東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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今回はちょっと早かったぞー!
???「本当は昨日1日で書き終えたから、サボってたことに変わりないよな」
ウッ……⁉︎ いつもはやる気が出張していて……。次も早めに出すことを前向きに検討しておきます!

注意として、時系列が一気に飛びます。一ヶ月とか、そんなチャチなもんじゃありません。九ヶ月くらいです。そこのところ、よろしくお願いします。
では、本編をどうぞ。


第九十八話

 それは初秋、ツクツクボウシがまだ鳴いている頃のことだった。

 

「いよいよですね……」

「ああ……」

 

 緑髪の少女の言葉に、ババ——ゲフンゲフン、奇抜な格好をしたナイスバデーな女性が応える。

 

「まだ見ぬ土地なんて、ワクワクしますね。まるでファンタジーRPGみたいです」

「おお? 早苗って、そっちで興奮するクチだったっけ? ダンガムとか、イヴァの方は好きじゃなかったっけ?」

「確かに、ロボットが一番好きですが、ファンタジーも普通に好きですよ。最近の作品だと——」

「いや、そういう説明はいらないから」

「そうですか(´・ω・`)」

 

 幼女にすっぱりと断られ、少女はしょんぼりとした顔になる。

 

「うぅ……やっぱり、こういう時に話を聞いてくれるのは冷仁(れいじ)君ぐらいです」

 

 と、少女は、ひたすら刀の手入れをしている青年の方を見た。

 しばらくして、青年は少女の視線に気づき、

 

「……俺の顔に何かついているのか?」

「そもそも、話すら聞いてないしっ!」

 

 少女は頭を押さえる。

 

「まぁ、俺もファンタジーは普通に好きだがな……」

 

 青年が呟いた。

 

「聞いてんじゃないですかー!」

「面倒なのは嫌いだ」

「め、面倒⁉︎」

「そもそも、パンデミックもののアクションホラーとか、スタイリッシュアクションの方が好きだから」

「めっちゃCAPC○M⁉︎」

「と言うよりも、ファンタジーなんてむしろ日常……」

「……あー、確かに……」

 

 青年の言葉に、金髪の幼女が頷く。

 

「私ら神だからねぇ。信仰ないけど」

 

 女性はそう言ってカッカッカと笑う。

 そんな女性に青年は呆れた様子で、

 

「よくもそんなに気楽でいられるな。信仰がなくなったら、あんたらは消えるんだが?」

「それなら、私らは消えないさ」

「は?」

「だって、あんたが信仰をくれるからね」

「そうか……」

 

 青年は努めてつまらなそうに返したが、その口元はニヤけていた。

 それに気づいた幼女は嬉しそうにしながら、

 

「まぁ、こっちでの信仰は薄れてきちゃったからね。私たちの力も自然と弱くなっちゃったよ。近頃は、『神様なんて信じない〜』なんて言ってる子供も多いから。でも、冷仁1人だけでも信じてくれている。あんたがいるから、私たちは存在できるんだよ。それだけでも、充分なのに、場所まで提案してくれて……。ありがとう」

 

 頭を下げる幼女から、青年は目をそらす。

 

「別に、俺はあんたらに消えてほしくないだけだ」

「…………もぉ〜、優しいんだから〜」

「あんたらが消えたら、早苗が悲しむだろ」

「この〜、ツンデレめ〜」

「うるさい黙れ」

 

 ニヤニヤしながら絡んでくる幼女を、青年はテキトーにあしらいながら刀の手入れを続け、少女は不満そうな表情を浮かべて境内の落ち葉を片付ける。

 そんな情景を肴に、女性は1人酒を飲んでいた。

 

 

「天魔様にご報告します。外来人たちが山頂から出ていく気配は依然としてありません。こちらの警告に対する反応がないことを見ると、こちらの命令に従う可能性もないと思われます」

「うむ、ご苦労だった」

「はい。しかし、まだ問題があります。今回の件で、敵意を抱いている天狗は少なくありません。天魔様の対応に不満を抱き、怒りの矛先を天魔様に向ける者も出てくると考えられます」

「そうか……。そうだろうな。しかし、向こうが手を出して来ないのなら、こちらからも手を出すわけにはいかん。攻撃はせず、警告を続けるように。くれぐれも手は出すな」

「はっ!」

 

 白狼天狗は天魔に頭を下げると、部屋から出て行った。

 天魔は机の上に積み上げられた書類を見て溜息を吐き、窓から山頂を見つめる。

 部下たちの気持ちもわかる。この山は大部分が我々天狗の領地であり、長きに渡る戦いの末に勝ち取ってきたものだ。そんな領地に、外の者が勝手に入ってきた。怒りを覚えないはずがない。

 妖怪たち——特に天狗は、人間を見下している節が強い。人間ならば、何も考えず殺しても構わないと考えている者も多い。

 最近、山頂に社ごと引っ越してきたのは人間だ。追い出すのが最善であることはわかっている。だが、忘れてはならない。山頂に越してきたのが神社であり、そこには神もいることを。

 

「本当……どうすれば良いのか……」

 

 その天魔の呟きに、答える者はいなかった。

 

 

 その日の夕方、天狗の里の酒場にて。

 

「まったく……天魔様も優しすぎる。何故、人間に対してそこまで気を使う必要がある? 邪魔なら追い出す。応じないなら殺す。それでいいじゃないか」

「それができれば苦労しないんだけどな。むやみに人間を殺すわけにはいかないらしい」

「何でぇ?」

「スキマ妖怪との話し合いで決まっているらしい。逆らえば、スキマ妖怪との戦いになるとか」

「そんなの大丈夫だろ。天魔様がスキマ妖怪なんぞに負けるはずがないんだからな」

 

 白狼天狗は当然のように答えた。

 

「バカを言うな。スキマ妖怪側には、あの博麗の巫女がいるんだぞ」

「……そのくらい平気さ。天魔様ならな」

 

 一瞬ビクッとしたが、白狼天狗は自信ありげに答えた。

 

「それだけじゃない。この前は味方だったけど、あの白いのも向こう側だ。勝てると思うか?」

「……まぁ、大丈夫なんじゃね。ハハハ…………マジかよ……」

 

 白狼天狗は答えたが、その顔には冷や汗が流れていた。

 と、

 

「おお、お前もそう思うか?」

 

 背後から太い声。

 白狼天狗が振り向くと、そこには1人の烏天狗の大男がいた。

 

「あ、あなたは……」

「じゃ、ジャガさん」

 

 八尺はあろうかというその大男は、ビクビクした様子の2人を見下ろすと、ニヤリと笑い、

 

「いかにも、俺は大天狗の邪我亜(じゃがあ)能登(のと)。俺もお前の意見と同じ、『天魔様は緩すぎる』派の天狗だ。俺は先代の天魔様の頃から大天狗をしているが、あんなに緩い天魔様は文献でも見たことがない。優しすぎる。はっきり言って、あんなの天魔様じゃない。法は俺たち天狗が作る。それが天狗じゃなかったのか? 今の天魔様——いや、あいつは天狗の面汚しだ!」

 

 能登は一気に言い切ると、器に注がれた酒をぐびぐびと飲み干した。

 そして、ダルそうに机に上半身を預ける。

 

「もう命令なんて聞いてられないんだよ。天狗の名誉にかけて、もうこれ以上先延ばしはできねぇんだ。早く、取り戻さねぇと……」

 

 能登は泣きそうな声で言った。

 白狼天狗は驚いた様子で、

 

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ……大丈夫だ。申し訳ないな……。ダメだよな、こんなんじゃ……。俺は大天狗だってのに……」

「そんなことないです!」

 

 白狼天狗が叫んだ。

 

「ジャガさんはいつだって我々天狗のことを考えて、戦いでも必ず先頭に立って、俺たちを引っ張ってくれたじゃないですか! 悪いのは人間です! あなたが責任を感じる必要なんてありません!」

「そう言われても、俺じゃあ、天魔様に頭が上がらないんだよな……」

 

 そう言う能登は本当に申し訳なさそうだった。

 どんなに身体が大きくても、気分が落ち込んでいる時は小さく見えるのだということを、白狼天狗は初めて知った。

 

「とりあえず、俺は今夜、仲間を集めて戦いに行くつもりだ。命令には背くが、このままではダメだと思う。よかったら、お前らも来てくれ……」

 

 能登はテーブルに代金を置くと、出入り口に向かってとぼとぼと歩き出した。

 その姿に元気はなかった。しかし、力強い意志が溢れ出していた。

 

 

 その夜、神社に続く山道にて。

 

「来てくれたことに感謝する。同志たちよ」

 

 能登は集まった天狗たちの前に立ち、頭を下げた。

 集まった天狗の数は百余。その誰しもが、迷いの無い顔で能登を見ている。

 

「今夜、我々は山頂に侵入した不届き者を追い出す。敵の戦力は不明だが、数の利はこちらにある。勝機は充分。負け戦などと思うな。恐れることなく戦え!」

『はっ!』

「うるさい! バレるだろう!」

『はっ……』

「気合いが足りーん!」

『はっ!』

「うるさい! ……けど、まぁいいか。行くぞ!』

『ウェーイ!(OwO)』

 

 ……何かおかしい返事が聞こえた気がするが、そんな感じで戦いに向かう一行だった。

 しばらくして、

 

「むっ……! 止まれ!」

 

 能登の言葉で、全隊が停止した。

 隊が止まった場所は神社の鳥居の前だった。

 鳥居は境界線の意味も持つ。鳥居の向こうは別世界。完全なアウェーであり、何が起きてもおかしくはない。

 しかし、能登が止まった理由はそこではない。

 鳥居の陰に隠れている何者かの気配が進行を妨げていた。

 

「そこにいるのは誰だ? 姿を見せろ!」

 

 能登は鳥居の陰に向かって言った。

 すると、左目に眼帯をつけた金髪の青年が鳥居の陰から現れた。

 青年の左手には刀の鞘が握られており、まだ刀が抜かれてないにもかかわらず、青年から発せられる気には能登ですら身震いするほどの迫力があった。

 

「うるさい。ウチの者が起きる」

 

 青年は右目を瞑り、鬱陶しそうにしている。

 その時、白狼天狗の1人が青年に飛びかかろうとした。しかし、彼は能登によって押さえつけられる。

 

「な、何するんですか? 今、絶好の機会だったでしょう」

「バカ野郎! 今行ったら、間違いなく殺られてたぞ! しっかり見てみろ!」

「へぇ……?」

 

 押さえつけられた白狼天狗は不思議に思いながら、青年を観察する。

 目を閉じているにもかかわらず、その姿勢には一切の無駄がない。そして、右手はいつの間にか刀の柄を握っており、その身体から鋭いすぎて気づけない程の殺気が出ていた。

 

「ひっ……!」

 

 白狼天狗は恐怖で身が竦み、動けなくなってしまう。

 その様子を見ていた能登は、

 

「名は?」

 

 訊ねた。

 

旅行(たびゆき)冷仁」

 

 青年は不愉快そうに答える。

 

「そうか……。では、旅行とやら」

「何だ?」

「退け」

 

 底冷えするような声。

 並大抵の人間なら失神。妖怪ですら漏らす程の威嚇。

 しかし、冷仁には全く効かなかった。

 

「……何のつもりだ?」

「退去願いだ。聞き入れてくれぬのなら、ここで全員殺す」

「そうか。じゃあ、殺すといい」

 

ギィン!

 

 鋭い金属音。

 あまりの音に白狼天狗たちは耳を押さえ、目を閉じた。

 数秒後、白狼天狗たちが恐る恐る目を開けると、そこでは信じられないことが起こっていた。

 

「どうした?」

「ぐぬぬぅ……」

 

 冷仁と名乗った青年が片手持ちの刀一本で、能登の両手剣を受け止めていたのだ。

 能登は顔が真っ赤になるほど力を込めているのに対し、冷仁は余裕の表情で受け止めている。

 その時、白狼天狗たちは自分たちの役割を思い出した。それは、相手の隙を作って建物内に侵入すること。

 役割を思い出した白狼天狗たちは、一斉に神社へと駆け出した。

 しかし、

 

Be gone(立ち去れ)‼︎」

 

 冷仁が冷たく言った。

 その言葉とほぼ同時に、神社の中に向かっていた白狼天狗たちは一斉に倒れてしまった。その後も、一人また一人と倒れていく。

 侵入を阻止しているのは間違いなく、打ち合いを続けている冷仁だろう。だが、冷仁がその場から大きく動いている様子はなく、白狼天狗たちが勝手に気絶しているだけのようにも見える。もしかしたら、速すぎて(・・・・)動きが見えないだけかもしれない。

 能登は全力で両手剣を振り回すが、冷仁は相変わらず、表情を崩すことなく剣撃を受け切っている。

 

「ぬぅ……くそっ……!」

「力任せじゃ勝てん」

「ふんぬぁぁぁぁあ!」

 

 一瞬だけ身を引き、その後の踏み込みで全体重をかけての渾身の一撃。パワーもスピードも尋常ではない。

 数ある戦いでも指折り数えられる程度しか使ったことのない技を、能登は放った。

 しかし、

 

「——ッ⁉︎」

 

 その一撃は空振りに終わった。

 冷仁の姿は一瞬で両手剣の間合いの外へ移動し、能登には四肢を引きちぎる程の衝撃が襲いかかってきた。

 能登は理解した。この神社には神だけではない、もっと恐ろしい者が住み着いているということを。傍若無人なる化け物が……。

 

 

 気絶した能登たちが山道から大きく外れた崖の下で発見されたのは、襲撃から二日後の正午頃だった。




今回から、ラストに向けての下り坂です。やっと半分切ったくらいですが、ホッとしています。早よ書いてしまわなければ……。
では!
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