WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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ある韓国海軍退役士官の回顧録 その2

竹島から逃げ帰った私は、売国奴と罵られました。それから今まで、蔑まれながら生きてきました。

それでも、命令に固執せずに撤退することを決断できるその冷静さを買われて、大尉に昇進すると同時に、海軍内で戦力の立て直しに尽力することになりました。

海軍再建計画は急務であるとされました。

南北融和が進むにつれて、軍内部では仮想敵国を練り直す必要があり、北朝鮮に代わる仮想敵国となったのが、竹島やらなんやらで揉めていた日本皇国でした。

陸戦に持ち込めれば、韓国軍は勝てるなどと豪語する陸軍幹部の存在もあり、与し易い相手だと国民は考えていたのです。

ただ、日本皇国軍の情報は、軍の機密とされ、実態を知る国民はいなかった。

その上、韓国軍の誰もが、その陸戦に持ち込む方法を考えていなかったのです。

「チョッパリの軍に負けることなど、韓国軍にとってはあり得ない。

なのになぜ負けたのか?」

日に日にそんな声が大きく、そして多くなっていきます。

その声に対する反論など、できるはずがありません。

名ばかりの法治国家でしかない韓国という国は、何十年の法律よりも一時の国民感情が優先される国です。

海軍の設置した対策本部の会議は、紛糾しました。

「なぜ負けたのか?」

そんな声ばかりでした。

「今度やったら勝てるかですか。

無理です」

海軍本部の将官でしょうか。

顔は見たことがありませんし、言ってることはめちゃくちゃです。

「地力が違いすぎます。

一回勝てても、日本が本腰を入れたら、韓国は駆逐されます。

それに戦力もありませんし」

私の答えに、場は静まり返りました。

「ではどれだけの戦力があれば、勝てると断言できますか?」

そんな無茶な話があるか。

最初は、自分の耳が信じられませんでした。

この男は韓国軍が勝てると思っているのでしょうか。

そう思ったとき、私は自分のなかの牙を折られていることに気付きました。

彼らを敵に回すということが、何を意味するのかを強烈に印象付けられていたのです。

「うちの兵士の練度からすれば、イージス艦が20隻、通常の駆逐艦が80隻、潜水艦が100隻は要るんじゃないですか」

「え?」

答えるのが馬鹿馬鹿しくなって、適当な数字を並べていました。

それほど絶望的なまでに、日本皇国海軍との差は大きかったのです。

そこに私は、付け加えなければならないことがありました。

「その9割を磨り潰せば、勝てるんじゃないですか?」

「9割も?」

それを聞いて、海軍将官は青ざめていました。

そりゃあそうでしょう。

国家予算を破綻させる覚悟で建造した艦隊を、全滅レベルまで失わなければ、勝てないと言われているのですから。

場は完全に沈黙し、議論は停滞していました。

「本来の議題である戦力の再建については、意見はあるかね?」

重苦しい空気に耐えかねたのか、海軍本部長が話題を変えました。

海軍本部長の言葉に、空気が少し明るくなった気がしました。

「我々、現場の要望からすれば損耗補充分の新型駆逐艦(KD-X)計画で導入するのは、日本皇国海軍の保有する駆逐艦と同等の性能を誇る駆逐艦であってほしいのが実情です」

それは出席者の皆が思っていたのか、全員が頷いています。

「ジェーン海軍年鑑によりますと、日本皇国海軍の保有する最新駆逐艦、むらさめ型は、排水量4500トン、Mk41とMk48のVLSを16セルずつ装備しています。

同時期に就役した我が軍の広開土大王型駆逐艦の倍以上です。

また、そのバランスのとれた戦闘能力は、我々には対抗できる船舶はありません」

陰鬱とした空気が、再び場を覆っていきました。

それでも、止めるわけにはいきません。

この国が牙を納めなければ、未曾有の危機に襲われる。

日本皇国にとっては、我々は体のいいサンドバッグ程度の認識でしょう。

殴りかかっても、蚊を叩き潰すかのようにあしらわれる。

何度、牙を剥こうと同じ。

「しかし、そのような駆逐艦を与えられても、我が海軍の将兵では扱いきれないのが、現状でもあります」

海軍の建艦計画は、パルリ、パルリ(早く、早く)が中心で、それを扱いきれる要員の育成が間に合ってはいなかったのです。

私はそのことを認識しました。

「アメリカに改めて、軍事顧問団の派遣を要請されることを望みます。

近代の日本海軍が、大国だった清に、さらにはロシアに勝ち、第二次世界大戦ではアメリカやイギリスを苦しめることができたのは、明治時代の海軍創成期に、当時の英国海軍軍事顧問団の団員たちの熱意ある指導により、偏に優秀な人員が育っていたからであります。

技術職としての優秀な海軍軍人、組織を末端に至るまで、日本の旧海軍から受け継いでいたからこそ、竹島における我々の敗北に繋がったものと思われます。

人員育成の面において、我々が頼れる外洋海軍を保持している国、そのような国は、同盟国であるアメリカのみであります」

「この話を聞いていて、このような質問は聞きにくいが、イージス艦を持とうが、同じだと思うかね?」

海軍本部長はため息をつきながら、躊躇いがちにそう聞いてきました。

「恐らくは。

イージス艦を持っているのは、あちらも同じですし、運用実績もあちらの方があります」

日本皇国海軍の脅威は、ヘリ空母、イージス艦、汎用駆逐艦、哨戒機といった装備で編制されたバランスのとれた連合艦隊であり、死してもなお、我々の前に立ちはだからんとする沿岸警備部隊の高い士気にあると考えていました。

日本に来て、当時を思い返すと、その考えは確信に変わりました。

「我が国は弱い。

米軍がなければ、領土防衛もおぼつかない」

誰かが呟きました。

全くもって、その通りだと思いました。

しかし、それはただの自己保身に過ぎないと気付いたのです。

自国の防衛そっちのけで、戦争をする国など聞いたことがありません。

信頼のおける同盟国とはいえ、戦争中に外国の軍隊に自国の防衛を委ねるバカがいるのかと聞きたいレベルです。

陸軍こそ本土にいましたが、日本への対処に忙しく、海空軍は日本攻撃に出払い、北朝鮮に銃口を向けていたのは、米軍だけだったのですから。

「くそっ、チョッパリのくせに」

第二次竹島海戦、日本ではそう呼ばれている第二次独島海戦は、我々の大敗北でした。

それの戦訓は、我々の得たものは大きかったと思います。

まずは戦勝国気分の崩壊、第二次世界大戦が終わり、なし崩し的に、独立が認められたとはいえ、それがすなわち私たちの勝利ではなかったからです。

勝利は勝利だったのかもしれません。

それでも、自分たちが自分たちの力で得た勝利ではありません。

それが慢心でした。

近代の、彼らの言う開国から明治、大正、昭和、平成という時代、長い年月のなか、日本人たちは国際社会という荒波のなかを生き抜いてきました。

その経験を生かし、日本人は牙を磨いてきたのでしょう。

世界のなかで、日本人は愚直なほどに勤勉であると言われます。

我々、朝鮮人が外国を拒絶し、国内だけで右往左往していた頃に、彼ら日本人は血の滲むような努力で、日本を世界の欧米列強に並び立つような国に育て上げました。

その結果が、第二次世界大戦での善戦だったのでしょう。

会議のなかで、そのことを感じ取りました。

「我々は部下というたくさんの命を預かる立場であり、なおかつその命一つ一つに責任をとらねばならない立場なのです。

そのことを忘れてはなりません」

あの戦闘は、私にとって衝撃でした。

前にいた僚艦が一瞬にして消え、次には自分の艦が撃たれ、部下は死にました。

その光景だけは、一生忘れられない。

いえ、忘れてはいけない、それらは私が背負うべき十字架なのですから。

「ああ、そうだな。

この先ずっと、戦争は避けねばならん。

我々に対して、敵は大きすぎする」

ああ、やはり海軍本部長は聡明な方でした。

今回も戦争回避のため、全力をあげていたと聞いていました。

この方がトップである限り、日本との戦争はないでしょう。

「今回失敗したから、奇襲も不可能。

どうすれば、やつらに勝てるんだ」

戦争推進派は、そう言います。

ですが、それは不可能です。

日本皇国海軍は宣戦布告前であっても、無許可で領海内に入れば、無警告で攻撃してきます。

国内法にそう定めてあるからです。

国内法より上位に位置する国連海洋法条約に、一応は無害通航権は明記されています。

しかし、日本皇国の領海における無害通航権の行使は、軍艦を通航させたい国が日本皇国政府に対して、事前の通告を必要とするのです。

これは1952年の竹島海戦のときの反省と言われています。 

どのような意図があろうと、事前の通告なき通航は無害通航とは見なさない。

これは日本皇国海軍のスポークスマンが述べた言葉であり、あの国におけるスタンダードです。

日本独自の衛星監視網含め、日本の情報網には、韓国軍の行動は筒抜けです。

無害通航権の行使についても、対外的なカウンターパートが存在しないため、行使することは難しい状態です。

「我々の奇襲は、奇襲ではなくなるか」

戦争推進派の面々は、今回の行動において、情報の秘匿、行動の秘匿の観念はあるのでしょうか。

そう言いたくなるような発言でした。

奇襲というものは、数ヵ月前から準備しなければ成立しません。

日本皇国海軍の前身、日本帝国海軍も真珠湾攻撃の際には情報秘匿には気をかけていました。

米軍の無策もあってか、攻撃は成功しました。

それでも数年単位の時間が、準備段階で必要とされたのです。

思い付きで行動するこの国に、奇襲は不可能であったとそう思いました。

「多くの将兵の血が流れてもなお、一矢すら報いずに負けることなど許されません」

今回の冒険的行動をとらなければ、日本皇国政府は韓国政府に対して、国交正常化交渉を開始する予定でした。

そのために外交部の人間が、

そのことを思っていると、つい口が滑りました。

今の私からしたら、若いってすごいことだと思います。

「あんたらがバカなまねさえしなければ、こんなに血が流れることはなかったんだ。

日本の世論も、諸外国の世論も敵に回ることなどなかったんだ。

あんたらがバカなまねさえしなければ」

ただでさえ、漢江の奇跡といわれる経済成長は、竹島紛争の勃発で急ブレーキがかかっており、後にアジア通貨危機と呼ばれるウォン安に陥っていました。

投資家たちは、機を見るに敏いです。

これまでも韓国におけるカントリーリスクの大きさは、群を抜いて高いとされてきました。

というのも、日本皇国との対立や紛争によって、いつ経済活動が制限されるかわからない状況にあり、韓国軍が日本皇国軍に太刀打ちできないことが明らかであるからです。

それが国内問題だけでなく、それらも踏まえた外的な要因によって経済が疲弊しているのです。

戦争推進派はその現実が見えていないのでしょうか?

経済といった備えが磐石でなければ、近代の軍隊は戦争を続けられません。

感情論だけで戦争ができるのならば、日韓は数十年と戦争を続けていたでしょう。

それだけの国力もなく、子供の癇癪のように時おり突っかかる。

そんなことでは、政治家同士が信頼関係を結ぶことすら難しい。

「は?

今なんつった。

上等だ、出てこい、ぼこぼこにしてやる」

頭に血が上りやすい連中は、子供のようです。

「ここは議論をする場だ。

ギャーギャー騒ぐのなら、出ていってくれないか?」

「本部長、本部長はそんなやつの味方なのですか?

愛国心もないそんなやつの」

愛国心で戦争に勝てるのなら、日本はアメリカと太平洋戦争で引き分けに持ち込めたでしょう。

そして、その言葉は我々にブーメランとなって、返ってきます。

朝鮮戦争のとき韓国軍は総崩れとなり、国連軍がいなければ、

「愛国心で戦争できるのならば、とうの昔に竹島を奪還できているだろう。

我々に欠けているのは、いや欲しているのは、状況を冷静に見る力だ。

感情論だけの意見しかない君たちに、その力があるとは思えん」

本部長の言葉に、戦争推進派は項垂れていました。

戦争はしない。

海軍本部長のその言葉に、韓国の今後が決定付けられました。

 

 

 

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