東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
幽々子の背中には死が翼のような形で現れている。優にはその姿が天からの使いに見えた。
(ハハハ……俺は死ぬのか。初めて…いや……これで二度なのかな?……難波 優が死ぬのは……
※※※
俺は誰かの墓の前にいた。隣には父親の姿がある。
「ねぇ、お父さん。」
「なんだ?」
「このお墓は誰のお墓なの?」
俺が訊ねると、父親は悲しそうに俯いてから、躊躇いがちに話し始めた。
「難波 優だよ。」
「でも、僕はここに……」
「優のお兄ちゃんの名前だよ。優が生まれる少し前にお兄ちゃんは病気にかかって死んじゃったんだ……」
※※※
なんで……今さら、こんなことを思い出すんだろう?俺はここにいて、あの『難波 優』は別人で、俺は俺という『難波 優』だっていうのに……あいつはもう死んでいるのに……)
優は周りを見る。魔理沙がこちらを見ている……いや、魔理沙だけではない。みんながこちらを見てくれている。全員の表情は恐怖ではなく、心配だった。
(やめろ!なんで、自分の心配をしないんだ!俺はあいつのせいで…あいつが俺の中にいるから……人為的には死なないんだぞ⁉︎自分の心配をしてくれよ!俺よりも自分を守ってくれよ!)
「優……大丈夫か?」
優は心の乱れから息が切れ、荒い呼吸をしていた。魔理沙が声をかけたことにより、多少は楽になったが、まだ辛い。心の中には自分の弱さに対する怒りと憎しみが渦を巻いていた。自然と涙が溢れてくる。
(クソッ……俺が強ければ、守れるのに…俺が弱くなければ、みんなと生きれるのに……)
優は心の中で叫び、地面を殴った。地面がそんな感情を優しく受け止めてくれるはずもなく、そのまま返してくる。優の手には血が滲んだ。それでも、優は止めることなく地面を殴り続けた。何者かの手が優の腕を掴み、自傷行為を止めさせた。
「優……やめてくれ。もう自分を傷つけないでくれ。」
「魔理沙……」
その時、優は気づいた。恐怖でも、怒りでもない。それはみんなからの思い…そして、自身の思いだった。
(俺は何をしていたんだ。みんな…自分のことを思っていたんじゃないか……俺を心配していたと思ったのは、ただの俺の自己満足だったよ。俺は……結局、自分が一番だったんだな。みんなが死ねば、俺が悲しいから……みんながいないと、俺の逃げ場がなくなるから……)
その時、優の心に声が響いた。その声は霊夢でも、魔理沙でもない。しかし、その声はいつも聞いている声だった。それなのに珍しくて、久しぶりに聞く感じがした。
(そんなに、強くなりたいか?)
(当たり前だ!強くなりたい!強くなって、みんなと生きたい!)
(そうか……わかった。お前に力を貸してやる。)
瞬間、優の意識が遠のく。いや、裏返ると言った方がいいだろうか?優の意識は板が裏返るように暗くなっていく。その意識の中で優はどうにか訊ねる。
(……お前は誰だ?)
(俺は…難波 優だ!)
(そうか、久しぶり……バトンタッチだ。頼むよ、兄ちゃん……)
(おう、任せとけ!)
優は裏返る意識の中でつぶやく。
「マインドチェンジ……」
その瞬間、優の意識は完全に裏となり、兄の意識が表に現れた。優は何かが吹っ切れたように立ち上がる。
「ハハハ、まずは幽々子を倒さないとな!」
「お、おい、優……大丈夫なのか?さっきと随分雰囲気が変わったけど……」
魔理沙たちは突然雰囲気の変わった優に驚き、動揺してしまう。優はそれを見て、納得したような表情をする。
「そうか…お前たちは俺に会うのは初めてだったな。俺は難波 優!お前たちのよく知っている難波 優の兄貴だ!」
『えぇ⁉︎』
「まぁ、驚くのは当然なんだけどな。まずは力貸してくれよ!あの死を追い払わないといけない。」
魔理沙たちは未だに動揺を隠せないが、それでも、幽々子を倒すことが先決だと考えて、優に従うことにする。彼らには、幻想郷…いや、世界の命運がかかっていると考えても過言ではないのだ。
「でも、何をすればいい?」
「俺に攻撃をぶつけまくってくれ。」
『はぁ⁉︎』
こんなところを側から見れば、優はドMだと勘違いされてしまうだろう。だが、優は本気である。優の目は魔理沙たちを見つめる。その目には決意と希望の炎が燃え盛っていた。
「俺の能力は『鉄壁剛神を宿す程度の能力』だ。耐久は異常にある。だから、俺にありったけの攻撃をぶつけてくれ。その後は、弟の能力を使って、幽々子にダメージを打ち込む!」
「でも……」
「今はこれしか方法がねぇーんだ!早くしろ!」
優は怒鳴って、魔理沙たちを無理矢理納得させる。謝ることは後でいくらでもできるが今は時間がない。魔理沙たちは優の提案を受け入れて、それぞれ得物を構える。
「いくぜ!
恋符『マスタースパーク』」
「耐えてください。
メイド秘技『殺人ドール』」
「ウオォォー!
巨神『星砕きの鉄槌』」
「任せるわよ!
霊符『夢想封印』」
それぞれの最大クラスの技が優に炸裂する。優の身体はボロボロになり、切り傷、打撲、火傷、全身から大量の出血といった見るも無残な重傷の状態になる。しかし、能力のおかげか、優はその場に直立したままだ。地上を歩く、走るは辛そうだが、空を飛べばどうにでもなる。
「じゃあ、行ってくる。」
死はゆっくりとした動きながらもすぐ目の前にまで迫ってきていた。優は幽々子を目指し、躊躇うことなくそこへ突っ込んだ。全身が焼け焦げるような感覚がして、痛みが走る。しかし、止まることなく飛び続ける。世界の命運がその肩にかかっているのだ。優が止まることは決してない。
死の中ではだんだんと光が薄れ、漆黒の世界になる。しかし、幽々子がいるのはその中心。優は暗さを頼りに幽々子に向けてまっすぐ飛び、ついに中心部へたどり着いた。
「ウアァァー!」
「そんな怖い声で鳴かないでくれよ。興奮しちまうだろ?」
優はジョークを言いながら、幽々子に近づく。そして、スペルカードを詠唱する。
「全反射『不平等なる天秤』」
優は幽々子の頰に手を触れ、自分の受けたダメージを余すことなく全て幽々子に流し込んだ。それは周りにある死も同様である。死は優の中に入り込んでは幽々子の中へダメージとして受け渡されていく。
いくら死なないからと言っても、死ぬレベルのダメージは相当なものである。幽々子はあまりの苦痛に叫ぶ。
「キャアァー!」
「いい声で鳴けるじゃねぇか。幽々子さんよ!」
全てのダメージが幽々子に受け渡された瞬間、幽々子の身体は地面に落ちた。
優は笑顔で魔理沙たちの方に歩いていくが、時折表情を歪ませることから、その笑顔の下には苦痛が潜んでいることがよくわかった。身体のダメージは受け渡せても心のダメージは受け渡せないようだ。
魔理沙は優に駆け寄って抱きつく。抱きつかれた優は苦笑する。
「おいおい、そういうのは弟にやってくれよ。」
「は⁉︎しまった、つい……」
「まぁ、いいか。俺も悪い気分じゃないし、これは弟の身体だし。」
「じゃあ、優との関係について話してもらおうか。」
「そうだな……あれは今から17年前だったな。俺は生まれつき身体ばかりは丈夫で怪我はしないくせに病弱だったらしい。そして、弟が生まれる2ヶ月前に病気で死んじまった。でも、魂は両親の元に残り続けたんだ。そんなときに弟が生まれた。俺は生まれたばかりの弟に手を伸ばしたんだが、それがマズかった。俺の魂は弟の身体に取り込まれちまったんだ。そして、弟とは1年に一度くらいの頻度で意思疎通をしながら存在してきて今に至るってわけだ。」
優は一気に話し切る。彼自身もっと話したいのだが、弟の身体を借りているため、早くチェンジしないと弟に申し訳ないのだ。
「ほう……そういうことだったのか。じゃあ、これからよろしくな!」
魔理沙は優に手を伸ばすが、優はその手を取ろうとしない。その表情はどこか悲しげで目はどこか遠くを見つめているようだ。まるで抜け殻のようである。
「どうした?抜け殻みたいだぜ。」
「ハハハ、抜け殻か……あながち間違いじゃないな。俺にはもう時間がない。」
「どういうことだ?」
「最初からそういう契約だったんだ。俺は優が18才を超える前に消えなきゃならない。俺は死人だからな。」
そう言う優の表情からは耐えきれないほどの悲しみが読み取れる。拳を強く握りしめ、身体は震えていた。溢れ落ちる涙が地面を濡らしている。
「だから、ここでよろしくなんて言ってはいけないんだ。出会ってすぐにさよならなんて悲しすぎるだろ?」
「でもよ……せっかく会えたんだから……」
「出会いがあるから別れの悲しみがある。それなら、会わなかったことにした方が良い。
……弟が良い彼女を見つけれてよかった。これで安心して成仏できる。じゃあな、さようならだ。
……魔理沙、弟を頼んだぞ。」
「優……ありがとう。」
優が魔理沙の肩を叩く。その瞬間、優(弟)の意識が表に現れ、優の身体から光が飛び出した。ここは冥界、地上よりは確実に成仏できるだろう。光は魔理沙たちの上を少しの時間だけ漂ってから、冥界の暗闇の奥へ消えていった。
「兄ちゃん……」
優は光の消えた方を見て呟いた。自身に死なない呪いを与えていたとしても、やはり兄の存在は大切なものだったのだ。しかし、今度は泣かなかった。優の中には兄の遺していったものがある。これ以上何かを求めることは彼にはできなかった。
「私たち勝ったんだよな?」
「ああ、きっとな。」
『……ヨッシャァァー!』
優がそう答えると、その場の全員が喜びのあまりに叫んだ。勝った、異変を解決した、という実感が湧く。
しかし、彼らは気づいていなかった。西行妖はまだ封印されていなかったことに……倒れた幽々子から噴き出た死が西行妖に吸収されていたことに……
墨染の桜が花開く。
今回、ゲストはおりません。
というわけで、優は2つの魂が1つの身体に宿るという状態で生活をしていました。小説スタート後しばらくはこの設定は思いついていませんでしたが、最近になって思いつき、使ってみようと思ったわけです。
優の能力が増えて2つになりました。新能力『鉄壁剛神を操る程度の能力』は、簡単に言うと圧倒的な防御力と耐久力です。ラスボス並みのHPを持ったメタル系モンスターと考えてもらうと良いと思います。
次は範人の絵です。今回は珍しく色を塗ってみました。
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いやー、相変わらず下手ですね。この後書きを書きながら優の絵を描いているのですが、すごい差です。
優の絵はオールシャーペンかな?髪の色は黒ですので。
背景?気にするな!
ではまた、次回お会いしましょう。