吏玖(黒影)
泉真理
ブラックアイ
オフィサー
隊員候補の男(ボマー)
サボット
総帥
第7話「蜂起の狼煙」
廃工場での戦闘から3日後。
昼間だというのに窓を締め切り外から様子を伺う事が不可能になっているその部屋では椅子に座った中年の男がスーツの女と今後の処遇について話し合っていた。
「それで…後始末に失敗した挙げ句にジジイの孫にも上手くやりこまれた訳だ」
「申し訳ありませんでした。」
「我々はまだ行動を開始したばかりだ。隊員たちの練度も士気も必要最低限なレベルでしかない。余計なリスクは避けて規模を大きくしていくべきだというのに」
「ごもっともでございます」
「…もういい。お前と話していては埒が明かん。銀行襲撃の件もそうだがしばらくは警察を撹乱しておく必要がある。」
「でしたら適任がおります。サボットが訓練していた隊員候補の者ですがその者に陽動をかけてもらいましょう。本人には知らせずに」
「工作部隊の隊長か…いいだろう。手配しておく。…ジジイの孫もしばらくは放っておいて問題ないだろう。」
「了解しました」
事務的な会話は数分で終わりスーツの女は部屋を後にしていったがその会話を部屋の物陰に隠れて最初から聞いていた者がいた事には最後まで気づかなかった。
「速報です。たった今入りました情報によると六本木区の公道に敷設されていたマンホールが爆発、マンホールの真上に停車していた区営バスが爆発の衝撃で横転し乗車していた13名が重軽傷を負い後部にいた74歳の女性が頸骨を折り搬送先で死亡が確認されました。警察は事故と事件の両方で捜査を進める方針です。これが意図的に発生した事件となると先週のプレハブ棟爆発と自然公園の噴水爆発、事件のあった同区の空き家と東京湾埠頭での不審船爆破に続く4件目と言う事になりますが…」
全国で放送されるニュースというのは数ある事件事故スキャンダルの中からほんの一部を取り上げてる事にしか過ぎない訳だがそのほんの一部に連続して自分の住む街が取り上げてられてるというのはやはり異常な事なのだろう。勇介は自分が当事者の1人であったプレハブ棟爆発を思い出しながら考えていた。
廃工場での戦闘から暫く日が経つがあれで敵が自分を狙うのを諦めたとは思えなかった。恐らくそう遠くない内に再び彼等と合間見える事があるだろう。銃身が破損し使用不能になったライフルは特殊なルートを通じて廃棄した。その後祖父の武器庫を捜したがやはりかつてあった筈の大多数の重火器や弾薬が持ち出されておりしかもそれは最近持ち出されていた訳ではなかった様だ。確証は無いが中身が抜き取られた弾薬ケースに埃が被っているのを見れば誰でも想像がつく。祖父が死んだ前後の時期に彼等が持ち出したのだ。今ある弾薬や武器でも充分ブラックとしての活動に支障をきたす訳ではないので装備の都合は構わないのだが心配なのはその持ち去られた重火器が一体何に使われるのかとう事だった。祖父の遺品の中には暗号化された武器庫のリストがあるのでそれと照らし合わせる必要がある。そうこれからやる事を決めた時であった。テーブルに置いてあった携帯が着信音を鳴らしており電話に出ると聞き覚えの無い青年の声が出る。
「泉真理は俺が捕らえた。18時に前回の廃工場に来い」
勇介はこれからやる事など一気に頭の中から吹き飛び手の平からは冷や汗が流れ出し始めていた。
ブラックの装備に着替えバイクを使って予定通りに廃工場に到着した。ブラックとしての活動に今までは使っていなかったが実は自動2輪の免許を持っており父親の形見だった古いバイクを少し前から運転していた。この事は吏玖はもちろん真理ですら知らない。(秘密にするつもりはなかったが)
バイクから降り新しく武器庫から出してきたM3グリースガンを構えて廃工場内に侵入すると前回自分が隠れていた二階の階段を中心に黒い丸が入った奇妙なフルフェイスヘルメットを被った男が降りてきた。
「ほう。やはり来たか。…最初に言っておくが泉真理は無事だ。携帯だけ部下に盗ませ、お前をここに誘い出す為に使った。それだけだ。」
「…お前あのスーツの女の仲間だな?随分手の込んだ真似をしてくれたようだが、俺に何の用だ⁉︎」
黒ヘルメットの男の根拠の無い威圧感に負けじと声を荒げる勇介。
「中野学校を潰した首領の孫。その力、試してやる」
先に行動に出たのは勇介だった。勇介が黒ヘルメットの男に向けてM3グリースガンをフルオートで発砲する。M1トンプソンよりも遅い連射速度で放たれた45ACP弾が殺到するが黒ヘルメットの男はそれを階段の奥に退く事で回避し勇介の発砲が止まった直後に見慣れないショットガンで反撃してきた。よく見るとオートマチックでピストルグリップのソウドオフという個性豊か過ぎるカスタムを施されていたブローニングオート5モデル11だった。この銃も武器庫にあったが持ち去られたいた様だ。
地面に着弾し通常よりも大きな土煙を上げた事で12ゲージのスラッグ弾というのは分かった。直撃すれば防弾チョッキで防げはしても大鎚で力一杯殴られた様な衝撃は到底耐えられる物ではないだろう。ショットガン特有の間を置いて連続する銃声が響く中負けじとグリースガンで反撃するがそのどちらもお互い走りながら発砲する為一発も命中する事なく牽制になる程度であったがショットガンが弾切れを起こした事で状況は大きく変わる。殆どそれと同時にグリースガンも弾切れを起こしリロードしようとしたその時に黒ヘルメットの男が二階の通路から飛び蹴りを仕掛け勇介はそれを諸に食らった事でグリースガンを落としてしまう。9mm拳銃に持ち替え発砲するが発砲するより先に格闘戦の間合いに入った黒ヘルメットの男が裏拳を繰り出した事で裏拳を受けた9mm拳銃を構える両手は大きくぶれあらぬ方向に弾丸が飛んでいった。
完全に敵の間合いに入られた。銃が当てにならなくなる距離にまで詰められた今の状況を鑑みて自分があの時とは違い明確に追い詰められている事を勇介はマスクの下のした口元を歪めながら瞬時に理解した。
「聞いていたよりもまるで弱いな。これでは無断で出撃してきた価値がない」
冷静で冷酷な口調だが攻撃の手は一切緩まず火薬甲のついた拳で鋭く殴り込み時には前後の回し蹴りで肉薄してくる黒ヘルメットの男にそれらの攻撃を躱したりガードする防御に徹する事しか出来ない勇介は言葉を発する余裕もなかった。だが遂にその防御に徹していた勇介の緊張の糸が途切れボディアーマーに火薬甲で威力が増したアッパーが命中する。パァンと銃声染みた音を立て手持ち花火サイズの火花を上げた拳はボディアーマーに大きなダメージこそ与えなかったものの拳と火花というタイミングのずれた2連撃の衝撃は勇介の鳩尾を2度に渡って貫通し行動不能になった勇介はそのまま崩れ落ちた。
「殺しはしない。が、邪魔立てされる訳にもいかない。重症ぐらいにはさせてもらおう」
黒いヘルメットの男がファイティングポーズを解き腰のヒップホルスターから取り出した古風な大型単発拳銃を勇介のボディアーマーに突き付け引き金を絞るその時であった。
重く響く銃声が鳴り亜音速で撃ち出された45ACP弾が黒ヘルメットの男の背中に着弾した。
「そこまでだ‼︎この距離ならアンタを充分狙える‼︎」
M1911A1拳銃を構えた黒い影が入り口で黒ヘルメットの男を狙っている。既に一発被弾したはずの黒ヘルメットの男は着弾のダメージをもろともせず直立不動のままだった。
「武器を捨てろ。防弾チョッキを着てるようだが妙な真似をするつもりならいくらでも撃ち込むぞ」
黒い影は拳銃を構えたままじりじりと距離を詰めていく。距離が近付くにつれてその黒い影の姿が鮮明になっていく。顔を覆った見覚えのある白い仮面は吏玖だとすぐに分かった。
「銃は撃つぞと言って撃つものじゃない。…貴様に今から俺を撃つ度胸があるかな」
言い終えた後に自然な動きで黒スーツの男は振り返りざまに単発拳銃を吏玖に向けるが黒スーツの男が発砲するより先に吏玖が続けざまに2発発砲する。撃ち出された2発は黒ヘルメットの男の胴体に吸い込まれていき着弾の衝撃で黒ヘルメットの男はその場に倒れ伏した。男が倒れてから動かない事を確認してからも拳銃を向けて警戒しながら勇介に近付く。
「おい!立てるか勇介!まだ終わってないぞ!」
「う…。何でお前が…」
「創立記念日だったからな。帰り道に寄ったらスーツの女の人にお前がここにいるって聞いてな」
スーツの女?スーツの女が何故自分を助ける様な真似を?
まだ火薬甲のダメージが残り体の自由が利かず吏玖に無理矢理起こされる。
「なるほど、貴様はそいつと違って躊躇わないのか。…今回は退くが次は2人とも始末してやる」
黒ヘルメットの男の声が廃工場に響き2人は男が倒れていた場所に振り返るとそこに男の姿はなく代わりにUSBメモリが落ちていた。
「こいつは…」
勇介の家に戻り置かれていたUSBメモリをパソコンで開いた。中にはスーツの女やガスマスクの男の情報や武器庫から「盗み出した」武器のリスト、組織の幹部のプロフィールや活動部隊の編成に拠点の位置情報とありとあらゆる情報が入っていた。
「あ!この女、俺がさっき言ったスーツの女だ!」
吏玖が画面を指差す。本名は分からなかったが無線でのコールサインの欄には「オフィサー(諜報員)」と書かれてある。トンプソンの男には「サブガン(短機関銃)」とシンプルなコールサイン、自分のライフルをあの暗闇で狙撃してきたガーランドの男には「マークスマン(分隊支援)」と書かれておりさっき戦った黒ヘルメットの男はあの中央に奇妙な黒い模様が入っていたフルフェイスヘルメットの形容通りの「黒目(ブラックアイ)」と書かれていた。
「なんでこんな大事な物わざわざ落としていったんだ?」
「まぁ絶対罠か待ち伏せているかだろうな」
「!。これ見ろ!」
「ハイ?」
幹部のプロフィールを飛ばすと次の項目には「陽動計画」と今までのページとはまるで文体の違う箇条書きの文章が画面に写り込んだ。
「噴水…マンホール…空き家…またマンホール…。これ、爆破事件の場所か!やっぱりあいつらが」
「またマンホール…ん?それ、場所が違うな。もしかしてここが次の事件の場所か?」
「時間も書いてある!あと1時間だ!バイクで飛ばすぞ!」
「待てよ!バイクだと⁉︎そんなの聞いてないぞ!」
次のマンホール爆破を止める勇介を見て呆れていた吏玖だったがその爆破の予定地を見てすぐにその気を改めた。
その予定地とはここから数十分の渋谷区の交差点だった。
中等部と呼ばれる組織の隊員候補の男は予定通りに指定された地点に爆弾を設置していた。信号の送受信で起爆するこの爆弾は爆薬にC3爆薬を使い爆発に指向性を持たせてある。爆風の届かない地点まで離れ起爆しようとしたその時であった。
「そこまでだ!爆破なんてさせないぞ!」
計画を始める前に幹部から言われていたマスクの男がフラッシュライトを向けてきた。ライトの光で分からないが恐らく拳銃を此方に向けているというのは経験で分かる。
「何故だ⁉︎どこから入ってきた‼︎」
「お前が入ってきた路地裏からな。陽動もここまでだ!起爆装置を捨てろ!」
「…!そんな事まで…くそッ!」
勇介はライトと拳銃を同時に向けていた。これなら相手に気付かれずにすぐに牽制から射殺に転じられる。最も射殺は最後の手段だが。
「分かった。起爆装置は捨てるよ!ホラッ!」
男は起爆装置を下水溝に投げ捨てた。投げ捨てたのを確認した勇介はライトを照らし男の視界を奪ったまま拳銃をホルスターに仕舞いこんだ。さて、ここからどうするか。ライトを照らし続けながら勇介は次の行動を決め兼ねていたその時だった。
男はボウガンのストックについたフックを蹴り上げ反動で先端が浮き上がったボウガンを掴みそのまま腰だめで装填されていた小瓶を撃ち出した。
「!」
撃ち出された小瓶を避け再びホルスターから拳銃を取り出し2発発砲するがその場所に男はいなかった。銃声と小瓶の割れた音が止み再び下水道内に沈黙が流れるが勇介の後方では小瓶の割れた所から広範囲に炎が燃え上がっていた。小瓶は火種と可燃液が入った火炎瓶だったのだ。来た道に戻る事は不可能になりこれでどちらかを倒して別の道を使って戻るしかない。勇介は位置を悟られない様ライトの電源を消し下水道内のクリアリングを始めた。
クリアリングを始めて数分。依然男の姿は発見出来ず代わりに次々と火炎瓶が撃ち込まれ徐々に退路を狭められていく。この下水道内で有利なのは男だった。
「マスク野郎!そろそろケリをつけてやる!」
火炎瓶を装填し直し作戦前に暗記した下水道内の構図を思い出しマスクの男がいると思わしき地点の移動経路を塞ぐ為に次々と火炎瓶を撃ち込んでいく。さっき撃ち込んだ火炎瓶でマスクの男の居場所は完全に封じた。後はこの「トドメ」の一発を撃ちこめば決着がつく。トドメの一発を装填し引き金に指を入れたその時だった。前方の燃え上がる炎で揺らめく影に自分ではない者の人影が写り込む。
「⁉︎」
男が振り返るとそこには誰もおらず気の所為かと思った瞬間ボウガンに装填してあった一発が甲高い音を立てて破裂する。破裂した一発から粉塵が噴き出し危機を察した男は下水に飛び込んだ。トドメの一発とはスモークグレネードの中身を可燃性の粉塵に入れ替えたものであり先程まで撃っていた「火種」と併用する事で味方が退避した後に屋内で広範囲で爆発、敵を殲滅する為の物だったのだ。男はその爆炎から逃れようと下水に飛び込んだ訳だが暫く経過しても爆発が起こった様子が無い。確認しようと水中で通常の矢を装填し下水から上がったがやはり爆発した様子は無かった。不発だったのだろうか?そう思い撤退しようとした時だった。炎の中からマスクの男が飛び込んでくる。どうやら男と同じく1度下水で体を濡らし炎の中を飛び越えたのだろう。ボウガンを構えマスクの男に狙いをつけたと同時に再び発砲音がボウガンの機関部が着弾の火花を上げ大きく歪み発射不能になってしまう。
「後ろだと⁉︎」
振り返ると後方には炎に照らされながら白い仮面の男が拳銃を構えていた。敵は2人いたのだ。あまりの事態の急転に男は対応が追いつかず思わず怯んでしまったその瞬間背中に強い衝撃が走り倒れ伏してしまう。振り返っていた間にマスクの男が近付きトンファーで自分を殴ったという事に気付くのはその数秒後であった。
「終わったな。…こいつは拘束してここに置いていこう。後は公衆電話から通報でもすれば警察が後始末をつけてくれる。」
仮面をつけたまま吏玖が此方に歩み寄って来た。
「いや、あのUSBだけじゃまだ分からない事がいっぱいある。こいつを連れて帰って尋問しないと…」
「無理だな。仮に連れて帰って尋問したとして、その次はどうする?口封じの為に殺さないとお前の周囲の人間にまで危険が及ぶだろう。あのブラックアイとかいう奴に手酷くやられたのをもう忘れたのか?」
「う、うぅん…」
痛い所を突かれた。確かに口封じが必要だ。だが連れ帰る事もそうだが現実的に考えて尋問は無理だろう。ここに長居する訳にもいかないのは自分でも分かる。
「引き揚げよう。俺達に出来るのはここまでだ。それに爆破の阻止は出来たんだ。元々の目標は達成出来ただろ。…てか臭いなお前‼︎さっき下水入ったからだな⁉︎バイク乗るとき気をつけた方がいいぞ‼︎早くその臭いなんとかしろよ‼︎」
臭いの事は分かっていた。
「分かってるよ…」
吏玖と勇介はその場を後にしようとしたその時だった。どこからか携帯の着信音が鳴りその直後に爆発の音と地響き勇介達のいる下水道に響き男が最初にいた場所の近くに爆炎が立ち込めすぐに消えた。マンホールの爆破の阻止に失敗したという事には瞬間に気付いた。
「まずい‼︎逃げるぞ勇介‼︎」
「なんでだよ…あいつは倒しただろ…?」
「ぼやっとしてるな!急げ‼︎」
ブラックアイ(黒ヘルメットの男)は拠点に戻りテレビを点けた。テレビではどこもマンホールの爆発の速報が流れている。計画は多少の妨害こそあれど概ねの成果は挙げられた。これは成功と言っても差し支えないだろう。
「爆破の時、隊員候補からの定時連絡が途絶えて数十分が経っていた。結局俺が遠隔操作で起爆させたが…奴は資座勇介にやられた。…そうだな?黒目」
ドアを開けて入って来たのは爆破工作担当の隊長であるサボットと呼ばれる幹部だった。
「…だろうな。俺達はどうやら奴を甘く見ていた様だ。これで総帥も考えを改めるだろう。」
「サボット。ブラックアイに話があります。貴方は外して下さい。」
サボットとブラックアイの会話を中断したのはオフィサー(スーツの女)だった。サボットは返事こそしなかったが足早に部屋から退出した。
「シドウ…。貴方、廃工場で計画を資座勇介に教えたわね?一体どういうつもりなのかしら?」
「それはこっちの台詞だ。姉さん。アンタこそ奴の仲間に俺と奴の居場所を教えただろう。俺達を止めたいのなら父さんに頼めば部隊を投入出来た筈だ。それをしなかったというのは…アンタにも何か考えがあるからだろう?」
「貴方の無断出撃は見なかった事にします。ですが何故計画を資座勇介に教えたのか。それだけはハッキリさせてもらいますよ。」
「ふん…。奴に計画を教えたのは組織に奴の脅威を示す為だ。どの道あの男が父さん達の障害になる事は目に見えてる。ならば早い内に始末を着けた方がこの先支障なく勢力の拡大に専念出来る筈だ。違うか?」
「それなら戦闘を仕掛ける必要はなかったでしょう。私が仮面の男を連れて来なければ貴方は間違いなく彼を殺していた。」
「奴の強さを確かめただけだ。まぁ、思ったより大した事は無かったがな。寧ろあの仮面の男の方が立ち回りは器用だったし俺を撃つのに全く躊躇しなかった。…仮面の男の方が俺が倒す価値がある。」
「その言い草ではまるで戦闘狂ですね。…いいでしょう。彼等の事は私がまた追って調べ直しておきます。機会があれば彼等と戦うチャンスも与えましょう。しかし、今回の様な真似は。…2度と考えないでもらいますよ。真意が分からない他の幹部が知れば、貴方は立派な反逆者です。」
「分かった。次からは事前に知らせてから行動しよう」
「はぁ…。貴方は私の話を理解して聞いていたのですか?」
ブラックアイとオフィサーの会話はその実殆どがオフィサーによる説教が内容を占めていたが彼此三十分は続いていた。
「今日1日のニュースです。渋谷区の交差点でマンホールが爆発しました。爆発したマンホールは直上を通り過ぎようとしていた多量の燃料を積んだトレーラーのタンク部分を貫通。貫通した箇所から流れ出た燃料に爆炎が引火し半径約2m、高さ約8mの範囲が爆発。その衝撃波は6m先の建物にまで届き建物の窓や停車していた自動車の窓が破損しその場にいた16人の内13人が軽症、トレーラーの運転手は打撲と軽度の火傷を負い他の傷病者と共に病院に搬送されました。警察は爆発のあった下水道に駆け付けその場にいた身元不詳の男を書類送検しました。男は下水道に住み着いていたホームレスと話しており調査の結果爆発物らしき物は発見されずまた、下水道内部には漂流物から発生した可燃性ガスが充満しており警察と下水道局はこの可燃性ガスに自称ホームレスの男が持ち込んだ何らかの火種となる物が引火した事で今回の爆発事件が発生したと見ております。…」
ニュースでは先程の爆発の情報が飛び交っていた。結局ブラックアイや火炎瓶の男に上手く翻弄されていただけであったのだ。勇介は己の無力さを痛感させられた。吏玖はあの後装備を勇介の家に置きM1911A1拳銃だけ持ち帰り東京を後にしていった。
「あのマンホールに仕掛けられていた爆弾。あれは多分イラクやアフガンで使われている携帯の着信で起爆するタイプのIED(即席爆弾)だ。つまり男が持っていた発信器を潰しただけじゃ阻止は無理だったんだ。もし阻止を成功させるとしたらIEDに取り付けられた携帯を外すかその携帯の電源を切るかどうかをしなきゃいけなかったんだ。…上手くやられたな。きっともしもの保険としてあの男以外にも起爆係がいたんだろう。そして真上をトレーラーが通り過ぎるのを待っていたんだ…」
吏玖はこう言っていたがそれが本当ならばこそ余計に腹立たしくなる。男を倒した後に携帯の電源を切るだけで爆発は阻止出来た筈なのだから。
ブラックアイ、オフィサー、サブガン、マークスマン…彼等のいる組織の手際の良さに恐怖よりも先に怒りが立ち込めていた。それが勇介本人の義憤なのか、それともブラックアイに手酷くやられた事への憤怒なのか、それとももっと違う何かなのか。
感情の行く先を知らずただひたすら、勇介は無力感や怒り等のあらゆる負の感情へと追いやられていた。