東方虚像録   作:紅魔館の下っ端

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1話目 殺陣 表裏

「あー?どこだろうなぁ、ここ」

 

肩まである白い髪、耳に付けてある黒いイヤホン、黒いシャツの上から微妙に長いコートを着て、黒い長ズボンを履いた男は、僅かに眉を潜めて呟いた。

 

嘘の代弁者、殺陣(たて) 表裏(ひょうり)は、暑い光を浴びせ続けてくる太陽を煩わしそうに見た後、下を見る。

そこにはおかしな光景が広がっていた。

 

まず、自分が乗っているのは地面などでは無く、木で作られた屋根だった。

彼は屋根などに登った記憶は無い。それどころか、今日は外にすらも出ていなかった。

 

次に、下を歩く人の服装だった。

着物や全体的に薄い皮の服を身に纏うその服装は、まるで遥か昔の人を見ているかのようだ。とてもではないが、今の時代では仮装以外の目的で着る事は無い。

 

最後に……なんだあれは。

一人の女が炎を掌で弄びながら、暇そうにあくびをしながら歩いている。手品師……ではなさそうだが、果たして何なのか。

 

とりあえず、この状況では何をする事も出来ない。と考えた表裏は一先ず下へ降りることにした。

 

「よっ、と」

 

屋根から降り立つ。

屋根から地面までの距離は対して無かったのか、耐えきれない程の衝撃はこなかった。ちょっとピリピリするだけだ。

表情にはそういったものは一切出さず、表裏は何事も無かったかのように辺りを見渡す。

 

やはりその目には同じ光景しか映らなかった。全体的に時代遅れのものしかない。

表裏は暫くキョロキョロと辺りを見渡し、完全に自分の知らない土地だという事を再確認した後、頭を抱えた。

 

「何なんだよココ……」

 

頭を抱える表裏へ、何事かと思った人々の視線が集まる。

だが表裏にはそんな事を気にする余裕は無く、とにかく思考を回す。働かせる。

 

(なんだこれ、なんだここ?どうなってんだ……)

 

頭のキレる、とまではいかないが、これでも表裏は頭は良い方だ。大抵の問題は一人で解決に導ける。

だが今回のこれは、その頭脳を持ってしても正解へは辿り着けそうになかった。

 

いくら考えても分からない。そう判断した表裏は一人静かにため息を吐き、改めて立ち上がった。

彼の頭脳は正解を導き出せなかったまでも、道筋程度なら思い付いたようで、辺りを見渡すと同時に脳を回転させる。

 

まるで何かを吟味しているかのような鋭い目が、ある一人の女性の位置で停止した。

その女性は、表裏が屋根の上で見た時に、掌の上で炎を弄んでいた人だった。

 

彼女が表裏の目に止まった理由は無い。彼は最初に視界へ入った人間に狙いを定めただけのこと。

表裏は小走りで女性の元へ駆ける。

ただし、

 

「すみませーん、少し聞きたい事がーー!」

 

声色を変え、女性のような高い声の状態で、だ。

 

彼は本当の自分を知られることを嫌う。それは、嘘を付いた時に、本当の自分が知られているとすぐにバレるから、である。

だから他人と話す際は、喋り方も、声色も、その気になれば性別だって偽る。

だが今回は性別を変える事は不可能。だからせめて、声色と喋り方だけでも変えて話しかけた。

 

「ん?なんだ?」

 

だが、その白髪ロングヘアーの女性は、その男には不釣り合いな声に対して何の疑問も持たなかった。

まるで当たり前と思っているかのように、平然と。

 

彼は気付いていなかった。

声を高めに切り替えた瞬間、自分の姿が『変わった』事に。

 

気付かない彼は、いつも通り嘘の声で話しかける。

 

「いえ、すみませんが、場所を聞きたくて」

 

「場所……?」

 

「はい、ここは何県のどこなのかを」

 

白髪の女性は少し首を傾げて、上空に?マークを作った。

 

「何県?なんだそれ、聞いたことないけど……」

 

「え?」

 

一瞬、表裏は素の声を出してしまった。

彼はそれに素早く気付き、振り払うように首を左右に振ってから、改めて目の前の女性を見た。

その時に目の前の女性は、片目を擦っていた。

目が合うと少し戸惑ったような表情を見せたが、すぐにキリッとした表情に戻り、目の前の女性も、改めて、といった様子で表裏を見た。

 

「すまない。それで、何だったっけ?」

 

「……ですから、ここが何県の何処なのか、を聞きたいんです」

 

うーんと唸りながら考える女性に対し、表裏は心の中でため息をついた。

ここは相当な田舎らしい。それこそ、自分の住んでいる場所が分からないレベルの馬鹿がいるくらいの。

 

とはいえ、彼は自分以上の知能を求めているわけでは無い。ただ、一般常識さえ通じてくれれば。

白髪の女性は一般的な知識すらも欠けているようだった為、表裏は呆れたのだ。

 

少しばかりの無言の後、白髪の女性は何かを思い出したかのように、俯きぎみだった顔を弾かれたように前へ向けた。

 

「あー!そういえば、人間の世界ではそんなものがあるって慧音から聞いたことあるな!」

 

その言葉に表裏の眉が僅かに動いた。

目の前にいる白髪の女性が、まるで自分には関係ない、遠い国の事を思い出しているような雰囲気で呟いたからだ。

 

どういう事だろうか?

どんな田舎に住んでいようが、全く必要ない訳ではないと思うが。

 

「あー、という事はお前は『外来人』か。そりゃ場所を聞きたくもなるよな」

 

意味の分からない女性の言葉に、表裏は今度こそ首を傾げた。

が、すぐに結論を出す。

恐らくこの村では、他の場所から来た者の事をそう呼ぶのだろう、と。

 

「おっと、そういや自己紹介がまだだったな。私の名前は藤原 妹紅、宜しく」

 

「え?あぁ、はい。私の名前は殺陣 表裏です。宜しく……?」

 

場所を聞いただけで自己紹介なんかするものか?と表裏は疑問を持ったが、都会と田舎では考え方も違うのだろう、と表裏は自己解決して自己紹介した。

表裏の名前を聞いた女性・妹紅はうんと頷き、踵を返して表裏へ背を向けた。

 

「殺陣、お前は多分帰れない」

 

「……は?」

 

帰れない。

その言葉に表裏は反応した。

といっても、今度は素の声ではなく嘘の声で反応したわけだが、それはあまり重要じゃない。

 

帰れない。

その言葉が表裏の思考を早めた。

 

もし自分が外国にいようが、『帰れない』なんてことは無い。何処に自分がいようとも、決して帰れない訳ではない。

 

なのに、目の前の女性は言った。

帰れない、と

 

「説明が欲しいだろ?だけどあいにく、私は説明するのが上手くない。だから人に説明するのが得意な奴の所に案内するよ」

 

そう言い、妹紅は歩き出した。

先程の言葉の意味が分からない表裏は、とりあえず着いていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

表裏が連れて来られたのは、村の中で一番でかい建物のある場所だった。小さい校庭のような場所もあり、まるで昔の学校、寺子屋のようだ。

妹紅は躊躇なしに建物の中へ入り、一番近くにあった襖を開いた。

 

「ん?あれ?妹紅、どうかした?」

 

襖の奥にあったのは、小さな部屋。

畳六畳程度の部屋に置かれた小さな机の上で、何かしらの作業をしていたであろう女性は、妹紅を見て首を傾げた。

彼女の周りではプリントが山積みになっており、手にペンを持っている所を見ると、先程まで作業をしていたようだ。

 

妹紅は作業を邪魔したにも関わらず、悪びれる様子も見せないまま中に入って腰を下ろす。

 

「ほら座れよ、多分長くなる」

 

妹紅に促されるままに表裏は座る。

座り方は何も考えず、胡座だ。

表裏が座ると、机の前に座る青いメッシュの入った銀髪の女性が、妹紅へ視線を送った。

 

「妹紅、この人は?」

 

「殺陣 表裏。外来人っぽい」

 

「外来人……」

 

銀髪の女性は自分で再度呟くと、表裏へ視線を向けてきた。

 

「外来人って……本当?」

 

「……できれば、外来人の意味を説明して下さるとありがたいのですが」

 

意味が分からなければ肯定も否定もできない。いくら表裏が知能に優れているとしても、聞いた事も無い言葉を0から分かる程ではない。

それを聞いた女性は『そうだったな』と呟き、座り直した。

 

「まず外来人というのは、まぁ分かりやすく言うとだな……神隠しって知ってるか?」

 

「はい、あの、人間がいきなり居なくなるって奴ですよね」

 

「あぁ。それじゃあ、その『神隠し』にあった人間は何処に行くと思う?」

 

「どこ?」

 

表裏は顎に手を当てて、考える。

神隠しは、名前通り神に隠されるという意味。ということは、それに近い言葉。

表裏は思い付いた言葉を放った。

 

「天国とか、その辺りですかね?」

 

その解答を聞いた女性は首を横に振り、人差し指で地面を指差した。

 

「正解は、『ここ』だ」

 

聞いた直後、彼・表裏の思考は止まった。

唐突に放たれたその言葉。

『神隠しをされた人間が来る場所』と問われ、正解が『ここ』。

女性は表裏の思考が再起動する前に、両腕を組んで、言う。

 

「ここ『幻想郷』に迷い込んだ人間の事を、私達は呼ぶんだ」

 

 

 

『外来人ってな』

 




妹紅のキャラを見失ってますが、その辺りはご了承下さい。
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