階段を駆け下り、第二小隊は地下通路内に突入する。
コンクリートを打ち付けただけの簡単な内装の地下通路には、空調設備が完備されているのか、じめっとした不快な空気はなかった。
『侵入者あり、侵入者あり。
各ブロック封鎖担当下士官は、事前に策定された手順に基づき、封鎖を完了せよ』
日本皇国軍陸軍参謀本部市ヶ谷駐屯地戦闘要項という分厚い本がある。
建物内でのテロ・ゲリラコマンド戦闘の発生を主眼においた作戦計画であり、機密保持のための破壊工作及び侵入者を阻止するための、全ての作戦が記載されているものである。
非常ベルが鳴り響き、警報ランプが赤く染めた地下通路のなかを、慎重に走っていく。
「今回の敵は既に友軍に向け、発砲している。
発見次第、撃ってよし。
分かったな?」
「了解」
前列にいる全員が小銃の代わりに、拳銃を構えている。
「目標、発見」
敵兵の姿を見たとの報告に、堀北少尉たちは、体を硬直させる。
身体の強ばりを解すように、深呼吸してから、地下通路を慎重に進んでいく。
その報告にあった敵兵の姿を捉えたとき、堀北少尉が指示を出した。
「撃って構わん。
射殺しろ」
「周辺の捜索を開始せよ。
改めて言っておくが、敵兵の姿を認めたときは、躊躇わずに撃て。
法律云々よりも、自己の生命の保全が最優先だ」
地下を慎重に進む堀北少尉以下の第二小隊の面々は、敵兵の第二群と激突した。
「撃て、撃て。
奴らを生きて帰すな」
拳銃を振り回しながら、堀北少尉は敵兵の群れに躍り込んでいく。
日本皇国軍市ヶ谷駐屯地国防省本省庁舎地下5階、海軍軍令部フロアの男子トイレに田中大将の姿はあった。
いくら、歴戦の雄たる田中大将であっても、生理現象である尿意には勝てないのだ。
「総長、横鎮司令部よりの報告。
現在、東京湾沿岸部を封鎖を継続中、小型船多数を撃破、1隻を拿捕したとのこと」
海軍軍令部の参謀が、トイレを終えたばかりの田中大将に報告を入れる。
「分かった。
日本海側の各警備実施部隊、さらには太平洋・瀬戸内海側の各警備実施部隊にも警戒を呼び掛けろ。
横鎮にいる
嫌な予感がする」
「了解。
特別偵察中隊は
指示をメモしていた参謀が、改めて聞く。
特別偵察中隊は、特殊部隊として位置付けられている日本皇国海軍陸戦部隊における空挺作戦部隊である。
松江と相浦にいる陸戦大隊が揚陸作戦、江田島にいる特殊制圧部隊、関西空港にいる特殊警備隊が不審船・テロ対処、舞鶴の特殊武装偵察隊や大湊にいる冬季斥候中隊、そして横須賀の特別偵察中隊は偵察作戦に、それぞれ特化している。
特に、特別偵察中隊は空挺作戦に、特殊武装偵察隊は潜水、威力偵察に、冬季斥候中隊は秘密裏に偵察することに長けている。
「武器は甲装備、被服は乙装備を使用せよ」
甲装備とは、野戦装備、つまり陸軍式の戦闘軍装だ。
30発入りの弾倉を装填済みの89式小銃とマガジンポーチに予備弾倉として30発入り弾倉を8個、各種手榴弾を5個ずつ携帯する。
さらに自衛用火器として、何かしらの拳銃1挺と、それの予備弾倉を4個携行し、銃剣や警棒を装備する。
また、必要に応じて、爆薬、その他を携行することもある。
「了解。
すぐに呼びます」
そう返事をした部下は、すぐに立ち去っていく。
『侵入者あり、侵入者あり。
各ブロック封鎖担当下士官は、事前に策定された手順に基づき、封鎖を完了せよ』
スピーカーから、そんな声が聞こえた直後、田中大将の目の前には、黒い服を着た男が現れた。
「「あっ」」
田中大将にとっても、相手にとっても不測の事態であった。
「……えっ?」
「先手必勝」
そう叫んだ田中大将は、呆然と立ち尽くす黒い服を着た男の首を掴むと、そのまま首の骨を折った。
ポキッという案外、軽めの音が響いた後には、それまでは人間だったものだけが残された。
「こんなところにまで、敵兵が来ているのか。
この調子じゃあ、病院の方も危ういな」
男が持っていたサブマシンガンを、手で拾い上げた田中大将は、使えそうなもの全てを剥ぎ取った。
服しか残っていない死体を残して、田中大将は立ち去る。
「敵別動隊、
各部の隔壁の封鎖により、ここまで到達するまで、あと10分はかかる模様」
下士官からの報告に、市ヶ谷駐屯地防衛司令官を兼任する前田大将が頷いた。
「これを機に、一気に殲滅するしかないか。
「了解」
その下士官が、警備システム専用の台を操作する。
「座標は、A7区画、C7区画、D7区画全域とする。
目標となる人物の数が多すぎて役には立っていないようだが、自動警戒排除システムも、未だに起動していることは、それから転送されてきた映像の映るモニター画面を見ていたら分かる。
このシステムは、日本皇国軍の技術研究部門により開発され、販売権の委託を受けたさくら警備保障によって、民生品としても売られている代物である。
いくつかバージョンはあるが、ベースとなる純正品は、空間全体を捉える広角カメラ、顔がはっきり映る高感度カメラ、熱源を感知するサーモグラフィーカメラの3つのカメラと顔認証システムと、これを連結したのが脅威度判定装置であり、これの判断で自動的に排除する。
また、脅威の排除に使用されるエアガン方式のテーザー銃は、購入者が銃刀法に引っ掛からない仕組みにすることを、念頭に開発されている。
国防省に使用されているモデルは純正品で、広角カメラ内に動く目標を捕捉すると、サーモグラフィーカメラと高感度カメラによる精査を開始する。
サーモグラフィーカメラが熱源を感知し、脅威度判定装置により、これが人間であると確認されると、顔認証システムが使用される。
顔認証システムは、高感度カメラが捉えた顔が、データベース上に存在するかを確認する。
そこに、合致するデータがなければ、直ちに攻撃を実施する。
攻撃自体は単純で、圧搾空気により、撃ち出された電極がスタンガンとなる。
この電極はワイヤレスタイプで、銃弾の形をしていて、弾底部と先端部にある特殊金属が互いに接触することで、瞬間的に高圧電流を発生させる。
これに接触した侵入者を昏倒させ、急行した警備員が捕縛するという仕組みで、運用されている。
「第二小隊、接近中。
ここの付近に展開中の、敵別動隊を排除していきます」
モニターを見ていた下士官が叫んだ。
「攻撃中止、攻撃中止。
次の命令を待て」
部屋の外からは銃声が響き渡り、市ヶ谷駐屯地が戦場と化していることを実感させる。
「
田中大将らだろうから、迎えにいく」
「了解しました」
同時刻・市ヶ谷駐屯地病院棟正面玄関
「来るんじゃない。
ここは、この場所は君たちが来る場所じゃない」
3脚に据えられたブローニング12.7㎜機関銃と医官が1人、土嚢の裏ではあったが、ここを通すわけにはいかないという気概に溢れて、立っていた。
それに対抗して睨み合うのが、二十数人の集団である。
彼らの主な武装はAK-74と言った自動小銃で、機関銃の火力をもってしても、制圧できるかは不明である。
彼らは彼らにとって、もっとも重要な任務を与えられていた。
すなわち、佐竹中尉の暗殺である。
皇居攻撃部隊がしくじり、天皇と佐竹中尉をみすみす取り逃がした。
ここで諦めることになったとしたら、実行グループの家族全員の首が飛ぶ。
人質の存在が彼らを、奮い立たせていた。
「そこを退け」
双方の睨み合いが、集団の強引な突破で終結に向かおうとしていたそのときに、ブローニング12.7㎜機関銃が猛然と火を噴いた。
不用意に動いてしまったことで、軍医が引き金を引いてしまったのだ。
やたらめったらに飛ぶ銃弾は、連続して人体に命中すると、その場にミンチを作り出した。
ブローニング12.7㎜機関銃に与えられた
たった3分の射撃で、盾にできるものがなかった集団は、呆気なく全滅した。
「あれ?
やり過ぎたかなあ」
「このまま、
機密庫などには、特殊測量部隊等がいて、防御を固めているはずだ。
ならば、向かう場所は決まってくる。
そう判断した堀北少尉は、最寄りの階段を一気に駆け下った。
第二小隊の面々も、あとに続く。
それは、地下5階に差し掛かった頃のことである。
「ヒャッハー」
世紀末のような掛け声をあげて、大暴れしている人間が来た。
「絶対に撃つなよ、だから撃つな」
日本皇国海軍の黒い制服を着て、MP-5を片手に持ったキングコング…じゃなくて、じゃあ、あれは何だという問題が浮上する。
しばらくして、堀北少尉は答えを得た。
「あれは味方のはずだ、確か」
うろ覚えの記憶の片隅から、引っ張り出した情報は、堀北少尉の国防大学校の同期生である佐竹中尉の叔父、田中大将であった。
「あっ」
中二病チックな言動を、階級的な意味での部下に、そして自分の知り合いの知り合いに、見られたことへの驚愕が、田中大将の表情に表れていた。
そこで、堀北少尉がとった行動は、ことの一切を見なかったことにすることだった。
「第1歩兵連隊第一中隊第二小隊の堀北少尉であります。
海軍軍令部の田中大将ですね?
これより我々は、
「うむ、分かった」
先程までの事態をなかったことにしたい田中大将は、この提案に乗ることにした。
再び第二小隊は、階段を駆け下っていく。
「直ちに排除せよ」
堀北少尉の指示が、小隊全員に送られる。
射撃しながら、遮蔽物から飛び出した兵士は、一気に前進する。
銃弾が飛び交うなかを、普通は着実に前進することは不可能で、それには機関銃が存在が重要なポイントである。
このときの敵側には、それが存在しなかった。
だからこそ、第二小隊の中央突破の成功に繋がったのである。
逃亡する侵入者の追撃部隊として、堀北少尉の指揮下にある2個分隊を送った。
国防省の地下層からの排除を、迅速に行うべきだと判断したのだ。
「第1歩兵連隊第一中隊第二小隊の堀北少尉であります。
統合参謀本部長、参謀総長の皆様がご無事で何よりであります。
報告します。
この周辺より敵兵の大多数を駆逐しました。
これより周辺の捜索を開始します」
「うむ、ご苦労。
ここまで働きづめのようだが、士気は大丈夫かね?」
第二小隊は皇居の戦闘以降、働きづめいや戦いづめであった。
「ご心配おかけします。
まだ、大丈夫だと思います。
では、失礼します」
立ち去った堀北少尉を見送った前田大将に、田中大将が話しかける。
「気になるか?」
「うん、彼は出世しそうだね。
うちの甥っ子と違ってさ」
前田大将には、甥っ子がいたらしい。
といっても、名家の出の人間らしく、我が儘で傍若無人で、勤務評定は低かった。
「よくて中佐、悪かったらこのまま退役だな。
妹の子供なんだが、バリバリの阿呆でな」
「ああ、島野君だったか。
今は、第2近衛連隊にいるんだっけ?」
「ああ、あれはただの無能だよ」
作戦指揮機構のトップとして、前田大将は今回の事態に託つけて、近衛旅団を解隊させるつもりであった。
ただでさえ、癒着や汚職、犯罪の温床となっているとの指摘が相次いでいたのだ。
前田大将のなかで、このことは決定事項となっていた。
家族の情なんてものが、それに介在することは一切ない。
「まあ、妹からどやされるかもしれんが、奴も甘やかすだけが愛情じゃないって分かってるはずだ」
「だと、いいがなあ」
「ひえ~」
陸海空軍の軍令機関の集中するフロアで、防弾仕様の事務机を盾にしながら、抵抗をするのは事務を担当する軍人たちだ。
弾切れで使えないライフルを捨て、腰に差していたピストルを抜いて、1人が1発撃つごとに、30発近いライフル弾が撃ち込まれる。
10式戦車の装甲と同じ部材で作られた事務机は、7.62㎜や5.45㎜のライフル弾によく耐える。
戦車の装甲板の値段が高いことに気付いた調達関係者が、民生品に転用できないかを検討した結果が、この事務机であった。
事務机をベースとして、カウンターが開発されると、銀行などの犯罪に狙われやすい場所で、普及は進んだ。
今では、金庫室の外壁などにも用途が広がってきているのだ。
「弾薬だ、最前列に渡せ」
各フロアに1個はある武器庫に備蓄されている銃弾を、すべてかき集めて、抵抗しているここのような場所が国防省内に多数あり、それぞれが孤立しながらも、味方を信じて抵抗を続けていた。
「味方が来るまでは、戦い抜くぞ」
決意を決めた兵曹長に、部下の兵曹が食いかかる。
「無茶ですよお」
それを無視した兵曹長は、89式小銃を構えて発砲する。
そこには、人間性や法律の介在する余地はなかった。
「無茶でもやるしかないんだ。
これが、俺たちの生き残るための最後の術だ」
「徹底的に捜索しろ。
この中にいるであろうネズミ1匹、見逃すな」
堀北少尉は、部下にそう訓示していた。
その訓示を受けて、第二小隊の全員が動き出した。
「敵を見逃すことは、我が陸軍にとって最大の汚点となるだろうな」
広大な地下空間に散っていった部下たちを見送った堀北少尉は、周辺を警戒しながら言う。
地下7階はクリア、その報告を受けてから、堀北少尉は地下6階の敵兵を掃討し始めた。
「地下5階には、病院棟を含む市ヶ谷駐屯地の施設に連絡する地下通路があったはずだ。
そこに向かうにしても、足元をしっかりと固めないといかんな」
追撃に出動している2個分隊と、相互に連絡を取りつつ、堀北少尉たち、第二小隊は敵兵を挟撃する。
地の利は、互いにない。
ならば、地図なりを持つ方が優位に立てる。
全員が持つ官給品のスマホには、市ヶ谷駐屯地の地図がデータ・リンクを介して、共有されている。
その情報に従い、第二小隊は敵を殲滅した。
地下6階の敵兵の沈黙を確認してから、地下5階に続く階段の途中で、第二小隊の全員に堀北少尉は言った。
「弾薬の補充は済ませておけよ。
1階分の掃討が終わるまでは、絶対にできないからな」
「あんたらも、大概にしつこいなァ」
地下5階の地下通路でも、戦闘が勃発していた。
ここでも、医官が40㎜擲弾を次々に撃ち込み、敵兵を沈黙させていく。
ただでさえ、地下階に病院の重要施設は集中している。
今ここで、ここを突破されるのは、民間のビルが爆破される以上にまずい。
「上はどうやら、片付いたみたいやし。
ここを通すわけには、こっちとしてもいかんのや」
10式戦車の装甲を転用した防火扉に身を隠しながら、銃を乱射する。
日本皇国軍の想定する全ての状況において、この防火扉は優れた頑丈さを誇っていた。
「こっちは、小銃だけやと思うなや」
お手製の爆弾を投げ込んでから、防火扉を閉める。
爆弾に仕掛けられた時限信管には、10秒の猶予しかなかった。
そして、TNT火薬2㎏の威力は、投げ込んだ医官の想像を越えていた。
さっきまで、ひっきりなしに響いていた銃声がなくなり、そんな状況に敵の罠を疑いつつも、医官が顔を出す。
「やったか?」
世界で一番有名なフラグを立てたものの、生身の人間が爆発の衝撃に耐えられるはずもない。
防火扉に殺到していた敵は全滅していて、フラグは不発だったのだが、爆発音に新たな敵が集結し始めていた。
地下5階から爆発音が響いたとき、堀北少尉以下の第二小隊は、地下5階に向かって階段を駆け上がっている最中だった。
「建物内に爆発音。
音源は、5階地下通路付近」
耳のいい兵士が、堀北少尉に報告する。
「小隊、止まれ」
堀北少尉は、部下の報告を聞いて、小隊の進行を止めさせた。
「通信兵、
現状で分かる情報で、詳細なものを要求してくれ」
「了解」
通信兵が問い合わせている間に、第二小隊は作戦を練っていた。
「小隊長、報告。
ただし、新たな集団が接近中とのこと」
「分かった。
一分隊、二分隊は、医官の援護。
三分隊、四分隊は、抵抗を続ける兵士を救出しろ。
分かったな?」
「『了解』」
堀北少尉の指示に、無線機からも周りにいる部下たちからも、承諾の返事が来た。
それに頷いた堀北少尉は、突撃を指示した。
「第二小隊は、直ちに突撃せよ」
階段を上がりきった第二小隊は、分隊ごとに地下5階フロアに突入した。
2ヶ所しかない階段からは、それぞれ20名を越える兵士が雪崩れ込んでいく。
「敵兵!
直ちに排除せよ」
敵兵に出会った分隊長が叫ぶ。
次の瞬間には、銃声が1発響いて、敵兵は倒される。
「もう少しで、地下通路だ」
堀北少尉の率いる2個分隊は、地下構造のなかを縦横無尽に動いていた。
病院に襲撃を仕掛ける彼らの目標は、佐竹中尉の暗殺に違いなかった。
「地上とここ以外には、侵入路はない。
ここを守りきれば、我々の勝利と言うわけだな」
無意識のうちに、そう呟いた堀北少尉は、おもむろに大声をあげた。
「こちらは、日本皇国軍だ。
俺たちは、ここにいるぞ」
突然響いた大声に、振り向いた敵兵の額を、堀北少尉の部下が射抜いた。
挟み撃ちされる形になった敵兵は、次々に倒されていった。
そして、この集団の最後の1人が沈黙するまでに、時間はそれほどかからなかった。
「国防省に攻撃?」
部下からの報告に、素っ頓狂な声をあげたのは、第1旅団の旅団長だった。
「はい。
皇居攻撃に参加した部隊の別動隊のようです」
「はあ…確か、第1歩兵連隊からの報告によると、皇居攻撃に参加したのは900名近くいたよな?」
「はっ、撤退するまでに確認した数を集計すると、850名ほどになるかと思われます」
溜め息を吐きながら、旅団長は部下に確認をとった。
「多すぎるぞ。
これじゃあ、連隊規模じゃないか。
我が国の警備というか、警戒がそれだけ緩かったのか?」
旅団長は、愚痴をこぼした。
これは、その場にいる幕僚たちも思っていたことである。
しかし、彼らとて知らないわけではなかった。
沿岸警備部隊が、どれだけの血を流しながら、国境線を守ってきたかを。
「分かりません」
「まあ、こんなことはくっちゃべってる暇はないな。
それで、国防省の現状は?」
「参謀本部の命令を受けた11中隊の第二小隊が、現状では対応に当たっていますが、負傷者もいて今では高々40人程度に減ってますし、第1歩兵連隊から応援を派遣すべきと、自分は考えます」
残敵掃討の準備中だった第1旅団の各部隊は、まだ戦えるだけの武器弾薬、そして人員を保持していた。
一部の部隊、例えば偵察大隊などはすでに先行して、周辺の捜索を開始している。
「うむ、その通りだと思う。
先遣隊として、とにかく11中隊を送っておけ。
五月雨式の出動は下策中の下策だが、こうなっては致し方あるまい」
「分かりました。
直ちに11中隊を送り、それの報告を待って、後続部隊を送ります」
「よろしく頼む」
「次で最後の階になるであろう1階だ。
1階の敵兵を排除した後、すべてを検索せよ。
敵兵の痕跡を見逃すな」
驚くべきほど短時間で、第二小隊は地下構造物内を掃討し終えていた。
というのも、各階では味方の職員たちの抵抗が続いていたから、それだけ敵兵が分散させられた。
だから、局面局面で第二小隊は、数の優位を作り出すことができたから、奪還は簡単であった。
そして今、第二小隊は1階に踏み込んだ。
1階には、エントランスがある。
国防省事務棟のエントランスは、3階までを吹き抜けにして、開放感に富んだ設計にしつつも、それでいてしっかりとした抗堪性を持たせる構造となるように、配慮されて設計されている。
耐久性に関する一定の基準が、エントランスの各部位に設定されていて、特に地下に繋がる場所の周辺はかなり強固で、50キロトンの戦略核にも耐える設計だ。
「上層部に通ずるシャッターに、異状はありませんでした」
「分かった。
現在、中隊の本隊がこちらに向かっている。
旅団の部隊も非常時に備えて、待機しているらしい。
上層部に通じる場所には警戒要員を置き、敵兵の再びの攻撃に注意せよ」
「了解」
1階の各所に散って、89式小銃を構える将兵たちには、一切の油断も見られなかった。
『第一分隊から小隊長。
11中隊、現着。
状況の報告を要請してきてます』
「小隊長、了解。
今からそっちに行って、俺が報告する」
「了解」
「直ちに、各小隊に状況を報告させ」
皇居内の掃討を終えた第1歩兵連隊第一中隊は、直ちに次の戦いの準備を進めていた。
赤坂に進出していた野戦補給廠から、備蓄分の弾薬を受領させ、赤坂の野戦病院に負傷者を後送していた。
中隊本部の衛生大隊所属の救急車が、多数の負傷者を呑み込んでは、野戦病院へと去っていく。
「旅団司令部よりの命令が、我が中隊宛に送られてきました」
「やっと来たか。
それで内容は、何だ?」
中隊長のいる場所に近寄ってきたのは、中隊付きの通信兵だった。
「はっ、報告します。
第1歩兵連隊第一中隊は、直ちに国防省、市ヶ谷駐屯地に進撃し、敵兵と交戦中の第一中隊隷下の第二小隊を援護せよとのこと」
「分かった。
直ちに出動する。
隷下の部隊に、そう伝えてくれ」
中隊長の言葉に頷いた通信兵は、そのまま立ち去っていった。
「堀北少尉、状況は?」
「報告します。
現在、第二小隊の独力で国防省の本庁舎より敵兵を駆逐。
第一中隊本隊の到着を待って、上層部の確認を行うつもりであります。
また現在、予備警衛員登録者の招集を急がせております」
陸海空軍の市ヶ谷駐屯地の基地警備隊の要員には、死傷者が続出していた。
全体の死傷者は、4割を越えるレベルにまで達し、全滅と判断されるレベルになっていた。
「また、地下の重要区画にある装備品の損害復旧を、当直員には急いでもらっています」
地下区画の一部には、兵器システムのデータを保管している区画、情報本部の行っている諜報や防諜に関する業務のデータを保管している区画、さらには各種レベル機密接触資格者名簿といった最高レベルの機密情報を保管している区画もある。
「うむ、上層部へと繋がる場所に異状は見られなかったのか?」
「はい。
小隊から抽出した警戒要員を各所に配置して、警戒を厳としています」
「分かった。
直ちに確認に移ろう」
国防省庁舎内に突入した第1歩兵連隊第一中隊の活躍によって、国防省内にはもう敵兵がいないことが判明した。
よって第1旅団の活動は、環状7号線内での敵兵の掃討だけとなった。
遅くなっちゃったなあ……