泉真里
志道/ブラックアイ
星泉
佐久間真
第15話
第15話「セーラー服とブラックアイ」
路地裏の戦闘から2日が経った。戦闘は敵対するヤクザ同士の銃撃戦とう形で処理され勇介達のいる町はまるで開戦前夜ともいえる緊張に包まれていた。未成年の夜間の外出は完全に禁止となったばかりか繁華街には常時警官が張り付くようになった事で自然と人々は外出を控え始めニュースや新聞では「戦後初の戒厳令」という揶揄が飛び交っている。
これらの原因を叩く為に泉、真、ブラックアイ、それに吏玖を仲間にしたのだが問題は山積みだ。今日はこの後泉に情報を聞く為に指定された場所に放課後向かう予定だったのだが…
「資座先輩‼︎早く行きましょ?」
勇介の前には路地裏の時と同じ制服姿の星泉がいた。
その頃勇介の幼馴染である真理は勇介が女子中学生と共に繁華街の方向へ歩いていくのを目撃する。
「何よアイツ…。中学生なんかとくっつくなんて…」
真理は無意識に勇介の隣の女子中学生に嫉妬してしまう。
(アイツの隣にいるのは私だったのに…なんなのよ、もう…)
ブラックアイに協力を持ちかけて別れた後勇介は泉に素顔を見せていたのだ。普段なら絶対にしない事だが今が非常事態なだけにお互いの信頼を得る為にも必要な事だった。
「資座先輩って、どうしてあんな格好でいつも戦ってるんですか?」
歩きながら泉が質問してきた。泉は好奇心からの質問として何か適当な答えを期待していたのだが勇介から返ってきたのはそれとはまるで違った答えだった。
「俺のじいちゃんがさ、戦後の混乱に紛れて武器や人を集めて軍隊みたいな組織を作ってたんだ。その組織は俺がじいちゃんを殺して倒したんだけど、問題はその後でさ。じいちゃんが死んで空中崩壊した組織の人間や武器が大量に外に流れ出ちゃったんだ。だから今は…その決着を着ける為に戦ってる。」
「……」
「あぁぁ……、ちょっと重たい話だったかな?」
「いや…。やっぱり凄いですね。あの時あいつらを倒した時もそうですけど資座先輩は本物のヒーローですよ。」
「ふっ。そういう君も、町の皆を守ろうと頑張ってるじゃないか?」
「私は…。私は、半ば巻き込まれてしまったようなものですから…」
泉は苦笑いを浮かべたが勇介は泉の事に気付かず再び口を開いた。
「始まりはどうだっていいんだ。巻き込まれた君は今自分が出来る事と正面から向き合っている。それは誰にでも出来る事じゃない。そこだけは、自信を持ってもいいんじゃないかな?」
「えっ…」
勇介の意外な一言に泉は返事に戸惑ってしまう。この人、こういうことも言うんだ…。
初めて会った時から徐々にではあるが泉と勇介は心の距離を縮めていくのだった。
そんな2人を距離を置いて監視していた者達がいた。彼等は…
「散歩は楽しんだか?」
「ブラックアイ‼︎…泉が指定してた時間より随分早いな」
「あぁ。貴様等を尾け回してる奴がいたからな。1人連れてきてやった。」
泉と真が所属する目高組の事務所に現れたブラックアイは勇介との会話の後窓の外に向けてポーチから出したライトを点滅させると数分後事務所に戦闘服の男2人と彼等が担ぐ顔に覆いを被せられたスーツの男が入ってきた。
「こいつら…!」
「身構えるな。お前が言ったんだろう。今回だけは味方だと。」
「くっ…!」
勇介は戦闘服の男達に警戒を解くつもりはなかったが彼等はスーツの男を床に転がした後ブラックアイに敬礼し足早と事務所を出て行った。
「ブラックアイ…。あまり派手な真似はしないで欲しいのだけれど…」
「今回の事態、何か妙だとは思わないか?」
「聞いてないし…」
泉には目もくれずブラックアイは話しながらスーツの男に近付いていく。
「クズ共のいざこざに俺達が介入する事は無い。何故なら表に出る犯罪は警察が取り締まるからだ。なのに今回警察は住民の保護という名目で区内の監視しかしていない。昼行灯だけでは解決しないという事は彼等が1番理解している筈だというのに。…何故だ?」
ブラックアイの問いに勇介と泉は別々の答えを言った。
「それは警察のこいつらも奴等に金で買われてるからよ!この前にも言ったと思うけど…」
「今は捜査で証拠を集めている段階だからじゃないか?法治国家のこの国じゃ、いきなり逮捕する訳にはいかないだろう?」
それらに対しブラックアイは
「どちらも見当違いだ。何故警察は積極的に介入しないのか。その答えを……このスーツマンに聞くとしよう。」
「えっ!その人警官なの⁉︎」
ブラックアイは乱暴にスーツの男の覆いを取り払った。男は口元に痣が出来ておりブラックアイが強制的に捕まえてきたというのはすぐに分かった。
「さぁ、喋ってもらうぞ」
ブラックアイはいつものレバーアクション拳銃の銃口を横からスーツの男のこめかみに押し当てる。
「わ、わかった、喋るからそいつをどかしてくれ!」
「…」
勇介はブラックの装備に着替えていた為顔を見られはしなかったが泉はそうもいかないだろう。勇介は泉を自分の背後に隠れるよう促した。
「今回警察が手を出せないのは色々な理由がある。お前等が言っている買収と証拠が掴めないからという理由もあるが、それよりも重視されているのは…マスクのお前等だ…」
「何⁉︎何故俺達を…?」
「ほぅ…続けろ」
一瞬驚いた勇介とは反対にブラックアイは冷静だった。
「お前達は2人だけじゃない。お前らみたいに妙な連中は他にもいる。ゴロツキや犯罪者、そんな奴等とは比べ物にならない程危険な文字通りの化物共がこの国の影で好き勝手やってるんだ。俺達…政府は何故お前達がそんな連中と戦うのか、理由を知りたがっているんだ。得体の知れない奴に好き勝手はさせない。」
文字通りの化物、という単語に勇介は反応する。成田でのヒットマンとの戦いで勇介と吏玖はその片鱗を垣間見たのだから。
「ではその理由を知って、貴様らはどうするつもりなんだ?」
「…聞いた話じゃ…普通の人間が知らないだけでこの世界には人智を越えた存在って奴や人間離れした能力に考えを持った危険な連中がわんさかいる。政府は…奴等から国を守る為、水面下で奴等専門の機関や部隊を編成させようとしているらしい。お前等は…」
勇介もブラックアイも男の話を理解していたが泉にはどうも実感が湧いていない様でどうやら別の世界の話をされていると感じているようだ。
「なぁ、俺が知っているのはこれだけなんだ。この事は他の奴には黙ってやるから逃がしてくれないか?」
「フッ。生きて帰れると思ってたのか?おめでたい奴だ…」
「よせ‼︎」
ブラックアイはレバーアクション拳銃の引き金を引こうとするが勇介の前蹴りで拳銃を弾き飛ばされ、男を殺す事は叶わなかった。
「殺す必要なんてない!お前に、殺さない勇気は無いのか‼︎」
「貴様まだそんな戯言を…!」
「ストップ‼︎そこまでよ2人とも!」
剣呑になった勇介とブラックアイを仲裁したのは泉だった。
「この人はこのまま解放します。もちろん、私と真の監視付きで。…それでいいわね?そうでしょ?」
「いいだろう。」
「あぁ。俺も構わない」
「俺は困るんだが…」
反論したのはスーツの男だが当然却下される。結局この男は後から事務所に戻ってきた真が別の場所に暫くの間拘束する事になった。
あの男が事務所の奥で拘束されてから数時間が経っていた。泉の目的とブラック達2人の考えは平行線を辿りもはや作戦会議とは名ばかりのただの言い合いになってしまっている。
「配電盤を爆破し電気系統を遮断、ビルの予備電源が復旧する迄に侵入しそこからビル内の敵を掃討する。」
「俺もブラックアイの案に賛成だ。正面から向かってくのが無謀なのは分かり切ってるしな。」
「別に私はあなた達の作戦に反対する訳じゃないわよ。でもあなた達のやり方では必要以上の犠牲が出るわ。関係無い人は絶対に巻き込みたくない。もっと穏便に…」
「どっちにしろ接敵すれば死人が出るのは確実だ。だったら奴等を」
「極端過ぎって言ってるの。なんであなた達は殺すか死ぬかしか考えられないの?」
「当然だッ‼︎」
「えっ」
勇介が驚いたのは泉の言葉に対してではない。泉の先程の発言にブラックアイが怒気を孕んだ調子で反論し出したからだ。今迄何度か彼と戦った勇介だがその時にすら見せなかった激情をこの場で見たという事が何とも意外だったのだ。
「…武器を持つのは何の為?敵を殺す為、それだけだ!どんな理由や建前でもそれは変わらない!……そんなことさえ分からないならお前に武器を持つ資格はない。…正義の味方ごっこの前に、少しは現実を見てみる事だな?」
仮面に覆われ顔は見えないがブラックアイの気迫はひしひしと伝わってくる。反論された泉はもちろん勇介でさえ思わず気後れしてしまった程だ。
しかし作戦会議は結局策の出ないまま中断されてしまう。勇介達のいる目高組の事務所が一瞬で暗闇に支配される。泉が停電だと気付いた数秒後には勇介とブラックアイが装備を装着し臨戦態勢に入った。
「何⁉︎停電⁉︎」
「いや、外を見ろ。他の建物はどこも消えちゃいない。という事は…」
「あぁ。敵が来た!」
階段を駆け上がる足音。事務所のドアのすぐ外に泉達を始末すべく招集された殺し屋達が向かっていた。
殺し屋達の大半はクライアントに方々から雇われた鉄砲玉崩れだがその中の一部には場数をくぐり抜けたプロが少数ながら入り混じっている。そうなると当然プロが鉄砲玉崩れを統率する指揮官の様な格好になるのだが実際は違った。
銃を握る興奮と事務所の中に獲物がいるという緊張でドアの近くにいた鉄砲玉崩れの1人が勝手に乗り込んでいってしまったのだ。
「オラァァぁァぁ‼︎…あ?」
続き事務所の中に一斉に全員が乗り込んでいったがいざ入ってみると事務所の中はもぬけの殻だった。
「どうなってやがる…?おいてめえら!部屋の中探せ!」
舌打ちや毒づく愚痴が聞こえたが鉄砲玉崩れ達は室内を荒らし始める。そのクリアリングというにはあまりにもお粗末な彼等の動きはブラックとブラックアイには格好の餌食でしかない。
鉄砲玉崩れの1人が奥に進むと目高組の組長の間と思わしき部屋を見つけたドアを開け更に進んでいく彼は天井に張り付いていたブラックアイに喉元を掻き切られ声にならない声を出し絶命。
違う男は台所に進んで行った。仲間が大勢いる事に安心したのか男は緊張を解いたが次の瞬間、手前にある扉の中から伸びた腕が彼の胸にナイフを突き立てる。男は上半身を自身の血に染めながら息絶えてしまった。
いつしか男達殺し屋とブラック達は狩る側狩られる側の立場が逆転していた。その事に殺し屋達は気付かない、いや気付く暇すら与えられない。
ブラックアイはボウイナイフを駆使し暗闇を音もなく移動し殺し屋達を1人、また1人と始末していく。ブラックは出入口の方向に回り込み9mm拳銃を静かにホルスターから抜いた。
「おい、なんか減ってねぇか?」
次第に仲間の声が減っていくのに気付いた生き残りが周囲の仲間に呼びかける。
「くだらねぇこと言ってねぇでさっさと…!あぁ‼︎」
「どうした⁉︎」
隣にいた男の絶叫に反応したもう1人の男。次の瞬間、殺し屋達には想定外の事態が訪れる。事務所に明るさが戻ったのだ。
「な、なんだよこれ……!」
男の足元には減っていった声の主である仲間だった死体がどれも喉元か心臓から血を流しながら転がっていた。彼以外にも生き残りはいたようで彼と残り5人はいつの間にか目の前にいたブラックアイとブラックに向け持っていた消音器付きの拳銃を一斉に発砲した。
が、放たれた弾丸はブラックとブラックアイを殺す事はなかった。
「鏡か⁉︎」
生き残り達が振り向いた瞬間ブラックは3人の心臓部に一発ずつ撃ち込み、ブラックアイはボウイナイフとブラックから借りたコンバットナイフで自分に近い距離にいた2人を背後から突き刺した。
3人はすぐに絶命、残る2人はもう虫の息。
しかし突如窓を突き破って入ってきた日本刀を持つ男とその手下と思われる短刀とスナップノーズされたリボルバーを持った2人にブラック達は不意を突かれてしまう。
「ッ!…新手か…‼︎」
「気をつけろブラックアイ!さっきの奴らとは違う‼︎」
すぐに物陰に身を隠したブラック達を手下2人がそれぞれ銃撃する。
身動きを封じられてしまったブラック達を尻目に日本刀を持った男は出入口のすぐ隣にあったロッカーを刀で突き刺してしまう。
「がぁぁぉぁぉッ⁉︎」
ロッカーの中にいたのはブラックアイが尋問した潜入捜査官だった。右肩を刺し貫かれた彼は背広を血で染めながら地面に倒れ伏す。
「外れだったか」
苦痛に呻く捜査官に見向きもせず男は台所へ行き金庫の前で立ち止まった。
(まずい…あそこには泉が…!)
物陰に隠れながらマスクの下で勇介は舌打ちした。
(こいつら間隔を開けて撃ってきてる…6発だ。後2回銃声が鳴れば反撃出来る…‼︎)
手下が弾切れを起こした隙に反撃しようと考えていた勇介だが泉を狙う凶刃はその間にも刻刻と隠れる事しか出来ない泉を追い詰めていた。
「…死にさらせぇッ‼︎」
居合の構えを取った男が金庫の裏に回り込み刀を泉の心臓部に向けて突き出したが刃が泉に届く事はなかった。
「う、うぁぁ……!」
泉の代わりに刃が仕留めたのは潜入捜査官のいた隣のロッカーから飛び出した真だった。
「真⁉︎そんなっ‼︎」
刺されたのは心臓とは反対側だったが元々手負いだった真にとっては致命傷となった。
とめどなく血を流す真から躊躇せず刀を抜いた男は再び泉を狙い刀を振りかぶる。
今度こそ死を覚悟し目を瞑ってしまった泉。だが再び男の凶刃が泉を貫くことはなく身を呈して刀に貫かれた真の次に泉を救ったのはブラックアイであった。
「舐めるなよ…ゴロツキ風情がッ…!」
ブラックアイは泉の身体に刃が届くより早くワルサーP5を発砲し男の太腿に命中する。9mm弾が着弾した衝撃で怯む男。だが本来ブラックアイが相手にしていた男の部下が、身を乗り出して攻撃したブラックアイの隙を見逃す訳はなくそれぞれ二回ずつ発砲しブラックアイは腹部に4回銃撃を受けてしまった。
「うぉぉぉぉ‼︎」
ブラックと同じく防弾ベストを着ているブラックアイだが過去に銃撃を受けて怯んだブラックとは違い、なんと着弾の衝撃に耐え切ってしまった。
仮面の奥から雄叫びを上げる彼はナイフとワルサーP5を構え泉の許へと突撃していく。無謀過ぎる突撃だったが彼が再び銃弾を受ける事はない。
「こいつらは任せろ‼︎」
物陰から飛び出すブラックアイを援護したのは敵同士だったブラック。先刻の共闘で制圧した殺し屋から奪ったトカレフ拳銃と元々使っていた9mm拳銃をツーハンドで男の手下達に向けて連射する。手下2人は今まで隠れていたブラックの奇襲に一瞬遅れて反応するが音速の弾丸を躱す事など出来ず複数の弾丸を生身に受けどちらも即死した。
残る刀の男に向けてブラックアイが発砲しながら突撃するが男は怯むどころか寧ろブラックアイと真っ向からぶつかりナイフと刀が切り結ぶ。
何度もナイフと刀が衝突し甲高い金属音が銃声が止んだ空間に響く。しかし刀の方が間合いは有利なせいか徐々にブラックアイが追い詰められてしまう。そこにブラックが加勢する。
ブラックは9mm拳銃をホルスターにしまい男に向かっていく。吏玖の動きを見よう見まねで蹴りの連撃を繰り出すがその全てを回避するか刀の峰で弾かれるが蹴りが止まった次の瞬間には再びブラックアイがナイフで斬りかかっていき男に全く反撃の隙を与えない。
そして遂に男の頬をブラックアイのナイフが掠めるのだった。そのまま攻め続けるブラックとブラックアイだが男は腰のズボンからグリップから異様に伸びたロングマガジンを装着したM92INOXを引き抜き馬賊撃ちの要領でブラック達に向けて連射する。
狙いも付けずに放たれた弾丸はそれぞれ左右に前転したブラックとブラックアイに回避されたがしかしそれでも男の撤退する時間は稼げた。
「俺が殺してやるまで、くたばるなよ…」
連射しながら男は組長の間に退がり、先刻男達が侵入する時に割られた窓から飛び降りていった。
男を追撃しようと窓から身を乗り出すブラックとブラックアイだが飛び降りた男は明らかに不自然なダンプカーの荷台に着地する。男は動き出したダンプカーと共に戦場と化した事務所から撤退した。
「あいつ、最初から逃げ道を確保して俺達を…」
「捨て駒共の突入やあの刀使い達の増援…妙に手際がいいな。多分黒幕がいる。」
「…黒幕?」
ブラックとブラックアイのやり取りを泉の悲鳴にも似た叫びが遮った。
「目を開けてよ!おねがい……真‼︎」
ブラック達が組長の間から戻ると仰向けに倒れたまま刺された傷跡から未だ出血が続いている真ととっくに息絶えた彼を揺さぶる泉がいた。
「真…真………真……」
泉はひたすら真を呼び続けるがそれをブラックアイが引き止めた。
「止せ……もう死んでる……」
「死んでないわ‼︎早く病院に連れてかないと…」
「もう止せ泉‼︎‼︎」
2度目のブラックアイの怒声に泉は肩を震わせた。
「やめろ…泉………そいつはお前の為に全てを投げ打った。お前が揺さぶるそれはもう、お前の知るそいつではない」
「そんな………!そんなのって……!」
顔を真の血に染まった両手で覆い泣きじゃくる泉にブラックアイは語り掛ける。
「ここを離れるぞ。彼はここに置いていく。犠牲に報いたいのなら、今は生き残る事を考えろ。」
言いながらブラックアイは泣き続ける泉を抱き上げ事務所を後にした。
事務所のビルの地下部屋から隣の空きビルに移動したブラック達3人はビルの中で装備を外し徐々に朝の日差しが差し込み始める屋上に移動した。
直後ビルに警察官達が殺到したがそこにはブラック達も殺し屋もいない。あるのは大量の死体だけである。
「ビルの中全部を洗え‼︎現場を封鎖して、ここから人を出すなよ!」
スーツや制服の警官達の喧騒が隣から漏れ出ているがこちらには全く気付いていない様だった。
「……お願い。先輩、ブラックアイ。私を手伝って…」
泉の弱々しい声に真っ先にブラックアイが反応する。
「俺はお前の指図を受けるつもりはない。敵全員殺すしその為なら手段は選ばない。…それでもいいんだな?」
泉は少しの間の無言の後に俯いたまま反応を返した。
「えぇ。それでいいわ。」
先刻ではあれ程反対していたのが嘘だったかの様にあっさりとした返事。勇介は遂に2人の会話に割って入った。
「それでいいのか泉ちゃん!…まさか真さんの復讐の為なのか…?」
「私やっと気付いたの…」
「え…?」
「真以外にも私には大事な人達がいっぱいいた…。お父さんも、組の皆も皆あいつらの犠牲になっていったわ。…あいつらを好き勝手にさせていたら犠牲はもっと増えていく。もし、これから犠牲になっていく人を救うとしたら…それはもう、あいつらを殺す他ないのよ…!先輩だってそうやって犯罪者達を殺してきたんでしょ⁉︎なら私だって…!」
泉はまるで悲鳴の様な声で話し続けた。
「決まったな。ブラック、すぐに黒影を呼べ。俺は仲間達を集めてくる。泉、お前は…」
「待てよ!お前何でそんなに」
だが勇介の反論はブラックアイに遮られてた。
「貴様は何が不満なんだ?俺の仲間が信用出来ないか?……泉が銃を持ち矢面に立つ事か?」
「泉ちゃんが戦うって事だ!奴等を倒すだけなら俺達だけで…」
「先輩、もういいから」
「なっ…!」
泉からも反論を受けて完全に劣勢になってしまった勇介は口をつぐむ。
目に涙を浮かべながらも泉はハッキリとした口調で告げた。
「復讐するつもりなんてない。でもこれだけは私が決着をつけなきゃいけないの。他の誰でもないこの私がね。私は………真や皆が生きる筈だった明日の為に、戦うわ。」
口調からは覚悟を決め、迷いを捨てた事が感じ取れた。
「いいんだな。泉ちゃん…?」
返事は無かった。いつからか泉の顏には涙は消えていた。
朝日を背に泉は宣言する。
「さあ………行くわよ!」
「それで……小娘は結局仕留め損なったと?今まで何人やられた?んん?行く前に挨拶してきた手下共もやられたか、伴蔵。」
「はい…。申し訳ありません。」
窓際に立つ礼服の初老に伴蔵と呼ばれていたのは先刻真を殺した刀使いだった。
「ハハ…マスクの2人組ねぇ…。そういえば、前にもそんな奴がいたなぁ。あれは九州だったか。ここに来る前港を一つ奪われてしまったよ。まあ大した損害ではないがね。」
「………奴等、ここに来るでしょうか?」
「来るさ。あんなに派手にやったんだ。寧ろ来てもらわなきゃ困る。」
頭を下げたまま伴蔵は初老に質問した。
「江青を呼べ。人手が要るならハミド達を貸してやる。大事な来客だ。持て成しに落ち度があってはならんだろう。」
「承知致しました…」
短いやり取りが終わると伴蔵は足早に去っていった。
「さて中等部の悪餓鬼共はどう出るか…」