WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.28

佐竹中尉は迎賓室のなかで、歓談している4人組の元へと歩いていく。

「佐竹中尉、報告をしてくれ」

佐竹中尉に気づいた田中大将が、なにかを言いたげな佐竹中尉に頷きながら聞いた。

佐竹中尉が、全員の顔を見回す。

河野大将が、前田大将が、武藤大将が頷き、再び田中大将が頷くのを見て、佐竹中尉は口を開いた。

「日本皇国海軍沿岸警備部隊大阪警備府艦隊海防艦"ひなぎく"先任将校、佐竹紀一中尉。

竹島沖にて、敵艦隊と交戦。

揚陸艦1隻と駆逐艦数隻を陸空軍と共同で撃沈し、駆逐艦3隻以上を単独で撃沈、駆逐艦1隻を鹵獲しました。

それにより、敵艦隊を殲滅。

ただいま戻りました。

報告を終わります」

「よし。

よく戻った」

佐竹中尉の報告を受けて、田中大将が言った。

会場がシンとして、会場中の視線がこちらに集まっているのが分かる。

静かな会場は、内緒話をするには向かない。

だから、それを見つめていた周りの将兵たちに、こうも付け加えた。

「今夜は無礼講だ。

今日のうちはな、飲め、騒げ。

今日は見逃すが、明日から大騒ぎすれば上官不敬で、憲兵がしょっぴくぞ」

田中大将の喝が飛び、その言葉を待っていましたとばかりに、会場は盛り上がる。

騒がしくなる会場を横目に、田中大将は切り出した。

「報告書は読んだ。

その件について、紀一はどう考えているんだ?」

その騒がしさのなかで、5人は話しながら、隅の方にあるソファのところに移動していた。

首相官邸の特別応接室に置かれているものと、全く同じものだというそのソファは国賓クラスの来客にも対応可能だ。

そのソファに田中大将たちは座る。

「座らないと話もできん」

立ちっぱなしの佐竹中尉に、言外に座れと言っているようなものだ。

「では、飲み物をもらってきます」

1人だけ飲み物をもらっていなかった佐竹中尉は、バーカウンターの方に向かった。

数分くらいたった頃、佐竹中尉はウイスキーのロックを片手に戻ってきた。

そっと一礼して、席に座る。

「竹島の件ですか?

それとも……陛下の件ですか?」

席に着きながら、佐竹中尉は用件を聞いた。

「あとの方で頼む。

竹島の方は、戦況報告書で読ませてもらった。

どうやら空軍に阿呆がいたようだが、我々の方で内々に問題なく処分した。

外への情報の漏洩はない」

ここでいう処分とは、秘密裏に闇へと葬り去ることである。

軍法会議にもかけられず、密かに拉致された対象者は、北海道や静岡の演習場で、日本皇国軍特殊作戦部隊の実弾射撃の仮想標的に利用され、大概が射殺される。

淡々と述べる田中大将と、悔しさからか爪が食い込み、血が滲むほど拳を握る武藤大将が目の前にいた。

愚かなまでに実直な武藤大将のことだから、部下が仕出かした不始末がさぞかし悔しかったのだろう。

「それで陛下の件だが、なぜか確度の高い情報が、情本にもないらしくてな。

情本在籍の専門の分析官も推測がたてられんそうだ」

それを聞いて、苦り切った顔をしているのは、前田大将だ。

諜報・謀略畑出身の前田大将は、情報が集まっているのに、簡単な推論もたてられない後輩たちに失望の感を隠し得なかった。

なぜなら、前田大将は状況説明を受けたあとに、独自に情報を精査して、簡単な推論を組み上げたからだ。

そして実際、情報本部の担当者から最初にそれを聞いたとき、前田大将は顔を真っ赤にして、こう怒鳴り散らしたという。

「日本皇国軍の活動を支える情報軍人がなんたる様か。

前線で戦う将兵に安全と安心を提供するのが、銃後を守る補給科と情報科の軍人のはずだ。

こんな体たらくで、前線の将兵と国民、果ては大元帥閣下に、いや陛下に顔向けできるのか?

将兵や国民のいい笑い者だぞ」

これは、ある意味で反論できない常套句である。

日本皇国軍部隊の練度不足は、直接の部隊長だけの責任では済まされない。

それを指揮監督する上級司令部の長つまり連隊長や旅団長、そしてそれをさらに指揮監督する最高指揮機関たる統合参謀本部長、陸軍参謀総長、海軍軍令部総長、空軍作戦部部長の責任であり、軍備計画や人事を担当する内閣の長たる内閣総理大臣ひいては日本皇国軍を名目上統帥する天皇陛下までもが責任を問われかねない。

だから、日本皇国陸海空軍将兵は各自が高い練度を誇るのだ。

すべては天皇陛下の体面を、名誉を守るためである。

入隊直後から、その旨を頭に叩き込まれた日本皇国軍軍人に、手を抜くという意識はない。

そして、その意識の欠落した情報本部の軍人は、少ない情報から推論を組み立てて、それを骨格にして、情報を収集するという情報収集の基本ができなかった。

第一線で活躍する情報軍人が偽情報(ディスインフォメーション)や間違いを恐れてはならないのだ。

前田大将の叱責を受けた情報本部は、いまさら状況の分析を行い、先ほど仮説を報告してきたのだ。

その報告は読まれずに、まだ前田大将の机の上に残されたままだ。

「そうですか。

まず、考えられる犯行グループの候補としては、ひめゆり事件を起こしたような左翼系の過激派組織とその間連団体、アルカイダやオウム真理教などのテロリスト、仮想敵国の国家機関の工作員だと思われますが、それら単体だけではないと思います。

今回の件は、どのグループにもバラバラに必要なものが不足しており、単体ではそれを行う力はないと言えます」

そして、佐竹中尉は状況を分析し考えながら、言葉を選び、説明していく。

その説明に、全員が頷いている。

「そして、先日の不審船騒ぎの際、密輸団が運んでいた荷物(工作員)の証言は、情報本部の公安部隊から報告されていると思いますが、今回の件は恐らく潜入している韓国の工作員が、何らかのグループと連動しているものと感じています。

特に官庁関係では抜群の情報収集力を持つ左翼系の過激派組織、武力という点において実行力を持つ韓国工作員、この二つが組んだ場合、治安維持に携わる機関にとって、非常に厄介だと言えます。

例えば、知識層が中心の左翼系の過激派組織であれば、中央官庁にも知己は多く、情報収集は容易であると考えられますが、とくに国防省や宮内庁にも左翼系の過激派組織に入った同級生を持つ人間はいるでしょう?」

その手口を研究して対策を講じる立場である情報将校ほど詳しくはないが、ソ連赤軍参謀本部情報総局(GRU)の息のかかった人物が如何にして、英米の中央省庁に潜入・潜伏していたかについての記事をまとめた本を読む機会のあった佐竹中尉は、その工作の巧みさに舌を巻いたものだった。

何故ならば、就職した官僚を標的とするのではなく、就職する前の優秀な学生を標的とした上で勧誘(リクルート)するのだ。

無論、その学生たちは共産主義に共鳴するように仕向けていたから、通常の協力者に比べて、見返りはほぼなくて済むという副次的効果まであった。

こうして、潜入していたスパイたちのことを、欧米のメディアは便宜的に"赤色細胞(レッドセル)"と呼んでおり、彼らは外交、経済、財務などに関連する、その国の政策がソ連に利する形になるように、情報流出や情報操作などの活動を行っていたとされる。

それらの人物の活動の一部は、連邦捜査局(FBI)のエドガー・フーバー長官の直接の指揮下で、公安活動に従事していた特別捜査官に監視されていたと言われ、第2次世界大戦後にアメリカでマッカーシズムの嵐が吹き荒れた際には、その監視記録に基づく名簿が利用されたものと思われる。

そして、その赤色細胞(レッドセル)の最大の成果が、第2次世界大戦での日米開戦だったと言われている。

とくに、当時の日ソ関係は緊迫度を増しており、日米開戦がなければ数年以内に日ソ間で戦争が勃発したとも言われている。

そして今回の情報流出の場合は、それの変則的な応用例だと言える。

東側諸国の盟主であるソ連が健在だった冷戦期とは違い、21世紀まで生き残った左翼系の過激派組織の親玉は、海を越えた先にある大陸の支配者、中国共産党である。

中国と韓国は政治体制や対外政策では、いまのところ一致する点は少ないものの、仇敵である日本皇国の打倒という一点において、中韓の目的と意見は一致していた。

だからこそ、米国の与り知らぬ韓国政府の対日作戦を陰に陽に中国は支援してきたのだ。

今回の場合は、配下に置いている左翼系の過激派組織以外にも、IS(イスラム国)などのイスラム系の過激派組織とも密かに接触して、資金提供と同時に日本皇国でのテロを要請していたらしい。

フランス、パリで起こった無差別テロのような事件が起これば、日本皇国の首都、東京は大混乱となり、中国はその手を汚さずして、日本皇国に政治的、軍事的な揺さぶりをかけることができるだろう。

しかし、ここに中国政府の単純な誤算があった。

イスラム教はもちろんキリスト教や仏教を含む世界の宗教には、宗派や個人によっては厳格に適用されうる教義が存在し、宗教上、禁忌とされる行為が多数存在する。

例えば、イスラム教徒の場合は豚を食べてはいけないというものや飲酒の禁止などである。

それを、同じアジア人である日本人や韓国人がそれを犯しても、キリスト教徒や仏教徒と申告する限りは、見逃してもらえるという。

しかし、大多数の中国人は違う。

中国は共産党の支配する共産主義国家である。

第2次世界大戦前夜のバチカンの教皇いわく、宗教を否定する宗教であるのが共産主義だという。

また、共産主義を信奉する者は、大雑把にまとめると無神論者といえる。

しかし、信心深い何らかの宗教の信者たちにとって、どうしたって無神論者は敵に近い。

つまり、無神論者たる共産主義者(コミュニスト)が、どのような意図があろうと、宗教上の禁忌を犯せば、悪意ある行為、つまり宗教の冒涜と見なされる。

その上、中国共産党は同じイスラム教徒であるウイグル族を迫害、弾圧している。

イスラム世界が宗派間宗教戦争に明け暮れていたこの半世紀であっても、宗教と同胞を弾圧し、なおかつ経済力もある中華人民共和国は欧米列強と日本に並びうる標的国家である。

今回、イスラム原理主義過激派組織は、中国から受け取ったその資金を中国国内の同胞の救援のために使用することにしたらしい。

この辺の説得は、同じイスラム国家であるヨルダン政府が行ったと言われている。

日本皇国とヨルダン王国は立憲君主制という共通点もあり、日本皇国はヨルダン王国と友好国である。

そして、ヨルダン政府は、IS(イスラム国)とも交戦状態にありながら、情報収集と交渉のためのチャンネルを維持していた。

そのチャンネルを総動員して、テロ情報を得たヨルダン政府は独断ではあったが、IS(イスラム国)の説得に当たると同時に日本皇国政府に詳細を通報した。

結果、憲兵や公安警察を動員して、秘密裏に取り締まりが行われ、IS(イスラム国)の日本における拠点は壊滅した。

無論、これらは世界の裏の話であり、IS(イスラム国)による中国での連続テロ事件と、日本皇国で起きていた天皇暗殺予告事件は、表向きは何ら繋がりはないように見えた。

だが、裏では中国(1つの国)の動きで繋がっていた。

 




今回から長くなるようなら、2つか3つに分けたいと思います
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