東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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どうも、お久しぶりです。失踪したかと思いましたか?
ええ、失踪しようかな? とも思いました。しかし、流石にコラボ途中で投げ出すのは悪いという考えにたどり着きました(作品途中で投げ出すのも充分悪い)。
さて、今回投稿が遅くなった原因ですが、大した理由ではありません。テストで赤点獲っちゃったとかじゃないですよ。ヒントとして上げるなら『夢』です。これでわかった人もいるんじゃないでしょうかね?
活動報告にまた新しい絵を上げておきました。気が向いたら見てあげてください。
では、本編をどうぞ!


第八十八話

範人は手から着地した。殴り飛ばされたことで50メートルほど離れてしまったルークを見据える。

ルークの右腕には肘から手首にかけて盾のような巨大な腕甲が発生。更に、顔の右半分、両肩から肩甲骨、背骨にかけてを守るように甲殻が現れていた。充血した目は赤く輝き、口からは炎のように熱い息を吐き出している。

激変したルークの姿を見た範人の表情が驚愕と恐怖に染まる。

 

「まさか……お前……⁉︎」

「ウィルスデ身体ヲ強化シマシタ。コレデ一緒デスネ、隊長」

 

——これであたしも一緒だよ、ハント。

 

「ウアァァァァァァァァア!⁉︎」

 

抑揚の無い機械的な声に、範人は絶叫した。

あまりにも似ていた。かつて自分と共に笑い、戦い、暮らし、そして——殺めてしまった友に。

——エレカ……。

範人の思考は停止した。記憶は遡り、不完全から生まれた死ばかりがループした。

——やめろ! 死にたくない!

——なんでも言うこと聞く! 金でもなんでもいくらでもくれてやるから!

——捕まえたァァァァァァァア⁉︎

——一緒だよ。一緒一緒一緒一緒いっしょイッショ、ずっと一緒。

空を見上げたまま動かなくなった範人に、ルークは言う。

 

「チームノミンナ、隊長ノコトガ大好キデシタ。真面目デ、仕事ハ完璧ニ(こな)ス。モチロン、私モ貴方ガ大好キデシタ。……デモ、モウオシマイ。アノ頃ノ貴方ハモウ居ナイ。貴方ヲモウ、アノ頃ト同ジ目デハ見レナイ。私ノ意識ハモウスグ消エマス。ダカラ……サヨウナラ。私ガ貴方ヲ副隊長ノ所ヘ連レテ行キマス。ヨロシクオ伝エクダサイ」

 

ルークの肩から力が抜け、頭が下を向く。直後、ルークの持つ剣は「ピピピッ!」という音を発し、新たな刃を生やした。それは生体認証が完了した証。ルークが変異し、身体が違う生物へと置き換わった証拠だった。

 

「ターゲット発見。捕獲シマス」

 

——ウィルスは生物兵器(こちら)側への片道切符。

かつて散々言い聞かせられた言葉すら忘れ去り、ルークは無表情で剣を構えた。

 

 

 

 

ルークの生体認証が終わった頃、範人の甲殻には緑色が混じり始め、記憶の中を彷徨っていた。そこにあるのはたくさんの死と傷、そして少しの友と幸福だった。

かつての範人は無慈悲な戦闘マシン。政府に仕えるエージェントであるにもかかわらず、仕事は戦地や危険地帯(バイオハザード発生区域)への派遣ばかり。もはや軍人だった。そして、そう言った場所では必ず、命が篩にかけられる。範人はひたすら戦った。無慈悲に、無感情に、ただ生きるために何も考えず戦った。

——今となってはただの大量殺人だ。

範人は心の中で自嘲する。人間なんて忘れていたあの頃の自分を。そして同時に思った。人間の残虐さを持たずに戦っていて良かった、と。

 

贖罪は身体を蝕み、変えていく。背中には新しい鎌が生え始め、甲殻にもだんだんと緑が広がっていった。理性は溶け、心も身体もハンターキングに満たされていく。

 

反省も償いも散々した。それでも、もう足りなくなっていた。重ねた罪(奪った命)があまりにも多すぎた。

——ああ、あの時も俺が捕獲されれば良かったなぁ……。

そうすれば、街は消えなかったし、範人は心に大きな罪を背負うこともなかった。そして何より、かつての友——エレナが幸せになれた。

——もうどうなったっていいや。過去は変わらない。

思い出の数々が想像に変わりだした頃、ついに範人の心は罪を逃避した。まだ、それだけの余裕があったのだ。それは残った少しの幸せを抉り取られなかったからだろう。

 

暴走寸前、範人はギリギリで止まった。

——失ったものはもう戻らない。

範人の顔が前を向き、瞳が戻ってきた。甲殻の間から噴き出す炎も元の火力を取り戻し、赤々と燃え盛る。

 

「——っしゃあ! 来やがれコラァ!」

 

——何かを失った分、俺は人間を失い、生物兵器(向こう)に近づく。そして最後は……。

 

 

 

 

範人の知る限りでは、ルークは鍛え抜いた脚の機動力でスピードを生かした戦い方をする突撃型のエージェントである。故に、元々使っていた武器は銃よりも近接武器、それも、隠しやすいナイフではなく、相手により深いダメージを与える長剣や高周波ブレードだった。

だから、フットワークで素早く移動はできても上半身は重い武器に振り回されるはずだ。実際に、訓練では重さを支えきれずに動きにムラができていたため、重さを受け流して利用するようにさせていた。

しかし、今は身体状況が大きく異なっている。右腕の腕甲は片手に持った長剣と釣り合うほどの重さがあるように見え、バランスをとって振り回されることを抑えると同時に手数を増やす役割を果たしている。更に、剣士として打たれたくない肩は甲殻に覆われている。結局のところ実力は不明だ。

 

「まさかこんな加工を施すとは……どんな依頼主だよ?」

「私モ依頼主ノ名前ハ知ラナイ。タダ『ファースト』ト呼ンデイル。コノ指令(プログラム)モ身体ヲ強化シタ『Dウィルス』モ彼女ノ作品ダ」

「彼女? そのファーストとやらは女性なのか?」

「私ガ見タ姿ハナ。シカシ、何トモ言エナイ。彼女ハ全テヲ持ッテイルヨウナ気ガシタ。サァ、早クソノ身体ヲ寄越セ」

「わぁったわぁった焦んなって。決着なんてすぐに着く」

「ウルサイ、寄越セ!」

 

範人が「やれやれ」とでも言うような仕草をとった時、ルークは既に懐へと飛び込んできていた。ルークの長剣が範人の首にめがけて振るわれる。範人はそれを2本の鎌で受け止め、胸部の甲殻の隙間から火炎弾を打ち出した。しかし、ルークはこれを右腕で弾き、そのまま範人の腹部を薙ぎ払った。重い衝撃が腹を貫くが、範人はなんとか踏みとどまり、左フックでルークの右頬を殴り抜いた。仰け反るルークにもう1発、範人は爪先から炎を噴射してその場で1回転し、脳天に踵落としを叩き込んだ。普通の生物なら確実に命を落としているであろう一撃。しかし、範人は気を抜かず、炎を噴射して高速で後退した。

それを高速で追いかける影が爆炎を切り裂きながら現れる。

 

「やっぱ丈夫だな」

 

ルークは範人を串刺しにしようと剣を突き出した。範人はそれを爪先で蹴って弾く。しかし、剣は逸れてもルークの速度は衰えない。

ルークは右手で範人の首を掴み、地面に叩きつけた。範人が頭から地面に突っ込んだが、まだ離すことなく地面に潜り込ませたまま引きずり回す。

範人はルークの腕を掴み、身体を回転させてルークの首に蹴りを入れた。バランスが崩れた瞬間に指を外して逃げる。

ルークは足を踏ん張るが、腕甲の重さのせいで上手くバランスが取れない。地面に剣を突き立てて、なんとか止まったが、

 

「靴でも舐めてろ」

 

範人のドロップキックが顔面に入っていた。キックの衝撃だけでも相当なものだが、更に範人の足が爆発したため、あまりの衝撃に剣を手放して吹き飛ばされる。

ルークは右腕を地面に突き立てて大きく距離が離れることを防ぐ。

ルークの動きは以前のものより早くなっていた。偶然か、それとも身体に慣れたのかはわからない。しかし、それは範人の不安を増幅させた。

範人が更にダメージを与えるために地面を蹴ると同時に、ルークも地面を蹴った。2人の拳がぶつかり合い、殴り合いにもつれ込む。

ルークは範人の左脚での蹴りを右腕でガードし、カウンターとして左脚で上段への蹴りを打つ。しかし、相手は既に体勢を低くしており、蹴りは空を切る。範人は低い体勢からルークの下顎を狙って右アッパーを打った。同時に、ルークも上げていた左脚を振り下ろす。2人の攻撃は衝突し、あまりの破壊力に足元の地面と上空に浮かぶ雲が吹き飛んだ。

そこからはパワーとスピードが合わさった打ち合いだった。蹴りと拳と防御と回避。4つの動作が2人の間でひたすら繰り返された。かわされ、あるいは打ち消し合って弾けた。

——このままでは勝負がつかない。

かつて同じ隊に所属していたからか、2人の考えることは同じだった。

2人は同時に手を合わせ、取っ組み合った。打ち合いでは勝負がつきそうもないことを悟った2人は相手を疲弊させる作戦に出たのだ。

純粋に力と力のぶつかり合い。

「もっと力を」と、大きな出力のために血流が加速し、2人の目は更に充血して赤く染まる。

 

「ハァァァァァア!」

 

力比べはルークに軍配が上がった。

範人の身体がズルズルと後退し、ついに持ち上がる。ルークは左手で範人を掴み上げ、発達した右手で殴り飛ばした。範人の身体が弾丸のようなスピードで吹っ飛ぶ。その先の地面にはルークの使っていた剣が。

範人は身体を捻り、なんとか剣をかわす。しかし、受身に失敗して地面を転がった。

ルークは走りながら剣を引き抜き、放り上げた。そして、自身もジャンプし、剣を空中でキャッチ。剣を構え、範人めがけてドライブ回転しながら落下した。

範人は地面を転がって剣をかわす。ルークはすぐに剣を横に払ったが、範人は片手で逆立ちしてかわし、そのままスピンキックで剣の刀身を蹴り砕いた。更に、鎌でルークの脚を狙うが、ルークはすぐに後退して避けてしまった。

ルークは折れた剣を見つめる。範人は嘲るように笑いながら、

 

「その自慢の剣、折ってやったぞ? なぁ、今どんな気持ちだ? まだ続けたいのか?」

「……コノ剣ハ打ち合エバ打チ合ウホド、斬レバ斬ルホド硬ク、鋭ク、強靭ニ成長スル。ソシテ、ソノ成長ヲ最モ促スコトハ折ラレルコトダ」

 

「センチュリオン起動」と、ルークが呟くと同時に、剣からまたしても生体認証の「ピピピッ」という音が響いた。折れた刃が吹き飛び、新しい刃が生える。しかし、それは今までの剣とは明らかに違った。

刃には節ができ、その1つ1つを起点にウネウネと曲がるのだ。更に、先端には牙のついたムカデの顔のような物が付いている。その様子はかつてアンブレラ幹部養成所でt-ウィルスの二次感染によって自然発生したB.O.W「センチュリオン」に似ていた。

 

センチュリオン。

ムカデがt-ウィルスの二次感染によって進化し、巨大になった生物兵器。あくまで偶発的に生まれたものであり、その発生にアンブレラはt-ウィルスでしか関わっていない。巨大になったが、周りの生物を積極的に襲う凶暴さは無いと見られている。

 

「ドウデス? 美シイデショウ? 機能ガ違イマスヨ」

 

どこかで聞いたことのあるような感じで訊ねてくるルーク。

一方の範人は、

 

「すげえ! マジで⁉︎ 充填式⁉︎ どうやって作ったんだ⁉︎ 俺に作り方教えろよ〜」

 

驚き、感心していた。

ルークは「ククク……」と笑い、

 

「スゴイデショウ。コレモ『ファースト』様ノ発明ナンデス。ナカナカワカッテイルジャアリマセンカ。貴方、此方ノ研究所ニ——「あ、それはパスで」——デスヨネ……」

 

流れるように断られ、ルークはシュンとなる。

一方、範人は範人で充填式の剣を作りたかったが、さすがに自分から敵の組織に入るわけにはいかないな、ということで残念そうな表情を浮かべていた。

 

「マァ、私が殺シテデモ連レテイケバイイコトデス。センチュリオン!」

 

ルークが剣を振った。剣の刃が伸びて範人に向かう。

範人は一瞬、驚いた表情を見せたが、冷静に剣を殴って軌道を逸らした。地面に突っ込んだ剣が地を割く。

 

充填式蟲剣センチュリオン。

剣は肉を軽々と切り裂く強さを持つ反面、直しにくいという弱点がある。それはその刃の鋭利さ故に、研ぐ意外の方法で直そうとすると切れ味が落ちてしまうからである。欠けた部分に金属を埋め込むことなんてできない。

しかし、ある時ついにその弱点を克服する刃物が開発された。

カッターナイフの替え刃である。チョコレートのように刃先を折ることで鋭利な新しい刃が出現する。直すのではなく、壊れることを仮定して作るのだ。

充填式も替え刃である。表面が壊れれば、まるでサメの歯のように新しい刃が生えてくる。しかし、刃が違う。普通の替え刃は刃と刃をくっつけて、そのまま保存される。ところが、充填式は刃が元々あるのではなく、生えるのだ。それこそ、生物のように。普通にできる技術ではない。

センチュリオンはそれをウィルスが可能にしていた。範人の持つ覇剛剣アルゴスにも使われている生体金属の生成すらも可能にするウィルス。そんなウィルスが甲殻類の甲殻を刃とする剣に再生能力が与えるなど、大して難しいことではなかった。

ルークはセンチュリオンをまるで手のように振り回し、範人に的確に攻撃する。一方の範人も鎌と手でセンチュリオンを的確に裁く。

ルークがセンチュリオンを横薙ぎにした。範人はジャンプしてそれを回避するが、突然、刃だけが反転した。刃は範人の胴体を捉え、弾き飛ばした。

範人の身体が地面に激突する。その直後、センチュリオンの刃先が範人の足に噛み付いた。ルークはセンチュリオンを振り回し、範人を地面に何度も叩きつける。

連続して走る衝撃と痛み。更に、その猛スピードでの振り回しのおかげで、範人の方向感覚は狂ってしまった。

フラフラになった範人をルークは自分の目の前に吊り下げた。

 

「貴方ガ悪インダ! 貴方ガ私達を裏切ッタ! 貴方ガ暴走シナケレバミンナ生キラレタンダ!」

 

そう言って、ルークは範人をサンドバッグのように殴る。

 

「コレモ! コレモ! コレモコレモコレモコレモコレモ! ミンナハモット痛カッタ! ミンナ死ンダカラモット痛カッタ! 死ニヤガレ、クソッタレガァァァァア!」

 

ルークは全力で範人の頬を殴り抜いた。範人の身体が宙を舞う。範人は地面で何度もバウンドし、地面を抉って静止した。

ルークは荒い息を吐きながら、範人を見る。甲殻は既に凹凸だらけで隙間からは血も流れている。しかし、範人はよろめきながらも立ち上がった。まだ、その目から輝きは失われていない。

もはや生物の部類に含めてはいけないようなあまりの丈夫さにルークは表情を歪ませる。

範人はゆっくりと腰を落とし、走り出した。一歩毎に足の裏を爆発させて加速する。それを迎え討とうと、ルークは剣を構えた。範人も鎌に熱を集中させる。

 

「ウオォォォォオ!」

「ラァァァァァア!」

 

炎の赤と百足の黒が交差した。

範人は足だけでなく、手も地面について止まる。

範人の鎌とルークの左腕が地面に落ちた。握られていたセンチュリオンは柄さえも粉々に砕け、もはや再生は不可能になっていた。

呆然としているルークの背後で、範人が話す。

 

「……死の痛みなんてわかっているんだ。俺自身の危険さも、あいつらの最後も知っているんだ。でも……、仕方ないじゃないか。俺は生物だ。生きなきゃいけないんだ。父さんが引き止めてくれた命の限り、生きなきゃいけないんだ。こんな身体でも本能が生きたがってんだよ! 死にたいほど苦しくても生きるのが義務なんだよ!」

 

ボコボコになった顔面の甲殻から表情は読み取れない。しかし、その頬には炎の筋ができていた。

ルークはゆっくりと振り向く。その顔には怒りと悲しみが同時に現れ、複雑な表情を作り出していた。

 

「本当ニ可哀想ナ人ダ……」

 

そう呟いたルークは拳を握りしめ、範人に向かってダッシュした。

 

「ソノ義務、終ワラセテヤラァァァァァア!」

 

範人は微笑(わら)った。元々付き合いがあったため、わかったのだ。不器用なルークが更に不器用になったプログラムの中から言葉を選んだことが。範人の嫌う(ただの殺戮兵器)に、範人自身(の魂)がならずに済むように殺そうとしてくれていることが。

範人はルークの拳を頬で受けた。拳が頬を捉える。しかし、滑った。範人の身体から発せられる熱が甲殻の表面に空気の流れを生み出し、風のバリアを張っていたのだ。

——その死は受け取れねえよ。

驚きに目を見開くルークの腹を、範人の拳が撃ち抜いた。ルークの身体が後ろへとずり下がる。

今度は範人が拳を握りしめた。ルークは右腕を正面に構え、脚を踏ん張る。

範人の拳がルークに放たれた。ルークは腕に力を込め、脚を踏ん張って必死に耐える。強固で分厚いルークの腕甲は範人の拳を受け止めていた。

 

「まだまだ……」

 

範人の肘から炎が噴き出す。ルークは膝をつきそうになるが、歯をくいしばって耐え続ける。未だに、腕甲にはヒビすら入ってない。

この力くらべに負ければ、間違いなく死ぬ。範人とルークは確信していた。2人とも限界は目の前だった。

範人とルーク。実力は範人の方が上だったが、甲殻の強度によってその差はほとんど無いほどにまで小さくなっていた。

憧れ続けていた背中が横顔に変わったようにルークは感じていた。だが、これではまだ足りない。憧れに追いつき追い越せ。ルークは横顔ではなく、顔が見たかった。

ルークが一歩、また一歩と進み始める。越えたい(勝ちたい)という思いがルークを前に進ませた。範人の拳がまるで山のように感じられる。それでも、進み続ける。

 

「ウオォォォォオ!」

 

範人の身体が後退し始めた。

——拳が痛い。

あまりにも強固な甲殻に、範人の拳は悲鳴を上げ始めていた。物理的にも、精神的にも。パンチは殴る方も殴られる方も痛い。

たとえ、人間を辞めているとしても、自分を越えそうになっている部下の姿は嬉しい。だから、範人は自分が死んでもいいとすら思った。しかし、脳裏に妖夢の姿が浮かんだことで考える。自分がいなくなったら妖夢はどうなるのだろう? と。愛する者を失う痛みを知っている範人は恐ろしくなった。

生物兵器の身体を持つ範人は死ねない。父親を失った後、最後のミッションの後、苦しみから自分の身体を切り刻んだ。生物兵器の(呪われた)身体で生き続けた。しかし、もしも自分と同じことをすれば、半人半霊の妖夢では死んでしまう。彼女には死んでほしくない。だから、可能性を少しでも潰すために、生きなければならない。

 

「まだだ……。まだ『まだ』が1個残ってるぜ!」

「何ッ……⁉︎」

 

範人の肘から噴き出す炎が勢いを増した。押されていた範人だが、少しずつ押し返していく。ルークの腕が少しずつ下がり始め、範人の身体はさらなる高熱を発する。

 

「ヌゥ……ナントイウ火力ダ……」

 

ルークは歯を更にくいしばる。ルーク自身は気づいていないが、くいしばり続けた歯はより丈夫な甲殻に置き換わっていた。

2人の力が均衡し、再び動きが止まる。

 

「はぁぁぁぁぁあ!」

「ヌゥゥゥゥゥウ!」

 

2人の叫び声が大気を揺らし、山に響きわたる。巨大なエネルギーがぶつかり合い、地面に亀裂を生じさせる。もう限界寸前だ。

そのとき、範人の背中の甲殻がほぼ全体、一気に開いた。大量の炎が噴き出し、範人の身体を無理やり押した。その様子はまるで炎の翼が生えたようで、同時に肘の炎も更に勢いを増した。

ルークも負けじと脚を踏み出す。しかし、

 

ピシッ!

 

ルークの腕甲にヒビが入った。ヒビはまるでドミノ倒しのように広がり、腕甲を侵食していく。そしてついに、

 

バリン!

 

限界を迎えた腕甲は完全に砕け散った。範人の拳が甲殻の下の柔らかい肉にめり込み、ルークの身体を後退させる。

範人の炎が更に火力を上げた。同時に、ルークの腕自体も弾け飛んだ。ルークの胸に範人の拳が突き刺さる。

 

「オラァァァァア!」

 

瞬間、2人は急発進した。

範人は背中の爆炎ジェットエンジンのパワーも借りて猛スピードで、ただ真っ直ぐに飛んだ。あまりのスピードに衝撃波が発生し、地面を抉り取っていく。

——ああ……、やっぱり勝てないな。

急速に視界の奥へと消えていく景色を見ながら、ルークはそう思った。

範人(隊長)に勝てなかった。その事実だけが頭の中をグルグルと駆け巡る。

自分にはもう、この経験を活かす次もない。

ルークは静かに目を閉じた。もう終わったのだ、と。

その直後、ルークの身体は岩壁に激突し、バラバラに弾け飛んだ。

 

 

 

 

範人はバラバラに弾け飛び、肉と骨の混ざったグロテスクな物体になってしまったルークを見下ろす。岩壁には人の形がくっきりと残り、血の匂いが辺りを包み込んでいた。

もう確実に聞こえていないだろう。それでも、範人は言う。

 

「俺は知っている。俺という存在の危険性も、お前らが死んだ時の最後の顔も、何もかも知っている。だから、生きなきゃいけない。お前らが生きている場合に感じるはずだった幸福、苦痛、悲しみ。俺はそいつら全てを背負って生きている。俺が殺しちまったお前らの分も俺は生きなきゃいけない。それが……俺の償いだ。……さようなら、ルーク。次はきっと生物兵器にならない(呪われない)人生を送れるように願う」

 

範人は岩壁に背を向けて歩き出す。

 

——俺と一緒にいてくれてありがとう、最強の弟子よ。

 

最も大きな肉塊がグシャリと音を立てて崩れた。




長かった。それしか言えない。
次回でコラボ終了だと思います。
ではまた!
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