WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.4

4月6日(金)早朝5時、日本皇国海軍大阪警備府海軍第1埠頭、沿岸警備部隊所属海防艦"ひなぎく"調理室。

今の時刻は、総員起こしの1時間前である。

繰り返して言うが、起床ラッパの鳴り響く1時間前である。

そんな時間に起きているのは、当直に当たっている兵士で、特に停泊中の現在は最低限の人数を残し、眠りに就いている。

「これでいいか。

芋も柔らかいし、辛さも控えめだ」

海軍の幹部用作業服に錨マークの入った白エプロンを着用した男が、茶色い物体の入った鍋をグツグツ煮込んでいた。

日本皇国海軍の伝統かつ最終兵器(リーサルウェポン)、カレーである。

断じて、生物兵器ではない。

佐竹中尉はメシマズの訳ではないが、茶色い物体と聞いて、そう思った人には、そう訂正しておく。

調理室の辺りにはカレーの匂いが漂っていた。

"ひなぎく"のカレーのレシピによると、小さく切られた人参、じゃが芋と玉葱がトロトロになるまで煮込み、そこに厚く切られたブロックの牛肉がゴロゴロしている。

味付けも甘めで、辛い物が苦手な人も食べやすい。

今回のカレーには間に合わなかったが、鷹の爪、山椒をブレンドした辛味調味料も試作してみた。

次の機会に備えて、大量備蓄しておこう。

 

4月6日(金)午前7時、総員起こしから1時間、朝礼から乾布摩擦、ラジオ体操、日本皇国海軍沿岸警備部隊の慣習となっているスクラムである。

これらを軽くこなして、先任将校としての書類仕事を行いながら、1ヶ月の食事の献立を考える。

(牛の卵とじも有りだな。

後はまあ、他の艦と同じにするか)

国防大学校同期卒業で連合艦隊所属艦に配属された奴でも、ここまで働くことはないはずだ。

なぜなら、その艦にはたくさんの人員が配置されており、初任幹部に過重な仕事が割り振られないからだ。

「佐竹中尉、これは訓練計画と出航計画なんだが、この艦の幹部としての意見が聞きたい」

スペース節約のために、艦長室その他の執務室を廃止しているために、艦長と二人で士官室にて仕事を片付けている。

しかも、艦長と先任将校の寝室は同じ部屋であった。

今の海防艦では男性と女性が艦長もしくは先任将校として被らないように配慮されていたはずである。

仕方なく、士官室に寝袋を持ち込み、そこで寝泊まりをしていた。

「意見と言われても、私のような未熟者に、考え付きません」

「意見は無いか、ではこの計画でいこう」

事務処理の終わった書類が山になっているのを見て、ふと時計を確認する。

「今は11時20分ですか、今からカレーの準備をして来ます」

「もうそんな時間か、私もカレーを楽しみにしている。

早く準備してきて」

 

4月6日(金)12時00分(ヒトフタマルマル) 、艦内食堂。

「久しぶりの手作りの料理だぜ。

旨そうだなぁ」

調理員の転属以来、出来合いの物しか食べてなかった乗員達は、心からワクワクしていた。

「早く食いたいぜ。

この時のために、朝飯は抜いてたんだ。

朝っぱらから、カレーの匂いがして、精神衛生に悪いぜ」

「ほんと拷問だった、生まれて初めて、俺の理性GJって思ったよ」

「そういえば、新人ちゃんはどうよ?

俺、機関科だから、上の様子とかが分からないんだ」

カレーをよそいながら、世間話にこうじる。

古参それに中堅どころの乗員ともなると、自らの居住空間をより良いものにしようと言う心理が働く。

つまり、自分達の上司を査定し始める。

あいつは頼りにならない、使えない、無能など仲間内での評価だから遠慮のない言葉が並ぶ。

「俺が見てきた中でも、かなり優秀な部類なんじゃないか。

まあもう少し様子見をしようかな」

そう言うのは、先任伍長、海防艦"ひなぎく"における最先任の曹長であり、場合によっては幹部からも恐れられる、そんな人物である。

あと2年で退役になるような、軍隊組織の表も裏も知っている人である。

だから、国防大学校出の頭の固い少尉よりも経験を積んでいるし、彼の意見は大抵がそのときの最善もしくは次善策であった。

つまり、幹部からは絶大な信頼を勝ち得ている。

最新鋭駆逐艦やイージス駆逐艦からも乗組の誘いを受けているが、なぜ"ひなぎく"に乗り続けているのかが謎である。

本人いわく、"ひなぎく"が好きだかららしい。

そんな彼の言うことだから、部下たちもすんなり信用する。

「これ準備するだけでも大変だろうな。

後でちゃんと礼はしておけよ」

「了解。

それで今晩の料理は何ですか?」

「んっ、カレーうどんみたいだが」

貼り出されている献立表を確認して伝える。

「そうですか、席に行って、さっさと食いますか」

「おお、そうだな」

「機関科は昼から各部の最終点検です。

出航も近いってことを感じますね」

「砲雷科も、昼から兵装の点検と1週間分の食料の積み込みだ。予定では明日から出航なんだが、今晩には全員が帰艦するだろう」

カレーを口に運びながら、話を続ける。

「そうですか、にしてもカレー旨いですよね」

「ああ、そうだな。

前のやつと大して変わらないな」

「ふぅ、満足です。

じゃあ、上司もうるさいので機関科の方へ戻ります」

 

同時刻、"ひなぎく"士官室

「旨いな」

「今日に関しては、手間も時間もかからないように、カレーうどんです」

海防艦の補給科には、インスタント系の食品、例えば、レトルトのカレーなどが戦闘糧食Ⅲ型として用意されている。

これは、他兵科と兼任することが多い補給科の負担を軽減するためではあるが、それが使用されることは少ない。

それは補給科が少なくない志願者達(料理人)により編成されることが多いためである。

「材料に関してはどうだ?

不足はないか?」

「注文した分も昼には届くので、不足はないと思います。

大阪湾を南下するんですよね?」

カレーを食べながら、今後の予定を確認する。

「ああ、由良基地に寄港したあと、大阪警備府に帰還する予定だ。

特に問題はあるまい」

「さらに由良でも、物資を受け取る予定です」

「俺の見た限りでは、補給と乗員の休養も十分です。

それに久々の手料理を食えて、皆、舞い上がってます」

機関長が告げる。

"ひなぎく"指揮序列第3位であり、叩き上げの特務少尉である。

昼食会兼会議として、士官室を利用していた。

「それでは、午後は各部の整備を念入りにお願いします」

艦長の締めと同時に、3人の幹部は艦内へ散っていく。

 




話数が間違っていたので修正しました。
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