と、それに紛れて船が水を押し退ける音であった。

そして、その音の正体は韓国船籍のマンモスタンカー"李舜臣Ⅱ"と国民安全処海洋警備安全本部の警備救難艦"太平洋3号"と"太平洋9号"の3隻である。

特に、タンカーである"李舜臣Ⅱ"には、サウジアラビアから輸入した原油30万トン、バーレルに直すとおよそ2220000バーレルが積まれていた。

産業の近代化と共に、戦略物資とまでなっている原油は、それがなければ国が回らないと言うレベルにまで到達している。

今、"李舜臣Ⅱ"に積まれている原油は、韓国経済を数日は回せるだけの量でもある。

戦略的には、最重要な攻撃目標の1つとしてリストの最上位にあるのだ。

"ずいかく"が攻撃しないわけがない。

そして、その3隻がこのまま来れば"ずいかく"の正面を横切る形となる。

「雷撃戦用意。

目標は、タンカーと外国公船のうちの1隻だ」

「しかし、艦長。

外国公船に攻撃することは、国際法に違反する可能性があります。

攻撃はタンカーに限定しましょう」

副長の指摘に対し、

「無駄だ。

有線は使いたくない。

となると魚雷のセンサーしかないが、それは、そこまで賢くないから、流れ弾は出る。

その流れ弾に当たる場所にいたのが運の尽きだ。

それに、戦場に軽武装の警備救難艦を繰り出すこと自体が間違いなのだ。

文句は出まいよ」

艦長はこう断言した。

「タンカーが一撃で沈むはずがない。

次弾装填準備も急げよ」

艦長の言葉に従って乗員たちは行動を始めた。

発射管室では、発射管付き先任兵曹長が、

「魚雷を持ってこい。

ハープーンもだ」

と部下の下士官兵に指示を出し、兵士たちは動き始めた。

特に、戦いのなかで、兵士たちは成長を見せていた。

緊張と緊迫の間に立った乗員たちは、ストレスとも戦いながら、自らの仕事をこなしていた。

「再装填準備完了」

そして、発射管室から連絡を受けた発令所では、誘導のための諸元を入力していた。

「よし。

全門、発射管扉開け」

という艦長の言葉と共に、発射管の扉が開放され、発射管のなかが海水で満たされる。

「魚雷が発射し次第、排水。

再装填を急げ」

艦長の命令は、発射管室に伝わった。

準備は万端であった。

「全門、撃てー(てー)

しょうかく型潜水艦には六門もの発射管が据えられている。

その一門一門に、一撃必殺の魚雷が装填されている。

それが海に放たれた。

すべての魚雷にタンカーの諸元が入力されていたのだが、やっぱりというべきか、手前を航行していた警備救難艦"太平洋3号"を追ってしまうものもあった。

 

「左舷より雷跡4、本船への直撃コース」

船橋で見張り員の報告を受けた"李舜臣Ⅱ"船長は、

「取り舵いっぱいだ。

回避航行急げ」

と指示、命中回避に全力を尽くしたものの、左舷から迫る魚雷を躱せなかった。

片舷で4発の魚雷が爆発することは、"李舜臣Ⅱ"の設計当時には考えられていなかったことである。

つまり、想定外というやつである。

また、魚雷のほとんどが、"李舜臣Ⅱ"の構造上の弱点である船尾に命中していた。

なぜなら"李舜臣Ⅱ"の船体は、工期縮小、予算削減のために船尾の強度を減らして設計されており、それは通常の航海だけなら十分に使用できる強度ではあるが、魚雷が1発命中しただけで致命傷になりかねない。

無論、通常の民間船舶も被雷することを考慮した設計ではない。

しかし、魚雷が1発命中したぐらいでは沈まないものである。

そしてその弱点とも言える箇所に4発の魚雷が直撃した。

4回の爆音と衝撃から立ち直り、船内の被害状況を確かめる。

しかし、状況はかなり悪化していた。

『機関室に浸水あり。

機関停止、出力喪失』

「本船はまだ沈まない。

損害対処を急げ。

浸水を食い止めろ」

機関室からの報告を受けつつ、船橋から指示を出す。

惰性で動いていた船の行き足が完全に止まった。

「船底部より浸水が拡大。

隔壁を破壊、救命艇甲板に迫っています」

制御盤を見つめていた一等航海士が告げた。

環境を汚染する物質の流出を防ぐための、ダブルハウ構造によって、浮力は十分に確保できているから、すぐに沈むと言うことはないはずだ。

そのはずなのだが、救命艇甲板が水没すれば、逃げる手段を失う。

「船長より船内の全員へ。

本船は沈没するわけではないが、退避できなくなる可能性が高い。

よって、総員は退船せよ」

その言葉を聞いた一等航海士は、ライフジャケットを持ち出した。

そして救命艇の据えられている甲板に集合する。

「全員、集まったな?」

周りを見渡して確認する。

自分も含めて甲板部10名、機関部9名、司厨部3名の全員の顔が揃っていた。

「乗り込め。

時間がない」

腕時計を見た船長が言う。

全員が乗り込んだのを見届けた船長が最後に乗り込む。

滑走した救命艇は、海面に着水して自走する。

少しでも距離を稼ぐためである。

その間にも、タンカーの船尾は沈んでいく。

船尾が沈んでいくにつれ、船首の特徴的なバルバス・ハウが少しずつ露になる。

「ここからは、ゆっくり沈むだろうな。

だが、抜け出した我々にできることはない。

警備救難艦に救助を要請」

周辺を遊弋している警備救難艦に救助要請を出すものの、船長が見渡したその周りには、炎上中の警備救難艦しか見えない。

仁川に向かう途中だった"李舜臣Ⅱ"は韓国領海に入ったところで、日韓開戦の連絡を受けた。

返す刀で、海軍の護衛艦の派遣を要請したが、到着したのは国民安全処海洋警備安全本部の警備救難艦が、2隻だけだった。

海軍とは違い、対水上対潜対空作戦用の装備を持たない国民安全処海洋警備安全本部の警備救難艦では、日本皇国海軍の執拗な攻撃から、タンカーを守りきれない。

そのことは分かりきっていたのだ。

それを振り返った船長の、

「やはり無駄だったな」

という呟きは、強い風に消えていった。

 

「やはりか」

ソナーの探知情報を映像化したものを見ていた"ずいかく"艦長は呟いた。

六門の魚雷発射管を全門、タンカーに向けて発射したのに、うち2発は目標のタンカーを逸れ、警備救難艦に向かっている。

「タンカーに命中は4、警備救難艦に2か。

再装填を急がせろ」

発射管室では、兵曹長以下の兵士たちが奮闘していた。

「排水を確認」

兵士が叫ぶ。

「発射管の尾栓を開放。

魚雷を押し込め」

兵曹長の指示で、尾栓が開いたところに1本ずつ魚雷を装填していく。

魚雷を入れ終わると、尾栓を閉じる。

2分もかからずに、すべての魚雷が再装填された。

「再装填完了」

発射管室の責任者である兵曹長が、艦内電話で発令所に報告する。

その報告を受けた発令所の艦長は、

「1番、2番発射用意」

と部下に指示を出した。

発射用意の意味を理解している部下たちは、準備を着々と進めていた。

「発射用意よし」

「第2射を有線で発射する。

必ず舷側に命中させろ」

「第2射、撃てー(てー)

"ずいかく"から発射された魚雷は、まっすぐ進み、舷側に大きな水柱を立てた。

舷側の隔壁を破られたタンカーは、左舷からの浸水が増大していき、横倒しになりつつあった。

船内に侵入した大量の海水は、その強大な水圧を武器に、次々と隔壁を破壊、浸水を広げていた。

船尾からの浸水は、薄い隔壁を破壊しながら、怒濤の勢いで浸水域を拡大しており、船が沈むのは時間の問題だった。

ソナーからは、隔壁が悲鳴をあげているのが、良く聞き取れた。

決断した艦長は、全艦に発令した。

「状況は終了。

音響規制を継続、次の標的を待て」

今やもうすでに、事態は紛争の域を越え、戦争に突入していた。

紛争開始当初の韓国政府の予想、日本皇国軍は一撃を加えれば、それ以上反撃してこないだろうという自分勝手なものではあったが、しかも一撃を加える前に韓国軍は敗退している。

そしてその予想をはるかに越えたところまで、事態は進展していた。

朝鮮半島を南北に分断している線である38度線を、朝鮮人民軍は封鎖、臨戦態勢に移行した。

黄海で接する中国政府は、中国の沿岸警備隊である中国海警局と人民解放軍海軍北海艦隊と東海艦隊に、禁足令と緊急出航命令が発令された。

紛争の段階であれば、韓国を支援する中国ですらも、この事態は予想外だったのだ。

黄海を、日本海を、対馬海峡を封鎖された韓国は白旗をあげるしかなかった。

2週間近く続いた封鎖作戦で、日本皇国海軍は100万トンを越える船舶を、積み荷ごと撃沈した。

そのなかには、原油が、米独両国から輸入した先端工作機械(マザーマシン)が、鉄鉱石などの資源が、そのまま海の藻屑と消えた。

また積み荷によっては、重大な環境汚染を引き起こすものもあり、早急な回収が望まれるが、経済が破綻する寸前の韓国に期待するのは酷というものである。

 

2週間後、ワシントンD.C.の国務省の会議室で、再会したえびす顔の大使が、

「2週間前とは顔色が違いますな」

そう小声で言ったのへ、駐在武官も小声で返した。

「そうですな。

国の顔とも言える外交官がこの様では、国自体がいつまで持つか、分かりませんな」

そう駐在武官が感じ取れるほどに、韓国側は疲弊していた。

今回の軍事行動にかかった費用、戦費は韓国の場合、他国の資金に頼っていた。

勝てていれば、状況も変わっていただろうが、結果は敗北である。

巨額の無駄金を使っただけで終わってしまった。

その上、海外の物流を日本政府が握ってしまったがために、経済が止まり、外交部を含むほとんどの政府機関が、国の内外、各方面への謝罪や折衝に駆り出されていた。

「先日の非礼を謝罪したい。

申し訳なかった」

開口一番に、韓国の駐米大使は謝罪した。

「はて、何のことでっしゃろか?」

えびす顔の大使は空惚けながらも、続ける。

「それはさておき、我が日本皇国からの要求は、3つ。

竹島・対馬が日本領であることを確認し、またこれに違約した際には、追加で賠償金を支払うこと。

第一次、第二次竹島紛争の未払いの賠償金の支払い、無論、これはすぐにとは言いませんが、早めに願います。

賠償金として、5億3000万ドル、そして我が方で鹵獲したイージス艦及び捕虜と交換で、20億ドル、合わせて25億3000万ドルの支払い。

日本領域直近の領域の非武装地帯化、の以上になりますな」

日本側からの要求は非常識な要求ではない。

例えば、19世紀も終わりの頃に起こった北清事変、他にも義和団の乱、義和団戦争、義和団事変など呼び方は多数あるが、それの際には、日本と欧米列強各国から清朝に対して4億5000万(テール)もの賠償金と首都:北平(現在の北京)への軍隊駐留権が要求され、清朝は泣く泣く、それを認める羽目になった。

特に4億5000万(テール)というのは、清朝の歳入の5年分に相当する金額である。

利息を含めば、その倍にまで膨れ上がるのだから恐ろしい。

要求した金額が、年間の国家予算の範囲内なのだから、本当に優しいくらいだ。

「今、本国の財務担当者から連絡が来ましたわ」

駐在武官である陸軍大佐は、ノートパソコンを開きながら言った。

「踏み倒すつもりで、払ってなかった賠償金を含めると、概算で利息込みで300億ドルに届くか届かないかだそうですわ。

詳しい見積もりは……29.890.200.500ドル。

もちろん、USドルで払ってもらいますよ」

伝えられた金額の大きさに、韓国大使は困惑の表情を隠しきれなかった。

「我々は、全権を委任されておらず、判断ができない。

本国に問い合わせて、後日連絡する。

それでよろしいか?」

「それでも構わないが、一括で払ってもらえるとありがたい」

翌日には、日本大使館に要求を認めるという旨の返答があった。

この返答が、駐米日本大使館より本国の外務省本省に転送され、海軍軍令部総長を通じて統合参謀本部長から、通商封鎖中止命令(オキノシマ)との命令が全艦隊に届いた。

こうして、日韓の交渉は纏まった。

しかし、この程度の敗北で、韓国が諦めるわけがない。

だが、300億ドルもの賠償金、一説によると2000から3000億ドルといわれる経済的損失、撃沈された船舶の積み荷によって起こった重大な環境汚染を防止するための早急な回収のための予算、またそれが間に合わず積み荷によって起こった重大な環境汚染から自然を回復するための予算など、すべてを鑑みて、韓国が折られた牙を研ぎ直すまでには、数年間の猶予があると、国防省情報本部はそう判断していた。

結局のところ、韓国軍の無謀で冒険的な軍事行動は、国民の血税を数千億ウォン以上という大金をかけて、育成した海軍戦力を壊滅させただけではなく、数千億ドルとも言われる損失を生んだだけだった。

しかし、韓国の野望は消えたわけではないのだった。

 

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