ドラゴンクエストⅩ 招かれし光の戦士 オフライン 作:プードル警部
「粗茶ですが」
「ああ、お構いなく」
ずずっ……とお茶を飲む姿がやたら似合っている妖精さんをぼんやりと眺めつつ、助は自分がようやくある程度落ち着くことが出来たのを実感した。あ茶柱立ってる、助はちょっぴり嬉しくなった。
「さて、ある程度心の整理は出来ましたか?」
「はい、お恥ずかしいところをお見せしました」
「いいのです。当然の反応だと思いますから」
FF14の力やるから世界何とかしてくれ!発言の後、混乱のあまり思考停止してしまい数分棒立ちになってしまった。その状態の助に声をかけることもなく、うっすら笑みを浮かべながら黙って待っていた彼女もなかなかにイイ性格をしているようだ。
「えーっとまだ質問してもいいですかね?」
「どうぞどうぞ」
「僕に光の戦士の力を与えるから世界を救えっておっしゃりましたけど、そんな面倒なことをしなくても直接光の戦士を呼ぶわけにはいかないのですか?」
当たり前といえば当たり前の疑問。なぜわざわざ助を経由させる必要があるのだろうか。助は弱い。ハンマーで殴ったら死ぬし、東京湾に沈めても死ぬし、光の速さでチクワをぶつけても多分死ぬ。
「それができないのですよ……困ったことに闇の化身に対抗できる光の力をもった存在がいて、なおかつ救って欲しい世界、あなたの世界の言葉に合わせますと、DQ10の世界に一番近いのはFF14の世界です。しかし一番近い世界といってもとてつもなく遠いのです。」
世界に近い遠いがあるのか。夜空の天体、地球と他の惑星の関係みたいなものだろうか。
「この遠さのまま無理やり引っ張ってくるとなるとルビス様といえどもかなりのお力を使わざるを得ません。そうなると世界に与える影響も大きくなってしまいます。もうDQ10の世界はそれだけの力に耐えらません。」
なるほど直接光の戦士を持ってくることは出来ない。となるとどこかを経由してやればいい。
「そこで選ばれたのがこの世界なのです。この世界には二つの世界がどちらもゲームという形で存在しています。この接点を利用すれば、人間を運ぶのは無理だとしてもFF14の世界の力だけならなんとか持ってくることが出来ます。」
つまりこの助にとっての現実世界がハブ空港のようになり双方の世界に力の移動を行えるようにするということだ。
「一応理屈はわかりました。この世界が選ばれた理由などは。ですがまだこの世界で僕が選ばれた理由というのは分かりません。両方のゲームをやったことがある人なんて日本だけでもかなりいるでしょう?」
月額課金のネトゲというだけで倦厭するひとは大勢いるが、なんといってもこの二つのゲームは国民的名作RPGのナンバリングタイトルである。他のネトゲなんかに比べると知名度が段違いだ。それを考慮すると両方手を出した人は世界中を探すとなると確かに多いとは決していえないが少なくない人数になるだろう。
「それはそのとおりですね。ではあなたを選んだ理由をずばり言いますと……」
「言いますと……?」
「まず1つに両方の世界をかなり把握している人物だということ。2つめに体が完璧に正常で五体満足であること。最後に魔力をもっていること。この条件を満たしている人物がタスク、あなたなのです」
「それだけ……ですか……?」
なんというか思ったより普通というか軽い条件であるように思える。最後の魔力うんぬんはよくわからないが。確かに助はどちらのゲームもやり込んだ。やり込んだがトップランカーと呼ばれる上位集団とは比べることもおこがましいくらいの差がある。そしてDQ10にいたっては1年以上プレイしていない。休止中に発売された、追加ディスクの情報など全く知らないのだ。従ってその程度の把握でいいのなら1つ目の条件はかなりゆるいものであると言える。2つ目も健康な人間なんぞ腐るほどいるだろう。となるとやはり魔力が関係してくるのだろうか。
「あなたは疑問に思っているようですが、まあまず1つ目の条件はクリアしてる方は多いです。ですが2つ目この条件はなかなか厳しいです。
「そういうことなら確かに思ったよりは少ないかもしれませんね」
「そして最後の魔力をもっていること、これはもうかなり稀少ですね。この世界においては何の役にも立ちませんが」
ちょっと喜んだところにウォーターを差さないで欲しい。
「この3つの条件を満たしている人間はこの世界で7人しかいませんでした」
「7人?あれ僕だけじゃないんですか?」
「実は7人の中からあなたを選んだのは私の直感のようなものです」
「直感?」
なんだろう将来性を感じたとか、そんなことだろうか。と考える助はかなりポジティブだ。あいつはポジティブ。
「ずばりタスクあなたの名前が決め手ですよ!」
「名前って、ちょっとまさか……」
「助と書いてタスクと読むだなんて、もう世界を助けるために生まれた人物ということですよね!」
「いや違うよ!?名づけたうちの両親はもっと小規模なものを助けることを望んでいたはずだよ!?」
まさか自分の息子に世界を救えだなんて偉業を求める人間が現代日本に住んでいるはずもない。
「もういいじゃないですか。世界救っときましょうよ話に飽きました」
「何で急に態度崩した!?」
「妖精って本当に集中力が持たないのよね~ってルビス様が嘆いておられました」
「こっちが素かい!」
急に気安くなった妖精に助の好感度はむしろ上昇。彼自身も適当な感じのほうがやりやすいのだ。これ以後妖精には適当に対応することを決めた。
「というかタスクにとってかなりお得なプランなんですよ?光の戦士の力、あなたの育てていたキャラクターの力になりますがその一部を与えて送ることになるので最初からそこそこ強いですし、飛ばされるアストルティアもあなたならある程度勝手が分かっていますよね。さらに重要ですがもしあなたが死が目前に迫ったような命の危険に直面した場合、ルビス様の加護によりこのあなたの世界に帰還させることが出来ます」
「プランってあんた……って、というとつまり絶対に死ぬことはないと?」
「勿論です。こちらが助けを求めているのですから最低限の安全を確保することはこちらの義務ですよ、そして世界を助けるという依頼が完了すればこの世界に送った後に報酬も用意させていただきます」
「それは確かにお得というかうまい話すぎる……」
それならアリである。もともと刺激的なものに飢えていた助は既に8割以上話に乗る気でいる。どうでもいいけどシゲキックスっておいしいよね。
「アストルティアで何年過ごしても肉体年齢はそのままに、こちらの世界に帰還したときにはあなたを送り出した時間に返すことになります」
「それもまた痒いところに手が届く配慮で」
「そしてこれが一番嬉しいんじゃないですかね?」
乱暴に考えてしまえばタダでリアルと寸分変わらないVRMMOをプレイできるようなものである。パっと考えた中で一番の問題点であった時間の問題も追求する前に解決させられてしまった。そして散々おいしい条件をチラつかせた後のとっておき。助はもうメロメロである。
「なんとこの私があなたと一緒に世界に乗り込みます!あなたを常にそばでサポートしますよ」
「おお!それはほんとに素晴らしい!」
知り合いが誰もいない世界に一人というのは心細いであろうから、実に助かることである。妖精的にはちょっとしたボケであったらしく、素直に喜ばれたことに目を丸くしていたがやがて朗らかな笑みを浮かべた。
「ではこの件を受けていただけるということで構いませんね」
「ああ、是非」
助のハッピーな頭の中はもうまだ見ぬ剣と魔法の世界でいっぱいである。何持ってけばいいんだろう。バナナはおやつに入るのかな?シゲキックスとスッパムーチョは外せないよな。などと遠足気分だ。
「まずはあなたに力を授けます。えーっとえーっと、あちょっと前失礼しますね」
おもむろにパソコンモニターに歩み寄る妖精。慣れた手つきでマウスを動かし始める。
「んーとここをこうして、このアイコンクリックして、できました。タスクこちらへどうぞ」
緊張した顔つきで妖精の隣に立つ助。
「いきますっ……アーレサンドウ マーキャ。 ネーハイ キサント ベシテ。 パラキレ ベニベニ パラキレ……。」
「おいそれ絶対違うやつだろ」
「詠唱は飾りです。妖精の魔法は気合が9割です」
「なら問題なし」
そして数秒後にわかに眩く光りだす助の体。本日何度目かの閃光トラップ発動である。
「アッヒョッッッッ!!!!!またかよおおおおおおおおおお!」
一拍おいてからのこのトラップに助は奇声をあげながらひっかかり目を傷める。閃光VS助の勝負は2対1で閃光が勝ち越している。ちなみに妖精は助のリアクションはガンスルーで目をつぶっていた。
「これであなたには力が宿りました。あなたの作ったキャラクターメインジョブ吟遊詩人のEclair Evansの能力の一部がです」
「僕にエクレアちゃんの力が……」
自分の作ったキャラにちゃんをつけて呼んでいることにドン引きしてはいけない。いいね?
「力だけでなく経験や知識も移したので弓の引き方など自然と分かるはずですよ」
「ほんとだ、頭でも体でも覚えているというか、箸のと使うのと同じように弓を使えそうだ」
スキルの使い方も把握できる、弓さえあれば今すぐにでも狩りができそうだ。
「では力は問題なく継承できたようですし早く旅立って試し打ちしたいところでしょうが、時間はたっぷりあります。世界を後にする前に出かける準備とかを終わらせてからにしましょう。私は鯖の缶詰を持ち込みたいです」
どこからもってきたのか鯖の水煮の缶詰を大事そうに両手で持つ妖精さんを横目に、クローゼットを引っかきまわして乾パン、ミネラルウォーターなどの非常食を入れておいた袋を取り出す。今はツッコむ時間が惜しい。助は早く弓を放ってみたいのだ。
「私はできる妖精なのでタスクの武器である弓、それにテントや火打石、ナイフといった冒険必需品は既に用意しているのです。ですからそれ以外でなにか必要そうなものを……」
――ッバツン
妖精が到底テントどころかペットボトルさえ入りそうもない袋をポケットから取り出しぷらぷら揺らしながらしゃべっている途中で、パソコンのモニターが真っ暗になる。
「またか、最近多いんだよな突然電源きれるの。電源いかれたのかな」
まあいいやと準備の続きをしようと振り向くと妖精がなにやら呆然としていた。助が思わず声をかけようとした瞬間、我に返ったようで。
「ああああああまずいです!!!転移はじまっちゃいますよおおおおおお!!!」
「えっちょっ!!時間たっぷりあるって!!!」
「魔力の供給がわずらわしかったのでちょちょっとパソコンと転移の術式を連動させていたのです!それなのにパソコンからの電源供給がきれたからああああ!」
「横着するからそうなるんだよおおおお!」
「あ、ちょっとまってください。とりあえず鯖だけは死守で」
「鯖じゃなくてもっとなんかあるだろう!!ほらえっとなんだ!」
「出てこないじゃないですか!あもう飛びまs…」
その時視界全体がぐにゃりと歪みだす。どこからともなく高い音が聞こえてきて意識が薄れていく。なるほど旅の扉ってこんな感じなのね。光った瞬間目をつぶるつもりであった助は、ちょっぴり残念な気持ちになった。
「あれ……何がどうなって……たしか世界を転移したんだよな…」
いつのまにか横になっていた助が起き上がりながら目を開けるとそこは一面の緑だった。腰の高さまで生え揃う草が見渡す限り広がっている。ここで助は妖精の存在を思い出す。彼女の話なら一緒に転移してきているはずなのだが。
「私はここですよ~!」
突然地面に落ちていた袋がバサバサと揺れだし、中から茶色のしっかりとした装飾の施された本が飛び出した。
「私のような妖精はこの世界でも珍しいですからね。変化してお供したいところだったのですが。魔力も転移でだいぶ持っていかれましたしとりあえずこの本に宿って休んでいますね」
「それってどうなのさ、常にそばでサポートとか言ってなかった?」
「心の準備もなしの緊急転移でしたからしょうがないじゃないですか」
「まあそれはいいよ、正直会話が出来るってだけでも助かる」
寂しがりやな助はきっと攻撃が上がって防御が下がる個体値だ。
「まず私がもってきた袋をあけて地図を取り出しまs……」
――ッドシン
あ、これまた嫌な事がおこるやつや。後ろから響く大地を震わす音に、声もなく振り向いた助が見たものは。
「「……」」
大きな目がチャームポイント!青いお肌はぴっちぴち!手に携えた棍棒はチョーイカス!!そんな彼(彼女?)が目と鼻の先に迫っている光景だった。
「ギガンテスさんですかこんにちはです」
「いや肌の色と衣装の色的にサイクロプス氏だね。グーテンターク」
実に息の合った現実逃避であった。