そして、当然これは違法な活動であるからして彼は警察からも隠れて行動しなければならない。
第1話「BLACK!」
資座勇介の住む街(東京都某区)では軽犯罪が多発していた。
万引き、窃盗、暴力事件…。警察は常に後手後手に周らなければならず事件は日に日にその頻度を増していった…。
「皆も夜遊びなんて考えずにすぐに家に帰ってくれよ〜。テスト作ってる時に警察に呼ばれるなんてのは先生ごめんだからなぁー」
帰りのHRで担任の先生の短く要点の纏められた話が終わる。去年の先生と違ってこの先生は常に効率を最優先して行動する事に重きを置いているらしく授業もHRもしっかり時間通りにキチンと終わる。生徒や先生の中には素っ気ない、とか人付き合いが悪い、と言う者もいるが少なくとも自分はこの先生に好感を持っている。家でやるテスト勉強の内容を考えていると一斉に他の生徒が立ち上がり教室から退室し始めた。これでテスト2日前の学校が終わった。
「はやくバッグ出してよ!途中でコンビニ寄りたいんだから‼︎」
幼馴染の泉真理が帰りの準備を終えてない俺を急かす。幼馴染の異性と腐れ縁が続いている男子高校生は決して凡庸等では無く、むしろほんの一握りの選ばれた幸運過ぎる男子高校生なのだ。と、去年友人に力説されたのを思い出す。彼も今頃は自分と同じく学校から下校しているのだろうか。たまには連絡してみるのも良いかもしれない。真理に制服のネクタイを引っ張られ教室を出た。
夕方の駅。様々な色の制服を着た男女が忙しくホームを行き交っている。駅は様々な高校から帰宅する高校生でごった返ししており改札口を出る頃には幼馴染を見失っていた。当然もう一度ホームに入る訳にはいかず改札口の前で真理を待つことにした。だが5分経っても真理は現れず一旦駅から出て電話を使って呼び出そうと駅の出口の方に向かって歩く。駅の出口に出ると真理を見つけたがその周辺に柄の悪い男が数人たむろしていた。
「ああ!勇介!よかった〜!早く帰ろうよ‼︎」
真理の困り果てた顔を見て事態を察し真理の手を取りその場から離れようとする。
「おい待てよ。お前ツレか?ちょっとこの娘貸してくれよ」
貸してくれだと?予想はしていたがやはり強引なナンパを仕掛ける奴だった。
「こいつは貸し借りする程安く無いんで。それじゃ」
「オイ!てめえ調子乗ってんじゃねえよ!」
態度が急変した男に胸倉を掴まれるが前蹴りの要領で腹のど真ん中を蹴り倒した。怯む男を尻目に真理の手を引いて駅を後にする。
夕方のバス停。
「いつもありがとう勇介〜。もう私たち一蓮托生の間柄だもんね!」
「一蓮托生?腐れ縁の間違いじゃないのか?」
「勇介も私がいないとダメダメでしょ!だからそれでいいの!」
「ダメダメ?いやいや俺は普通に…」
「あの人が言ってたじゃない。[お前にはこの子が必要]だって。」
「うぅーむ」
確かにそれは友人に言われた事だし自分も暗にはそれを認めて言われる。しかし他人の口から言われるとどうにも歯がゆい気がする。
バス停で待っている事10分。結局さっきの事があったのでコンビニには寄らずまっすぐ帰路に向かっていた。
バスが停まり真理が乗り込むのに続こうとすると左肩を引っ張られバスを降りてしまった。
「さっきはやってくれたじゃねえか」
左肩を引っ張ってきたのはさっきの男だった。
男と睨み合っているとバスが発進してしまった。どうやら男はこれを狙っているようだった。
「ツラ貸せよ」
「嫌だね」
短過ぎるやり取りの次に男の拳が飛んできた。間一髪でそれを防ぎ飛んできた拳をつかみそのまま男の体勢を崩し柔道の大外刈りに似た技を繰り出す。大昔に自衛官だった父が教えてくれた徒手格闘の技だ。名前は聞かなかったので知らなかった。
「テメ」
「動くな」
制服のポケットから出したカッターナイフを首筋に押し当てる。押し当てた首筋からは微かに血が滲み始めた。
「こんな事してていいのかよ、あぁ?俺の仲間が黙ってないぞ」
「随分安っぽい仲間だな」
「あの女が乗ったバスにも俺の仲間が乗ってるんだけど」
しまった。真理を1人にしたのはまずかったか。
押し当てたカッターナイフに力を入れ怒気を孕んだ声で男に言う。
「次俺達に絡んできたら二度と人前に出れない顔にするぞ。このカッターでな」
男もハッタリではない事を察し頷いた。
カッターをしまい真理が乗ったバスの行き先を先回りする為勇介は走り出した。
あれから数時間。夏とはいえ既に周りは暗くなり始めていた。結論を言うと真理は何とか確保出来た。ただし男の仲間を自分の家の周りにまで連れて。こうなったらやる事は一つしかない。
「真理、奥に隠れてろ。俺が家に入って来るまで絶対出てくるな。フリじゃないからな」
真理が震えながら頷く。
「真理は絶対俺が守る」
真理の手を両手で握った後自分の部屋に「装備」を取りにいった。自分の大切な者達に襲いかかる「理不尽」と戦う為の装備を。
ターゲットの高校生のカップルが家に入ってから数分。男の仲間達は人数を揃え顔を隠す為のバラクラバとサングラスを装着し家に押し入ろうとした時だった。
「お前ら、行く…」
男の仲間は言い終えるよりも早くトンファーに顔面を凄まじい強さで殴打され強烈な痛みと共に意識を失った。
「何だお前!」
男の仲間達が一斉に角材やナイフを手に勇介を包い込む。
だが勇介は冷静に左手に持ったトンファーで後ろの1人の鳩尾を殴った後その男を盾に男の仲間達と対峙する。男の仲間達は対応に困り隙を見せた瞬間だった。
勇介は盾にした1人を男の仲間達に押し倒しトンファーとタクティカルベストから出したサバイバルナイフを両手に突貫する。トンファーで怯んだ2人を無力化し反撃してきた2人の攻撃を避け突き出された2人の武器を持った方の手をナイフで数度に渡り浅く切り刻む。
男達の苦痛に満ちた絶叫が近所を騒がす前に動けない全員の顔面を真正面から殴り気絶させる。
時間にして3分弱。某特撮ヒーローの行動限界時間の内に勇介は男の仲間達を無力化した。
後始末の為勇介は黒と黄色で左右に塗り分けられた仮面を着けたまま男達を拘束バンドで拘束しその場から逃走した。もちろん通報された際に自分も逮捕されない為だ。この場所が住宅地なので目撃者もいるはずだ。当然通報を受けて駆けつけた警官達からすれば自分は仮面と武装を纏う不審者にしか見えないだろう。過剰防衛とは言え簡単に捕まる訳にはいかない。勇介はこの場所から800m離れた川の土手に向かった。
真夜中の川の土手。
装備を外しジャージを着た勇介は自宅周辺の状況と真理の無事を確かめる為電話をかける。
「もしもし真理か?そっちは今どうなってる?」
「勇介…。えっとね。もう警察が来てあいつらは連れてかれたよ。今はご近所の人達に聞き込みしてるみたい。出ていいかな?」
「駄目だ。俺が来るまで家にいろ。すぐ迎えに行く」
「心配性だね。それもあの人の影響?」
「切るぞ」
「あの」
通話を切った。夜9時。勇介は偶然を装って自宅に帰った。
翌日。警察からは軽い質問しかされず真理も自分の家に帰りまたいつも通りの日常を送る。先生から俺と真理の2人は呼び出され質問されたがさすが効率重視の先生。俺達が何も知らない(フリ)のを知るとすぐに質問を辞め解放してくれた。
翌々日。俺は新聞を見て一瞬であの時の緊張が脳裏に蘇った。新聞にはあの時俺が打ちのめした6人全員が拳銃で射殺、俺達の通う学校の校門前にその6人の遺体が放置されていたと書いてあった。