東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
ミッションは思ったよりも早く終わった。だが、今回のミッションはとてもハードだった。まさか、タイラント10体を同時に相手するなんて思っていなかった。しかも、潜入した研究所で改良された新型だったため、従来のタイラントと比べて非常に強かった。
「疲れたー。」
俺は家の扉を開ける。かなり汗をかいたため、シャワーを浴びようと風呂場に入る。服を脱ぎ、シャワーのバルブをひねるとぬるいお湯が出始めた。五月とはいえ、まだ寒いためこのくらいがちょうどいい。
「ふぃー、さっぱりした。」
「あら、帰ったの?」
「そうだよ……ふおぉ⁉︎」
シャワーを浴びていると、背後から姉さんが上半身だけをスキマから覗かせる。俺は現在、素っ裸。これが恥ずかしくないわけがない。思わず叫んでしまった。
「すぐに上がるから出てってくれ!」
「あら、悲しいわ。昔はいっしょにお風呂入ったのに……」
「それを言わないでくれよ。頼むから出てって。」
「はいはい。」
姉さんが出ていってから、顔を赤くする。今となっては、昔のことを思い出すと恥ずかしくなる。しかも、姉さんの見た目がずっと変わっていないから余計に恥ずかしい。
今も身体とか考え方とかあの頃のまんまだからなぁ。妖怪ってすごいよな。そういえば、どこで待っているか聞いてないな。
俺は身体を拭き、下着とジーンズをはいた。そして、胸に包帯を巻いてから姉さんが待っているであろうリビングに向かった。
リビングでは予想通りに姉さんが待っていた。
「で、何?」
「貴方は最近の気候についてどう思う?」
「異常だな。」
異常。それが俺の率直な意見である。過去に雪が四月下旬まで降っていたことがあると聞いたことがあるため、今回も春が遅いだけだと思っていた。だが、五月まで雪が降っているのはさすがに異常だ。ここは大した高地であるわけではないため、雪が降り続けるのは絶対におかしい。
「そう、異常なの。そして、私はその原因を知っている。」
「本当か?どんな原因だ?」
「幽々子……いや、西行妖ね。」
「西行妖……だと⁉︎」
西行妖。まだ、向こうの世界にいた頃に姉さんから聞いた桜の木の名前だ。人々を死に誘う力を持ち、多くの人々を殺した。
あるときに1人の女性の命によって封印されたと聞いたが……まさか、復活させようとしているのだろうか?しかも、その女性は俺の知っている人物である。その人の死を無駄にするわけにはいかない。
「まさか、復活か?」
「違うの、まだ復活はしていないの……けど……」
「けど?」
「幽々子が復活させようとしているの!西行妖と自分にどんな関係があるのかも知らずに……お願い!彼女を止めて!お願いだから……」
「姉さん……」
姉さんは俺に泣きながら抱きついてきた。姉さんは震えている。
こんなに弱そうな姉さんは始めて見た。少しでも力を込めれば、壊れてしまいそうだ。……いや、今なら常人の力でもきっと砕けてしまうほどに心は脆くなっているだろう。
何かを失う。姉さんは長く生きている分、その辛さをたくさん知っている。俺は姉さんにこれ以上その辛さを覚えてもらいたくない。
俺は優しく抱きしめ返す。
「大丈夫、必ず助ける。」
「……いいの?」
「当たり前だ。頼みを聞いてくれるとわかっていたから俺に言ったんだろ?」
「わかっているじゃない。」
まあ、本当はそれだけじゃない。俺の個人的な理由もだいぶ含まれている。幽々子は友達で妖夢の保護者だ。存在してもらわなきゃ困る。
「行くぞ!」
「まずは博麗神社に行くわよ。」
「なんでだ?」
俺は疑問に思った。博麗神社に何の用事があるというのだろうか?こういうときは元凶を叩くのが一番ではないのだろうか?
「霊夢がまだ出動していないのよ。」
「ああ、なるほど。」
「じゃあ、行くわよ。」
俺の足元にスキマが開く。スキマの中に落ちていく中で俺はどうでもいいかもしれないが俺にとっては大切なことに気づいた。
ヤベェ!俺の服装って今の上半身は包帯だけじゃないか!俺って露出狂じゃないよな?
俺は博麗神社の裏口に落ちた。すぐに障子を開ける。霊夢は炬燵に入ってダラけていた。
「霊夢、異変解決に行くぞ!」
「え⁉︎何⁉︎範人⁉︎」
霊夢は俺を見て驚いた表情を見せた。
当たり前だろう。俺の今の服装、上半身はほとんど裸に近い状態なのだ。しかも、外には雪が降り積もっている。これを見て驚かないはずがない。
だが、今大切なのは時間だ。今、一秒が過ぎる間に幽々子が手遅れになってしまうのかもしれないのだ。俺の服装なんて気にしている場合じゃない。
「面倒よ。私は行く気ないわ。それよりも何、その格好?変態なの?」
「服装については気にしないでくれ。それよりも異変解決に行くぞ!」
「行かないって言ってるでしょ。」
そんなことはわかっている。人間は面倒なことを嫌い、やりたくないことは基本的にしようとしない。だが、それでは困るのだ。今は霊夢の力が必要なのだ。
「頼む!この通りだ!」
「私からも頼むわ。」
俺が霊夢に頭を下げると、姉さんもやって来て頭を下げた。プライドの高い姉さんかそこまでするのだ。幽々子という大切な友達を失わせるわけには尚更いかない。
「……はぁ、仕方ないわね。わかったわ。」
「ありがとう、霊夢〜!」
「ちょ、紫、離れなさいよ。」
姉さんが霊夢に抱きつく。霊夢は迷惑そうに引き離そうとする。俺は苦笑いするしかなかった。ひとまず、霊夢の協力を得ることはできそうである。霊夢が助けてくれという目でこちらを見てきたため、姉さんを引き剥がした。
「紫も頭を下げるなんてことがあるのね。」
「私だってそういうことするわよ!私をなんだと思っているの?」
「胡散臭いスキマ妖怪。」
「そんなのひどいわ。ゆかりん悲しい……」
霊夢の言葉に落ち込む姉さん。助け舟を出してやろうと思ったが、胡散臭いというのは否定できないためやめた。霊夢は姉さんを無視して進める。
「じゃあ、すぐ行くわよ。面倒くさいけど……」
「ありがとう。」
「仕方ないわ。まさか、紫が頭を下げるなんて思っていなかったもの。あそこまでされたら私も行動するしかないからね。」
俺は封力石を使ってスキマを開き、霊夢といっしょに白玉楼へ移動した。
白玉楼に落ちた。すぐ近くには春度を吸収する西行妖が見えた。その木は美しくも禍々しいオーラを放っていた。花はまだ咲いていない。俺は霊夢に指示を出す。
「霊夢は幽々子のほうに行ってくれ。できればあの桜の封印もしてもらいたい。俺は妖夢の相手をしてくる。」
「わかったわ。」
「気をつけろよ。今の幽々子はきっと化け物だ。」
「貴方がそう言うなんてよっぽどの化け物なのね。わかったわ、気をつける。」
俺と霊夢は別行動を開始した。俺は妖夢がいるであろう階段の踊り場へ向かった。
階段を降りていて、目に入ったものは魔理沙に斬りかかる妖夢の姿だった。助けるために身体が動く。本来なら、光の粒子に自分の粒子化させた身体を乗せて光速で移動できるが、冥界は暗すぎるためうまくいかない。だから、優に向かって叫ぶ。
「優!」
優がチラッとこちらを見て手をかざした。俺の身体の位置は魔理沙と入れ換わり、俺は刀を剣で受け止めた。その場にいた者は俺以外全員が驚いた表情を浮かべている。
「遅くなって悪かったな。」
「え⁉︎」
「なんで……3時までのはずだったのに……」
『範人!』
みんなは俺の存在を忘れていなかったようだが、さすがに来るとは思っていなかったらしい。俺にはそれが滑稽に見えて鼻で笑ってしまった。
今日のゲストは栗里さんです。
「幻想郷よ。範人は帰ってきた〜!」
今回は範人が帰ってきた直後からのスタートでした。
「主人公ってタイミングが良すぎないか?」
確かにそうですが、そうじゃないと主人公が務まりませんからね。主人公の特権みたいなものです。偶然に偶然が重なったと思った方が楽になれます。
「存山が少女といっしょにいるの見ちまったぞ!これはどういうことだ?」
……栗里さん。飯でも食べに行きましょう。
「うぅ…グスッ……そうだな。」
『ではまた、次回お会いしましょう。』