「くそったれ。
反撃する。
第一分隊、援護」
そう叫んだ堀北少尉は、89式小銃を構えて射撃する。
「友軍の狙撃兵は?」
旅団司令部直轄部隊には狙撃兵分隊が編制されていて、狙撃兵に関する講習を受け、さらには試験を突破した将兵にのみ、狙撃兵徽章は与えられる。
徽章が日本語で呼ばれることの多い日本皇国陸軍において、なぜかこの徽章だけは英語で
それを所持した将兵が、
それが6組、12名で狙撃兵分隊の編制が完結する。
大まかな照準で射撃するしかない地上の歩兵たちは、幾度となく反撃に転じては追い散らされた。
「他の部隊の支援です。
他の門に回った部隊の方にも、狙撃兵がいるみたいで、そっちの支援にまわってます」
小隊のなかで唯一他部隊との通信を行えるプログラムを内蔵したUSBを所持する小隊通信兵の話を聞きながら、胸のマガジンポーチを探る。
続いて、腰に着けたマガジンポーチを探るが、そこにもなにも入っていない。
「ちっ、弾切れだ。
補給処の野戦補給隊はまだなのか?」
太もものホルスターから、SIG-ZAUER P-220を取り出して発砲できるように準備しておく。
「要請を出しました。
すぐに来るそうです」
ブローニングM2重機関銃が銃弾をバラ撒いている。
「後方に補給隊です。
友軍の74式特大型トラック、3台、接近中」
「よっしゃ。
もう一仕事いくぞ。
撃てえ」
事案の始まる前に、首都直下型地震の備えた緊急物資展開演習の名目で、新宿御苑に展開した関東補給処隷下の野戦補給隊は、数トンもの各種補給品を持ち込んでいた。
その物資の一部を運んできた74式特大型トラックを見て、それの到着まで持ちこたえるために、堀北少尉はピストルを構えた。
「第四分隊、補給隊を支援せよ。
最前線まで来てくれたんだ。
守りきれ」
小隊長の檄が飛ぶ。
「小隊長以下、第一分隊、第二分隊、第三分隊、突撃」
ピストルを構えた堀北少尉が、狙撃兵への射撃を開始する。
しかし、敵狙撃兵の攻撃の続く、この現状のままでは、満足に補給もできないと観念した堀北少尉が決断を下す。
「一時後退。
堀北少尉の命令を受けて、84㎜無反動砲の砲手が、発煙弾を投射して煙幕を展開する。
「第一分隊、第二分隊、第三分隊は弾薬を受領せよ」
小隊長は指示を出しつつ、89式小銃のマガジンを受け取り、ポーチや88式鉄帽のカモフラージュの樹木を挟むための紐に挟んでいく。
戦闘服Ⅱ型と呼ばれる防弾チョッキのポケットにもありったけのマガジンを詰め込んでいく。
空になった89式小銃のマガジンを外して、新しいマガジンに交換する。
「第四分隊は補給品を受領せよ。
残りは前線に戻るぞ」
結果として、尻すぼみとなった反撃のあとは、敵狙撃兵の攻撃に遮蔽物の後ろに隠れるしかなかった。
「友軍の
「分かった。
第二小隊各員に告げる。
友軍航空部隊による援護攻撃が実施される。
頭を上げるな」
そんな第二小隊の上空を、AH-64DJが単機で一航過していった。
その最中には、30㎜単装機関砲が火を噴き、敵狙撃兵を沈黙させる。
「敵狙撃兵が排除された模様」
周りを双眼鏡で見回していた小隊最先任曹長が報告する。
「目標、正門前の敵兵。
射撃用意、撃て」
遮蔽物の後ろにいた堀北少尉は89式小銃を撃ちまくる。
「正門前の敵兵も掃討されたようです」
周りを双眼鏡で見回していた小隊最先任曹長が報告する。
「いけ、突入せよ。
これ以上、上空のヘリに情けない姿を見せるな。
皇国陸軍歩兵の本領を見せろ」
高機動車の陰で、88式鉄帽を手で押さえていた堀北少尉が指示を出す。
それを聞いた兵士たちが、高機動車の陰から飛び出して、正門前から突入する。
「クリアー」
「よし、第一分隊、皇居内に突入、制圧せよ。
殿を四分隊に任せる。
第二小隊全隊脱出まで、門を確保し続けろ。
二、三分隊も俺に続け」
89式小銃を片手に、堀北少尉が正門に走る。
その前方をM2ブローニング12.7㎜重機関銃を載せた高機動車が進んでいく。
「近接格闘の生起に注意。
何があっても武器は落とすなよ。
そうなると撃たれて終わりだからな」
上空を飛ぶAH-64DJの攻撃で、敵の出鼻が挫かれたことから、敵狙撃兵の攻撃により損害が続出した第一歩兵連隊第一中隊の第一小隊から戦闘を引き継いだ、同じく第一歩兵連隊第一中隊の第二小隊は攻勢を強めた。
その矢面に立った将兵たちは、陛下の保護という目的のために結束していた。
その頃、正殿から正門までの短くて遠い距離を、敵の攻撃を退けながら進んでいた佐竹中尉は、正門近くの木の上に潜んでいた。
その下には、勿論、陛下がいる。
先程まで正門前では、激しい銃声が響いており、そのまま出ることは憚られたのだ。
正門から皇居内に侵入してくる人影を確認した佐竹中尉は、侵入してくる人影の識別を急いでいた。
見えた緑色の軍装は、日本皇国陸軍のものだった。
「88式の
木の陰からそれを見つめていた佐竹中尉は、周囲を見つめる。
そこには敵兵の集団がいた。
「私がここで食い止めます。
陛下はあそこまで走ってください」
「ダメです」
止めようとする陛下に、行動を起こしていた佐竹中尉は、顔を振り返らせて言った。
「国家の命令であっても、戦争で人を殺すのは、我々軍人の仕事です。
それは命令であれ、自らの判断であれ、その行為にやむを得ない事情があろうと、それは私たちに課せられた罪です。
文民であるあなたが、それを行う必要はありません。
あなたは、私が守るべき市民であり、市民であるあなたを守るためならば、私はこの命ですら捨てられる。
そう考えています。
短い間でしたが、陛下を護衛することができたことを、光栄にそして嬉しく思います。
また、会える日が来ることを願っています」
そう言うと佐竹中尉は銃を構えて走った。
それを見送った陛下は、振り返らずに反対側に走った。
佐竹中尉の進言を無視すれば、彼の意思が無駄になる。
背後で爆発音や銃声が響く。
それでも振り返らない。
それは佐竹中尉の望むことではないからだ。
数刻の逡巡のあと、息を切らしながらも、さっき見えた陸軍歩兵のところに辿り着いた。
「へっ、陛下!」
道の向こうから走ってきた人影に、歩兵たちは銃を構えたが、その正体に気付いて銃を下ろす。
「第一歩兵連隊第一中隊所属、木下兵曹であります。
すぐに後方に向かわせますので」
「それよりも、あちらに向かってください」
そう言って、陛下は佐竹中尉のいるであろう方角を指差す。
後続の部隊の到着がまだで、兵力には限りがある第一分隊には、継続的な攻撃の継続は無理であった。
周辺を警戒しつつ、後退していく。
数百メートル後退した後方にて、第二分隊、第三分隊を率いた堀北少尉が来た。
「この数百メートル先のところに待ってるのは、友軍というか俺の知り合いだ。
そこの手前、30メートルを第一線、二分隊、三分隊は直ちにここまで進出する。
その30メートル先が第二線、ここに友軍がいると思われる。
さらに30メートル先、第三線、そのまた30メートル先、第四線、同じように第五線、第六線、第七線を展開する。
第二小隊の各員は、第七線を躍進限界とし、追撃するな。
敵兵を第七線から駆逐することを、考えろ」
陛下の話を聞き、堀北少尉が地図で現場を確認すると、第二小隊が待機している場所から、数百メートルのところに、佐竹中尉がテロリストと交戦していると思われる場所があった。
「第一分隊長、木下兵曹。
陛下を後続の第一小隊に引き渡すまで、護衛せよ。
残りは俺に続け」
そう言うと、第二分隊、第三分隊を率いた堀北少尉がそちらの方に急行する。