東京都新宿区市ヶ谷・日本皇国軍中央病院特別病室
そこには、今回の騒動における最大の功労者である佐竹中尉が、入院していた。
「目覚めたばかりで悪いのですが、精密検査のお時間です。
ちなみに拒否権はありません」
「では、あなたを拒絶します」
田所少佐の言葉をけんもほろろに、佐竹中尉は拒絶した。
「そんなこと、言わないでくださいよう。
私だって、お仕事なんですよう」
と言って、田所少佐は泣き出した。
なまじ美人なだけに、居心地が悪い。
つまり何が言いたいのかというと、女の涙に男は勝てないということである。
「検査自体は拒否しませんよ。
少し南国の方で、その物の言い方を反省してもらうだけで…」
「沖縄ですか?」
「いいえ、南鳥島です」
「えっ?」
「南鳥島です。
あそこには、鳩間軍曹がおられるので、舐めた口を矯正してくれますよ」
南鳥島は日本皇国海軍南鳥島航空基地があり、日本最東端にある日本皇国海軍沿岸警備部隊の航空基地である。
日米SAR協定に基づき、救難航空機が24時間体制で、スクランブル待機している。
「南鳥島教育隊送りですか?」
「知ってましたか?」
田所少佐は、佐竹中尉の言葉を肯定と受け取った。
そして、南鳥島には指導困難者更正施設、通称南鳥島教育隊が設置されている。
「そりゃあ、もう有名ですからね。
どんなやつでも、好きな人物は舩坂弘、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル、シモ・ヘイヘの殺戮マシーンに変貌します」
「枢軸国の三大チートじゃないですか。
ヤバイですよ、それ」
「南鳥島とはそういうところです」
「それは勘弁してほしいな」
「それはあなたの態度次第ですよ」
じっと田所少佐を見る佐竹中尉の顔は、真剣そのものだった。
「分かりました。
精密検査がありますので、準備をお願いします」
「分かりました」
茶番だなと思いながら、佐竹中尉は検査着に着替えた。
女性の体になって、不便さを感じることはあっても、便利さを感じたことはなかった。
「まずは身体検査です。
体が丸ごと、変わってますからね。
どんなことでも、データが必要です」
日本皇国軍中央病院内には、市ヶ谷地区で働く数千人の健康診断のための施設がある。
そこは、国防省職員、日本皇国軍人の健康管理のための施設である。
「身長を測りますね。
156.5㎝、女性の平均身長ピタリです。
体重は46.5㎏、平均よりは少し軽いですね。
次いきましょう」
場所を移動して、血圧計の前にきた。
「血圧を測ってください」
言われた通り、佐竹中尉は血圧を測る。
「女性軍人の平均からすると、少し低いようですね。
低血圧という訳ではありませんが」
血圧を測った後、田所少佐は巻き尺を取り出した。
心なしか、手がわきわきしている気がする。
「スリーサイズ、測ります。
検査着を脱いでください」
佐竹中尉の精神面も考慮して、スリーサイズについては、田中大将によって国家機密とされ、国防省地下深くの書庫に格納された。
「胸大きいですね。
慎ましい大きさしかない私からしたら、羨ましいです」
バストサイズを測り終わると、田所少佐の手が、佐竹中尉の胸に伸びていく。
「やっ、やめて」
女性特有の快感というものを、はじめて味わうのであろうその身体を、田所少佐は味わおうとしていた。
その時、背後のモニターに、映像が映る。
映ったのは、佐竹中尉の叔父、田中大将であった。
『お痛が過ぎるぞ。
田所少佐、それ以上、手を出すというのならば、中央機動憲兵隊女性介入部隊をそこに突入させる。
そこの様子は、女性軍人にモニターさせてあるし、録画もされている。
田所少佐、君を軍法会議にかけるには、十分な証拠だ。
その事は説明したはずだが、忘れてことに及ぼうものならば、分かってるよなあ』
普段の田中大将からは、想像できないほどのかおの歪みっぷりであった。
憎悪の念が、モニターを震わせていた。
「ひゃ、ひゃい」
その憎悪の念を、まともに受けた田所少佐の声は震えていた。
『では、私はネット小説でも読んでいるので、続けてくれ。
私のおすすめは、『異世界転生?勇者の唇でお願いします』だ』
とんでもない爆弾を落として、田中大将はモニターから消えた。
「仕事をしろォ、この馬鹿ァ」
佐竹中尉は、消えたモニターの先に、声の限り叫んだ。
その声が届いたのかは、不明のままではあるが。
そんな佐竹中尉に、田所少佐は声をかけた。
「では、次いきましょうか?」
視力検査であったり、レントゲンであったりといった健康診断を終わらせた佐竹中尉は、病室に戻るとため息を吐いた。
「はあ、疲れた。
もう寝よ」
「田中総長、この機密データはなんですか?」
午後5時、退庁の準備を進めていた田中大将に詰め寄る人物がいた。
海軍部次官であるアホ(田中大将談)、そして名も無きモブである。
「このとは?」
「私にも閲覧する権利があるレベルのデータ。
なぜパスワードが必要なのですか?
しかも、パスワードはこちらに知らされていない」
田中大将らが内心で、こいつスパイなんじゃないだろうかと、危惧するレベルで、国家機密を閲覧していた。
「だから?
だから、なんだと言うのだ」
「タイトルに個人情報と記入されている。
普段ならば、注意の情報のはずだ」
「あなたは女性のスリーサイズに興味がおありで?
変態ですね」
「は?
スリーサイズゥ!?」
「えと、知らなかったんですか?
タイトルに書いてありますよ」
画面のExcelファイルのタイトルには、特殊薬剤の副作用における身体の変化について(スリーサイズも含む)とある。
「は?」
「これは、見下げ果てた変態ですね。
死ねばよろしいのでは?」
「へ?」
「だから、万が一にも外部に漏洩して、その女性に精神的ショックがあったら、どうするんですか?
責任とれますか?
この変態」
顔を青くした次官に、田中大将が止めをさす。
「変態であるとの結論に、何も言えないようですね。
お帰りはあちらですよ。
さっさと帰らないと、憲兵を呼ぶぞ」
田中大将にそう言われた次官は、すごすごと帰っていった。
「昼は邪魔されましたけど、夜ならば邪魔はいないはず」
夜間の非常灯しかついていない中を、田所少佐は目的地に向かって、静かに歩いていく。
ナースステーションの看護師には、薬を盛った。
邪魔するものはいない。
目的の病室の前まできた。
「昼は楽しめなかった果実を堪能するときがきましたね」
ドアを開け、中に踏み込んだ。
「のーりこちゃーん」
間髪いれずに、ベッドにダイブする。
それは、見事なルパンダイブであった。
「えっ、嘘?」
が、あっけなく制圧された。
組み伏せられ、もがくことすら許されない状態に追い込まれて、田所少佐は自分の状況を理解する。
「このまま意識を失うか、それ以外か選んでください。
今度は昼のようには、いきませんよ。
どうしますか?」
月の光が差し込む病室の中で、身動きができないながらも、田所少佐は次の策を考えていた。
「それ以外でお願いします」
この選択肢で時間が稼げたなら、逆転の目は必ずあるはずと、この時点では考えていた。
「分かりました。
では、一晩私と過ごしましょうか?」
「え?」
「大丈夫です。
痛くしませんし、経験もありますし」
「へ?
経験?」
驚く間もなく、田所少佐は拘束された。
「朝になったら、解放しますよ」
そこから、自室で目覚めるまでの記憶は、田所少佐にはなかった。
「田所少佐、少し話したいんだがいいかね?」
明朝、目が覚めたばかりの田所少佐のもとを訪れたのは、田中大将であった。
「昨夜、中央病院7階のナースステーションの看護師が、全員眠っているのが見つかった。
なお、差し入れのクッキーを食べたら、いつのまにか眠っていたと、全員が証言している。
そのクッキーの出所が、君だと言うことも。
申し開きはあるか?」
「本来なら傷害事件として、憲兵に身柄を渡さねばならんのだが、条件を飲むと言うのなら、不問に付しても構わない。
どうかね?」
「はあ」
「
「は?」
もとより、田所少佐には断ることができないのだが、どういうことか聞き返してしまった。
「いやー、アメリカ軍のお偉いさんからうちの娘を嫁にどうか何て言われてるもんだから、うちで囲んどかないとねえ。
どうする?」
「そのお話、慎んでお受けいたします」
田中大将からの問いかけに、田所少佐は頭を下げた。
「そうか、分かった。
よろしく頼む」
遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
この小説の読者の皆さまの本年の幸せをお祈りします。