それはともかく二期始まりましたねー!!!!
・・・Fate/GrandOrderも・・・待ってるんだからー!
赤が宙を舞った。
それはまるで、血のような、それでいて目に焼き付くような綺麗な赤だった。
それに僅かに見惚れた後、その赤を流したものが誰なのかに思い至った士郎の喉がひゅうと掠れた音をたてる。榎本さん!と嘆きにも似た叫びを横で凛が叫ぶのをどこか遠くで聞きつつ、彼は狂戦士の剣撃によって巻き起こされた煙の向こうをどうにか見ようと目をこらしーーーそこで、見知らぬ一人の女の姿を認めた。
血と勘違いしたのが恥ずかしい程に鮮やかで綺麗な赤の髪をした年若い女だった。
刃物のような鋭さを全身から醸し出している、どこか冷たい印象を与える女だった。
「八人目の、サーヴァント・・・」
意図せず呟かれた凛の声に、バーサーカーの斧剣を止めてみせたその女が視線だけを動かし士郎達の方へとその眼差しを向ける。研ぎ澄まされた剣のような眼光に、知らず士郎と凛はごくりと喉を鳴らした。
「・・・だあれ、貴方」
「確か役割でしか名乗らないのだったか?ふむ、ならばイレギュラーとでも名乗らせてもらおうか」
跳躍し自らの傍へ舞い戻った従者には目もくれずにそう問いかけた少女の言葉に、女はその眼差しから受ける印象に違わず冷やかな声で応えた。答える間も刀を構えるその姿にどこも隙は見られず、語らなくとも戦うことに慣れた者だということを伺わせる。しかしよくよく見れば女の容姿自体は『榎本コウ』そのままで、違うのは髪の色と瞳の色だけであることに今更ながらに士郎達は気づいた。それだけ彼女の放つオーラは先程までそこにいた少女のものとは明らかに異質なものであった。
「そこにいたお姉ちゃんのサーヴァントなの?」
「それを態々説明する義理は此方にはないな」
「・・・そうよね、ここで死んじゃう人に聞いても意味ないものね」
「ああ。つまり、ますます君に説明する必要が無くなった訳だ」
女・・・イレギュラーと自らを称した八人目のサーヴァントはそう言って不敵に笑った。それは味方には安心を、敵には苛立ちや怖れを抱かせる笑みだった。当然、それを直接向けられた少女は激高し叫ぶ。
「・・・貴方、むかつく!潰しちゃえバーサーカー!」
その叫びに応えるように狂戦士は斧剣を振りかぶった。
***
「イレギュラー、援護します!」
「アーチャー、イレギュラーを援護して!」
二人の少女に答える暇もなく襲いかかってきた斧剣を私は跳躍することでそれを躱した。逃げてばかりではこの状況はどうにもならないことは分かっている。それでも弱い自分が生き残る為にはまずこの男の戦い方を知らなけらばならなかった。
私を叩き斬ろうと振り下ろされたそれは標的を逃しその勢いのままアスファルトにめり込んだ。その瞬間僅かに出来た隙を逃さずにセイバーがそれを踏みつけ、そのまま剣を横に薙ぎ払う。しかしバーサーカーはその見た目からは考えられない程に軽やかな身のこなしでそれを躱してみせた。
「セイバー!しゃがめ!」
「分かっている!」
男は得物を失ったというのにそれには目もくれずそのまま拳を鋭く突き出した。セイバーが寸でのところで男の拳を躱したのを横目で確認しつつその太い腕を駆けあがり、刀を突き出す。しかしその攻撃は男の首から大きく外れた場所を浅く傷つけただけにとどまった。
「チッ・・・やはり欲を出さずに目を狙えば良かったか」
思わず舌打ちが零れた。大体なんでここまでしてダメージを受けたのがあれだけなんだ。いくらこの剣が私の薙刀等に比べてかなり劣るものだといっても、それでもそれなりに使える代物だぞ。防御力高すぎだろう。そう愚痴をこぼしている間にも、ちゃっかり自分の得物をアスファルトから引っこ抜くバーサーカーに容赦なく弓が降り注いでいる。私が言うのもなんだがアーチャーも英雄らしからぬ奴だな。私も追い打ちかけたり奇襲かけたりする戦法を好んでいたからあまり彼のことを言えないが。
(しかし、あれだけ喰らって未だあの程度とは。そういう体質を持つ英雄なのか?)
「イレギュラー、人気のない場所に移動しつつ戦いましょう。ここで続けていればシロウ達を巻き込んでしまう」
「・・・そうする他無いようだな」
セイバーの提案に頷いた私は前から迫りくる刃を流しそのまま相手の動きを利用して後方へと強く飛んだ。目指すはちょっと先にある墓地だ。そんな私を追いかけながらもバーサーカーは得物を振り続ける。男が一際大きく跳躍し私の後ろへと迫った。
「はあああ!」
その刃を受け止めたセイバーの気合の声と共に放たれた剣撃に周りの墓が吹っ飛んだ。なんて罰当たりな、とこの状況にも関わらず思わず内心で呟いてしまうのはこんな私にもまだ罪悪感というものがあるからか。此処で眠る者達も地上でこんなにどっかんばったんやられてはさぞかし寝てもいられないに違いない。それでも戦況はさらに激化しており、鍔迫り合いで押し負けたセイバーが周りの障害物を巻き込みながら遠くへ吹っ飛ばされる。そんな彼女にさらに一撃を与えんと振り下ろされた刃を受け止めた。
「ーーー貴方と戦うにはあの刀では不足なようなのでな。得物を変えさせて貰うぞ」
前世で扱った刀の一つ・・・七星刀を握りしめたまま私はニヤリと嗤ってみせた。あの無銘の剣とは違いこれは武を極めた仙人によって作られた由緒ある刀だ。決して折れることのないことを『理』として作られた代物。あの薙刀を除けばこれが一番この男に相応しい得物だといえた。
「■■■■■■■■ーーー!」
バーサーカーが咆哮を上げればその斧剣を握る手に込められた力がさらに増した。油断すればすぐ吹き飛びそうになる身体を地を踏みしめることでおさえ、先程よりも格段に増した力をもって刀を握る手に私も力を込める。
そこに誇りもなにもない。
あるのはただ、奪われたくないという狂気じみた殺意のみ。
それから私達は何度もその刃を交えた。舞う血しぶきは最早どちらのものかも分からない。何度斬りつけただろうか。何度斬りつけられただろうか。仙人の能力をある程度取り戻したことによって得た回復力を持ってしてでも追いつかないのか、身体の至るところから血が流れている。だがそれはあちらとて同じこと。私はただ、刀を握り続けた。
「ーーーはあっ!」
「■■■■■■■■ーーー!」
気合の声と共に振るった刀が男を捉えた。轟音をたてながら地の上を巨体が滑る。ようやく息の音を止めることが出来る、と歓喜にも似た安堵が胸を満たした。
この瞬間を、待っていた。
男はまだ立ち上がることが出来ないようでもがいている。相当深く斬りつけることが出来たらしい。でもまだ死んではいない。脅威は去っていない。原因を殺せ。奴の命を奪え。奪われる前に奪うんだ。
私は本能が囁くままに刀を振り上げた。
「イレギュラー、後は私に任せてくれぬか」
ーーーしかしその剣先が男に触れることはなかった。セイバーが私の刀を不可視の剣で受け止めたのだ。どういう意味だと問い詰めるよりも前に「意思を奪われてもあんなに強いのだ、さぞかし名高い英雄だったのだろう。故に私も全力をもって彼に応えたい」と彼女は言葉を続ける。その瞳は羨ましい程ーーーいっそ憎たらしい程どこまでも真っ直ぐなもので。私は溜め息を一つその場に落とした。
「・・・いいだろう。だが一応傍らで控えておく。それぐらいは構わないな?」
「ああ、恩にきる」
次の瞬間、セイバーの手元から先程までとは段違いの魔力が渦巻いた。徐々に姿を現し闇夜の中でまばゆい光を放ち始めるその剣の、なんと美しいことか。担い手のように凛々しく洗練された剣を握りしめたセイバーが地を駆けバーサーカーに突き立てる。次の瞬間、その場に光が弾け風が巻き起こった。
(なんて凄まじい力・・・これが、この世界の『英雄』か・・・!)
流石の狂戦士も立て続けに攻撃を受け堪えたのだろう、その巨体が大きく傾いたのが見えた。だがそれでもまだ死んではいないのは男もまた彼女と同じ『英雄』だからか。致命傷を負わされても傷が癒えているのが遠くからでも確認出来る。・・・いや、あれは癒えている訳じゃない。「自己再生?いや、あれは時間の巻き戻しに近い蘇生の呪い!・・・死し瞬間に発動する宝具!」というセイバーの分析を信じればあれは宝具の一種なのだろうか。そこまで考えたところで、不意に背中を悪寒が走り抜けた。
考えろ、何かを私は忘れていないか。この悪寒はどこからきた。・・・待て、アーチャーの援護はいつから無かった?その間に機会を伺っていたら?・・・もしアーチャーが、私達もろともにバーサーカーを倒す気なら?
「二人共離れるんだ!」
その考えに至ると同時に衛宮が叫びながらセイバーの手を取った。呆気にとられながらも大人しく衛宮に引っ張られるがままのセイバーを横目に私もその場を飛び退く。
一拍後、背中越しに鼓膜を震わした爆音に顔を顰めた。
(こんな惨状を引き起こした武器を何故早く出さなかった?・・・何を企んでいる?)
燃え上がる炎の中、地面に転がる何かを拾い上げながら私は思考した。まとめて始末するにしても、あの瞬間を狙ったのには何か理由があるに違いない。私とセイバーが共闘してバーサーカーに対峙していた時間は数えきれない程あったのにその時は狙わず、”あのタイミング”で周囲にも被害が出るような武器を出した理由が。あの時、何かがそれまでと違った筈だ。思い出せ、考えるんだ。あの時何が違った?ーーー人数・・・いや、もっと詳しく言うならば、衛宮が加わったからか?
(いや、そんな馬鹿な)
私は自分の中で出された答えを即座に打ち消した。衛宮士郎を殺す為だけにアーチャーが、英雄がそんな行為を取るとは思えなかったからだ。一体何の為に、そもそも殺してどうなる。何の利益が彼にあるというんだ。大体アーチャーと衛宮にどんな関係があるというんだ。そう思うのに疑念は未だ私の中で渦巻き続ける。とりあえず今はそれを置いておこう、と頭を振った。他にも考えることはあるのだ。
手の中のアーチャーの矢とか。
それは随分と変わった形状をした矢だった。寧ろ剣の柄と言われた方が納得出来るだろう。なんにせよ逃げる時に背を向けたのは不味かったかもしれない。逆だったら全体の形状をよく見れた筈。しくったな、なんて自分を叱咤していればふわりとそれは姿を消した。
「それにしても衛宮少年、何故アーチャーの攻撃が分かった?」
「それは「イレギュラー、その質問の答えは後でいいか」
私の質問を硬い声で遮ったセイバーの視線の先にはあの白い少女がいた。「ふうん、中々やるじゃないアーチャーも、イレギュラーも」と感心したように呟く少女の瞳に浮かんでいるのはこの場には場違いな純粋な興味。その後此方を煽るだけ煽って「また遊ぼうね、お兄ちゃん」とこの場を立ち去った少女の小さな背中を見送り息を吐く。
「・・・あのお嬢さんは君に随分執着しているようだな。知り合いか?」
彼女の気配が完全にこの場から消えたのを確認して問えば衛宮が口元を抑えた。開かれた口から吐き出されたのは私の問いへの答えではなく血。それは嫌な音をたてながら地面を赤く染めていく。「シロウ!」とセイバーが焦ったような声を出した。
「内臓をやられたのか?なんにせよ一旦戻った方がいいな。セイバー、運・・・ぶのは無理そうだな。仕方ない、あれ・・・私のマスターに運ばせよう」
私はそんな彼女にそう声をかけてから彼を担いだ。元々鞄を取りに戻るつもりだったし、何より彼女達の陣営に貸しを作るのも悪くないと思った。既に殆どの傷が癒えている私を一瞥したセイバーも納得したのか私の提案に頷き同意を示す。
「待って、アーチャーに運ばせるわ」
しかしセイバーとは逆に異を唱える者がいた。言うまでもなく遠坂嬢だ。そんな彼女に思わず何言ってんだこいつという目を向けてしまったのは仕方がないだろう。なにせ、アーチャーに任せられないからこそ私とセイバーがこういうやり取りをする羽目になったのだから。存外苛立っていたのかその憤りを自分の中で消化する前に唇が動く。気づけば我ながら冷たい声を彼女に浴びせていた。
「それは無理だな。確かに私やセイバー諸共にバーサーカーを倒そうという判断自体はサーヴァントとしては正しいだろう。だがそんな判断をあの場で下せる男とそのマスターを今の私達・・・いや、私が信用出来るかといえば答えは否だ」
不意打ちも戦法の一つであることは私もセイバーも百も承知している。が、『あの場』においてあの判断は不味いとしか言い様がなかった。バーサーカーという共通の強敵にその場だけとはいえ協力しあった者でも”他の陣営”ならば契機を伺い容赦なく狙うアーチャー陣営を一体誰が信じられようか。
「なっ!アーチャーはちゃんと離れた方がいいって言ったわ!」
「それは君に対してだろう?マスターによってサーヴァントが存在出来るのなら彼が君の安全を確保するのは当然だ」
それでも納得していないのだろう、そう叫ぶ彼女に冷たく返せば「・・・あ」と声を漏らす遠坂嬢。思わず呆れきった声で「・・・まさか、伝え忘れていたのか?」と彼女を見れば「だ、誰だってうっかりはあるわよ!」と返されてしまった。戦場でそんな言い訳は通用せんぞなど言いたいことは山ほどあるが。私はそれらを押し殺し肩を竦めるだけにとどめた。
「・・・ま、君はまだ子供だ。これからは気をつけるといい。さて、一旦『私』は代わるよ」
「あ、ちょっと!」という彼女の声を聞き流し私は強く念じた。身体の輪郭が一瞬揺らいだのを認識するとともに先程まで楽々と背負えていた衛宮の重みが先程よりも若干重く感じられ僅かに呻く。サーヴァント状態を解けば身体能力が格段に落ちるらしかった。
「榎本さん、イレギュラーは?」
「えっとなんていうかな、自分の中に居て私とは意思疎通出来るというか?」
「・・・念話みたいなものかしら。そう、じゃあ伝えておいて。借りは必ず返すわってね」
何時の間にか昇り始めていた朝日に照らされきらきらと輝きながら、彼女はそう笑った。それはまるで永久に輝く宝石のようであり、手を伸ばすことを躊躇う薔薇のようでもあった。闇に生きるものには、罪を背負って生きるものには眩しすぎるその姿に少しだけ目を細める。
(ーーー本当、眩しいなあ)
この気持ちをなんと言えばいいのか、未だ私は知らずにいる。
ステータス表示は次回を予定しています