東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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 約1ヶ月ぶりの更新。本当に、申し訳ない……。
 前の投稿からしばらくスランプに陥っていました。ゲーム、読書、運動、掃除……何をしてても浮かばなかったんです。


※注意
旅行回は作者の記憶を頼りに書かれています。間違っていてもご了承ください。なにしろ、最後にハワイへ行ったのは5年程前ですので……。


第九十四話

 ハワイ旅行2日目。範人達は……、

 

「海だー!」

 

 海に来ていた。それも、人がたくさんいるワイキキビーチである。

 不思議に思う人がいるだろう。何故、プライベートビーチを持っているのに、わざわざ公衆の海水浴場に来ているのだろう……と。

 理由は簡単。人がたくさんいる場所の方が楽しいからである。

 旅行に行った時に楽しいことは、自分達だけの時間を過ごせることだけじゃない。人がたくさんいる場所に来ることでいかに上手く場所取りをするか、多くの人がいる場所でいかに上手く楽しむかという駆け引きもまた楽しいのである。

 特に海は、水着の美女がいたり、筋肉がかっこいいイケメンがいたり、水着の幼女がいたり……色々と美味しい要素があるため、人が多い場所の方が良かったりするのだ。

 範人は空いている場所にパラソルを立てて、腰を下ろす。その隣に、妖夢も腰を下ろした。

 

「海だな」

「ええ、海ですね」

「どうする?」

「泳ぎましょう」

「そうだな」

 

 2人は「海だー!」と叫んでいた少年を見ながら、妙にローテンションなやり取りをする。

 何故、2人がローテンションなのか。その原因は2人を取り囲む人々である。

 

「ヘイお嬢ちゃん、俺達と遊ばない?」

「お兄さん、あたし達とイイコトしない?」

「お姉さん、一緒に遊んでくれない……かな?」

「わ、私と一緒に泳いでくれませんか?」

 

 2人はナンパや逆ナンパを受け続けているのだ。しかも、チャラそうな男や男遊びしてそうな女だけでなく、弱気な男の子や恥ずかしがり屋の黒髪清純派美少女まで混ざっている。

 確かに、範人と妖夢は平均水準の相当上を行くイケメソ——じゃない、イケメンと美少女である。そのため、こうなることは決してありえないことではないのだが、やはり心が疲れる。しかも、その原因が自分達の格好にあるというのだから、どうしようもない。

 範人の格好は短パン(水着)にアロハシャツ(前全開)である。おまけに、サングラスまで掛けているときた。金髪+イケメン+サングラス+そこそこ長身+良い筋肉+前全開のアロハシャツ+短パン水着。日本で言えば、ただのチャラそうな男だが、元が元だけに相当イカしている。

 妖夢の格好はビキニタイプの水着の上に白いワンピースというシンプルなものだ。カチューシャはいつもと同じ物を着けている。見た目が若干幼いものの、やはり美少女は元から美少女のため、シンプルな服装が彼女自身を引き立てて非常に可愛い。

 2人が「やめてくれ」という空気を出しているにもかかわらず、ナンパ軍団が離れる様子は全くない。

 

「邪魔だ……」

 

 相変わらずしつこいナンパ軍団に、範人が静かにキレた。そのドスの効いた低い声と、見つめられただけで身体が両断されてしまいそうなほど鋭い目つきに、ナンパ軍団全員の顔が青ざめる。気の弱そうな少年は立ったまま気絶、清純派美少女に至っては失禁してしまった。

 範人はギョッとした表情になり、少女の手を取って「ごめん」と謝って、その場を離れる。その後ろに、つまらなそうな顔をした妖夢が続いた。

 後には、ナンパ軍団(マイナス)清純派美少女が残った。

 

 

「ごめん、怖かったよな」

 

 海水浴場のあまり目立たない岩場で、範人は泣いている清純派美少女に謝る。

 範人がこんな岩場に来た理由、それは自身の威嚇が原因で失禁してしまった少女を大衆の前から逃がすためである。幸い、この岩場には潮溜まり(満潮時には海面下になるが、干潮時には水溜りのような状態なる岩のくぼみなどのこと。小さな魚やウミウシ、ヤドカリなどがおり、なかなか楽しめる。別名タイドプール)があり、水着を洗うこともできた。

 少女は目をこすりながら首を横に振り、

 

「いえ、悪いのは私です。感情のままにナンパなどというはしたない真似を……」

「俺は怒ってないから安心しろ。それに、人によっちゃあ兄妹とか親子に見えることはあるだろうし」

「範人、それは私が幼いということですか?」

「そんなわけないだろ。俺はロリコンじゃないからな。とりあえず、高校生程度には……ああ、大丈夫だ」

 

 黒いオーラを出す妖夢に、冷や汗を流しながら答える範人だった。

 

「お2人は付き合っていらっしゃるんですね。恋人がいる方にナンパとは、私はなんと無謀なことを……」

「まぁ、反省は大事だよな。とりあえず、今回のことでまた1つ賢くなったってことでいいだろ。ナンパなんてしない方が良いってな」

「うぅ……本当にごめんなさい」

 

 本当に申し訳なさそうに謝る少女。範人自身、悪いことはしていないはずなのだが、ここまで謝られるのはあまり気分が良くない。それは妖夢も同じ気分だったようで、

 

「……範人はあげられませんが、一緒に遊ぶくらいのことならできます。折角ですから、一緒に泳ぎましょうか?」

「はぁ⁉︎ 何言っ——」

「いいんですか⁉︎」

 

 少女は目を見開く。

 

「いいですよ。1人増えたところで問題はありませんから」

「よろしくお願いします!」

 

 少女は先ほどとは打って変わり、嬉しそうに言った。妖夢も「ふふふ」と笑いながら頷いた。

 

「俺の意思は無視なのか。そーなのかー」

 

 ものの見事に発言を遮られ、いじける範人だった。

 

 

 ワイキキビーチには海岸近くと沖を隔てる壁がある。壁の陸地側はそこまで深くなく、溺れづらくなっている。壁沿いは更に浅く、小学生でも足が着くほどである。 しかし、この壁の外側は深く、普通に溺れるほど。おまけに、サメまでいる。壁が完全に隔てているわけではないため、時折内側にもサメが入ってくることもあるが、外側に比べると小さいサメのため、危険は大分少ない。

 妖夢と少女はこの壁のすぐ内側にいた。範人は少し離れたところで潜水している。

 遊び始めてから少し経った頃、互いに名前を知らないことに気づいた妖夢が、少女に名前をたずねたところ、シエルと答えた。東洋人の血が混じっているらしい。

 

「シエルさんは、何故範人のことが好きになったんですか? 貴女の見た目なら、寄ってくる男性の方々は多いと思うのですが……」

 

 互いに気を許しあえるようになってきた頃、妖夢はシエルに最も気になっていたことをたずねた。

 はっきり言って、シエルは美少女だ。それも、男たちが好みそうな清純派の美少女である。緩いパーマのかかった黒髪に、パッチリとした大きな目、綺麗な青い瞳。白く美しい肌にほっそりとした女の子らしい手足。身体も程良く細い。これだけでも充分なのに、更に、同性の妖夢が羨ましく思うくらいおっぱいが大きい。どこからどう見ても最高クラスの美少女である。

 そんなシエルは恥ずかしそうに頬に手を当てながら、

 

「一目惚れだったんです。『この人だ!』って。彼を見た瞬間に、まるで電流が走ったかのような衝撃を受けたんです。もちろん、他にもかっこいい殿方は見てきましたが、こんなことは初めてでした。本能のままに、と言えば良いのでしょうか? 気がついたら、彼に声をかけていたんです」

 

 そう言って顔を赤らめるシエルに、妖夢は喜びに近い感情を覚えていた。まるで同志を見つけたかのような感覚だった。

 

「そうですか。貴女もなんですね」

「え……、『も』とは?」

 

 シエルは驚いた様子で訊ねた。

 

「私も同じだったんです。範人を見た、その瞬間に惚れてしまいました。もちろん、見た目もあると思いますが、範人は大切な何かを持っている感じがしたんです。本人は『そんなことない』って言ってたんですが、信念というか何と言うか、とにかく何かが違ったのは確かです。きっと、大切な部分がしっかりしているんだと思います。おかげで、範人は私のハートを一発で撃ち抜いてしまいました。同時に、私も範人のハートを撃ち抜いていたらしいですけど」

 

 妖夢ははにかみながら続ける。

 

「恋人として当然のことですが、範人は私のことを愛してくれているんです。他の誰にも揺れることなく、ただ真っ直ぐに私だけを。だから、私も彼に思いを真っ直ぐにぶつけられるんです」

 

 そう言って、妖夢は嬉しそうに微笑む。そんな妖夢の様子に、シエルは「負けた」と心の中で呟いた。シエルは既に負けていた。

 恋というものにも、やはり早い者勝ちは存在する。というより、早い者勝ちということが非常に重要である。どれだけ早く行動に移して好意を持ってもらうか、それはライバル多き者にとっての最重要ポイントだ。

 出会った時期、初対面での印象、行動に移したタイミング……。様々なポイントで、シエルはとっくに負けていた。奪うことなんて不可能。何より、範人の心が揺らぐことは絶対にないことが、妖夢の様子からはっきりとわかった。

 それでも、シエルは訊ねる。

 

「では、お二人の関係はどこまで行っているんですか?」

 

 返答を聞くのが怖い。しかし、知っておかなければならない。シエルには、好きになってしまった者の責任があった。

 

「既に、男女の一線を越えました」

 

 一番聞きたくなかった返答。悲しい。しかし、シエルは納得していた。絶望なんてしなかった。予想していた通りだったのだから。

 

「やはりそうでしたか。それなら、私が邪魔をしてはいけませんね」

 

 本当は堪らなく悲しいはずなのに、シエルは微笑んでいた。

 そのとき、

 

「ヒャッホーイ!」

 

 まるでイルカのように、範人が海面から跳び上がった。そのまま宙返りをし、水飛沫と共に海中へ消える。

 シエルは唖然としてしまう。

 

「もう……目立つのはやめてほしいのに……」

 

 妖夢は呆れた表情で、範人が潜っていったポイントを見つめている。

 

「妖夢さん、私達も泳ぎましょう!」

「は、はい、そうしましょう」

 

 楽しそうに泳ぐ範人に触発され、シエルも無性に泳ぎたくなった。

 範人に手が届くことはもうないが、それならそれでいい。あっさりフラれた過去は忘れ、今この時を楽しもう。

 シエルと妖夢は同時に水に潜った。

 

 

 範人が水面から連続で跳び上がっていた頃、ビーチでは、

 

「見てみるべぇ、でっかい魚が跳ねただよ。これがハワイっちゅうもんかぁ、すんげぇなぁ」

「なーに言うとるだぁ。日本の海にも跳ねる魚ぐらいいるべぇ。鯉も跳ねるっぺよぉ」

「んだけどよぉ、日本の魚を遥かに凌ぐでかさだぁ。わしらよりもでけぇんでねぇか?」

「んぉ? よぉく見てみっと、ありゃあ人なんでねぇか? 手ぇみたいなもんが見えたべぇ」

「そりゃあ人魚だべ。さすがハワイ、人魚も居るなんてすんげぇなぁ」

「これがハワイっちゅうもんなんだなぁ」

 

 その日、ワイキキビーチでは人魚らしき生物の目撃例が相次いだという。

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