BLACK!シーズン1   作:夢見町3丁目5103

12 / 15
吏玖(黒影)
女の子
女子
初老の教師

ブラックアイ
オフィサー

大我
リーダー
仲間の男達


第12話

第12話

第12話「ブラック外伝:黒影 戦場の外側」

 

 

…嬉しかったです。懸命に私を救おうとしてくれて…。初めてです。私の事を真っ直ぐ見てくれた人達は…

 

…お願いです。私の事をどうか忘れないで、下さい…

 

 

 

 

 

あぁ…。そうだよな。…でもさ。ヒットマンも、捜査官も…俺達が中等部と戦ってる間に知らない所でこんな事が起きてたんだよな。

 

うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎

らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎

 

 

俺は……俺は…!

 

 

 

 

 

 

「聞いてますか?…君、…君、おい!…君‼︎」

授業中、吏玖はいつの間にか考え事をしていた。

「はい…」

「ちゃんと板書書いてる?消しちゃうからね?」

初老に入った男性教師にドヤされてしまう。

普段ならそこで眉を顰めて憤る所だが今だけはそうも言っていられなかった。

先日の成田での戦いで黒影としてブラック=資座勇介と共に敵と戦ったのだがその時に凄惨な敗北を喫してしまう。結局その敵はブラックと共闘して撃破出来たのだが1度は殺される寸前迄追い詰められた事による恐怖がトラウマとなってしまいあれ以来ずっと吏玖の心を蝕んでいた。

勇介にあれ程現実を見ろと言っていた自分がこうして現実に打ちのめされているのは何とも皮肉な話である。

ブラックと共に床に倒れていた時に突きつけられた拳銃を思い出すと未だに手足が震える。

もはや黒影としての自分は死んだも同然だった。

あのヒットマン(敵)を噴水で始末出来たのが唯一の幸いだろうか。

「お、次の授業体育なのか。じゃあもう着替えちゃっていいぞぉ」

クラスの生徒が一斉に制服を脱いで体操服に着替え始めて教室を出始めた。他の生徒達と一緒に廊下に出て階段を降りていくと普通科の生徒達とすれ違う。その中の1人に吏玖の目は釘付けになった。

その1人というのは女子だった。入学式の点呼で見かけて以来彼女に夢中なってしまって早1年半弱。去年は彼氏がいたらしいがその彼氏とは去年の暮れに別れたと聞いている。しかしいかんせん自分のいる工業科と普通科は関わる事は少なく未だに話しかけることすら出来ていなかった。

1もうこの際黒影としての自分は捨ててこれからは普通に生きていくのかもいいかもしれない。

その手始めとして次に彼女に会った時は話しかけてみよう、その事を考えると心なしか手足の震えが収まる気がした。

 

 

 

 

 

「ブラックアイ、貴方に諜報部からの依頼があります。」

円状に伸びた長机に座ったオフィサーの一言に壁にもたれ掛かっていたブラックアイが反応する。

「諜報部…、アンタの部隊からの依頼とは珍しい。」

ブラックアイは腰のホルスターからレバーアクション拳銃を取り出す。

「元々脱走兵の処分はハウンドチームが担当していました。今回はサボットの部隊からの脱走兵を始末してもらいます。対象は1名。資座勇介の襲撃を受けた倉庫から我々の装備を強奪し茨城方面に逃走を続け現在は千葉との県境の神栖市に潜伏を続けています。」

オフィサーが話しながらパソコンの画面をブラックアイに向けた。

「…。つまり脱走兵の始末が今回の仕事か。いいだろう、今から現地に向かう。…姉さんにはバックアップをしてもらうぞ。」

「私は別件で神奈川に行かなければなりません。現地に到着するのは貴方よりも遅いでしょうね。」

会話が終わりブラックアイは踵を返し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「へぇ〜!神栖ホールでやるんだ!」

翌日の放課後、吏玖は小学校以来の友人である女生徒と話していた。

「うん。なんかタダで観れるらしいし吏玖もそれ行けばあの子の事見れるんじゃない?」

「いいなそれ…よし、明日はその合同コンサートとかいうやつに行ってくるわ‼︎」

自分の住む県東地区中の学校の吹奏楽部が集まる演奏会があるのだという。しかも会場にはタダで入れると言うならばこれはもう行くしかないだろう。そう思いながら校舎の生徒ホールを進んでいるとその途中に置いてある公衆電話から突如聞きなれない着信音が鳴り響いた。

周囲には生徒も教師も誰1人としておらず不意に受話器を取ってしまう。

(あ…これ…出たら呪われるアレじゃね…?)

受話器を取った事に後悔したがとにかく電話に出る。

「もしもし?」

[資座勇介の仲間だな。…お前にいい情報がある。」

「……誰ですか?…先生呼びますか?」

[とぼける気か?…明日の市催の学生演奏会、その会場に爆破予告を送ろうとしている男がいる。]

「…予告?予告だけなら別にいいんじゃねぇ…いいんじゃないのか?」

[ただの狂言ならな。問題なのは予告の後だ。演奏会には市長の親戚が来賓で来ている。…演奏会の途中に予告を送り演奏会を中断、会場を出た市長の親戚を襲撃…だそうだ。]

「やけに詳しいな。そこまで知ってるならアンタが止めればいい。」

[俺は今表立っては動けない立場にいる。…どうだ?ヒーローになる気はあるか?]

「嫌だね。警察にでも通報すればそれで片が付く。」

[そうか…。やるやらないはお前次第だが……正直幻滅したぞ。…………俺を撃つ時は躊躇わなかった癖にな]

一方的に電話を切られてしまった。

電話ではああ言ったが実際爆破予告は見過ごすとしても市長の親戚への襲撃を止める事ぐらいは…。

吏玖は再び黒影の装備を身に纏おうとしていた。

 

 

 

 

 

襲撃を止めるにはまず標的を予告の直前までマークし続けなければならない。それに演奏会は昼間行われる。どの道黒影の装備をつけたままで会場に入るのは不可能だろう。黒影の装備については予告の後にどこかで隠れて装備するか、最悪装備を使わずに素面で阻止するのもいいかもしれない。それで有名になれば意中のあの子も…

少し下衆な考えになっていったが吏玖は特別棟の図書室で阻止する為の計画を練っていた。

丁度その時部活が終わったらしく音楽室がある3階から吹奏楽部の生徒達が降りてくる。

その中には気になっているあの子もいた。

「今日は自主練長かったねー。昨日は9時までやってたし。」

(9時⁉︎やべぇ…俺だったら白目剥いて発狂してそうだ…)

「私は昨日早く帰っちゃったけど綾香は今週1番長く練習してるんじゃないの?練習終わった後の自主練も毎日やってるし」

(う〜ん。やっぱ真面目なんだな。…てか先輩めっちゃ喋るなオイ)

廊下に響く先輩の声の後にあの子の口が開いた。

「そうですかね⁉︎私全然疲れませんよぉ〜!」

(凄いなそれ…。俺だったr)

「明日は演奏終わった後保育園の子達と一緒に遊べるからねぇ〜。綾香子供大好きだし。」

(凄いn、あれ?)

さっき喋っていたのとは違う先輩だった。

「はい!こども大好きです‼︎…凄い演奏頑張っちゃいますよ‼︎」

(………。)

「ハイハイお子ちゃまの為ね〜」

「うんうん。って、先輩ちゃんと聞いてますかぁ⁉︎」

先輩達は話しながら校舎へと帰っていった。

(子供の為、か……。俺は……)

成田での戦いや東京での中等部との戦い。自分は一体誰の為、何の為に戦っているのだろう…。

あの子の背を見送る吏玖の胸中は大きく揺れていた…。

 

 

 

 

成田での戦いの数時間前、吏玖は勇介に援護を頼まれて予定よりも早い時間に市民ホールに辿り着いていた。そしてその中で1人座り込んでいた少女に吏玖は興味を抱く。

「なぁ、君は…もしかして日本のハーフなのかな?」

「はい。…父は大使館の駐在武官だったんです。母はその国の上流階級の令嬢でした…。」

「⁉︎。凄いんだな、君は…」

「まぁ、そんな生まれ方もあって私は父の妾の子として周囲から扱われていました。」

「妾?」

「…母にはもう婚約者がいたんです。本当は私が産まれる前に何とかしようとしていたらしいんですけど、母がどうしても父との子を生みたいと…」

何とかしよう、というワードに吏玖は大凡の想像が付いたが敢えて言わない様にした。

「それで今まで大使館の近くの全寮制の学校にいたんです。」

「日本語が上手いのは君のお父さんや学校のおかげなのか。」

「母も、日本語には詳しかったんですよ。だから大使館にも頻繁に来ていて、それで父と…」

「何か悪いね。まるで尋問みたいだ。」

「いいんです。私が話したくて話してるんで…」

「ふふ。ありがとう。」

いつの間にか吏玖と少女の距離はどんどん縮んでいった。いや、そう吏玖が勝手に思い込んでいただけなのかもしれないが。

「でも、ある時外国の援助を受けた将校達が、自分達の出身の部族を焚き付けてクーデターを起こしました。大使館も攻撃されて。あ、これ、ニュースにはなってないんですよ?クーデター自体が数日で終わったので…」

徐々に少女の口調は弱々しくなっていった。

「大使館の職員はすぐに帰国して父もその時…。私はクーデター派に占拠された学校の中でその数日を過ごしました。その後救助が来て、私はその国の役人に保護されました。出自が複雑な私はクーデター後の国には手に余る存在だったようで…厄介払いも兼ねて日本に、送られました。結局その日本でもクーデター派のシンパ達の襲撃を受けたんですけどね…」

「………大変だったんだな。….ごめん。それぐらいしか、俺には言葉が思いつかなくて…」

「…優しいんですね。貴方も。ユースケさんも。…今まで私は母以外の誰にも相手にされなかった。まるで最初からそこにいない様な扱いの毎日だった。それは国の人達も、日本の警察官達もそうでした。」

「なら、これからは俺が、俺達が君と一緒にいる!。勇介の言う敵を倒して厄介ごとが片付けば、この国でいくらでも楽しい事が出来るさ!」

吏玖の言葉に少女は一瞬驚いたがその後すぐに笑みを浮かべた。

「それに…俺も…もっと君の事知ったり、一緒にいれたり出来ればいいなって思うし…」

「駄目なんです。」

「えっ?」

まさかの少女の否定に今度は吏玖が驚く事になる。

「今回敵を倒して乗り切ったとしても、結局はまた次の敵が私や貴方達に襲いかかる。一緒にいればいるほど、貴方は私に失望してしまうかもしれない。」

「それは…」

「それに…きっと貴方が私に向ける気持ちと私が貴方に向ける気持ちは違うはず。一緒にいて、同じ事をしていてもいつかその違いが、貴方を苦しめてしまう。……ごめんなさい。」

「あ、謝る事じゃないさ!…まだ会って半日程度しか経ってないのに、変な話だったな、ははは…。」

少女は全てを見透かしていたのだろう。少女への同情にかこつけて、あわよくば自分の好意を押し通そうとしている浅はかな考えなど…。

理解すると共に様々な感情が胸にこみ上げてきた。羞恥心、嫉妬、怒り…etc.。

 

もしかすると、俺が黒影を辞めようとしているのはあの時胸にこみ上げてきた激情の様な物も原因の一つなのかもしれない……

 

 

 

 

 

翌日。学生達は予定通りに会場に到着しホールから漏れ出る程の大音量の演奏が始まる。そんな中駐車場の隅に駐まっているマイクロバスの車内では市長の親戚を襲撃する手筈の部隊が「本番」への準備をしていた。

「計画に変更は無い。作戦開始だ。」

「了解した。」

「あぁ。」

「了解。」

車内にいる8人の内6人が返事を返す。

だが最後部座席で欠伸をしている者がいた。背格好はまるで中学生と同じでまだあどけなさが残る面影の少年は欠伸をした後洒落たガンベルトのホルスターからPMマカロフ拳銃を取り出し手慰みにガンプレイを始めてしまう。

「おい!…てめぇ何様のつもr、⁉︎」

事前の確認に参加するどころか勝手に遊び始めた少年に6人の内の1人である大柄の男が立ち上がるがそれよりも早く少年は座り越しに男に向けて拳銃を向けていた。

「…怒鳴るなよ、うるさいなぁ…!」

「止めろ大我。殺すなら作戦が終わった後にしてくれ。」

「…分かったよ。アンタには逆らえないもんな。もう報酬貰ってるし。」

拳銃を向けられて怯んでしまった男に嘲笑の笑みを浮かべる少年。

「よし。電話をかけろ。」

リーダーらしき男の指示で助手席にいた男が使い捨て携帯で電話をかける。

「もしもし。会場の来賓席に爆弾を仕掛けた。起爆されたくなければ指示に従え。」

「……断る…」

「何だと?」

電話は向こうから切られてしまう。

「焦るな。こんな田舎じゃ狂言だと高を括られるのもしょうがない。武器を隠して会場に入るぞ。」

「「「了解」」」

男達は一斉にマントを羽織りバスから出た。

会場に向かおうとした彼等だがそんな彼等の前にブラックアイが立ちはだかる。

「ブラックアイ…!」

「探したぞ。脱走者。…他の奴らに用はない。失せろ。」

「なにぃ…!」

大我は自分が他の男達と同じ様に扱われた事に腹を立て拳銃を抜くがそれと同時にブラックアイは古風な単発拳銃を大我に向けていた。

「カウボーイ気取りのつもりか?フフフ…」

「貴様‼︎」

「大我‼︎…この男は俺が何とかする。お前はこいつらと一緒に会場に向かえ。」

「ッ!……分かったよ…!」

舌打ちした後に大我は拳銃をホルスターに収めリーダーとブラックアイに一瞥をくれた後会場へと向かった。

ブラックアイは大我達を邪魔する事なく自分の隣を通してしまう。

(ヒーローごっこをするつもりはないが…奴等も始末しておく必要があるな。フン、資座勇介がここにいればこいつ1人の始末で済んだ物を…。)

 

 

 

 

突然の乱入により予定が狂ってしまった大我達は会場の裏口に向かっていた。

(電話の声はさっきの男とは違った。という事はさっきの男以外にも敵がいるって事か。)

大音量の演奏音が鳴り響く事で通常の会話すらまともに出来ない。大我達はハンドサインで意思疎通を図ろうとするが結局小声でコミュニケーションをはかる。

(会場の入り口はここのすぐ上だ。ここから行った方が早く着ける。)

(おい!坂藤はどうした⁉︎榊もいないぞ!)

(きっと話を聞いていなくて予定通りの道を通っているんだろう。あとで合流すればいい。)

一旦演奏音が止んだ。これで会話が出来る様になる。

「予定もクソもあるか!さっさと位置に、」

チームの1人が痺れを切らしたその時だった。言い終えるより先に手摺を越えて上から落下してきた何者かがその1人を警棒で殴り倒した。

「⁉︎」

大我はすぐにホルスターに手を伸ばし拳銃を引き抜くが抜いた時にはもう1人が左腿と右肩と首下の間を殴打され戦闘不能にされてしまい挙句その何者かはそのまま前転してカウンターに隠れてしまった。

これでは発砲しても当たらないどころか発砲音が会場の人間に気付かれてしまう。

(クソったれ…!)

暫くの無音が彼等を包みもう1度演奏が始まる。

「死ねよ‼︎」

拳銃を4発立て続けに発砲する大我。しかし貫通力の低い拳銃弾では何者かが隠れたカウンターを貫通する事は出来ず牽制にしかならなかった。

今度は何者かがM1911A1拳銃を発砲し反撃してくる。

「クッ…!」

間一髪階段の手摺側の壁に隠れて回避した大我はそのまま会場への入り口に急いだ。

 

 

 

 

 

(あいつ…会場に向かったのか?だったら……あの子が本気で頑張っている、このコンサートを壊す様な事は、絶対にさせない‼︎)

黒影の装備を身に纏った吏玖はカウンターから出てさっきの敵が登っていった階段に行こうとした。

(いや、だめだ。馬鹿正直についていったら待ち伏せを食らう。回り込むしかない…!)

階段に行くのを止めて黒影は非常階段を使い2階に上がると既に敵は会場に入ってしまっていた。

(しまった!。この装備で中に入れるか…?)

しかし後を追わねば敵をとりにがしてしまう。仕方なく弾倉を抜いて残弾を確認した後黒影は入り口のドアを開けた。

ドアは二重扉になっており会場に続くもう一つの扉を開けようとしたその時突如後ろから後頭部に銃口を突きつけられてしまった。

「ここまでだな、仮面野郎!」

 

 

 

 

 

冷戦期の東側拳銃でメジャーな部類に入るマカロフ拳銃を後頭部に突きつけられている黒影。

マカロフ拳銃を持った少年は興奮している為か呼吸で肩が上下している。

「随分遊んでくれたじゃないか?だがヒーローごっこはここまでだぜ!」

「…ドアの裏に隠れてたのか。子供だましだがそれに引っかかった俺が言える立場じゃないな」

「銃を突きつけられてるよく喋る奴だな。あんた面白いよ。そんなコスプレで俺達を追い詰めるなんてな」

「なら見逃してくれないかなぁ…なんて」

「それはムリ!悪いけどこれ仕事だから!」

口では仕事と言いながら少年は明らかにこの状況を楽しんでいる。恐らくこれが少年の言う「仕事」でなくても自分を見逃す様な事はしないだろう。

「ところで…さっきから演奏が止んだままだが…妙だと思わないか?」

「何?」

少年の表情が歪む。

「ここの扉はホールと庁舎を繋ぐ二箇所の出口の一方。最低でも数百人はいる観客の半分はここを通る訳だが…俺とお前、どっちも観客に気付かれる訳にはいかないよなぁ?」

少年の顔から表情が消え焦り始めているのが分かる。そのせいか拳銃の銃口が左右にぶれ始めた。

その一瞬を突く為裏拳で拳銃を持つ手を殴り弾道を自分から逸らす。

「コイツ…!」

少年は再び拳銃を向けようとするがそれは叶わず極至近距離、お互いの手の届く範囲で拳銃は銃本来の距離を置いて安全な所から発砲する事が出来ず半ば無力化されてしまう。

「お前の銃の弾じゃ跳弾するぞ!外せばお前もただじゃすまない!」

一旦距離を置こうと後退しかけた少年の鳩尾に黒影の拳が叩き込まれる。

「ぐぁ⁉︎」

呻き声を上げながら千鳥足で庁舎に続く出口のドアを押し開けた少年は腰のベルトからナイフを取り出し黒影に襲いかかる。

だが切りかかったナイフを持つ左手を黒影に掴まれ大外刈りで階段の方向に投げられてしまった。

投げられた時の衝撃を殺しきれず少年は階段を転がり落ちる。

2階から1階まで転がり続けた結果それまで頑なに握り続けていた拳銃を手放してしまいナイフもさっきの大外刈りの時に手から離れ丸腰になってしまった少年。しかも格闘戦のダメージもまだ残っており常人ならとっくに戦闘不能になっているはずだった。

(勝ったか…!)

勝利を確信した黒影は警戒を緩めずM1911A1を構えながら階段を降りて少年に近づいていく。

「これで終わりだ…!」

「終わって、ねぇよ…。俺は誰にも負けねぇ…俺は…」

「そこまでだ!」

黒影と少年の会話に少年の仲間の生き残りが片手でステンレス加工のリボルバーを構えていた。

 

 

 

 

少年の仲間は階段の影に隠れた黒影の存在には気付いていない。

「おい‼︎このマスク野郎を殺せ‼︎」

少年は仲間に向けて怒鳴り散らすが仲間の方はリボルバーの銃口を少年の方に向けていた。

「⁉︎お前どういう」

「てめぇがいなくてもあのマスク野郎もターゲットも殺せるんだよ、それにてめぇがいなくなればわけ前が増えるしなぁ?」

「やめろ、やめろ……撃たないでくれ…」

満身創痍になった少年は仲間に命乞いをする。少年の頭の中にはもう黒影の姿はなくひたすら自らの保身の事しか入っていない。

「はははは‼︎何言ってんだよお前‼︎今までそうやって命乞いしてた奴を殺したのはお前自身じゃねぇか!えぇ?まぁアレだ。因果……何て言うんだっけ?」

少年の仲間「だった」男はさも楽しそうに話しながらリボルバーの引鉄を押し下げ確実に弾を発射出来る状態にする。

「んじゃ、死ねよ」

男がトリガーに指をかけた瞬間だった。

「それを言うなら因果応報だ。カウボーイ」

「⁉︎」

男の真上から声が聞こえ慌てて銃口と視線を上に向けたがその時にはもう前回と同じく2階から飛び降り空中でのキックを繰り出す黒影が男の眼前にいた。

「がぉぁぁ‼︎」

キックを銃を保持する方の腕に食らった事でリボルバーを落としてしまい同時に重力の荷重を受けた黒影が真上からのしかかった事で男は後頭部から諸に地面に倒れてしまった。

黒影はそんな男の鼻っ柱に利き手の拳を叩き込み男を完全に気絶、無力化させた。

皮肉にも、少年を助けたのは敵である筈の黒影だったのだ。

 

 

 

 

 

「なんで助けたんだよ?」

最早戦意を失った大我(少年)はリボルバーとマカロフ拳銃を回収した黒影に話しかける。

「お前達全員を倒さないと意味がないからな。お前を助けたのは結果論だ。」

「結果論だぁ?ったくさっきから難しい言葉ばっか使いやがって…」

毒づく大我だが自分が黒影に敵わないという事を理解しての発言だった。

「なぁ…その武器とか戦い方とか、アンタ一体どこで覚えたんだ?」

「色々な。案外戦闘の技術だけなら見よう見まねでもどうとでもなるものさ。」

「他に何があるんだよ?」

「もちろん戦闘のスキル(技術)は必要だがそれよりも大事なものは…そう、戦闘のセンス(精神)だ。」

「センス?」

「この場合は戦闘の精神って意味だな。どんなに銃を上手く扱えてもそれで敵を倒せないんじゃ意味がないだろ?そこで寝ているお前の仲間もそうだ。こいつはお前の命乞いする様を楽しんでいた。」

「何…?」

「戦闘は愉しむものでなければルールのあるスポーツでもない。そこには、決闘のロマンや敵を苦しめて愉悦に浸るサディスティックといった余計な物は一切取り払わなければならない。それが出来ない奴はまず武器を持つ資格すらない」

「…」

いつの間にか大我は黒影の話に聞きいってしまっていた。まるで弟子が師匠に説法を請うかの様に。

「…アンタの言う通りなら俺は三下もいいところのザコって事か…」

「いや、そうでもない」

「あ?」

「お前のマカロフの取り扱いは最悪だ。通常、銃を持って移動するには誤射を避ける為にトリガーから指を離すのが基本だがそれだけでは誤射を避ける為の措置としては言えない。ただトリガーから離しているだけだと極度の緊張で指が動いてしまい最悪トリガープルの軽いシングルアクションなら誤射を招いてしまう。マカロフはダブルアクションだから意識してトリガーを引こうとしない限りは滅多に誤射はない筈だがお前は移動している時もトリガーに指をかけ、しかも若干トリガーを引きかけていた。」

黒影からの思わぬ指摘に我は反論する。

「あれは敵と出くわした時にすぐ撃てるように前持って…」

「なら素直にシングルアクションを使え。それかストライカー方式でトリガープルの軽いグロック拳銃とかをな。前持って撃つ為にトリガーを引いておくのか?じゃあお前は手榴弾を投げる時、前持ってピンを外しておくのか?それじゃ不意に爆発するのがオチだ」

「クッソ……」

「だが…俺と戦っている時の射撃はよかった。ダブルアクションの銃は慣れていない者が扱えばトリガーを引く指に力が入り過ぎて銃口が左右にブレ、拳銃ならまず命中する事はない。しかしお前はそれを知ってか知らずか無茶苦茶な射撃フォームではあったが銃口のブレはなく寧ろ安定していた。あれなら照準が出来ていればまず狙った方向に飛んでいく。独学か他人から話を聞いてやったのかは知らないが…

 

いいセンスだ。」

批評の後の思わぬ評価に大我は一瞬心の内で喜んでしまった。

その事に気付き大我は混乱する。

(なんなんだよコイツ…さっきまで殺し合いをしてたのに今は俺に銃の扱い方を教えてる…こんなヤツ、今まで見たことねぇ…)

すると黒影がマカロフの弾倉とスライドに装填されていた弾丸を引き抜き発砲不可能な状態で大河にマカロフを渡した。

「え…?」

「こいつは返す。次会う時は味方同士がいいが…その時は銃の取り扱い以外の事も教えてやる。それまで無様に死なない様にする事だ。」

「……」

大河の反応を待たずして黒影はその場を立ち去ろうとする。

せめて大我は黒影の名前を知ろうとした。

「待てよ‼︎お前の、いやアンタの名前を教えてくれ!…名前を知ってどうこうする訳じゃないからいいだろ?」

「本名等最初から教えるつもりはない。そうだな………今の姿は…黒影、といった所だ。」

「黒影…。あぁ覚えたぜ。俺は大我だ。大きいの大に我らの我…」

「また会おう、大我」

「おい待て!…よ…」

名前を教えた直後に黒影は姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…中の方は終わった方だな……」

大我達のリーダーを単発式拳銃で撃ち殺したブラックアイは市民ホールの方を仰ぎ見る。

実はリーダーを殺した後、ブラックアイは無線機を奪い大我と黒影の戦闘を盗聴していたのだ。

「黒影…黒影か……フ、やはりただの弱者では終わらない面白い奴。」

後から到着したオフィサー達証拠隠滅の為のバックアップチームがリーダーの死体を死体袋に詰めて引き揚げていく。

「資座勇介と黒影……奴等は、俺が倒す‼︎」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。