東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
既に目覚めてしまっていた西行妖を前に範人と妖夢は立ち止まる。別に封印云々関係なく叩き斬ってしまってもいいのだが、それでは木自体があまりにもかわいそうなため、死を撒き散らす邪なる存在だけを消そうと考えたのだ。
弱点を探す範人たちは西行妖に近づこうとするが、西行妖は枝を振るって近づくことを許さない。範人たちは縦横に攻撃をかわす。避けに徹する中でも、目だけは弱点を探して忙しく動き続ける。
ふと、範人が地面に目を向けたとき、赤い何かが視界の端をかすめた。範人がその方向を注意して見ると真っ赤な中に下地と思われる青色があることに気づく。そして、驚いた。倒れていたものは幽々子で真っ赤な色は血によるものだったのだ。範人は急いで救出に向かうが注意を逸らしたのがまずかった。
西行妖の巨大な枝が範人に迫り、その手足を拘束する。そのまま引っ張り、範人の手足が捥げた。範人は痛みに顔をしかめるが、捥げた手足は捨てて手足を再生させる。すぐに幽々子を脇に抱えて西行妖から距離を取った。
「フゥ〜♪クレイジーなまでの殺気だなぁ。妖夢、一旦幽々子を安全な場所まで運ぶぞ。」
「わかりました。作戦もそこで話し合いましょう。」
範人と妖夢は西行妖に背を向け、その場を立ち去った。
範人と妖夢は白玉楼の中に駆け込んだ。西行妖自体は動けないようだが、枝はかなり伸びることができるようで2人のすぐ後ろまで迫っていた。扉を閉め、奥の部屋に逃げ込み幽々子を床に寝かせて初めて安心できる。
「おい、範人、妖夢……」
そのとき、隣の部屋から2人にとって聞き覚えのある声がした。2人が不思議に思ってそちらを見ると、魔理沙たちが襖を開けて範人たちを見ている。気絶している幽々子を除き、その場の全員が安心してホッと息を吐く。
「お前たち、無事だったのか。」
「ああ、なんとかな。生きているって素晴らしい。」
友の心配をしていた範人は優の言葉に安堵する。死というものはどこにでも転がっている石ころのようなものだ。もちろん、突然の死も悲しいが、原因が明確にわかった状態での死ほど悲しい死はない。
「範人、あれは一体なんだ?」
「ああ、あの妖樹は簡単に言うと幽々子の棺桶だ。」
「はあ⁉︎棺桶⁉︎」
範人の返しに魔理沙はとても驚いた様子だ。他の4人も少し驚いた表情を見せるが、薄々感づいてはいたらしい。特に霊夢は霊力を感じていたことから、もともと気づいていた。
「幽々子の遺体が木の下に埋まっているんでしょ?」
「そういうことだ。」
「なんだ。びっくりしたぜ。」
「ところで妖夢、アレの準備はできているか?」
「アレですか……今も気を高めているところです。だいたい、あと5分くらいかかると思います。」
『アレ』の意味がわからず、霊夢たちはポカンとした表情を浮かべるが、妖夢は理解したようで気を高め続ける。
「わかった。じゃあ、ここで作戦を説明する。作戦は……
……といった感じだ。この作戦では妖夢が最も重要な役割を持っているが、他の全員も重要だ。妖夢の技が決まれば、間違いなく勝てる。行くぞ!」
5分後、作戦の説明が終わり、妖夢の気も十分に高まった。彼らは幽々子をその場に残し、西行妖を倒しに向かった。
「準備はいいな?」
「ああ、バッチリだぜ!」
魔理沙が答え、全員が西行妖から30m程の位置についた瞬間、範人は全身を第一に変異させて地面を蹴った。あまりの脚力に地面は爆発するように吹き飛ぶ。足の裏から炎を噴き出し加速する。西行妖は範人を殺そうと枝を動かしたが、範人は枝が行く手を塞ぐ前に通過して真っ直ぐ飛ぶ。
範人は西行妖の幹に突撃した。漆黒の獣は樹皮を砕き、繊維を割いて幹の中に突入。そして、幹の中心に辿り着くと同時に全身から炎を噴き出した。西行妖の幹が破裂してしまいそうなほどに膨らむ。範人が幹の反対側から飛び出したとき、木に火が広がった。
生木と言っても、燃えないことはない。西行妖は苦しそうに枝を震わせて消火する。
「投げ辛いわね、これ!」
その隙をついて咲夜がナイフを投げた。その柄には博麗のお札がくくりつけてある。何十本ものナイフが西行妖の幹に突き刺さった。
ダメージがほとんどないとは言え、身体に何かが突き刺さっているというのは快くない。西行妖は身体を震わせて振り払おうとするが、深々と突き刺さったナイフは抜けない。怒り狂った西行妖は咲夜に枝を伸ばした。
「やらせねぇよ!」
範人が枝にドロップキックをし、それを阻止した。枝は砕け飛び、燃え尽きた。その背後では魔理沙がミニ八卦炉を構えていた。
「行くぜ!
光符『ライトロード』」
ミニ八卦炉からチューブのように穴の開いたレーザーが発射される。阻止しようとした枝は折れて飛んでいった。それが西行妖の幹に当たる寸前で変化が起きた。お札が輝き、レーザーを吸収し始める。光の輪が固定され、道ができ上がる。
「妖夢さん、行きますよ。」
「はい、思いきりお願いします。」
「任せてください。ウオォォォー!」
デューレスが妖夢を光の輪の中に全力で投げ込む。妖夢が猛スピードで輪に突入すると同時に優がスペルカードを詠唱する。
「反符『リフレクションスペース』」
ライトロードの内側に重力の壁が形成される。さらに、等間隔で特殊な重力空間も形成された。妖夢は重力の壁で軌道を安定、スピードを加速させながら西行妖に近づく。そして、音すらも遅れてしまいそうなスピードで西行妖に突撃した。
「滅断剣『絶界』!!!」
妖夢は断迷剣を横薙ぎに振り抜いた。刀は木を傷つけることなく西行妖の魂だけを斬る。それも、死を求める悪しき部分だけを斬った。
西行妖は苦しげに枝を伸ばすと、元のように沈黙した。
「……勝ったのでしょうか?」
「ああ、多分勝ったと思うぜ。」
妖夢と魔理沙はそんなことを話しているが、範人と霊夢は浮かない顔をしていた。霊夢はひとまず西行妖にお札を貼って封印を施した。西行妖の中の悪しきものは消え去っていたが、一応のためである。
「これで大丈夫かしら?」
「わからないな。霊夢が封印した本体は間違いなく大丈夫だと思うが……」
範人は最も活躍したであろう妖夢の方をチラリと見た。妖夢はその視線に気づき、範人の方へ行く。
「範人ー、私やりましたよ〜。」
「ああ、よくやったな。」
範人は抱きついてきた妖夢を優しく受け止めて、頭を撫でる。周りの者はそれをジト目で見るが、妖夢はそれを気にすることなく範人のたくましい身体に自身の身体を押し付けた。
(許さない許さない許さない許さない許さない……
私を斬ったあの女は許さない。せめて、あの女……あの女だけは殺してやる。)
そのとき、妖夢の背後に落ちている西行妖の枝が肥大化し、妖夢に向かって猛スピードで伸びた。周りの者たちは範人たちを見ているせいでそれに気づいていない。背を向けている妖夢は尚更だ。妖夢の背後に視線を向けていた範人だけがそれに気づいた。
範人は避けようと妖夢を持ち上げようとした。しかし、先程の戦いで体力を消耗し過ぎたせいで持ち上げられない。仕方がないため範人は妖夢を横に投げた。
「突然何をするんですか!?」
妖夢は地面で数回バウンドし、必死で受け身を取った。動きが止まったときに顔を上げると腹部を西行妖の枝に貫かれ、口から血を吐き出す範人がいた。
(チッ…しくじったか……まぁいい、こいつは使える。)
範人は力を振り絞り、西行妖の枝を無理やり引き抜く。傷口から鮮血と内臓が溢れ出て、地面に広がった。その場にいた全員はその光景に目を瞑り、口を押さえた。
通常、こういった怪我をしたときは刺さったものを抜くと出血してかえって危険なのだが、範人はそんなことはお構いなしにすぐに引き抜いた。それにはしっかりと理由があり……
「があぁァ!」
「範人⁉︎」
範人は突然、叫び声を上げて、苦しみ始める。妖夢たちは範人に近づこうとしたが、霊夢が片手でそれを制止した。枝が貫通したときですら、声ひとつ上げなかったにも関わらず、今は苦しんでいる。
「何で止めるんですか!?」
「あれよ。」
「……!…あれって……」
霊夢は範人を指差す。妖夢たちが範人を見ると範人の全身から幽々子と同じような不気味で黒いオーラが噴き出ていた。
今日はダブルスパイダーです。
「ん?どっかで聞いたものに似ている気が……」
「きっと、気のせいだよ。」
「……ああ、うん。そうするよ。
それにしても、西行妖とはほとんど戦ってなかったね。」
そうですね。普通に戦わせると範人が第一の火力でゴリ押しすることになりそうだったのでやめました。Power is all
なんて言いながら戦うウチの主人公なんて見たくないですからね。
「確かにそうね。範人の特徴は圧倒的火力と再生力だもんね。」
「そうだね。でも、ラストでヤバいことになっていたけど……」
ああ、あれはですね……
「暴走ね。」
言われちゃいましたよ。まぁ、いいでしょう。その通り!あれは暴走です。さて、範人をどう料理してやろうかな?
「とか言って、もう決めてあるんでしょ?」
あ、バレてましたか。
「そりゃそうだ。作者、結構先のことまで展開考えてあるもん。」
あちゃー、それもバレてましたか〜。まぁ、大雑把なものですけどね。
「……ところで、俺の出番は?」
もうすぐですよ。現在、絵を描いているところです。イメージは忍者ですね。残念ながら、小説は次話すらも出来上がっていない状態ですけど……
「よっしゃ、ありがとう。」
いえいえ、実はこんな後書きを考えることが小説を投稿する直前の楽しみだったりするんですよ。
次回で本編の2章はラストになると思います。この話数で2章って……何話まで行くんでしょう?
活動報告でB.O.W.の名前を募集中ですが、こちらも2章終了で締め切りです。案がある方はお急ぎください。
『ではまた、次回お会いしましょう。』