WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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第一章
VOYAGE.6


日本皇国海軍由良基地

和歌山県日高郡由良町に所在する海軍基地で、海軍後方支援群大阪警備府施設管理部隊由良分遣隊が基地管理を担当している。

さらに、ここは紀伊水道に面し、大阪湾の入り口をさしかためる重要な位置にあるため、大阪湾ひいては、瀬戸内海防衛の要石として、由良分駐所を設置、海防艦2隻を含む沿岸警備部隊艦艇が配備されている。

4月7日、23:00(ふたさんまるまる)、由良基地埠頭に停泊中の"ひなぎく"士官室

「1週間と聞いてたんですけど、1日で着きましたよ?」

「すまない。

この書類の打ち間違いだ。

由良から太平洋での外洋各種訓練及び領海監視に1週間の予定だったんだ。

全て、私の落ち度だ。

本当にすまない」

ずいぶんな間違いである。

海軍内でも、懲罰の対象となりうるだろう。

でも、上司で先輩なので強くは言わない。

というか、言えない。

「次からは気を付けてくださいよ」

「ああ、そのつもりだ」

20:00に由良基地に着いた"ひなぎく"はそのまま停泊の位置に到達すると、錨を下ろし、艦を固定させた。

「明日から上陸を許可する。

今日そして明日はゆっくり休め。

そして遊べ。

明後日からは、地獄の訓練が待ってるぞ。

以上」

全艦に放送の形で伝える。

舷門も立てられず、ひっそりと夜は明けていく。

しかし、艦は眠らない。

 

暁の中で空が赤く染まる頃

「おはようございます。

佐竹中尉は早いですね?」

「おはよう。

これでも第二分隊長だからな。

舷門の管理も、船務科(第二分隊)の仕事だ」

海軍人事規則によって、日本皇国海軍軍艦籍にある全ての艦艇に各分隊が編成されていて、各分隊につき1人、分隊長を置いている。

原則として、分隊長は艦長を除く幹部将校しか任じられない上に、兼務も認められていない。

しかし、現状として海防艦には幹部がほとんどいないために下士官を分隊長として任命するか、兼務かのどちらかを選択している。

"ひなぎく"の場合、後者を選択しているが、これらに関して、海軍に改善できる予算も人員もいない(名目上はであり、連合艦隊司令部や至るところにある閑職に居座る無能をクビにすれば、そのどちらも確保できる。)ため、普段は規則にうるさい憲兵隊も黙認している。

「船務科の誰かを呼べばいいじゃないですか?

第一、第二、第四、第五分隊長兼務は忙しいでしょうに」

テントと机、ICカードリーダーを出してきて、埠頭の上に並べておく。

「一応呼んだんだがなぁ」

佐竹中尉は頭をかきながら苦笑する。

「まあ、朝飯は既に準備してます。

手は抜いてますが、手が空いたら食べておいてください」

 

「すみませんでしたぁ。

奴らにはよぉーく言い聞かせますので、平に平にご容赦を」

和歌山県警御坊警察署由良駐在所の前で見事なスライディング土下座を披露したのは、佐竹中尉である。

「海軍さん、頭あげてぇや。

そちらさんには、何の過失も無い言うんは確認がとれてます。

そうでもないと、即保安小隊を呼んでますわ」

保安小隊は、鎮守府以外の海軍施設において基地警備および警察業務を担当しており、海軍最後の良心とも呼ばれている。

鎮守府では憲兵隊が編成されていて、こちらは海軍の管轄ではなく、国防省人事監察本部が管轄し、小規模基地において重大事件が発生した場合、保安小隊ではなく憲兵隊が捜査を担当する。

とまぁ、ややこしい構図となっている。

「正直なところ、奴らが黙ってくれて助かったんですわ。

あの中の一人が、地元の有力者の息子でしてな。

どこで左翼にかぶれたのか、地元(ここ)に帰るなり、やりたい放題でみんな困ってたんですわ」

由良の町に遊びに出掛けた"ひなぎく"乗員達は、男達に絡まれ、警察のお世話になったと言う。

そう連絡を受けて、駆け付けた佐竹中尉の見たものは、お茶と煎餅を出され、もてなされている部下達であった。

「ただ、もっと盛大にあちら側にやってほしかったですわ。

それなら、こっちも微罪じゃなく即逮捕できましたのに」

「わたしらは連合艦隊のやつらとは違います。

あいつらなら、骨の1本や2本いったかもしれませんが」

「ハハハ、違いねぇや」

1人の言葉に全員が肯定を返す。

「少しは謝れ。

少しは反省しろ。」

全員に鉄拳制裁を喰らわせる。

「ずびばぜんでじたぁ」

「よろしい。

お巡りさん、お世話になりました」

鼻血を流し、顔の歪んでいる連中を縄で縛り上げて、由良基地まで連行する。

和歌山県警の警察官もこれには苦笑するしかない。

「お前ら全員、これから1ヶ月の寄港先での上陸を禁止する。

どうせ、大阪近海しか彷徨かないから、大丈夫だろ?」

後ろで愕然としているようだ。

歩きが鈍い。

「ちゃっちゃと、動け。

全員、昼飯抜きにするぞ」

「「「「んな、殺生な~。

慈悲を、慈悲をプリーズ」」」」

「そう言うなら、反省しやがれ。

居残る兵士達の晩飯作ってたんだぞ。

こちとら」

「ハイハイ」

 

宴会(仮)

「大型艦ならな、提灯行列って言うのがあって、幹部総出で宴会をやるんだが、この船にはそんなにいないから、無理そうだな。

よし、酒買ってやろうぜ?」

「よし、やろうぜ、じゃありません。

本艦は明日にでも、外洋に出航し、各訓練及び領海監視任務につく事となっています。

二日酔いでその予定ぶち壊すつもりですか?」

艦長の申し出を、脱兎のごとくピシャッと撥ね退ける。

「でも、だって…」

「でももだっても、ありません。

こんなことを言わせるなんて、私はあなたの母親ですか?

違うでしょう?」

往生際の悪い艦長を一喝する。

「ハイ」

項垂れる艦長をフォローするのも、部下の仕事だ。

(で、あれ、何でこんなに忙しいんだっけ?)

人間、ふとした瞬間にどうでもいいことを思い出すものである。

「また、大阪に戻ったらやりましょうね?

ですから、今日のところは諦めましょうね?」

「うん、そうする」

未だに、グスングスン言っている艦長は納得したのか素直に戻っていく。

(それにしても、あの人のキャラが掴みにくいな。

見た目通りの大人な女性と言うところもあれば、さっきみたいな子供っぽいところもある)

心の中で分析してみても、答えはでない。

 

出航

由良基地を発った"ひなぎく"は3日間の航海の末、警備区境界線の端に近付いていた。

紀伊半島南端を少し三重県に入ったところである。

それ以上は、伊勢湾警備も担当する名古屋警備府及びそれに付随する分駐所の担当である。

「艦回頭、180」

大きく円を描きながら、旋回する。

「今だと、旋回半径が無闇に大きいだろう?

そんな時には錨を使うこともある。

これは非常手段であるからして、錨を切る必要もあって、面倒だ」

通信兵が駆け込んでくる。

「海軍気象部大阪方面分遣隊よりの最新の気象報告です。

読み上げます。

南南東、やや強い風。

紀伊半島より突き出てくる低気圧の影響により、ところにより強い雨。

波浪に注意。

以上」

「了解。

全艦に発令。

訓練中止、訓練中止。

天候により、遭難船の発生が増える可能性がある。

十分に警戒せよ」

言いたいことを言い終わると、インカムを下ろす。

「暖かいお茶用意してきます」

たった1人の第四分隊(補給科)として、やることはたくさんある。

しかし、事態は予想の遥か上を行っていた。

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