ドラゴンクエストⅩ 招かれし光の戦士 オフライン 作:プードル警部
うん、ごめん僕が悪かったよ。確かに口癖のように暇だ暇だ言ってうだうだしてたともよ。会社と自宅を往復する毎日。これから何十年も続けることになるだろうルーチンワークに飽き飽きしていたさ。そうだな、刺激的なことが何か起きないかって常日頃から心のどこかで思ってたよ。隕石が日本に降ってきても構わないとさえ感じていた。うん、認める認めるからさ……
――タスク……タスク……私の声が 聞こえますね…――
「誰かこの状況説明して下さい。お願いしますから」
別に何が特別だって訳もなくいたって普通の平日の夜、小暮
(うーん今日はバハ行かない日だから別にインしてもやる事ないんだよなあ。いやなくはないけどさ)
助が自宅で過ごす時間のほとんどは睡眠とゲームの二つになる。起きる、働く、ゲームする、寝る。非生産的と言うなかれゲームは助にとって大事なストレス解消の手段であるのだ。働いて溜まったストレスをゲームと睡眠で解消する。インドア派であればある程度の人の理解は得られるだろう方法だ。アウトドア派から見ればドン引きかもしれない。そもそも見られないかもしれない。
(とりあえずエキスパ回して、あとは適当にフレとおしゃべりでもするかね)
今現在、助が起動しようとしているゲーム、ファイナルファンタジーXIV 新生エオルゼア(FF14)はオンラインゲーム、ネトゲと呼ばれるものであり、多人数参加型のゲームである。ネトゲというものは基本終わりがなくとにかく時間を潰せる。毎日ゲームをプレイする助にとってはピッタリでありこのFF14のサービス開始前にも数々のネトゲを転々としていた。
(あっちゃー残念、入った瞬間緊急メンテのお知らせか。どうしようかな、本読む気分でもないし、うーむ)
FFにログインした直後にメンテナンスのお知らせがチャット欄に飛び込んでくる。タイミングが悪いことに20分後から始まるようだ。20分じゃほとんどなにもできない。釣りくらいしかできない。いやヌシだったら無理だ。仕方がないからネットサーフィンでもするかとゲームのニュースをまとめているサイトを開くと、
(お!ドラクエ10が無料期間なのか)
ドラゴンクエストXは助がFFの前にやっていたネトゲである。小学校のときから生粋のドラクエ派であった助は(じゃあなんでFFやってんだというツッコミは右から左へ受け流す。)当然ドラクエ10にも手を出していた。ドラクエという名作RPGのナンバリングをネトゲで出すことに賛否両論あったようだがネトゲもドラクエも好きな助は見事にのめり込んだ。ガンガンズンズングイグイのめり込みすぎてやる事がなくなった。そしてFFに移ってきたという経緯だ。ちなみに最近はFFですらやることないと日々嘆いている。
(ストーリーは本当に面白かったんだよな。追加要素も僕がやってた頃と比べたらかなり増えているだろうしちょっとやってみようかな。)
試しに起動しようとフォルダの奥にしまってあったスライムのアイコンをクリックする。1年以上起動すらしていなかったおかげで溜りに溜ったアップデートがゲーム用に買った無駄にハイスペックなPCでサクサク進んでいく。
(よし終わった終わった、いざ往かんアストルティアの大地へ!)
その瞬間、まばゆい光がモニターから放たれた!その閃光は一瞬にして助の目に大ダメージを与えた!
閃光呪文ギラのように!どうでもいいが助はドラクエ9でのギラのリストラに割とマジにショックを受けて数日凹んだ。
「ぐわああああぁぁぁぁあああああああ!!??ななななにごとですかあああああああ!!!?」
た、タスクダイーン!!!!
そして気が付けば森の中であった。瑞々しい空気、どことなく神々しい風の音、正面の木々の隙間からは暖かな光が差し込んでいる。背後は濃い緑に彩られたクマさんに出会いそうな深い森である。100エーカーはありそう。
(とりあえず前に進むしかないよな。)
とりあえず光差す正面へと歩を進める。光の量からしてすぐ開けたところに出ると読んでいた。ゲームばっかしてる割に足取りはしっかりと大地を踏みしめ進んでいく。案の定少し進んだところで森は抜けた。
(おおー!すごい景色)
目の前に広がるのは轟々と流れ落ちる圧倒的な蒼。思わず見とれてしまうような絶景であった。状況が状況でなければ感動で涙が溢れてきたかもしれないそんなことを感じさせる景色。だが非常に残念なことに今はその時ではない。
(でも崖って……これからどうすればいいのさ……)
そう、部屋にいたと思ったら森、森を抜けたと思ったら断崖絶壁。助はもう泣きそうである。涙腺弱いからね仕方ないね。自分でも何をしているか分からぬまま一歩一歩崖へ足を進めていく。やけくそである。たどり着いた崖の切っ先。その瞬間脳裏に雑音が走る。
――……ク ………
タ……ス……――
(こいつ直接脳内に……!ってそれどころじゃない!なんて言ってんだ、助けて……?)
それが自分の名前であるという可能性を全く考慮してない助はか細い声を聞き取ろうと耳をそばだてた。ちなみに脳内に直接話しかけてるから耳は関係ない。無意味な行動である。だがちょうど脳内の声の主も助の頭脳に波長を合わせられたらしく今度は声が明瞭に聞こえてきた。
――タスク……タスク……私の声が 聞こえますね…――
(あれ、このセリフどこかで……)
――突然で驚かせてしまいましたね……私は偉大なる精霊ルビス様に仕える者あなたを一時的に呼び出させて頂きました――
「精霊ルビスだって……!?」
思わず声に出るほどの驚愕、それはそうだ精霊ルビスといえばドラゴンクエストシリーズに登場する有名な精霊であり大地を創造するほどの力を持つ神に匹敵する存在である。そしてルビスの名を聞いて助の頭に閃光が走る(ギラではない)。
「そうかこの景色!これはドラクエ3の最初の性格診断!」
――ええ、あなたが言うとおり勇者の血を受け継ぐ者に性格診断を施し導いたこともあります――
「そのルビス様の従者の方が僕を呼び出しただなんて……」
助の頭の中は混乱しきってグチャグチャだった。ただ普通にPCをいじっていただけなのにこの超展開、無理もないことではある。その通りであるのだがここまでの流れになにかおかしな点はなかっただろうか。いや明らかにおかしいことが起きている。なぜならここで普通の人なら真っ先に疑うであろうことを助本人は思い至っていないからだ。いや無意識にそれはないと確信
それはこの聖域と言ってもいい場所ゆえであり、その聖域を生み出したこの声の主の力が並外れているということを示しているのだが助にそんなこと知る由もない。ただこの突拍子もない事実をどうにか受け止める為に会話をするしかない。するしかないのだが取り合えず目下の課題があった。
「すいませんほんと落ちそうで怖いので場所を移してもらえますか……」
助の涙腺は本日二度目の緩みを見せていた。マジで号泣する5秒前であった。しょうもないが、確かに高所恐怖症ではなくてもこの断崖絶壁は恐ろしい。
――配慮が足りませんでしたね、では一先ずは……――
その声が響いたとたんまた助の目を光が満たす。助は今度は目を閉じることができた。人間進歩する生き物である。やったね!
光が収まるとゆっくりとまぶたを持ち上げた。するとそこには見慣れた自分の部屋が広がっていた。
「戻ってきた……のか…ってじゃあ何のためにあんな場所に飛ばされたんだよ!!」
「それは勿論あなたに現状を理解していただくためですよ」
はっきりとした声。今度は間違いなく耳から入ってきている。素早く声の方に振り向くと、そこには淡い緑色の髪を靡かせた神秘的な女性が佇んでいた。物語に出てくるようなその類稀なルックスは非現実的でありそれを象徴するように半透明の羽と思しきものが生えているのがわかる。
「あなたはさっきの……?」
「ええ、あなたを呼び出しそして話しかけたのは私です。あなたには協力してもらいたいことがあるのですが、まず説明が必要でしょうね」
「は、はいその通りですもう何がなんだか」
「ふむ、まず質問はまとめて後で受け付けますので私の話を聞いてもらいましょうか」
「それでかまいません」
とりあえずは情報。情報がなければ考える余地すらない。助は真剣に耳を傾けた。
「まず私はルビス様に仕える妖精というのは先ほど申したとおりです、そうなると当然ルビス様のお心のためにあなたに接触したわけです。」
彼女が妖精というのは初耳ではあったがツッコむ野暮なマネはしない。助出来る子だから。
「ルビス様はいくつかの世界を創造され、そしてその世界を含めた多くの世界の調和を守り平定なさっています」
つまり自分が作った世界以外の面倒も見ているという訳だ。助の頭の中でルビス=保母さんという図式が出来上がる。
「ルビス様の力はとても強いですがそれゆえに直接世界に干渉なさることはありません。簡単に世界の均衡が壊れてしまいますから」
助の頭の中のルビス像がだんだんマッチョになっていく。
「世界自体にも力はあり自浄作用のようにバランスを保とうと努力するのですが、それでもどうしようもない絶対的な出来事が起きたときに、ルビス様はそれをどうにかする為に間接的な干渉を行います。その干渉の方法の1つが、あなたが認識している勇者というものです」
助はマッチョな保母さんが剣を持ったナイスガイを出産した想像を……できなかった。そこはかとなくルビスの意思が邪魔をしているような気がする。汚ねえぞ!
「ここからが本題なのですが、最近ある世界が困ったことになってましてね。闇の化身と呼ばれる存在が世界を征服しようと企んでいます。いや世界征服を企む存在なんてそれこそ割とポピュラーなので普通ならルビス様が動くことじゃないんですけどね」
世界征服はポピュラーらしい。みんなも目指せばいいんじゃないかな。
「闇の化身はなんと周辺世界の闇を一部吸収、とてもではないですがその世界の力のみで対抗できる範囲ではなくなってしまったのです」
ここまで言われると助にもなんとなく話の矛先が見えてきつつある。疑問は山ほどあるが。
「ルビス様は当然世界に影響を与えない範囲で干渉され、その世界で元々生まれるはずの勇者の力を強くしたり、できうる限りの方法で闇と対になる存在のを大きくしましたがどうしても闇の化身には一歩及ばないのです。こちらがこれ以上干渉すると世界を征服されるどころか世界を丸ごと壊してしまいかねないというのに……」
それじゃあ元も子もないという訳か。
「そこでルビス様は考えられました。相手が別世界の力を利用するならこちらも利用させてもらおうと。世界を人や物が転移することは確かに珍しいですが決して全く起きないことではありませんから、世界に与える影響はそこまで大きいものではありません。世界を救う為に他の世界から助けを借りる。そのため選ばれたのがタスク、あなたなのです」
一区切りついたからか一旦彼女は言葉を切った。まだ話はあるようだがそろそろ聞きたいことが溜まってきたな。
「すいません、キリがいいところのようですし、質問をさせてもらっても……?」
「どうぞ、あなたに理解していただくことは大事ですからね」
出会った当初から彼女は彼女から見たらただの矮小な人間である助に親切に対応してきた。ルビスに選ばれたというのもあるのだろうがそもそもそれは何故なのか?
「ルビス様はなぜ僕を選んだのでしょう?ただの人間である僕に世界の危機を救うだなんてとても出来るとは思えないのですが」
それは当然の疑問であった。どうせ助っ人を呼ぶのなら強いほうが良いに決まっている。肉体的な強さは勿論のこと、おそらく様々な世界の中には魔法や超能力といった助には想像も出来ない能力が当たり前のように存在する。闇の化身だなんてファンタジーな相手に対抗できるのはまたファンタジーな存在なのではないだろうか。
「そうですね。正直に申し上げてしまえばあなたに特別な資質があるだとかなにか覚醒して急激に強くなる、といったことはないです。多少この世界の中では魔力が多いほうではありますがそれも一般の枠から逸脱しているほどではありません」
「ちょ、ちょっと待ってください。突然こんなことに巻き込まれたそんな平凡な僕に助けて欲しいだなんて……まさか人違いなんてオチじゃないですよね!?」
顔が似ている誰かと取り違えたとか……超常の存在である彼女がまさかとは思うが……
「いいえ、あなた
「では一体?」
「そう、私たちがあなたを救世主として選んだその訳は、その、目の前のパソコンのゲームにあるのです」
「は?」
ゲームが世界と一体何の関係が……?というかファンタジーからいきなり方向性変わったな。
「あなたがゲーム内で操っていた光の戦士の力の一部や、クリスタルの祝福をもって、その光の力でアストルティアを陥れようとする闇を打ち払う手伝いをしてもらいたいのです」
助は眩暈がした。帰宅してから今までもう散々な出来事が起きたが脳が理解し許容できる量を超えてしまったようだ。とりあえず半分が優しさで出来ているお薬はどこにあったっけ?と現実逃避を始めるのであった。