第2話「仄暗い闇の底から」
新聞を読んだ後登校すると学校の校門前には警察が大挙しており現場の保全や捜査が行われていた。教室に入ると真理が自分を見つめ続け後で体育館に来る様に目配せしてきた。話の内容はもう察しはついてる。どう答えればいいか考えながら朝のHRが始まった。
朝の事件のせいで授業は全て潰れ全校集会、学年集会、臨時集会と午前の授業はあっという間に終わった。テスト期間なんてのは既に皆忘れ去っていた。
昼休みに体育館に行くと真理が涙目になりながら自分を待っていた。
「ねぇ、あの人達って…」
「言うな。俺も大体の予想はつく」
「あの人達が死んだのってやっぱり私達が」
「お前は絶対に悪くない!あいつらは…そう、自業自得だ」
「でも…」
「いいんだ!俺は別に後悔なんてしてない!もしまた同じ事が起きても、俺は迷わず戦う!」
「…強いんだね。勇介も…あの人も…」
「…そうだな…」
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り2人は教室に戻った。
放課後。真理は助っ人として在籍しているバスケ部の練習に行き俺は1人で帰路を歩いていた。いつも考える事がある時は必ず電車やバス等は使わず1人で長時間歩いている。そして商店街を抜けて町工場の道を歩いていた途中だった。突然足元のコンクリートにこの国では決して見る事のない着弾の火花が散った。
どこから撃たれたのか。周囲を見渡すと前方に拳銃を片手で構えた男がいた。
「お前があのガキ共を始末した高校生かァ」
「人違いだろ。あんたが探してるのは今頃学校で野球やってるぜ」
「いぃーや、お前で間違いない。あいつらを殺す前に吐かせたしちゃんと情報屋にも調べさせた。そう殺気立つなよ。俺はお前さんを勧誘しに来たんだよォ」
「勧誘だと?」
「ガキとはあの人数を躊躇わずにぶっ殺せる奴なんてそうはいねぇ。俺の仕事を手伝ってくれるなら好きに暴れていいんだ。金もある程度はくれてやるし女も抱かせてやる。ぶっ殺した奴の親玉がそれを手打ちにしてしかも仕事の依頼までしてやってるんだ。悪かねぇ話だろ?」
「…せっかくの話だが断る。俺は普通の高校生だ」
「そうかよ。なら死ねや!」
言い終えると同時に男が発砲し停めてあった車の影に隠れた俺が元々居た場所に3度着弾の火花が散る。
逃げるしかない。逃走のルートを考えながらドアミラーで奴の動向を疑おうとすると今度はそのドアミラーが撃ち抜かれ車体そのものにも数回着弾した。発砲音は八回。その後弾倉を交換しスライドを引き直す際の金属音でリロードしてる事を確認する。奴が使っているのはトカレフTT33。
日本のアンダーグラウンドで多く流通している旧ソ連製の拳銃だ。(もっとも今は純正の旧ソ連製よりもデッドコピーの中国製トカレフ[54式手槍]の方が多く流通しているのだが)
リロードが終わり再び奴が自分との距離を詰めながら発砲してくる。どうする。どうすらばいい?悩む勇介の頭に一筋の光が差した。
ガキ共をぶっ殺した高校生は車に隠れてからまだ何も動きを見せていない。だが車に隠れた後にドアミラーで俺を見ようとする所を見ると場慣れしていると見た。この国の一般人は事件に巻き込まれたら普通パニックになってトチ狂った行動をするもんだが奴はどうやらその一般人とは違うらしい。余計殺すのが惜しくなってきちまったじゃねぇかよ。えぇ?
だが言葉には出さない。殺すのが惜しくとも依頼された仕事の方が遥かに優先度は高い。不確定要素は排除した方が手っ取り早い上に確実だ。
距離を詰め確実に始末しようと撃ちながら車に近づいていき遂に奴が隠れている車の裏側に回り込む。
だがそこにはいるはずの奴は居なく振り返ると既に奴は50m先の道路の曲がり角を曲がり切っていた。
「クソッタレ!てめえが逃げるんなら学校のガキを殺して回ってやらぁ!」
男の怒声が後方で響く。だが構う暇はない。逃げるのを辞め立ち止まった時、それは資座勇介と言う人間の死を意味する。
「学校で待ってるぜぇ兄ちゃん!弾は腐る程あるんだからよォ!ハハハハハ!」
さっきまでの拳銃とは違う発砲音がした。この重く響く音はおそらく散弾銃の銃声だ。ハッタリではないと言う事か。
それならば。自宅に辿り着いた勇介は前回と同じく黒と黄色の仮面と武装を纏い始めた。だが前回と違うのはズボンのベルトにホルスターが架かっておりホルスターには父の形見とも言えるあの因縁の9mm拳銃がセットされていた。
例の学校に着くやいなや男は車からソウドオフカスタムされた2連水平散弾銃を取り出し校門の警備をしていた制服警官2人に撃ち放った。日本の警官はアメリカの警官とは違い防弾ベスト等といった代物は装備しておらず代わりに装備していたのは包丁やナイフの様な刃物からしか身を守れない脆弱な防刃ベストであった。当然男の散弾銃が撃った12ゲージバックショット弾の威力に耐えられる筈は無く警官2人はそれぞれ胴体に面制圧の為の複数の鉄球を受け倒れ伏した。警官達は自分が何をされたのかを理解する暇も無く意識を失った。
男が学校に入り最初に見たのはグラウンドを走る陸上部とその顧問であった。まるで鹿や熊を撃つかの様に躊躇わずに男は散弾銃を撃つ。距離を空けた分弾丸の加害範囲が伸びたバックショット弾は複数の部員達を襲った。
勇介の通う学校はそれらの銃声を皮切りに学校では無くなりその代わりに学校の形をした「戦場」、あるいは「地獄」と化した。
勇介が学校のフェンスを超え敷地に侵入するとそこはもう見慣れた学校ではなかった。あちこちから悲鳴や怒号が鳴り響き時折銃声もその中に混じっていた。
すると校内から逃げ出してきた女生徒達が見え勇介は中庭の木々の合間に姿を隠す。
「鉄砲を持った奴が校内を歩き回ってるって本当⁉︎」
「うん。しかも辺り構わず撃ちまくって暴れてるらしいよ‼︎」
「私は誰かウチの学校の生徒を探してるって聞いたよ」
何て事だ。まさかそこまで狙ってくるとは。だが勇介はその次に聞いた一言で更に驚く。
「今その犯人が体育館に立て籠もってるって‼︎」
夜の体育館。真理は自分の素性を気づかれない為にとにかく目立たずに皆と同じく跪いていた。
犯人は散弾銃を私達の方に構えたまま卓球台に座っている。
「あの野郎。まさかこのまま来ない訳じゃあねぇだろうなぁ」
私には分かる。多分その野郎というのは勇介の事だ。真理はひたすらこの場に勇介が来ない事を祈った。事件なら警察が何とかしてくれる。だから勇介は、勇介だけは絶対ここに来ないで、と。
「まあ来ねぇなら来ねぇでまたこいつら撃てばいいか。」
男の散弾銃の銃口が私達の方に向く。テレビで見た事がある。散弾銃というのはある程度の距離を離れれば弾丸が最も最適に散り広範囲を攻撃する事が出来るという。今男が撃てば間違いなく自分も撃たれるだろう。
跪いたまま目を瞑るが銃声の代わりに響いたのはガラスの割れる音だった。
自分が居る方向とは正反対の方向のガラスをガレキを投げて砕き割り男の注意を引かせ一気に距離を詰める。男が自分の存在に気づくと同時に飛び蹴りで散弾銃を持っている方の肩を蹴り着地する前から散弾銃を掴み取り床に捨てさせた。散弾銃を取ろうと距離を空けた男に再び距離を詰め徒手格闘を挑む。散弾銃を諦めた男は応戦しようとするが体勢を変えるよりも前に勇介のパンチが男の顔面を捉え間髪入れずに回し蹴りを男の顎に命中させる。後方に倒れる男。前回の様にすぐに拘束バンドを取り出そうとすると今度はナイフを取り出した男が切りかかってきた。
不意を付かれナイフを出せなかった為そのまま素手で対応する。男が大振りでナイフを外した瞬間勇介のアッパーが鳩尾を命中し勇介は続けてパンチとローキック、後ろ回し蹴りを繰り出しその全てをくらった男はナイフを捨て距離を空け拳銃を抜こうとする。だが勇介はそれすら許さず秒速でレッグホルスターから9mm拳銃を引き抜き腰だめで2発、そのまま腕の位置を上げ今度は両手で構え直し6発発砲する。極至近距離なだけあって弾は全て命中し男は胴体の複数の風穴と口から血を流し倒れ伏した。
男が死んでいるのは誰の目にも明らかであった。
勇介と男の戦闘が終わった数分後に38口径拳銃を構えた警官隊が突入し真理達を救出した。だがブレーカーが落ち突如暗闇に包まれ再び体育館を電灯が照らし始めるとそこには勇介の姿は無く複数弾を受け既に死亡しながらも未だに手足を痙攣させている男の死体のみがそこにあった。
翌日。今度こそ事件の決着は付いた。黒幕のあの男が死んだ事で少なくとも自分達の身の安全は確保出来た。学校での戦闘は警官隊と男の銃撃戦という風に捏造されており勇介の存在は状況証拠しか無かった事でその存在は無かったものとして処理された。幸い学校での戦闘で死者はおらず生徒の精神的ケアや事件の事後処理の為臨時休校という形で学校は例年より一ヶ月早い夏休みを迎えた。
事件を思い起こす度にあの友人の言葉を思い出す。そう。あれはまだ祖父が生きていた時の事だった……