WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.42

首都近郊に駐屯する日本皇国陸軍歩兵部隊の皇居突入の13時間前、千葉県は房総半島の南端に近いところに所在する日本皇国海軍館山航空基地。

この基地には、連合艦隊や沿岸警備部隊のヘリコプター部隊が、所在しており、第31航空群第2飛行隊、沿岸警備部隊横須賀鎮守府艦隊のヘリ搭載駆逐艦に搭載するヘリコプターの運用や周辺の近隣海域における警戒飛行を実施するための部隊である。

日本皇国海軍沿岸警備部隊航空部隊隷下のヘリコプターと固定翼哨戒機の混成により構成される航空群は、館山航空基地に司令部を置く第31航空群、大村航空基地に司令部を置く第32航空群、舞鶴航空基地に司令部を置く第33航空群、徳島航空基地に司令部を置く第34航空群、八戸航空基地に司令部を置く第35航空群の5個があり、連合艦隊隷下の航空艦隊も同じような編成であり、合計では保有機だけでも数百とも言われ、海軍全体としての稼働機だけでも300機以上と言われている。

「点呼をとる」

その第31航空群第2飛行隊司令、樋渡中佐に召集されたのが、即応飛行要員として、今日のスクランブル待機に当たっているシーバルカン・ゼロワンの飛行要員だった。

「第2飛行隊飛行長、兼任シーバルカン・ゼロワン、機長、新高少佐」

「シーバルカン・ゼロワン、コ・パイ、赤石中尉」

「シーバルカン・ゼロワン、戦術航空士(タコ)、二上中尉」

「シーバルカン・ゼロワン、ソナー員、足立兵曹。

以上、欠なし」

飛行服とも呼ばれる航空要員用の作業服を着た4人が整列する。

「集まってもらったのは、他でもない。

市ヶ谷の統合参謀本部よりの封緘命令書が届いた。

X時アワーは、05:00(まるごーまるまる)+X 。

第31航空群第2飛行隊最先任の飛行班宛。

発、統合参謀本部。

シーバルカン隊最先任機は、指定座標まで飛行した後、技術研究本部(技本)の開発試験隊より受領の特号機材を投下し、友軍地上部隊の完全制圧を支援せよ、とのことだ」

「特号機材ですか?

そんな装備品ありませんよ」

沿岸警備部隊が採用した哨戒ヘリコプターであるSH-60Mシーカイトは、連合艦隊で採用されていたSH-60Jの再生品に近い。

初期のスペック自体は、連合艦隊現用のSH-60Kに劣るものの、沿岸警備部隊での使用効率向上のためのアップデートを繰り返したために、こと汎用性に関しては、連合艦隊現用のSH-60Kを上回るのだ。

そんなSH-60Mであっても、搭載する装備品の種類は少ない。

乗員が記憶できるほどには、日本皇国軍装備規格に適合してはいても、制式採用や部隊使用承認の形で使用されているものは少ない。

「安心しろ。

今朝方、技術研究本部(技本)から、特号機材が搬入された。

実戦環境評価の名目で使用されるこれは、詳しくはこのマニュアルを読んでくれだそうだ」

そう言って、各自に手渡されたのは、一般的な辞書と見間違えるほどに分厚い本だった。

「えーと、この装備品は暴徒鎮圧用装備であり、斯々然々。

概要は分かった」

目次を飛ばして、次のページから読み進めていた新高少佐が言った。

いくら分厚いと言っても、各自に関係のあるページは少ないらしかった。

「うわー、半分以上が整備マニュアルだよ」

ページをパラパラと捲っていた足立兵曹が呟く。

足立兵曹は整備を担当するであろう第31航空群整備補給大隊第2整備中隊隷下の2個の武器小隊に同情を隠し得なかった。

武器小隊は、第2飛行隊に所属する全航空機に搭載する装備品の点検整備を担当する部隊である。

そんな人数の少ない武器小隊は、短魚雷や空対艦ミサイルを横須賀鎮守府海軍工廠の水雷部の水雷調整所に委ねるという押しつけを行ったとしても、搭載される定数分のソノブイやドアガンとして採用されている74式車載7.62mm機関銃、それの弾薬、自衛用火器としての小銃や拳銃、サブマシンガンの整備などやることなどたくさんあるのだ。

「武器小隊がよく最優先でやってくれたな」

足立兵曹と同じ感想に至ったらしい二上中尉も言う。

「これはまだ、採用品じゃないからな。

武器小隊じゃなくて、技本の要員が整備を担当している。

今も格納庫でやってんじゃないかな?」

「まさか、担当しているのは笠原さんじゃないでしょうね?」

新高少佐の質問に、ニヤリとした樋渡中佐は答えた。

「そのまさかだよ」

技術研究本部(技本)、いや日本皇国陸海空軍の技術開発部門で一番の問題児として名高い技術者、笠原力中尉待遇は、現場の兵士から好評を得るものを作る時もあれば、箸とも棒ともつかない駄作をも平気で作り出す。

「今度、爆発するような代物を、送りつけてみろ。

基地隊の陸警隊に連絡して、この基地を出禁にしてやる」

一回、笠原中尉待遇の持ち込んだ試験装備を使用したSH-60Jが爆発した。

正確には機体の一部が爆発し、墜落した。

奇跡的に乗員は全員助かったが、機体は大破、全損し、日本皇国軍航空部隊に死神笠原の名を轟かせた。

「「「異議なし」」」

そんな笠原中尉待遇への新高少佐の物言いを諫めるどころか、その場の全員が首肯した。

それだけ、死神笠原の名は印象強いものなのだろう。

 

「館山・コントロール。

こちらはシーバルカン・ゼロワン。

我々に付与された任務(ミッション)について、最終確認する。

よろしいか?」

基地の作戦室(ブリーフィング・ルーム)から、SH-60Mの駐機してある格納庫に入り、SH-60Mのコックピットに座った新高少佐が、管制塔に通信を開いた。

『コントロール、了解』

「えー、統合参謀本部よりの命令書によると、シーバルカン隊最先任機は、指定座標まで飛行した後、技術研究本部(技本)の開発試験隊より受領の特号機材を投下し、友軍地上部隊の完全制圧を支援するで、よろしかったですか?」

『はい、間違いはありません。

大丈夫です』

管制塔からの返答を聞いて、新高少佐は、ホッと息を吐いた。

「了解、ありがとう」

通信を切ると、新高少佐は後ろへ振り返った。

「ドアガンは?」

「準備OKです」

ソナー員の足立兵曹の返答を聞いて、大きく頷いた新高少佐は告げる。

「敵兵を見つけ次第、撃ってよし。

逡巡すれば、死ぬのは俺たちだからな」

「了解」

『館山・コントロールよりシーバルカン・ゼロワン。

滑走路へ進入を許可する』

管制塔からのその通信を聞いた新高少佐は、被っていたヘルメットのバイザーを下ろす。

「シーバルカン・ゼロワン、ラジャー」

地上誘導員の誘導のもと、整備員の運転する牽引車により滑走路へ進入する。

滑走路の中央、離陸位置のひとつについた。

牽引車が切り離され、地上誘導員の指示のもと、発動機を始動する。

「エンジン、起動」

整備されたばかりでピカピカなSH-60MのT-700ターボシャフト・エンジンのタービンが吸気を始め、甲高い音をたて始めた。

小気味のいいその音につられるように、操縦桿を握る指がリズムを刻み始める。

ゆっくりとローターが、回り始める。

『館山・コントロールよりシーバルカン・ゼロワン。

離陸を許可する。

離陸後は、方位348、高度50をとれ』

「シーバルカン・ゼロワン、ラジャー。

離陸後は、方位348、高度50をとる」

その音が最高潮に達したときに、管制塔からの離陸許可が下りた。

「館山・コントロール、ラジャー。

グッドラック」

管制塔からの最後の指示を聞いた直後に、一気に最高出力にまで差し掛かる。

「テイクオフ」

機体が地面を蹴ると同時に、前のめりになって一気に加速する。

速度が上がって機体を安定させると、高度を徐々に上げていく。

「羽田の管制空域を抜ける形になりますけど、大丈夫でしょうか?」

「今は東京全体が非常事態だ。

羽田も成田も、いや東京近郊の空港はもれなく飛行禁止の措置がとられているはずだ」

陛下を救出するために出動した第1歩兵旅団以下の4個旅団、24000人を中心とした陸軍、東京湾における治安維持のために出動した横須賀鎮守府艦隊を中心とした海軍、百里に駐屯する1個航空群を中心とした空軍、各自が自らの仕事を進めているのだ。

 

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