「あー?どこだろうなぁ、ここ」
肩まである白い髪、耳に付けてある黒いイヤホン、黒いシャツの上から微妙に長いコートを着て、黒い長ズボンを履いた男は、僅かに眉を潜めて呟いた。
嘘の代弁者、殺陣(たて) 表裏(ひょうり)は、暑い光を浴びせ続けてくる太陽を煩わしそうに見た後、下を見る。
そこにはおかしな光景が広がっていた。
まず、自分が乗っているのは地面などでは無く、木で作られた屋根だった。
彼は屋根などに登った記憶は無い。それどころか、今日は外にすらも出ていなかった。
次に、下を歩く人の服装だった。
着物や全体的に薄い皮の服を身に纏うその服装は、まるで遥か昔の人を見ているかのようだ。とてもではないが、今の時代では仮装以外の目的で着る事は無い。
最後に……なんだあれは。
一人の女が炎を掌で弄びながら、暇そうにあくびをしながら歩いている。手品師……ではなさそうだが、果たして何なのか。
とりあえず、この状況では何をする事も出来ない。と考えた表裏は一先ず下へ降りることにした。
「よっ、と」
屋根から降り立つ。
屋根から地面までの距離は対して無かったのか、耐えきれない程の衝撃はこなかった。ちょっとピリピリするだけだ。
表情にはそういったものは一切出さず、表裏は何事も無かったかのように辺りを見渡す。
やはりその目には同じ光景しか映らなかった。全体的に時代遅れのものしかない。
表裏は暫くキョロキョロと辺りを見渡し、完全に自分の知らない土地だという事を再確認した後、頭を抱えた。
「何なんだよココ……」
頭を抱える表裏へ、何事かと思った人々の視線が集まる。
だが表裏にはそんな事を気にする余裕は無く、とにかく思考を回す。働かせる。
(なんだこれ、なんだここ?どうなってんだ……)
頭のキレる、とまではいかないが、これでも表裏は頭は良い方だ。大抵の問題は一人で解決に導ける。
だが今回のこれは、その頭脳を持ってしても正解へは辿り着けそうになかった。
いくら考えても分からない。そう判断した表裏は一人静かにため息を吐き、改めて立ち上がった。
彼の頭脳は正解を導き出せなかったまでも、道筋程度なら思い付いたようで、辺りを見渡すと同時に脳を回転させる。
まるで何かを吟味しているかのような鋭い目が、ある一人の女性の位置で停止した。
その女性は、表裏が屋根の上で見た時に、掌の上で炎を弄んでいた人だった。
彼女が表裏の目に止まった理由は無い。彼は最初に視界へ入った人間に狙いを定めただけのこと。
表裏は小走りで女性の元へ駆ける。
ただし、
「すみませーん、少し聞きたい事がーー!」
声色を変え、女性のような高い声の状態で、だ。
彼は本当の自分を知られることを嫌う。それは、嘘を付いた時に、本当の自分が知られているとすぐにバレるから、である。
だから他人と話す際は、喋り方も、声色も、その気になれば性別だって偽る。
だが今回は性別を変える事は不可能。だからせめて、声色と喋り方だけでも変えて話しかけた。
「ん?なんだ?」
だが、その白髪ロングヘアーの女性は、その男には不釣り合いな声に対して何の疑問も持たなかった。
まるで当たり前と思っているかのように、平然と。
彼は気付いていなかった。
声を高めに切り替えた瞬間、自分の姿が『変わった』事に。
気付かない彼は、いつも通り嘘の声で話しかける。
「いえ、すみませんが、場所を聞きたくて」
「場所……?」
「はい、ここは何県のどこなのかを」
白髪の女性は少し首を傾げて、上空に?マークを作った。
「何県?なんだそれ、聞いたことないけど……」
「え?」
一瞬、表裏は素の声を出してしまった。
彼はそれに素早く気付き、振り払うように首を左右に振ってから、改めて目の前の女性を見た。
その時に目の前の女性は、片目を擦っていた。
目が合うと少し戸惑ったような表情を見せたが、すぐにキリッとした表情に戻り、目の前の女性も、改めて、といった様子で表裏を見た。
「すまない。それで、何だったっけ?」
「……ですから、ここが何県の何処なのか、を聞きたいんです」
うーんと唸りながら考える女性に対し、表裏は心の中でため息をついた。
ここは相当な田舎らしい。それこそ、自分の住んでいる場所が分からないレベルの馬鹿がいるくらいの。
とはいえ、彼は自分以上の知能を求めているわけでは無い。ただ、一般常識さえ通じてくれれば。
白髪の女性は一般的な知識すらも欠けているようだった為、表裏は呆れたのだ。
少しばかりの無言の後、白髪の女性は何かを思い出したかのように、俯きぎみだった顔を弾かれたように前へ向けた。
「あー!そういえば、人間の世界ではそんなものがあるって慧音から聞いたことあるな!」
その言葉に表裏の眉が僅かに動いた。
目の前にいる白髪の女性が、まるで自分には関係ない、遠い国の事を思い出しているような雰囲気で呟いたからだ。
どういう事だろうか?
どんな田舎に住んでいようが、全く必要ない訳ではないと思うが。
「あー、という事はお前は『外来人』か。そりゃ場所を聞きたくもなるよな」
意味の分からない女性の言葉に、表裏は今度こそ首を傾げた。
が、すぐに結論を出す。
恐らくこの村では、他の場所から来た者の事をそう呼ぶのだろう、と。
「おっと、そういや自己紹介がまだだったな。私の名前は藤原 妹紅、宜しく」
「え?あぁ、はい。私の名前は殺陣 表裏です。宜しく……?」
場所を聞いただけで自己紹介なんかするものか?と表裏は疑問を持ったが、都会と田舎では考え方も違うのだろう、と表裏は自己解決して自己紹介した。
表裏の名前を聞いた女性・妹紅はうんと頷き、踵を返して表裏へ背を向けた。
「殺陣、お前は多分帰れない」
「……は?」
帰れない。
その言葉に表裏は反応した。
といっても、今度は素の声ではなく嘘の声で反応したわけだが、それはあまり重要じゃない。
帰れない。
その言葉が表裏の思考を早めた。
もし自分が外国にいようが、『帰れない』なんてことは無い。何処に自分がいようとも、決して帰れない訳ではない。
なのに、目の前の女性は言った。
帰れない、と
「説明が欲しいだろ?だけどあいにく、私は説明するのが上手くない。だから人に説明するのが得意な奴の所に案内するよ」
そう言い、妹紅は歩き出した。
先程の言葉の意味が分からない表裏は、とりあえず着いていった。
ーーーーーーーーーー
表裏が連れて来られたのは、村の中で一番でかい建物のある場所だった。小さい校庭のような場所もあり、まるで昔の学校、寺子屋のようだ。
妹紅は躊躇なしに建物の中へ入り、一番近くにあった襖を開いた。
「ん?あれ?妹紅、どうかした?」
襖の奥にあったのは、小さな部屋。
畳六畳程度の部屋に置かれた小さな机の上で、何かしらの作業をしていたであろう女性は、妹紅を見て首を傾げた。
彼女の周りではプリントが山積みになっており、手にペンを持っている所を見ると、先程まで作業をしていたようだ。
妹紅は作業を邪魔したにも関わらず、悪びれる様子も見せないまま中に入って腰を下ろす。
「ほら座れよ、多分長くなる」
妹紅に促されるままに表裏は座る。
座り方は何も考えず、胡座だ。
表裏が座ると、机の前に座る青いメッシュの入った銀髪の女性が、妹紅へ視線を送った。
「妹紅、この人は?」
「殺陣 表裏。外来人っぽい」
「外来人……」
銀髪の女性は自分で再度呟くと、表裏へ視線を向けてきた。
「外来人って……本当?」
「……できれば、外来人の意味を説明して下さるとありがたいのですが」
意味が分からなければ肯定も否定もできない。いくら表裏が知能に優れているとしても、聞いた事も無い言葉を0から分かる程ではない。
それを聞いた女性は『そうだったな』と呟き、座り直した。
「まず外来人というのは、まぁ分かりやすく言うとだな……神隠しって知ってるか?」
「はい、あの、人間がいきなり居なくなるって奴ですよね」
「あぁ。それじゃあ、その『神隠し』にあった人間は何処に行くと思う?」
「どこ?」
表裏は顎に手を当てて、考える。
神隠しは、名前通り神に隠されるという意味。ということは、それに近い言葉。
表裏は思い付いた言葉を放った。
「天国とか、その辺りですかね?」
その解答を聞いた女性は首を横に振り、人差し指で地面を指差した。
「正解は、『ここ』だ」
聞いた直後、彼・表裏の思考は止まった。
唐突に放たれたその言葉。
『神隠しをされた人間が来る場所』と問われ、正解が『ここ』。
女性は表裏の思考が再起動する前に、両腕を組んで、言う。
「ここ『幻想郷』に迷い込んだ人間の事を、私達は呼ぶんだ」
『外来人ってな』
妹紅のキャラを見失ってますが、その辺りはご了承下さい。
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