黒影(吏玖)
泉真理
ブラックアイ
弓使い(日下部聡)
第9話「射抜かれた闇」
向かい合ったブラックとブラックアイ。弓使いは1度立ち上がった後再び倒れ伏したまま呻いている。
「お前確かブラックアイとか言うんだよな…この前は散々やってくれたな!」
拳銃を向けて発砲するとみせかけてパンチを繰り出すブラック。ブラックアイはそれをボディーアーマーで受け止め回し蹴りでブラックの顔面を蹴り飛ばそうとするが瞬間で反応し両手で顔面をガードする。だが両手で顔面をガードした事で腹部に隙が出来てしまいそこにブラックアイのアッパーが2発叩き込まれる。
「ッ!」
殴られた衝撃で後ろで退いてしまいそこに駄目押しの飛び回し蹴りがブラックのマスクを掠めた。
だがブラックも一方的に殴り蹴られている訳ではない。ブラックアイが飛び回し蹴りの次に繰り出した前蹴りを身体で受け止め蹴る足の腿を肘で殴り続け様にブラックアイの仮面を殴りその状態で後方に押し倒す。片方の足を無理矢理浮かせたまま後方に押し倒せば尻餅を突いて倒れこむ筈が後頭部から倒れ込んでしまいそのダメージで敵を行動不能にする米海兵隊の格闘技術。これでブラックアイを戦闘不能にしようしたがそれをブラックアイはブリッジの要領で倒れ込む事なく態勢を戻してしまう。
「…前よりはやる様になったようだな。だが今日用があるのはそこの弓使いだ。」
そうは言うものの全く呼吸の乱れていないブラックアイは倒れていた弓使いを担ぎ上げた。
弓使いを担ぎ上げた事で両手が塞がったブラックアイを追撃しようと今まで左手で保持していた9mm拳銃を構えるいざ引き金を引こうとした時、廃屋の屋内一帯に閃光と爆音が響いた。それが閃光手榴弾による物だと気付いた時にはもう遅く、視界と聴覚を封じられてしまったブラックは前後不覚に陥り一時的に戦闘不能になってしまう。
その数分後視界が回復し辺りを見回すが既にブラックアイとあの弓使いは姿を消していたのだった。
視界を奪われる直前、勇介はブラックアイが弓使いのコートのポケットから何かをわざと落としていくのを見た。
視力が回復し周囲の安全を確認した勇介は地面を照らしながら所々に散らばっている弓使いの私物らしき物を拾っていく。
拾い集めて一箇所に纏めた弓使いの落し物を照らし出すと拾っていた時は分からなかったがいざ調べてみると落ちていたのは先刻の戦闘で使われた矢が殆どだったがブラックアイがわざと落としていった手帳を調べると弓使いの目的らしき物が分かってきた。手帳は妙に真新しかったが中身はまるで写経の様にびっしりと書き込まれていた。
「警察官が何とかって言ってたよな…?それにしても、どこまで書き込まれてるんだ…」
ページを次々と流し見ていくと赤いバツ印が何個も書き込まれているページで手が止まった。そのページには人名と住所が延々と書かれておりそれらは上から順にバツ印で上書きされていた。バツ印は下から3番目の列の人名までで止まっており残り二つの人名と住所の内上の段の項目を弓使いが目指しているというのはすぐに分かった。
「千葉の銚子に神奈川の…。これは上の段から消しに行ってるんだよな。だったら次は千葉なのか。…もう少し調べてみないと迂闊には動けないか。」
「あれは…俺がまだ巡査だった時の所轄で起きた事件だった。」
翌日。勇介は誕生日パーティーでの襲撃で入院した優香の父に弓使いがしきりに言っていた「警察官一家事故死」について話を聞いていた。病室のベッドで優香の父は苦虫を噛み潰した様な表情で話し始める。
「公安…いや簡単に言うとエリート警察官の一家が、夜中にトラックに追突されて走っていた川を横切る橋から落下したって言う事故が昔あったんだ。」
「それ知ってます!その時私小学生でした!」
真理が会話に割り込んできたが優香の父は気にせず話を続ける。
「警察官の不祥事、なんて訳じゃないが当時俺達は巡回中でそれで現場に1番早く到着したんだ。着いた時にはもう車は沈んで見えなくなっていてね。」
「ん?俺達って言い方が引っかかりますね?」
すかさず勇介が質問を挟む。
「あぁ…。俺以外にも巡回中だったり、交番の当直勤務だった奴等も現場に殆ど同じ時間に現場に到着したんだ。」
優香の父が言う「俺達」が弓使いの狙いなのだろうか。勇介はまだ話を聞こうと思った。
「さっきも言ったが身内、同じ警察官が関係する事件だ。無闇に事を大きくしたりしないように徹底的に現場を封鎖したり捜査情報の漏洩を防ぐ為に事件の情報は普段以上に固く口止めされていた。…俺は現場の封鎖をしてたんだが鑑識や応援の連中が来る前に少し現場を確認していたんだ。」
そして一呼吸した後に顔つきが更に苦々しくなり優香の父は再び小声で話し始めた。
「これは結構グレーな話なんだが…現場を確認していた時に何個か怪しい所があったんだ。普通追突事故が起きる時ってのは追突する方が直前に気づいてかけた急ブレーキでブレーキ痕が残る筈なんだがそれが無かった。カメラの映像を確認したらトラックは一家の車に追突した後あろうことか加速していたんだよ。まるで橋から車を落とそうする様にね。事故の翌日にトラックの運転手は自殺、捜査権はあっという間に所轄の刑事から公安に移って俺達は事件について知っている事を公安の刑事に何日も質問された。いや、あれは質問というより取り調べだな。多分あの事件は警察の裏の事件とでも言う様な…とにかくきな臭い事件だったんだ。」
これは他言無用にしてくれよ、と優香の父は苦笑いしていた。真理はいつの間にか神妙な面持ちで話を聞いており勇介はこの警察官一家事故死に自分の因縁と似た様な物を感じ始めていた。
「勇介!分かったよ!この事件の犯人は事故死を調べようとしている誰かなんだよ!」
優香の父の独白から数時間。病院を後にし勇介は真理と帰宅の路についていた。
「いや問題はその誰かが一体どこの誰なのかって事なんだよ」
真理は核心を突いた気持ちで勇介に話しかけたがそれを勇介はあっさりスルーしていた。
「さっきから勇介何してんの〜?」
「とりあえずインターネットで調べてるんだよ。…ん?そうか。そういう事だったのか…!」
勇介がスマートフォンを弄っている途中突然口調が変わった事に驚く真理。
「えっ⁉︎何何何⁉︎どうしたの????へ?へ??」
「明日土曜だったよな!俺千葉県行ってくる!」
「えぇ〜〜‼︎何でそうなるのよ⁈」
勇介は家に向かって走りだし持っていたスマートフォンから友人の吏玖に電話をかけた。
「もしもし吏玖!大変だ!弓使いがお前の近所の警察官の命を狙ってる!」
「近所ってどこよ?鹿嶋?銚子?」
「千葉県の方だ!それに多分この前廃工場で戦ったブラックアイも一緒にいる!」
「何だと…!因みにその警察官ってのは…若い女の人だったりするのか⁉︎」
「いや!手帳には課長って書いてある!多分おっさんだ!」
「な、何ィ…?ならば俺は今回は…パスだ‼︎」
「おい⁉︎」
「「銚子駅に到着しました。総武本線、成田線は当駅が終点になります」」
装備一式を詰めたバッグを背負い勇介は銚子市に来ていた。あの後電車で説得を繰り返し協力を得た吏玖も装備を持って駅に到着し勇介は推論ではあるが弓使いの目的を吏玖に説明する。
「なるほど。つまりこの警官の周りにいれば弓使いとブラックアイが来るかもしれない訳だな?」
「そうだ。上手くいけばブラックアイを倒せるかもしれない。」
「…考えが甘いな。お前が街を離れた時に中等部の奴等が泉さん達を襲うかもしれないとは考えなかったのか?」
「うぐ…。それは、そうだけど…」
「2日だ。土日の間に決着がつかなかったらお前は街に帰れ。」
「そう、だな…」
考えなしに県外まで飛び出してしまった勇介に吏玖は現実を突き付ける。
「それで…これからどうする?この警察官を2日間ピッタリ尾行するとか?」
「それしかないだろうな。ここの警察署は四方を森と野球場、それに住宅地で囲まれている。弓矢は銃と違って嵩張るから隠し持つのは無理だ。なら土地勘がないなら尚更森に隠れようとする筈。2人に分かれて警察官に張り付くのと森で弓使い達を探そう。敵の人数も装備も分からない、まして援護も無い状況だ。奴等の動きを先回りする必要がある。いけるか?」
「よし。なら俺は…」
勇介と吏玖は二手に分かれそれぞれ行動を開始した。
「もしもし。あぁ、俺だよ。今日はもう終わったから。今から帰るね。じゃあ切るよ。」
署内を後にし自家用車に乗り込んだ警官の田幡は家族に電話をかけながらエンジンキーを挿し込み通話が終わった後に車を動かす。
数年前に神奈川から転属し今は千葉の片田舎で職務に励む田幡は神奈川で勤務していた時に交際していた相手と半年前に結婚しその相手とこの町で二人暮らしをしている。
署内の駐車場から車を出し国道を暫く走って自分達の住むマンションに車を停め部屋に入ろうとしたその時だった。通路をすれ違った青年に身体を羽交い締めにされ口元にハンカチが押し付けられ意識が急速に遠退いていき羽交い締めにされてから十数秒後に田幡は意識を完全に失った。
水を被せられ田幡は乱暴に意識を取り戻させられた。周囲を見回すとそこは意識を失ったマンションではなく所々が錆びてボロボロになっている廃屋だった。
「お前はこの町に赴任する迄は神奈川にいたそうだな。…俺はある死亡事故について話を聞きたいんだ。知っている事を話してくれれば手荒な事はしない。いいな?」
「事故だと?そんなもんいちいち覚えてられるかよ…」
田幡に話しかけてきた声は後方から響いていた。振り返ようとするか体が動かずそこで自分が椅子に縛り付けられているという事を理解した。
「警官の俺にこんな事して、ただで済むと思うなよ!」
「質問に答えてくれればそれでいい。」
「報告書はどこまでが本当なんだ?いや、どこを偽造した?」
「偽造」というワードで田幡はその事故が何の事故だったかすぐに分かった。
「何だと⁉︎お前、何でそれを!」
「答えろ」
「い、いや、俺は何も知らない!報告書を書いたのは俺じゃない‼︎」
焦燥に駆られ田幡は自身の潔白を主張する。すると田幡の足元に分厚いファイルが投げ込まれた。
「それはおかしいな?この報告書には確かにお前の名前が書いてある。」
「な…‼︎」
「質問に答えろ‼︎」
後方からの声が今迄とは豹変し怒りの篭った怒声に変わる。
「そこまでだ‼︎」
廃屋の窓を割って黄色いマスクと戦闘服に身を包む男が侵入し後方に向かって拳銃を数回発砲する。
「貴様…!そうまでして俺の邪魔をしたいのか⁉︎」
声と同時に田幡の右横を矢が通り過ぎていく。マスクの男はそれを前方にローリングして避け続け様に発砲しながら田幡の後方に向かって進んでいく。
弾丸と矢が何度も田幡の周囲を通り過ぎていく余りの恐怖に田幡は気絶した。
気絶した男を尻目にブラックは前回同様暗闇に紛れている弓使いに拳銃を発砲するが前回と違い弓使いは障害物の間をくぐり抜け反撃には転じずにひたすら銃弾から身を隠し続けている。ブラックは発砲しながら距離を詰めていくがその途中に拳銃が弾丸を撃ち尽くしスライドが後退したままになってしまう。すぐさま弾倉を入れて装填しようとするがその数秒に今迄身を隠していた弓使いが続け様に矢を放つ。
「!」
時間差で飛来した左右に飛んでくる矢をバックステップで回避するがその途中に目に見えない何かがブラックの上半身に絡みつき両手が封じられてしまう。
「何ッ⁉︎」
上半身を拘束された衝撃で倒れたブラックは自身に絡みついたのがピアノ線の様な糸だと気付いた。
「洒落た矢だろ?2本の矢は束ねたピアノ線で繋がってる。当然その2本の真ん中にいれば繋がってるピアノ線が絡みつくという訳だ。…俺の仲間が考えた。」
ピアノ線を切ろうと四苦八苦するブラックの後方から最近聞き慣れてしまった声が聞こえた。
「ブラックアイ!やっぱり来たか‼︎」
「俺かこいつのどちらかを狙っていた様だが、フフフ。まさかこんな所まで追いかけてくるとはな。最初会った時から随分変わってきたじゃないか?」
前方の弓使い、後方のブラックアイ。あっという間に身動きが取れないブラックは四面楚歌に陥ってしまった。
「させるか‼︎」
鈍い銃声が連続して響き背中に銃弾を受けた弓使いと身を屈めて銃弾を回避したブラックアイはブラックを置いて再び暗闇に紛れた。
「いいタイミングで来たな!」
「着替えてたからな‼︎」
黒影(吏玖)はM1911A1の銃口をブラックアイ達が消えて行った暗闇の方向に向けたままブラックの戦闘服からナイフを取り出しブラックを拘束から解放する。
拳銃を構えたブラックと黒影とブラックアイ、弓使いが面と向かって向かい合う。
「これで2対2だな!ブラックアイ!」
「面白い。まるで決闘だな。」
「ゆう、いやブラック!俺は弓使いに用がある!お前はそっちの奴とケリを付けろ!」
勇介はブラックアイに向けて発砲しそれを避ける為にブラックアイは更に後ろに退がっていった。
弓使いと黒影はいつの間にかその場から消え廃屋の内外で第2ラウンドが始まった。
弓使いを追って廃屋を出ると積み重なった廃車が何列も鎮座する土地に出た。
「あ‼︎」
拳銃を構えながらクリアリングしていると前方から2本の矢が飛んでくる。物陰に隠れて回避すると足元に矢が突き刺さり2本の矢がワイヤーで出来た網で繋がっていた事に気付く。
「(さっき勇介がやられた矢か…プレデターのハンティングネットみたいだな。)」
拳銃の射程は50m。対して弓矢は放物線を描く様に放てば射程はその50mに匹敵する。確実に当てる為に黒影は弓使いの至近距離まで近付き一撃で倒そうと決めた。
物陰から出た瞬間黒影に向かって矢が飛んでくる。
「まずい‼︎」
黒影の付近の地面に刺さった矢の矢尻近くには導火線の様な物が見えた。その直後矢尻が破裂しそこから釘の様な破片が飛び出す。
その破片を回避するが続け様に矢が飛んでくる。地面や廃車に刺さった矢は次々と破裂し釘が飛び出す。中には空中で釘が飛び出す矢もあった。
その内数本は完全に回避する事が出来ず何本かの釘が黒影のボディアーマーや腿に刺さってしまう。
「痛‼︎イタタタタ‼︎」
刺さった釘を抜く暇すら無く黒影は逃げ惑う。もう弓使いを探す余裕すら無い。
何度か釘を食らった後にようやく矢が飛んでこなくなり黒影はもう一度クリアリングを始めるがその次の瞬間物陰から飛び出した弓使いが矢を放った。
放たれた矢を身を屈めて避け、発砲するが弓使いは矢を放つと同時に再び物陰に隠れてしまい放った弾丸は全て回避されてしまう。
幾度か矢と弾丸が飛び交い弓使いが弓を引き切った状態でもう一度物陰から躍り出るがそこには拳銃をホルスターにしまった黒影が直立不動で待ち構えていた。
物音の一切が消え、まるで今までの戦闘が無かったかに思える程の静寂が辺りを包む。
一見無抵抗にも見える黒影に弓使いはその静寂を断ち切るが如く躊躇なく矢を放った。放たれた矢は空気を切り裂き黒影の胸に一直線に向かっていったがその矢が胸に突き刺さる事は無かった。それまで微動だにしなかった黒影が腰のベルトから警棒を取り出し命中する直前の矢を横合いから叩き落としたのだ。
「何⁉︎」
弓使いはもう1度矢を放つが放たれた矢はまたしても黒影が叩き落とした。矢を叩き落とした黒影は弓使いに向かって一気に走り出す。
弓使いはその後数回矢を放ったがそのどれもが叩き落とされてしまった。
黒影は放たれた矢が自分の間合いに来る前に立ち止まり警棒で叩き落としていきながら距離を詰めていく。
この距離なら弓から放って数秒後に矢は目標に命中するが奴はその数秒間に矢の動きを捉えタイミングよく叩き落としているのだ。
だが例え動きを捉えられても叩き落とせないのはどうだ?
矢を放ちながら考えていた弓使いはさっきまで弦を引いていた弓から矢を外し先刻ブラックを拘束するのに使ったワイヤー網の矢を2本取り出し黒影に放った。放たれた2本の矢の間にワイヤーの網が投網機の如く広がっていき黒影に向かっていく。
勝った。弓使いは矢を放った時点で自身の勝利を確信していた。
だがその切り札とも言える2本の矢は狙い通りには行かなかった。黒影は走るのを止めずに矢の間のワイヤー網に黒影が持っていた警棒を投げ付ける。当然ワイヤー網に投げ付けられた警棒が引っかかった衝撃で矢は弾道を大きく逸れ、狙っていた黒影には当たらず警棒に巻き付いただけになってしまう。
「何⁉︎」
さっきまでの確信は一瞬で焦燥に変わり弓使いは再び矢を取り出すがそれよりも早く黒影は弓使いに近づきさっきまで走っていたのを助走にしてジャンプ、そのまま飛び蹴りを繰り出す。繰り出された蹴りは構えていた弓ごと弓使いに当たり充分な威力と運動エネルギーを諸に受けた弓使いは後方に頭から倒れ込み気絶してしまった。
気絶している弓使いに拳銃を向けて警戒しながら黒影はポーチから携帯を取り出しブラック(勇介)に電話をかけた。
「もしもし…俺だ。今弓使いを無力化した。そっちはどうなってる?」
「う…」
呻きながら弓使いは目を覚ます。
「動くな。その状態じゃ弓も使えないぞ。」
黒影は銃口を弓使いに向け続けていた。
「…あっちはもう終わってるらしい。もう少しで俺の仲間がここに来る。今回は俺達の勝ちだな。」
「勝ち…?俺はあの中野学校とかいう奴等の仲間なんかじゃないぞ」
「知ってる。お前が日下部の生き残りなのも、日本中で当時の関係者を殺し回ってるのもな。」
日下部、というワードに弓使いは急に戦闘時でも見せなかった激昂を見せた。
「お前もあいつらの仲間か⁉︎」
「あー、違う違う。違うってば!ゆう、いや俺の仲間が調べてたんだよ。」
「………俺を殺さないのか?」
「殺さないよ。もう戦う必要なんてない。ブラックアイもお前を見捨ててとっとと帰っちゃったしな。まぁあいつらにとってお前は、精々当て馬程度の存在だったんだろうなぁ。」
「利用していたのは俺も同じだ。後もう少しで警官を吐かせられたのに」
「話を腰を折るようだけど…警官を殺し回ってるのは復讐の為なのか?」
黒影は銃口を下ろすが拳銃は発射可能状態のまま。いつでも弓使いを撃てる状態である。
「…無いと言えば嘘になる。大抵は吐かせる前後に奴等が襲いかかってきて止む無く殺していたがな。事故の真実が知りたいとは言うが、多分自分でも気付かぬ内に…それと同じくらい復讐を望んでいるのかもしれない。……お前も復讐は虚しいだとか考えているのか?」
「いや、別にいいんじゃないか?…死んでいった奴等の無念を晴らす為、とかただの恨み移しにしかならないから駄目だとか。人によって言うことは千差万別だけど多分そのどれもが正しい。だから俺はそういう奴等の邪魔はしないようにしてる。」
弓使いは黒影の意外な答えに少し拍子抜けの様な物を感じていた。
「どれもが正しい…か…。お前みたいな考えは初めてだ。」
黒影がそれにリアクションを示そうとした時に2人の前にようやくブラックが来た。
「完全に終わった様だな…。弓使い。お前が捕らえた警官に吐かせた情報だが、その全てをこのカセットに録音した。こいつはくれてやる。」
「何だと…?」
仰向けに倒れたままの弓使いの腹部にカセットが投げられそれを左手でキャッチする弓使い。
「俺が頼んでおいたんだ。これで俺達の間の敵対関係は終わったな。」
「俺はまだ納得してないがな…!」
黒影の隣でブラックが愚痴る。友人の父親が襲われている手前納得がいかないのは仕方ない事だろう。
それを知ってか知らずか弓使いは立ち上がりカセットをポケットに仕舞ってから弓矢を背中の矢筒に納めた。
「いいのか…?俺はたぶんこれからも、今と同じ事をしていくぞ。」
「いいよ。」
「おい‼︎」
ブラックがすかさず会話に割り込むがそれを黒影が手で制した。
「さっきの続きだが復讐の正当性なんて、本当はどうでもいい事なんだ。…正義は一つじゃない。人の数だけそれぞれ違う価値観があって、その価値観の中でそれぞれ違う正義がある。だから自分が信じる正義が他人には正義とは正反対の悪に捉えられてしまう。今のお前がそれだ。」
黒影の言葉に弓使いとブラックはいつの間にか聞き入っていた。
「いつか…お前の正義が誰かに理解してもらえればいいな。」
「吏玖…」
「名前で呼ぶな」
ブラック、黒影、弓使いの間には出会った当初の殺伐とした空気はまるで嘘だったかの様に消えて無くなり今は少し和やかとなった空気が場を包んでいく。
弓使いは弓矢を納める。
「…変わった奴等だ。お前らは…」
「はい?」
「え?」
「ブラック、お前の友人を襲った事。本当にすまなかった。…俺も…お前達の様に、変われると思うか?」
そう2人に問いかける彼はもはや復讐鬼ではなく日下部聡という1人の人間だった。
「変われるさ。変わろうと思えば、な。」
「あぁ。そうだな。」
徒歩で去っていく弓使い、日下部を見送りブラックと黒影な夕日が沈みかかった廃屋の屋根の上で黄昏ていた。
「結局日下部は元いた町に帰っていったんだな…。」
「そうだな。あの警官の話を聞いたら、戻らない訳にはいかないだろう。」
「…また、あいつと会うかな?」
「会うとしても当分は無いだろうな。」
「その根拠は?」
「あいつはもう変わってきてる。これからは、今までとは違う…。そう、別の何かになって、自分の信じる物の為に戦っていくのさ。お前みたいにな」
「…なんか今回は黒影に全部美味しい所持ってかれた気がするぞ?」
「ふ。ブラックだって友達の父親を助けただろう。」
「う、う〜ん?何か微妙だなぁ」
「それよりいいのか?たった今東京行きの電車が出たぞ」
「えぇ⁉︎じ、じゃあ次は⁉︎」
「次の電車は…ない。まぁ夜行バスで帰れるから問題無いだろ?」
「えぇ…金足りるかなぁ…」
ブラックと中等部の戦いはまだ始まったばかり……