東方虚像録   作:紅魔館の下っ端

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サブタイトル『つまりはホモである(意味深)』

遅れてしまい、申し訳ありません。
今回は説明回です。
どうぞ!!(実は今回の話、とある一部の文だけ私の盟友に書いてもらいました。その文を見つけられた方には特殊な性癖をプレゼント!!)


2話目 偽る程度の能力

【老いる事も死ぬ事も無い程度の能力】

【歴史を食べる程度の能力】

 

 二人は、能力という存在の事を教えてくれた。

 能力とは、何らかの超常現象を引き起こしたり、自分の肉体を強化したりと、様々な事が出来る便利なものらしい。

 最初は鼻で笑ったが、妹紅が目の前で首を切った後に再生したり、慧音が歴史を食って物が消えたりと、あらゆるものを見せてもらい、信じないわけにもいかなかった。

 

 慧音は『さて』と呟き、改めて表裏を見た。

 

「外来人、そして能力の話は終わったな。そして次は……」

 

 そこまで言い、続きを言おうとした慧音を妹紅が手で制し、妹紅が向き直った。

 

「【外来人】【能力】の二つが揃っている人間について、だ」

 

 その時、表裏は少し変な違和感を感じていた。

 なぜそんな話をするのだろう、と。

 自分が外来人というものである事は分かった。だが、それと能力に何の接点も見られない。

 まるで、能力という力を持っている人間に対しての説明のような、そんな違和感がある。

 妹紅は続ける。

 

「本来、外来人というのはすぐに帰してもらえる。博麗の巫女に頼めば、結界と結界をこじ開けて、いつでも帰れる」

 

「だけど、能力を持った外来人は話が別で、異質の力である能力が巫女の力を邪魔するそうだ」

 

「本来通れない結界を通る為に、相手に干渉して精密な力の流れを汲み取る必要があるみたいでな、そこに能力なんて異質が働いてしまえば、乱れるそうだ」

 

「……」

 

 表裏は内心、僅かに苛つきながら話を聞いていた。

 こんな話を自分にしてどうするのか。自分には関係の無い、能力を持った人間の話なんてどうでもいいから、必要な事だけ教えてくれ、と。

 だが、表裏は『聞いている身』であるため、文句は言えずに黙っていた。

 

 妹紅は表裏の心の声には気付かず、そのまま会話を続ける。

 

「能力を持たない外来人は帰れる。能力を持つ外来人は帰れない。つまりは、そういう事だ」

 

 どういう事だ、と表裏は頭の中で突っ込む。

 だが、次の妹紅の言葉に、表裏の目は見開かれた。

 

「『能力を持つお前は幻想郷で住むしかない』って訳だな」

 

「………………は?」

 

 その時、表裏は素の声を出した。

 その瞬間、表裏の体がブレた。

 まるでテレビの砂嵐のような灰色の何かが、彼の体全体を覆い隠すように出現する。

 

『能力を持つ人間が帰れないから、俺も帰れない?何を言ってんだ?』

 

 その声も、甲高いような、低いような、透き通るような、よく分からない表現不能の声に変質していた。

 その『異常』を見た妹紅は、やっぱな、と一言呟いて、鏡持った。

 鏡を持って、それを表裏へ向ける。鏡に映ったものが見えるように。

 

 鏡を見た表裏は数秒ほど無言だった。

 表情は分からない。目を見開いているのか、それとも興味なさそうにしているのか、唖然としているのか。

 ただ、表裏は少しして、凹凸の無い言葉で、こう言った。

 

『なんだ……こりゃ……?』

 

「能力、だ」

 

 砂嵐のかかった頭が動く。

 今の動作も、妹紅を見たのか、それとも現実逃避するために顔を逸らしたのか、分からない。

 妹紅は言う。

 

「能力の詳細は分からない。でも、さっきまでお前の姿が見えていたことは確かだし、何か試してみたらどうだ?」

 

 表裏は無言で、動かない。

 だが、ほんの数秒ほど時間が経った時、変化が訪れた。

 砂嵐が薄れ、中の人物が姿を現す。

 

 砂嵐から現れたのは、銀髪の人間だった。

 服装は質素な白く薄いTシャツ。

 下半身にはネズミ色のジーパン。

 目は大きく、瞳の色は薄い青。

 胸部は僅かな膨らみを見せていて、腕や脚、肉体の殆どの部位に筋肉は無かった。

 

 芯の細く、色の白い銀髪の『女性』が、そこにはいた。

 

「……こんな感じ、ですかね?」

 

 鏡を見ながら、表裏は首を傾げた。

 自分の姿を鏡でまじまじと見る表裏だったが、妹紅達は大して驚いていなかった。

 妹紅達は、表裏が演技で女のフリをしていた時に、ずっとこの姿の女性を見ていたからだ。

 

 むしろ、妹紅達は『この姿が本当の表裏』で、何かしたから砂嵐で姿が隠された。と考えていた。

 

 妹紅は一息ついて、口を開く。

 

「…分かったか?お前は『能力持ち』だ」

 

「……俄かには信じられませんが、実際に見て、使ってしまったのでは、信じるしかありませんね」

 

「そうか……」

 

 妹紅が話し終わり、次に慧音が前に出た。

 その目は、興味深そうに表裏を見ていた。

 

「……お前みたいなのは、初めてだな」

 

「え?」

 

「能力を持った人間が来るのは今までで何人かいたが、大半は状況を把握できずに、勝手に飛び出して妖怪に食い殺されていた」

 

 その時、慧音の肩の力が緩んだように見えた。

 恐らく慧音は、表裏も他と同じように飛び出すと思ったのかもしれない。

 そしてそれを出来る限り止めるために、いつでも動けるようにしていた、と。

 

 だが、表裏が妙に落ち着いていて、大丈夫だと判断した慧音は力を抜いた。

 

 表裏は自分の身体のあらゆる箇所を確認すると、その目を慧音達に向けた。

 

「それで、私はこれからどうすれば?」

 

「その辺りは心配しなくてもいい。帰れない人間を見捨てるほど、私達はクズじゃない」

 

 慧音はそう言うと、隣の妹紅へ目配せをした。

 それを受けた妹紅は頷き、スッと立ち上がった。

 表裏の横を通り過ぎ、言う。

 

「ついて来い、ある場所に案内するから」

 

「あ、はい」

 

 表裏は妹紅についていく為に立ち上がり、部屋を後にしようとした。

 ふと、表裏は何かに気付いたように足を止め、慧音に顔を向けた。

 

「そういえば慧音さん」

 

「なんだ?」

 

「貴女の演技、うまかったですよ」

 

「…………」

 

「最後の最後に手際が良すぎるのさえなければ、貴女のミスはなかったんですがね」

 

 そう言い残し、表裏は妹紅を追って廊下を走った。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 表裏と妹紅は寺子屋を出て、村の中心から少し横にずれた位置に立つ建物の前に来た。

 その建物は寂れているわけではないが、何処と無く誰も住んでなさそうだった。

 大きさはそこまでではなく、一般的な家の一部屋程度しかないように見える。

 

「とりあえずここを使って生活してくれ」

 

「いいんですか?」

 

「どうせ何もないんだろ?ならとりあえずここに住んで、生きていくうちに住みたい場所があったら移ればいいさ」

 

「……ありがとうございます」

 

 一言お礼を言い、表裏は家の扉を開けた。

 ギイィ、と音を立てながら開いた扉の奥には、何もない空間が広がっていた。が、埃が積もっている所を見て、長いこと使われていないらしい事だけは分かる。

 

「……結構長いこと使われてないみたいですね?」

 

「あぁ、ちょっとな」

 

 言葉を濁した妹紅を見て、表裏は悟った。

 この家には、多分何かある。

 そう思った表裏は家の中を見渡した。

 蜘蛛の巣の張った天井、床の隅に積もった埃、見忘れがないよう、じっくりと。

 

「おっと、そろそろか。じゃあ私はもう行くよ。何か困った事があれば、慧音の方に行ってくれ」

 

「あ、はい。ありがとうございました、妹紅さん」

 

 妹紅はゆっくりと歩いて、表裏の前から消えた。

 それを見届けた表裏は家の中に完全に入り、ギシギシと音を立てながら部屋の中央まで歩き、口調を変える。

 

「改めて見てみると……ひでェな」

 

 表裏の身体を砂嵐が隠す。

 そして中からは、本来の表裏が姿を現した。

 

「灯りも無い、埃は多くて寝転がる事も出来ねェ」

 

 更には塵取りや箒といった掃除用品もなく、表裏は深いため息をついた。

 この家に住む為には、この埃を出来る限りなくさなければいけないのだが、それができない。

 雨風を一時的に凌ぐ小屋のような扱いは出来るかもしれないが、逆に言えばそれ以上のことはできない。

 

 メインに生活する場所としては、環境が劣悪すぎる。

 

 能力の事も考えたが、表裏は自分の能力がそういうものでは無いと、勘で悟っていた。

 

(能力……多分俺の能力は、嘘をつこうと思うことで、効果を発揮するもの)

 

 寺子屋で自分の能力を見た時。

 表裏は、何故かは分からないが、嘘をつこうと思った。

 それはほとんど無意識で、女だと偽ろうと思ったのだ。

 そして、姿が変わった。

 女だと言おうとしたら、本当に女へ姿を変えた。

 

 恐らく、表裏は能力を無意識のうちに酷使していたのだろう。

 それを改めて意識して使おうとした時、無意識の断片が表に表れて、結果的に能力を酷使できた。

 

 といっても、これは推測に過ぎず、確定ではない。

 

 だが表裏は、この能力が掃除とかに使えるほど、万能でないことを悟っていた。

 

「はあ、めんどくせ」

 

 表裏の身体を砂嵐が覆い、また姿を女性に変えて外へ出る。

 あんな埃塗れの家にいれば、いずれ病気になってしまう。

 

 一度外に出て外の空気を吸った表裏は、家の周りを見た。

 掃除に使える物があるかもしれないと思った上での行動だったが、家の周りにはちょっとした雑草しかない。

 

 表裏は空を見た。

 

 そこには太陽があり、まだ暗くなる様子はない。

 

「……まだ時間はありますね」

 

 表裏はキョロキョロと辺りを見渡し、一件の家に目をつけた。

 表裏が目を付けた家の中から一人の爺さんが出て行き、それを一人の婆さんが見送る。

 

 その二人の一部始終を見ていた表裏は、自分の姿を一瞥して、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

 

「……テストでもしますか」

 

 表裏の脳が、活発に動き出す。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「あれ、爺さん。もう帰ってきたのかい?」

 

「おう、ちょっとな」

 

 先程外に出て行った筈の爺さんが帰ってきて、不思議そうに首を傾げる婆さん。

 しかし爺さんは婆さんに目もくれず、少し辺りを見渡して、何かを探していた。

 不思議に思った婆さんが口を開く。

 

「何を探してるんだね?」

 

「箒だよ、箒」

 

「え?今から農作物の収穫じゃないのかい?箒なんて何に……」

 

「ちょっと不具合があってな、とにかく箒が必要なんだが、はて、どこにやったかな?」

 

 そう言いながら爺さんは家の中を歩き回り、倉庫らしき場所を覗いたりして探している。

 その行動を見ながら、婆さんは苦笑しながら答えた。

 

「何をやってるんだ、もうぼけちゃったのかい?家の裏に掛けてあるだろう?」

 

「……んだよ、だったらわざわざ来る必要なかったな」

 

「ん?なんだい?」

 

「いや、何でもない」

 

 一瞬、爺さんの身体が定まらなくなった。

 婆さんは一度目をこする。

 そして改めて目を凝らした婆さんの前には、誰もいなかった。

 

「…おや?」

 

 取り残された婆さんは一人、唖然とした表情で椅子に座っていた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

「だー……疲れた、精神的に疲れた……」

 

 だが、これで表裏は自分の能力を把握することが出来た。

 

 嘘をつけば自分を偽れる。

 

『偽る程度の能力』

 

 表裏は笑っていた。

 普段から人を騙し、嘘を信じ込ませてきた表裏に、うってつけの能力。

 気付けば、表裏は元の世界に帰りたいなんて思っていなかった。

 表裏は、元の世界にそこまで執着していたわけではない。

 能力を手に入れた今、むしろ帰る理由が消えた。

 

 

 不気味な笑みを浮かべ、彼は箒を手に取った。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「ぜぇ、はぁ……こ、こんなもん?」

 

 表裏は疲れた表情で、すっかり綺麗になった床の上へ座り込んだ。

 掃除を決行してから三十分。

 ずっと動き、やっと埃から床の主導権を奪い返した表裏は、汗で張り付いた服をパタパタ仰ぎながら、天井を見た。

 そこには、まだ撤去していない蜘蛛の巣。

 つまり、次は天井の支配権を取り戻さないといけないのだが、残念なことに背が小さくて届かない。

 

 因みに、表裏は何故か女性の姿である。

 その姿で薄い服をパタパタさせる姿は、なんか無駄に色気の出てる。しかし本人は男のため、それにドキッとした人間は例外なくホモである事を主張しよう。

 

 表裏はそのまま、あー、と呟き、両足を組んで床に寝転がった。

 

「めんどくさい」

 

 そして数分後。

 掃除の終わった家の中から、女の寝息が聞こえてきた。




文々。新聞・幻想郷の噂その1
【人里には箒を借りに来る生き霊がいる】
情報提供者:お婆ちゃんとボケ扱いされたお祖父ちゃん

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