東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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 遅くなってすみません。就職試験を受けたり、新作の書き溜めをしてました。
 2次募集来てくださいお願いします。


第百話

 カチャカチャという心地よい金属音。かき混ぜられているのは基本のおかずからケーキのようなデザートまで様々な料理に使われる奇跡の食材——卵。

 程なくして、卵が馴染み、濃度が均一になった。それを、油をひいておいたフライパンに移し替え、火にかける。少し固まってきたら、既に炊いておいた米を投入した。

 炒めながら、ヘラでかき混ぜて米をパラパラにする。そこに塩胡椒、鶏ガラの出汁と鰹節の出汁をブレンドした特製スープを投入して更にかき混ぜていく。最後はごま油を少し加え、一、二回かき混ぜて終了。

 範人は出来上がった料理を皿に適当に盛り付けた。

 

「ほい、黄金チャーハン一丁上がり」

 

 とある秋の日の昼下がり。霧の湖の畔に建つ館、紅魔館にて。

 範人はレミリアに呼ばれ、簡単な料理教室をしていた。

 範人は母親が亡くなってから家の料理当番をずっとしてきたため、料理が上手い。それも、店を出せるレベルで上手い。

 それに対し、レミリアは料理が上手とは言えない。全くできないというほどではないのだが、両親がいた頃は母親が、昔の同居中はジェイドが、最近は咲夜が料理当番をしていたことが原因で、料理をしたことがあまりないのである。

 レミリアも大人の女性(レディ(笑))として最低限美味しい料理くらいは作れるようになっておきたい。が、従者である咲夜に訊くのはプライドが許さなかったので、範人に白羽の矢が立ったわけである。

 細かく言えば、レミリアが範人を選んだ理由はそれだけではない。

 ジェイドの料理は簡単なもの——良い言い方をすれば、男の料理——であり、咲夜の料理よりは作りやすそうなものだった。しかし、最も食べて欲しい者であるジェイドに料理の作り方を教えてもらうわけにはいかない。そこで、ジェイドと同じ男である範人なら、簡単な料理を知っているはずと思ったのだ。

 結果的に、その選択は正解だった。

 範人は咲夜のように難しい料理も作れるが、レミリアに合わせて簡単な料理を教えてくれた。合わせて()()()()()()というのが少々気に食わなかったが、レミリアも仕方ないと割り切って、素直に従っている。

 そんな時だった。

 

「ヴァンドザァァァアン!」

 

 射命丸文が慌てた様子で現れたのは。

 

 

「ふぅ……。申し訳ありません。慌てていたもので……」

 

 文は紅茶を飲み干すと、頭を下げた。

 

「安心しなさい。このくらいのことで、寛大な私が怒るなんてありえないわ」

「それを自分で言うか……」

「ええ。だって、私だもの」

 

 そう言って、レミリアは胸を張る。無い胸を張っても痛いだけ。

 範人は苦笑し、

 

「で、用件はなんだ?」

 

 真剣な様子で訊ねた。

 

「実は……」

 

 文は、山頂に突然現れた神社とボロボロになって帰ってきた天狗たちについて、短く簡潔に話した。特に、邪我亜能登が天狗の中でも指折りの実力者であることを強調した。

 範人は溜息を吐く。

 

「それ、邪我亜ってやつが悪いんじゃねぇの?」

「確かにそうなんですよね。でも、ここで反撃しないとまずいんですよ」

「と、言いますと?」

 

 範人が頭に?マークを浮かべて訊ねる。

 

「邪我亜さんなんですが、先代の天魔様の時から大天狗を務めている方でして。歴が長いということから、とんでもない信頼度を持っているんです。おまけに、天狗は昔から他種族を見下す節があるので、人間を見下している者も多いんです。そんな立場の方が人間にやられたので、みんな殺気立ってしまい、反撃に出ないと暴動に発展してしまう可能性がありまして……」

「ちょっと待て。その邪我亜ってやつをぶちのめしたのって、本当に人間なのか?」

「? 私は人だと聞きましたよ。実物を見たわけではないので、わかりませんが……」

 

 文は自信なさげに答えた。

 山頂付近は現在立ち入り禁止なのだから仕方ないだろう。

 範人はしばらく考えると、

 

「……まぁ、大体の事情はわかった。手伝ってやるよ」

 

 そう答えて、不敵な笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます」

「私も協力するわ」

 

 と、今度はレミリアが手を挙げた。

 

「ウチのジェットを連れて行きなさい。大丈夫、強さは私が保証するわ」

「……いいんですか?」

「そんなに警戒することないじゃない」

「いや、でも、吸血鬼相手に取り引きなんて……」

「別に何も請求しないわよ。別に欲しい物なんてないから」

「は、はい……ありがとうございます」

 

 文は半信半疑といった様子で、礼を言った。

 レミリアに欲しい物はないが、欲しいものはある。それは、一人で料理を練習する時間だ。

 幸いなことに、現在ジェイドとフランは人里に遊びに出ており、料理の練習をどうしても見られたくない人に見られる確率は下がっていた。しかし、レミリアにはどうしても見られたくない人がもう一人いる。それがジェットだ。

 ジェットはフランと夫婦に近い関係を築いている。そのため、ジェットに見られたら、フランの耳に情報が入ってしまう可能性が高いのだ。姉としても、それは防ぎたい。姉は、常に妹の一歩先に立ち、そのための努力は知られていないところでしておくものなのだ。

 戦いにジェットを派遣して天狗を助ける。刺激を求めているジェットはストレス解消。助けた天狗には貸しができる。そして、レミリアは一人集中して料理の練習ができる。

 ——我ながら、なんて完璧な作戦……。

 レミリアはニヤリと口角をつり上げた。

 それを見た範人は、

 

「……何か悪いこと考えてないか?」

「いいえ、良いことを考えているわ」

「そうか。料理頑張れよ」

「バレた⁉︎」

「なるほど、一人で料理に集中したいと」

「……計画通り」

 

 レミリアは悪い顔になる。

 

「やっぱ悪いこと考えてるだろ」

「うー☆」

「天狗に貸しができるから」

「うー☆」

「バカなことはするなよ」

「うー☆」

「君の名前は?」

「うー☆」

 

 質問に答えたら、ボロが出そうだったので、全て「うー☆」で乗り切るレミリア。そこにカリスマはなかった。

 

 

 時同じくして、

 

「ほい、お賽銭だ」

「ありがとう。助かるわ」

「ウチの家計を削って金入れてるんだからな。大事に使えよ」

「あんたが稼いだ金じゃないでしょうが」

「家計を預かるのは嫁の仕事だぜ」

「そういうのは結婚してから言いなさい」

「そもそも、家計つけてるの誰だと思っているんだ」

 

 優は魔理沙にジト目を向けた。

 博麗神社にて。

 優と魔理沙、霊夢の3人が話をしていた。

 魔理沙は相変わらず、週2回程の頻度で博麗神社に遊びに来ている。しかし、優が博麗神社を訪れる頻度は2週間に一度くらいにまで減ってしまった。春雪異変の後、優は人里で仕事を見つけ、そこそこ安定した収入を得ることに成功したのだが、仕事のせいで暇が少なくなったのだ。

 それから、優は神社を訪れる度にお賽銭を入れていってくれる。しかし、会う頻度が少なくなったことに、霊夢は寂しさを感じていた。

 

「ねぇ、優。いっそのこと、ウチに婿に来ないかしら?」

「あ、それはお断りだ。俺は、大雑把なところも含めて魔理沙のことが好きだから」

「それは残念ね」

 

 霊夢は寂しげに微笑んだ。

 別に嫌ではない。むしろ、他の男が婿に来るよりも、気心が知れている仲である優が婿に来てくれる方が嬉しい。しかし、優は魔理沙の恋人だ。もしも、優が霊夢の提案を受け入れていたら、ぶん殴っていたと思う。

 腐れ縁とはいえ、魔理沙とは長い付き合いがあるのだ。魔理沙を悲しませるやつは許さない。

 優は期待通りの受け答えをした。それは嬉しいことだったが、同時に自分が眼中にないということだ。少し悲しくもある。

 そんな霊夢の様子を見て、魔理沙はニヤリとする。

 

「どうしたぁ? 優が釣れなくて悲しいか?」

「ええ、そうよ。私でも釣れないなんて……貴女は良い男を見つけたわね。毎日が輝いているんじゃないかしら?」

「おうよ。優がいるおかげで、毎日幸せだ。きのこ以外のものが食えるし、研究に集中することもできるからな」

「家事くらいあんたがやりなさいよ」

「残念ながら、優に止められるんだ。掃除しようとしたら、『余計散らかるから俺がやる』って」

「……優の苦労が思い浮かぶわ」

 

 霊夢は溜息を吐く。

 魔理沙は元々人里の人間だ。しかし、夢を叶えるために家出した。それから、優が現れるまでは一人暮らしをしていたため、家事スキルは決してないわけではない。

 ところが、魔理沙は整理整頓を苦手としている。おかげで、魔理沙の家には本(死ぬまで借りている物を含む)や研究資料が散らかり放題だったのだ。

 優はどんよりとした顔で、

 

「ほんと、アレは酷かったよ……」

「おう、毎度毎度ありがとな」

「少しは反省しろよな」

「片付けの時間よりも、研究や修行の方が大事なんだぜ!」

「こいつは……」

「でも、そういうところも?」

「好きだ」

 

 なんだかんだ言って魔理沙を受け入れ、愛している優のことを、霊夢は「寛大な人」だと思う。同時に、魔理沙と長い付き合いの自分も「良いやつ」なのだと思った。

 と、

 

「おお、ここが博麗神社ですか」

 

 緑髪の少女が石段を登ってきた。

 久しぶりの参拝客だろうか。

 霊夢は期待を抱いた。

 少女は、そんな霊夢の前に歩み寄る。

 

「貴女が、この神社の主ですか?」

「ええ、そうよ」

「そうですか。では、私——いや、私たちからお話があります」

 

 

 緑髪の少女は落ち着いた様子で石段を下っていく。

 優と魔理沙は、それを呆気にとられて見ているしかなかった。

 霊夢は怒りに燃えていた。

 

「魔理沙……優……」

「……おう」「……ん」

 

 魔理沙と優が頷く。

 

「行くわよ。妖怪の山へ」

 

 神社の譲渡。それが、少女の持ちかけてきた話だった。妖怪の山へ最近引っ越してきたばかりだと言う。

 信仰心の少なさに、ただでさえ困っているというのに、そんな話を受け入れることはできない。

 その旨を伝えたところ、少女は博麗神社を鼻で笑った。

 「外の世界ではそこそこ有名で、昔はかなりの信仰があったんですよ」とか二度と聞きたくない。

 信仰心が少ないことを受け入れているとはいえ、博麗神社は自分の家。態度と内容にプッツンしてしまった。

 お札とお祓い棒を持って宙に浮かび上がった霊夢。魔理沙と優も黙って続く。

 目指すは妖怪の山、山頂。

 あの神社の連中、絶対にぶん殴る。




博麗神社と守矢神社。二人の王を巻き込み、幻想と神がぶつかり合う。
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