東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
執筆をやめたわけではないのでご安心ください。
今回はハロウィン特別編となります。即興の話ですが、よろしければどうぞ。
時間軸的には2回目のコラボ終了後、2人が初めてを終えた後です。
ハロウィン特別編
『Trick or treat!』
子供たちの声が響く。
今日はハロウィン。どこから流れ込んだのかはわからないが、この異国の文化は幻想郷にも存在する。日本人は元々お祭り好き。そんな彼らの性質に受け入れられたのだ。
子供たちからすれば、お菓子がもらえる祭日。しかし、大人たちからすれば、そうはいかない。
この日のために、買ったお菓子の分だけ金が飛ぶのだ。美味しいお菓子も大人たちにとっては美味しくなかった。
「チキショー、持ってきやがれ!」
また一つの家が犠牲になった。
近隣の住民は恐怖する。子供たちは可愛い顔をした悪魔なのだ。この日だけは、家からお菓子を掻っ攫っていく悪魔なのだ。
おまけに、子供たちの列の中には本当の意味での悪魔(妖怪や妖精)も混ざったりしているため、あまり逆らえないのである。
人里を回り終える頃。戦利品を抱えたチルノが口を開いた。
「ねぇ、大ちゃん。橙がいないけど、どこ行ったか知ってる?」
「橙ちゃんなら、範人さんの家に行くって言ってたよ。範人さんがハロウィンパーティーを開いているんだって。」
「パーティー……楽しそうなのだ〜。」
大妖精の言葉にルーミアが羨ましそうに言う。
実際、かなり大食いな彼女からすれば、羨ましいのである。流石に、白玉楼の主に比べれば、まだ可愛い食いっぷりなのだが……
ルーミアの顔を見たチルノが何かを思いついたように手を叩く。
「そうだ。アタイたちも行っちゃえばいいんだよ。」
「でも、迷惑なんじゃ……」
「大丈夫だよ!」
「え?」
チルノは自信有り気に言う。彼女の言葉に大妖精は驚きの声を上げた。周りの子供たちが見つめる中で、チルノは自信たっぷりに、フフフと笑う。
「それは……どうしてだ?」
「それは……」
チルノの答えを待つ子供たちはゴクリと唾を飲み込む。しかし、その答えはあまりにも呆気ないものだった。
「範人だからだよ!」
『なんだそりゃ!』
チルノのあまりにも単純な答えに、子供たちは誰に命令されたわけでもなく、一斉に片手を上げてツッコミを入れた。
子供たちも範人がどれほど優しいか、わかっていないわけではない。しかし、流石に飛び入り参加はどうかと思っている。
「さぁ、そうと決まったら行こう、行こー!」
チルノは範人の研究所に向かう。他の子供たちは躊躇いながらも、やれやれと彼女に着いて行く。
勢いのあるバカは先導者に最も向いているのかもしれない。チルノよりも賢い子供たちは全員がそう思った。
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ゴートレック生物研究所。
範人と妖夢はキッチンでお菓子作りに勤しんでいた。キッチンにはクッキーの焼ける香ばしい匂い、チョコレートの甘い香りなど、スイーツ店顔負けの香りが漂っている。
今日はハロウィンと言うこともあり、アメリカ育ちの範人はこういったイベントに対して、全力投球である。
既に来る者は決まっているが、結局は追加で誰か来るのだろう。最早、それがイベントの常識だと、範人は幻想郷ルールに染まってきていた。作るお菓子は追加分も考えて、確定している者たちの分の3倍ほどである。
そんな時、玄関のドアがノックされる。範人は手を拭きながら玄関に向かい、ドアを開ける。そこにいたのは、魔理沙と優だった。魔理沙は普段通りの格好だが、優は異なるところがあった。彼には普段の服に加えて、猫耳と尻尾が着いている。
「あれ?それはコスプレか?」
「う、うん。コスプレだけど…「違うぜ!」ちょ、ちょっと魔理沙⁉︎」
「これを見てみろ!私の薬の結果だぜ!」
魔理沙は優の上着を下着ごと捲り上げる。すると、優の服の下から、控えめなものの膨らんだ胸が現れた。どうやら女体化させられてしまったらしい。範人は手を顔の前にかざして、ソレが見えないようにする。
羞恥に耐えられず顔を真っ赤にして暴れる優の尻尾を魔理沙が掴むと、彼は一瞬で脱力した。魔理沙は満足気な表情で範人に顔を向けるが、彼は苦笑いで返した。
羞恥からションボリとしている優を見た範人は空気を切り替えるべく、2人を別館に送る。
「さて、ケモッ娘のチッパイなんぞにとらわれず、お菓子作りだ!(さっさと切換えろよ、俺。今のは不可効力だ……)」
範人は自身に喝を入れ、キッチンに戻った。
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「「できたー!」」
キッチンに男女の声が響く。範人と妖夢の眼前にある机の上には大量のお菓子が個別に包装されて、並べられている。種類は様々。その中には酒を使ったものもあり、酒豪が揃う幻想郷でも人気が出そうだ。
2人はやり切った表情をしている。しかし、工程はまだ終わりではない。これら大量のお菓子を会場まで運ぶ必要があるのだ。形を崩さずに……
「範人、これ…どうやって運びましょう……」
「まぁ、頑張って普通に運ぶしかないな。
優があんなだし……」
耳をすませると「ニャァァァア♀」と言う優の叫び声が聞こえてくる。おそらく、尻尾でも愛撫でされているのだろう。
神経が集中し、敏感な尻尾は感じやすい部分。生物学者である範人にはそれがわかっているのだが、尻尾を性感帯だと決め付けたヤツはどこのどいつだ?と疑問が隠せない。
「ひとまず、スキマ倉庫を上手く使って運ぼうか。」
「はい。」
範人はスキマの封力石を取り出し、スキマを開いた。その中にお菓子を丁寧に並べていく。幸いにも、お菓子は種類ごとに分けてあったため、スキマに移すことで混ざることも、変な風にぶつかりあって形が崩れることもなかった。範人と妖夢はホッと一息吐き、別館に移動した。
別館にはとろけた表情の優が居たが、2人はその原因についてあまり考えることなく、黙々とお菓子を並べていく。
数分後に並べ終わったとき、机の上では丁寧に並べられたお菓子たちが証明の光を受けて輝いていた。2人は満足したように顔を見合わせて笑い会う。
「じゃあ、俺は着替えてくるから。みんなが仮装しているんだから、俺もしないとな。
……覗くなよ?」
「大丈夫です。もちろん、見に行きますから。」
「おいおい……」
範人は自室に向かう。妖夢もその後についていくが、範人は粒子化してダクトに逃げ込み、一瞬で自室に辿り着いた。粒子化した状態で用意していた包帯に身体を通せば、アッと言う間にミイラコスチュームである。
妖夢が部屋の扉を開けたときには既に範人が着替え終わった後だったが、範人は筋肉を体内に圧縮して隠すことを忘れていたため、一番恥ずかしいマッチョ体型を見られることとなってしまった。
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ハロウィンパーティー開始5分前。
会場には紅魔館の住人や永遠亭の住人など、多くの者が集まっていた。範人の予想通り、魔理沙が広めたであろう情報で、参加者がドッと増えたのだ。
当の魔理沙は優の猫耳を触りながら、パーティーの開始を今か今かと待っている。一方の優はいじられることに快感を覚えてしまったらしく、気持ち良さそうに喉をゴロゴロと鳴らしている。
しかし、多くの参加者がいるにもかかわらず、その会場にはまだ主役が居ない。ハロウィンを楽しんでいる者たちがまだ居ないのだ。
「俺の見立てではそろそろ来る頃なんだが……」
範人が心配をしていると、不意に玄関のドアがノックされた。範人は全身を粒子化させて高速で移動。客を対して待たせることなく、ドアを開けた。
『Trick or treat!』
子供たちの口から、同じ言葉が同時に飛び出す。範人はその言葉を聞いて笑顔を返し、彼らを別館に招き入れた。
子供たちが会場に入った瞬間、パーティーが始まった。
チルノは相変わらず生意気、ルーミアは大食い、大妖精は控えめ。しかし、今日はそれでも構わない。今日と言う日を楽しむ者は…主役は
その日、子供でないにもかかわらず、幽々子が子供たちの中に混ざってお菓子をせがんでいたのは記憶に新しいだろう。
『Happy Halloween……』