ドラゴンクエストⅩ 招かれし光の戦士 オフライン 作:プードル警部
キャラが中々思ったとおりに進んでくれません。タスケテケスタ。
世界を越えてまず最初にやったことは……全力でのダッシュでした……
『ゴガァァァアアアアアア!!!』
「ヒャピッィイイイイイイ」
「ほらこの袋に弓がありますから、軽くのしてやってくださいよ」
「っはあ、はあ、無理だっ、て止まった、瞬間、ぜってー、っはあ、殺される」
後ろからというより足元から伝わってくる化け物じみた地響きが、ヤツが後ろを追ってきていることを雄弁に語っていた。
走る、走るひた走る。本の姿の妖精は宙に浮かんで併走しながら叱咤してくる。
「大丈夫ですって!あなたには力があるんですよ!」
「それは、ッグ、分かるけど、それって、サイクロプスっ、倒せるレベルなんすか、ねえ」
「……」
「なんで黙るんだよおおおおおおおお!」
「大丈夫ですってほら、タスクは目が2つアイツは目が1つ、勝てない理由がないですね」
「その他諸々無視しすぎだろ!?」
明らかに今までの人生での全速力を超えたスピードでのフルスロットルで、数分も走り続けられたことが、助の身体能力向上を示していた。しかしそれでも限界はくる。
「畜生!まだっ、追ってくるのかよっ!?」
「ダメです、振り切れません。そもそもコンパスの長さからして違いすぎるんです」
「図体がでかいヤツはっ、足が遅いっていうお約束をっ、クソッ、知らないのかアイツはぁ!?」
『ヌングッッ――』
――その時頭の直ぐ後ろから突風が襲ってきた
「タスクッ!!」
「ぐぁっっあああ!?」
思いっきり前に吹っ飛ばされるも何とか受身を取る。本当にこの体は優秀だ。
「ハハッ、あいつが空ぶっただけでこの威力……」
「直撃したら現実世界へお早いお帰りになりますね……」
――ズシリ
「覚悟を決めるしかないか」
「先ほどはのしてしまえなんて言いましたが、勿論冗談ですからね?なんとか怯ませるなり足止めするなりしたらトンズラですよ」
「わかってる。初めてのモンスターがコイツなんだ。調子に乗りようがない。」
入れたものの形状や重さをガン無視している袋から弓を取り出す。おっとこれは違った。鯖缶だ。
「矢は弦を引いて魔力を込めれば勝手に生成されますよっ」
「うん、わかってる」
タタッと軽やかなバックステップの後に弓をサイクロプス目掛けて隙なく構える。全く初めてのことなのに体と頭が勝手にわかっているという矛盾になんだか不思議な気分であるが、現状では非常にありがたいことである。
「いいですか、とっておきの情報をお教えしますよ。アイツ多分目が弱点です」
「うん、9割そうじゃないかと思ってたからね」
遠距離攻撃の手段を持つ人間なら全員試すであろうことをドヤ顔で述べる妖精。そんなこんな言ってる間にもサイクロプスはじわじわと迫ってくる。こちらが立ち向かうことを察したのだろうか、ゆっくりとした足取りだ。
「初めての弓に初めてのスキルの使用なんです。もう少し、もう少し引きつけてから確実にキツイのを目玉にお見舞してやりましょう」
「ああ、必殺の『皆死ね矢』をぶち込んでやる」
「それ違う世界の技ですよね。案外余裕なんですか?」
「冗談でも言わないとやってられないんだよ。必死なの。よく見てくれ僕の汗を」
「ビッシャビシャですねタカビッシャーですね。ていうか本当すごい量、ウユニ塩湖ができそう」
「君は余裕過ぎないか!?」
助の世界のカルチャーにやたら詳しい妖精の相手をしていたら、ついにそのタイミングがやってきた。この獲物はもう逃げないと判断をしたのかサイクロプスの足が助たちの数メートル手前で止まった。そしてニヤリと下卑た笑い顔で手に持つ丸太の棍棒をゆっくりと振り上げ……
「いまですっ!!」『――ウィンドバイトッ!』
妖精の声が届く前に助は鋭い矢を放っていた!その矢は風を纏い一直線にサイクロプスの大きな目を目掛けて飛翔する!
(当たる!)
助が心の中で快哉を叫んだとき、直前にサイクロプスは顔を逸らす!矢はそのまま耳の辺りを浅く削りながら空へと飛び去っていく。
『グギャアアァァァァアア!?』
「いけない!敵の傷は浅いですよ!」
「あのタイミングで避けるとかどんな反射神経だよ!?」
よく考えればわかることだが、大きい目を持っているということはそれだけ広い視界と優秀な動体視力を持っているということにも繋がる。サイクロプスの目をピンポイントで狙うというのは並大抵の腕では難しい。その目を狙って傷を負わせたことはかなりの実力であることを表しているのだが、あいにく助は今それどころではない。
『グゥオオオオオオオオオオ!!?』
「やっば、絶対怒ってる!」
「ダッシュダッシュですよおおおお!」
「結局こうなる運命なのかよぉ……」
「ってあれ……追ってきませんよ?」
「ふぇっ?」
思わず変な声が出てしまった助。走りながら肩越しに後ろを振り返ると、確かにサイクロプスはその場で大きな体を屈め顔の傷口を押さえ、唸り声を上げている。
「どこか、痛みを堪えてるような、そんな感じですよ?」
「矢は掠っただけでダメージは小さいはずなのに……っは!?」
「なにか?」
「そうだ!!ウィンドバイトはドットスキル!しかも矢本体の直撃よりもドットの合計ダメージの方が何倍もでかいんだった!」
『ウィンドバイト』FF14の吟遊詩人のジョブの主力スキルともいえる技であり、助の言うとおりその技の真価は、矢本体のダメージではなく纏わせた風の力によるdot(Damage over Time)により、時間をかけてじわじわと敵にダメージを与えるというものだ。そのdotのダメージの総量はウィンドバイト直撃時の威力の8倍以上にもなる。
どうやら掠り傷のような浅いダメージしか与えなかったあの矢も、dotの効果は十分発揮しているようである。
「なんかよくわかりませんけどやりましたね!このまま撒けそうですよ!」
「念のためコイツももってけ!」
『影縫い』
助は必死に走りながら腕だけ器用に後ろに向け矢を放った。その矢はサイクロプスには当たらず、その巨体と同じく巨大な影に向かって突き刺さった。
「これでまだしばらくは大丈夫のはず!」
「ふぅ~やりますねタスク少し落ち着いてきましたか」
その矢の飛んだ先が狙い通りであることを確信しているのか、影縫いの成功を疑うことなく一心不乱に前へと駆けてゆく二人はどうにかこうにか青い悪魔から逃げ出すことに成功し、アストルティア最初の洗礼を無傷で乗り切ることが出来たのだった。
「ここをキャンプ地とする」
「いやまあ暗くなってきたし、川も近いしいいんだけど。ポルターガイストみたいに浮いてる本に言われるとなんだろうねモヤモヤするね」
周りに村や町の気配なぞ皆無であったため、外で一夜を明かすことを決めた助一行。残念ながら頭にインストールされた光の戦士の知識の中にサバイバル関連のものはなかったため、テントを張るべき良好な地点など見当がつかない。
そもそも川の近くがいいのかどうかも定かではないが、空は橙色に染まりつつあったし、なにより強敵との戦闘、そして走り続けて体力も限界に近い。せせらぎの音につられてたどり着いた川辺を発見したところで、助はこれ以上探索する気力がゼロになった。
「この水飲めるのかな」
「余裕で飲めますよ、というか多分泥水を啜ってもお腹壊さないレベルの肉体ですよ」
「いやさすがにそんなの飲まないけど……まさかエクレアちゃんも飲んでないよな……?」
助が引き継いだのは、渾身のキャラメイクで作り上げた女の子キャラクターの能力である。その子が鉄の胃袋を持っていると聞かされちょっぴりショックを受ける。
「んぐっ……んぐっ……あーほんと生き返るぅ……」
「とりあえず一息つくのは構わないですけど、テントを張ったり現状確認すべきこといっぱいありますからね」
「ん、わかってるよ」
疲れることは先に終わらせるに限る。ご丁寧に手書きの説明書までついていたテントを設置していく。妖精の配慮なのか、いかにもな冒険者が使いそうなデザインが妙にこの場にマッチしている。おそらく現地の住民にも違和感をもたれることもないだろう。
「はい終了」
「お疲れ様ですよ。後はお話し合いをして鯖缶食べて寝るだけです」
「本の姿で鯖缶どう食べるのさ?」
「……」
「……」
「クッ…………」
「わ、わかってるから、缶詰だからかなり持つから!妖精が実体化できるまで大事にとっておくから!なっ!?」
「ええ……大丈夫です……私は大丈夫ですよ。それにあなたのこと信じてますから。ええ、決して黙って食べたりしないと……ですから缶に名前書いておいてください」
「それ全然信じてないっすよね。泣けるわ」
とはいえ妖精は助のことは結構信頼している。自分の直感で選んだ存在だ、気に入っていたりもする。それよりも鯖に対する愛情が大きいだけだ。気にするな。
「……っていうか妖精名前あるの!?」
「いや普通にありますけど……」
「なんで黙ってたの?」
「いや、いまいち名乗るタイミングが……恥ずかしいですし……」
「なんで名乗りだけそんな謙虚!?」
出会って初日の人間にボケるよりは、よっぽど楽なミッションだろう。名前がギャグレベルだった場合はともかく。
「白状すると私ルビス様以外の人と会話するのって何百年、ひょっとすると何千年かぶりなんですよね……」
「あっ……」
気軽に聞いたことが地雷だったでござるの巻。助、こういうときどういう顔したらいいのかな?
「ですからタスクとこうやっておしゃべりできて、とても楽しいんですよ?」
「そっか……」
「コホン。では改めまして、自己紹介させていただきますね。私、ルビス様にお仕えさせてもらってます…………、あ、えーっと……」
「慌てないでいいよ、ゆっくりで」
「は、はい!えーっとえーっと」
肝心なところで言葉をつっかえてしまう妖精。その何千年ぶりの自己紹介を優しく見守る助。細かく震えている妖精の姿(姿は本だが)に、聞くほうのこちらも緊張してくる。
「うー……」
(がんばれ!がんばれ!)
「えっと……すいません私の名前何でしたっけ?」
「!!」
どうやら数千年もの年月は妖精の頭から自分の名前を奪い去ってしまったようだ……。それはとても悲しいことだ。20少ししか生きていない助にはかける言葉が見つからない。思わず目の端が潤む。
「いやー最初は気分で毎日変えてたりもしましたし、インパクトが薄いとちょいちょい忘れちゃうんですよね。確かアレですよ。前回は確か、たまたま世界の狭間にある私の家に迷い込んできた人間に、名づけてもらったんです」
「適当か!?僕の悲しみを返せ!泣くところだったんだぞ!自慢じゃないが徳光さんばりに涙腺弱いんだ僕は!」
「あっ!思い出しました。確かとても美しい緑の髪と服だからと、その人の祖国の言葉で『高貴で清純たる翠』という意味の名前をいただいたような……」
「なんだよそれ、すごいいい名前じゃないか。そんな名前忘れるだなんて……」
自分ではなんと名づけたのか聞く気もないが、おそらくこの妖精の毎日変えた名前より100倍センスがある名前だろう。
「彼の国の発音だと確か、『デンデラ・ノーパンシャブシャブ・カキンハイジン』でした!」
「嘘だろう!?」
どこの国の人間だよ。なんとなくその人間が悪ノリしたのかという感じもしないから妖精の言うことは事実なのだろう。
こんな個性的な名前を忘れる妖精、ッゴホン失礼、こんな個性的な名前を忘れる、デンデラ・ノーパンシャブシャブ・カキンハイジンは相当な思考回路をしているだろう。
「まあいいや、じゃあ話合いをしようか、ノーパン」
「あの、すいませんよりにもよってそこチョイスするのやめて下さい」
「ごめん、シャブシャブ」
「いや、あの、その頃私まだ助さんの世界の言葉なんて知らなかったわけで、ですから私としてはほら、新しく助さんに名前をつけてもらおうかと思ってて……。そんな空気も出していたと思うんですけど……?」
「いやいや、僕には正直それ以上の名前なんて思いつきもしないよ。カキンハイジン」
「やめてぇ!!!」
本の姿でも、本気で嫌そうな顔をしているとわかる声を出すデンデラ・ノーパンシャブシャブ・カキンハイジン。
「しょうがないなあ、でも真面目な話、僕ネーミングセンスないんだぜ?」
「今の名前よりましですよおお!」
「それもそうだな……」
さすがに哀れに思い真剣に名前候補を考える助。そう、彼はいたって真剣なのだが。
「デラックス」
「………………うん?……え?、もしかしてそれ名前候補ですか!?」
「当たり前でしょ。そういう話だったよね」
「いやいやいやいや待ってくださいよ!」
真剣である。
「じゃあ、チャゲは?」
「ちょっとそれシャブシャブの部分から連想しましたよね!?危ないんでやめて下さい!!!そしてまず普通にイヤです!!!」
「田中・デラクス・シャーブオ」
「まずどっかしらにケンカ売るのやめてくれませんか?そしてデンデラ・ノーパンシャブシャブ・カキンハイジンをどこかしら絡めてくるのもなんなのですか!?」
「命名!!ミドリに決定!!」
「ハアッハアッ!なんとか無難な名前にこぎつけました……!」
助とミドリの話し合いはまだ始まったばかりである。