泉真理
外藤
カイザー
ブラックアイ
冴木涼介(ゲスト登場)
冴木隆(ゲスト登場)
第13話
第13話「拳者の選択」
「…またあいつか……」
ブラックアイは仮面の下で顔を顰めていた。
幹部と言う形式上の管理を任されている中等部の訓練所のホールでは隊員達がそれぞれ格闘技、室内戦、射撃の訓練に明け暮れている。その中の格闘技の訓練に励む集団の中に「問題児」はいた。
「所長…またアイツ…」
「分かっている…。……カイザー‼︎」
ブラックアイが”カイザー”と呼ぶ相手は複数の隊員を相手にして大暴れしている。
「取り押さえろ‼︎」
隊員達の中の1人が声を上げた後隊員達が一斉にカイザーにタックルをしかける。だが
「うぉああああああああああああ‼︎」
カイザーはそれらを全て筋力のみで弾き返してしまった。
「うおおおおおおおおお‼︎」
ゴリラのドラミング染みた雄叫びを上げ弾き返した隊員達に殴りかかろうとするがそれはブラックアイに阻止された。
「うおおおお…お?……アンタか。」
「そこまでだ。カイザー。これ以上仲間を負傷させられては困る…」
「ならアンタが相手になってくるのか?なんならアンタに似たあのマスク野郎と戦いに行ってもいいぜ‼︎」
(こんな奴を脳筋、と言うのだろうな…)
ブラックアイが呆れているのは隊員達の目から見ても明らかだがカイザーは本気で気付いていないらしい。
「…ならばそのチャンスをやる。今日の午後8時に指定された地点で待機していろ。おそらくそこにマスクの男が来るはずだ。」
「おぉ‼︎ありがたいぜボス!そうと決まればウォーミングアップだ!お前ら全員かかってこい‼︎」
「「「お い 」」」
ブラックアイと隊員達はまともなリアクションも返せない程呆れかえっていた。
「カイザー?」
勇介はどこかで聞いた事のある名前を真理から聞く。
「そうそう。地下格闘技?の強い人らしいんだけど最近行方が分からないんだって。」
行方が分からない、のワードに勇介は一瞬焦ってしまった。前回真理が合コンに行っていた時に戦ったカイザーだがその決着はなんとも微妙な決着だった。
防弾ベストをわざと狙って9mm拳銃の全弾を叩き込んだのだがその際カイザーは気絶していた。はず。
もしかして弾丸が防弾ベストを貫通してそのまま射殺してしまったのだろうか?だとすれば何とも後味の悪い結末である。
「へ、へぇ〜。でもそのカイザーが俺や真理にどんな関係があるのかな?」
「いやー。私には関係ないんだけどね。なんかこの学校の一個上に外藤って人いるでしょ?その人吏玖君が言うDQNをそのまま体現してる様な人なんだけどそのDQNが格闘技マニアでカイザーのファンなんだって。」
「お、おぅ…?」
「それで最近カイザーがいなくなったからって今度は自分がリーダーななって学生の地下格闘技を始めようとしてるんだけどそれに出る選手?をあちこちでスカウトしてるんだって。だから勇介は危ないかなぁ〜って思って」
「俺は別に普段から戦ってる訳じゃないしなぁ…。やっぱり関係ないじゃん」
「でもそのスカウトの方法が質が悪いんだって。なんでもカツアゲみたいに喧嘩を仕掛けて…」
「おいお前」
「「え?」」
勇介と真理の会話を中断させたのはその外藤の後輩だった。
「あぁ……やっちゃったよ…」
「うん。勇介なら絶対やると思った。」
結局外藤の後輩は真理の言っていた通りカツアゲ紛いの態度で勇介の胸倉を掴んだ事で喧嘩、いやほとんど一方的な”攻撃”が始まった。もちろん勝ったのは勇介なのだがもしかするとそこでは負けた方がよかったのかもしれない。
勇介が攻撃していたのを外藤に観られていたのだ。
「はぁ……。しばらく大人しくしてた方がいいな…」
その後は特に何かが起きた訳ではなく無事今日の学校は終わったのだが…
「お前が資座勇介だよな?」
「違いますね。よく間違えられますけど」
「おい」
「…」
なんと校舎を出て真理を待っていると外藤が勇介に絡んできたのだ。
そしてそこから数時間が経ち勇介は外藤やその後輩達がスカウトした生徒やOB達と共にかつてオフィサーやトンプソンと戦った場所である廃工場に到着した。ちなみに事情は真理に話したので真理は先に帰宅している。
「よぉ〜し、今からお前等の中から適当に選んだ2人にこのコンテナの中でケンカしてもらう。ルールは降参した奴が負け、得物は使わないの二つだけだ!最初は…」
(選ばられるな…選ばれるな…選ぶな…アレ?そもそもこれバックれればそれで解決じゃない?)
そう思い夜のブラックとしての行動で慣れている気配を消して移動することを考えていたその時だった。
突如廃工場の中が明るくなり同時に凄まじい歓声が響き始める。
(観客⁉︎って屋台もあるのか⁉︎この人数だとバックれるのは難しいな…)
観客の中には見知ったクラスメイトや先輩、後輩もちらほら見受けられており観客のほとんどは区内の高校生だった。
「最初の試合は…資座勇介!それに…冴木涼介だ‼︎始めろ‼︎」
冴木涼介と呼ばれる少年がコンテナの中に入ったので仕方なく自分もコンテナに入る。
「よぉ!俺は冴木涼介。普段はアルバイトで探偵やってるんだ。てな訳で今日なよろしく。」
「アルバイトで、探偵…?」
「あ〜、うん。わかるよ。わかる。やっぱ胡散臭いよね。でも本当のことだからな。お前が資座勇介だよな?」
「あ、あぁ…俺は資座勇介。普段は…」
「言わなくても分かってるよ!マスクの旦那!。あんた、正体までは知られてないけど裏の世界じゃ結構有名なんだぜ?」
「何…?」
どうやらこの冴木涼介と言う男、伊達に探偵を名乗っているだけではないようだ。勇介は頭の中を資座勇介からブラックへと切り替えた。
「始め‼︎」
「はぁ‼︎」
最初に仕掛けたのは勇介だった。勇介の回し蹴りは空を切り涼介の鳩尾を狙ったアッパーが飛ぶがそれをガードしパンチを連続で繰り出す。
「やっぱり当たりかブラック。アンタ、火遊びには気をつけた方がいいぜ?」
「どういう意味だ?」
徒手格闘の応酬の間に勇介と涼介は小声で会話をしている。
「戦後の闇で勢力を拡大していた”とある勢力”、お前には分かるよな?そいつらが近頃活発に支配地区を拡大していっている。ここもそいつらの領地だ。」
涼介の裏拳をガードしてからその裏拳を出して腕を掴み背負い投げを仕掛ける。涼介はそれを上手く着地する事で躱し再びパンチを繰り出す。
「そいつらは今、東京一帯を支配地区にする為に暴力団やカルト宗教に右翼、左翼団体と言った”自分達以外の反社会勢力”を方々で殲滅して回っている。警察は漁夫の利を得ようと黙認している様だが、俺の親父に言わせれば奴等は警察の手に終える様な生易しい奴等ではないそうだ。組織化された戦力と高い求心力に高い練度、まるで奴等は”軍隊”とでも言う程のヤバい連中なんだそうだ」
「知っているさ、俺の身内が作った組織の事ぐらいはな」
「‼︎…そいつは驚きだな…確かに創設者は資座って名前だったが…そういう事だったのか。…でアンタこれからどうする?そんなヤバい連中にこれからも1人で立ち向かってく気か?」
「1人じゃないさ…それに、正攻法でどうにかなる相手じゃないっては俺がよく分かってる。」
「…アンタまるでアメコミのヒーローだぜ。やれやれ…」
涼介は呆れる素振りを見せるがそれでも勇介の徒手格闘は一撃も命中しない。あまりにも高度な2人の戦闘に観客はおろか外藤さえも熱狂に浸り歓声を上げている。
「俺の決着は、俺で着ける‼︎はぁっ‼︎」
勇介は涼介の攻撃をいなした後コンテナの壁を蹴って空中回し蹴りを繰り出す。涼介は身を屈める事でそれを回避し勇介を地面に叩き落とそうと軸足を掴もうとする。
「まだだ!」
「何⁉︎」
今度は回し蹴りをした足を軸足にし、さっきまで軸足にしていた方の足を蹴り上げてそのままかかと落としを涼介の脳天に命中させる。ようやく涼介に勇介の攻撃が命中した瞬間であった。
「ぐぁ……ったく、強過ぎるぜヒーロー…」
涼介はふらついた足で壁にもたれかかった後降参のジェスチャーを外藤に見せた。
「おぉ…!勝者、資座勇介ぇ‼︎」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」」」」」
観客のテンションはピークに達していた。
(あぁ…これで余計に逃げられなくなった…ってあいつは⁉︎)
勇介は不意に天井を仰ぎ見るとそこではブラックアイとカイザーが会場を見下ろしていた。
「……いけ、カイザー。」
「了解だぜ。それで具体的にはどうすりゃいい?」
「とにかく暴れろ。いずれ奴がここに来る」
カイザーは天井の一角に捨てられていた錆びたチェーンをパイプに巻きつけた後そのチェーンを使って会場に降下した。
「お前等ぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁ‼︎俺が祭りを面白くしてやる‼︎」
派手な登場を果たしたカイザーに観客は戸惑いの色を見せ始めていた。唯一興奮していたのは外藤だけだった。
「カイザー‼︎来てくれたのか‼︎俺アンタのファn」
「どいてろガキ」
カイザーに近づいていった外藤はカイザーの裏拳で吹き飛ばされそのままコンテナの中の勇介の隣に落下した。外藤は裏拳のダメージと落下の衝撃で完全にのびている。
「出てこいブラック‼︎この前の後半戦だ‼︎もう銃は効かねぇ‼︎さっさと出てこなきゃここにいる奴等を片っ端に倒す‼︎」
(まずいな…とりあえずこの外藤は放っておくとして…ってあれ?涼介はもう逃げたのか?)
不意にポケットの携帯に着信が入る。
「もしもし真理か⁉︎頼んでおいた奴は持って来てくれたんだよな⁉︎」
[マスクと服と鎧みたいな奴、あと鉄砲と警棒もバッチリ持ってきたよ‼︎持ってきた奴は裏方に置いておくね!]
「あぁ、ありがとう‼︎よし、今度はこっちが仕掛ける番だ‼︎」
カイザーはひたすら暴れ続ける。屋台を殴り壊し取り押さえ様とする観客の数人を吹き飛ばす、その暴れ回る様はまるで怪人か何かの様だ。
だがカイザーの破壊活動はそれだけでなかった。
「止まれ!」
逃げ惑う観客の中から警察官の2人組が出てくる。2人はすぐに拳銃を取り出し威嚇の為にカイザーに向けて構える。
「構えるか。だが撃てるかな‼︎」
カイザーは先刻の降下に使ったチェーンを振り回しチェーンが警官の1人に絡まり警官を拘束する。
「この…!」
カイザーの足元に残りの警官が発砲するがそれを物ともせず警官に突進していく。カイザーのタックルは警官を吹き飛ばした。吹き飛ばされた拍子に後頭部を強く打ち気絶してしまう。
「うぐぅぅぅぅ‼︎どこにいやがる…!」
苛立ちを見せたカイザーの背中に9mm弾が着弾した。
「何!出たかブラック‼︎」
片手で9mm拳銃を構えたブラックはもう片方の右手で警棒を展開した。これで遠近両方の戦闘に対応出来る。
前回と違いカイザーは持っていたチェーンを振り回して距離を置いたまま攻撃を仕掛けた。
向かって来たチェーンを避けながら2度3度と発砲するがどれも命中しているにも関わらず有効打を与られていない。
(こいつ…前より防弾が硬くなってる!だったら‼︎)
8発を撃ち尽くし再装填すると今度はカイザーの腿に向けて発砲する。
「うぐぉ⁉︎」
これは効いたのかカイザーは姿勢を崩し一旦チェーンの攻撃が止む。
「終わりだ‼︎」
姿勢を崩したカイザーに警棒で更に有効打を与えようと走り寄るブラック。二度目の戦闘の決着はあっという間に着くはずだった。
「効かねぇんだよ‼︎」
カイザーのカウンター染みたアッパーがブラックのボディアーマーに命中した。
「⁉︎うぐっ…!」
命中したアッパーは常人離れした威力でブラックを後方に吹き飛ばした。
「がはっ!この筋肉ダルマがぁ…!」
警官の様に後頭部を打ちはしなかったがそれでもこの一撃でかなりのダメージがブラックに残っていた。
体勢を直したカイザーが近づいていくのを阻止しようとブラックが引き続き拳銃を発砲するがやはり胴体を撃とうが腿を撃とうがカイザーの足を止める事は出来なかった。
「もう鉄砲は効かないぞ!さぁどうする!」
ブラックの持つ拳銃は残り2発。カイザーに撃っても効かない事は分かり切っている。ならば…
ブラックは冷静に首を動かさずに周りを見回すと2階に崩れかけた角材の山を見つけるとそこに向けて2発を連射した。放たれた2発の弾丸は角材の山を崩してカイザーに崩れ落ちた。
カイザーを押し潰した角材はその後微動だにしなかった。
「ぐおぉ…ボス…こいつを何とかしてくれ…ボス…」
カイザーは角材に押し潰されながら呻き声を上げていた。
だが当然ブラックアイは彼を助ける様な事はしない。何故ならブラックアイはカイザーが降下したのを見届けた後すぐに帰還していたのだ。
いもしないブラックアイに向けてカイザーは尚も助けを請う。
「……」
時間が経った事で痛みが引いてきたブラックはそのカイザーの眼前に現れた。
「…お前…、ははは。俺はここで終わるのか…。なぁもういっそその銃で俺を楽にしてくれよ」
拳銃に再装填を済ましたブラックはカイザーを撃つ様な事はせず拳銃をホルスターに納めた後カイザーの上の角材をどかしはじめた。
「なんだ、まさか助けてくれるのか?」
「….俺だって好きで人殺しをやってる訳じゃない。…ほらさっきの筋力はどうした。早くどかさないと警察が押し寄せて来るぞ」
「あ、あぁあ…」
数分後、角材の山から脱出したカイザーはブラックと面と向かっていた。
「助けてくれてありがとな。ブラック」
「…今回は助けたが、次はないぞ。もう中等部の連中とは関わらない事だな。」
「一つ貸しが出来ちまったな。アンタに。…もし人手が必要な時があったら俺を呼んでくれ。その時はアンタに貸しを返す。」
「…あぁ。そうするよ。」
「じゃあな。ブラック…」
カイザーはプロテクターを外し出口へと向かっていった。
そしてブラックも廃工場を後にした直後に警官隊が到着したがそこには先刻カイザーに殴られて気絶している外藤しか残っていなかった。
実はコンテナから脱出した後、冴木涼介はブラックとカイザーの戦闘を
最後まで見届けていた。
「ふぅ。さすが本物のヒーローは違うねぇ…おっと、親父からか」
着信音の鳴る携帯を取り出し電話に出る涼介。
[もしもし涼介か?新しい仕事が入った。事務所に戻ってこい。]
「新しい仕事?猫探しとかじゃないだろうな?」
[ヤバい仕事の方だ涼介。お前にはアイドルの身辺警護についてもらう]
「ぉう、それはまた随分とヤバそうな仕事だな。……ブラックの件はどうする?」
[放っておけ。これから起きる事はマスクを被ったヒーロー共が解決してくれるだろうさ。電話切るぞ]
通話が終わると涼介はバイクに跨りエンジンを吹かした。
「さて、と。…この町は任せたぜ、ヒーロー。」