東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
1993年、アメリカ某所、ゴートレック生物研究所。
「ハハハ♪」
「待ちやがれ!」
資材置き場に幼い男の子二人の声が響く。ハント・ゴートレックとその双子の兄レイジ。ハントの髪型は腰まで届く金髪。レイジの髪型は肩までギリギリ届かない金髪。
ハントは全力で走り、レイジがそれを追いかける。二人だけの能力禁止鬼ごっこはレイジが鬼だ。
この場所は二人の遊び場。父親のアルバレストはこの場所を危険だと言っているが二人の息子が可愛いため注意できず放置している。そんな彼は今、サイボーグ化した一歳の息子の相手で手が放せない。
「確保だ。交代して十秒したら再会な。」
「ちぇっ、捕まっちゃった。」
ハントが捕まり、鬼が交代する。十秒後にまた再開、ハントはレイジを追いかける。
「待ってよ、兄さん。」
「待てと言われて待つ逃走者はいなーい♪」
レイジは猛スピードで走る。三歳児にしてはとても速い。いや、人としてもだろうか。そのおかげでハントが鬼になるといつもハントが鬼のままで遊びが終わってしまう。しかし、今日の彼には秘策があった。
(あそこに隠れれば……。)
レイジはハントが視界の中にいないときにある決まった場所を決まったルートで通る。ハントはそのルートを記憶したのだ。曲がり角に隠れて待ち伏せる作戦をたてた。
ハントが隠れてすぐにレイジがやって来た。逃げられる可能性があるため、できるだけ引きつけてから捕まえる。
パシッ
「よっしゃあ、hunting成功だ。」
「な……、初めて確保されたぜ。今度は俺が鬼な。」
二人だけの鬼ごっこは日が暮れるまで続いた。
今日もまた二人は鬼ごっこをしている。しかし、今日は研究することが一時的になくなっているため、研究員のカノン・ウェスカーが監視を行う。
「待ってよー。」
「いつも言っているじゃねーか。待てと言われて待つやつはいないぜ。」
二人の会話を聞いてカノンの顔に笑みが浮かぶ。
彼女はウェスカー計画で訓練されたウェスカーではない。アンブレラ出身であることは違いないのだが、そのウェスカー計画の後に訓練されたウェスカーだ。まともな心があったアンブレラの研究員がウェスカーたちの暴走を恐れて訓練した女性である。そのため、強くて優しい。
そんなときに事故が起きた。
レイジが積み上げられた資材に触れたとき資材が少し動いた。資材自体は崩れなかったが資材が隠れていたスイッチを押した。
資材を持ち上げるためのクレーンのアームが動き出す。しかし、残念なことにそれを支えるワイヤーは錆びていた。動き出したアームの重さに耐え切れず、ワイヤーは切れてしまった。アームが落下する。そしてその下にはレイジがいた。
「兄さん、危ない!」
待ち伏せ作戦で隠れていたハントが走り出し、レイジの体を突き飛ばそうとした。
しかし、遅かった。
アームはハントたちの肩に当たりその場に倒した。それはハントの右半身を押し潰し、同時にレイジの左半身も押し潰した。さらにレイジはうつ伏せに転んでしまい左目に落ちていた鉄パイプが刺さった。二人はその場で気を失った。
カノンはハントとレイジをアームの下から助け出し、研究室のベッドに休ませるとアルバレストを呼んだ。母親の望美は話を聞いた瞬間に気絶してしまった。
今は二人で研究室に急いでいるところだ。
「博士、速く!」
「わかっている!」
扉を開けると機械につながれ、大量出血を起こしているハントとレイジがいた。機械の力で呼吸を行い、輸血も行なわれている。
アルバレストは二人のもとに駆け寄り、声をかける。
「ハント、レイジ、大丈夫か?」
返事はない。二人に意識はなく、返事など返ってくるはずがないのにアルバレストは声をかけ続けた。やがて、瞼すら動かさない愛する我が子の変わり果てた姿に泣き崩れた。
「博士、二人は生きています。医師でもあるんですから頑張って治療しましょう。」
「……無理だ。できるはずがない。」
諦めているアルバレストの様子にカノンはイライラしてきた。だが、感情を抑えて話す。
「博士ならできますよ。」
「無理だよ……」
「諦めないでください。」
「僕には無理だ。できっこない。」
「ふざけんじゃねぇ!」
感情を抑えて話していたカノンも限界だった。思わず怒鳴ってしまう。
2人が生まれたばかりの頃から研究所にいたカノンにとってハントとレイジは我が子のようなものなのだ。そんな子供たちの本当の親であるアルバレストが諦めている姿に彼女は我慢できなかった。
「博士が諦めてどうするんですか!こんなになっても……こんなにボロボロになっても二人は生きているんですよ!治療すればまだ生かすことができます!治療しましょうよ!」
「……わかった。」
アルバレストは覚悟を決めた。しかし、彼には懸念があった。
「治療するのはいい。だが、私は二人に身体の不自由なく生きてもらいたい。傷をふさぐように普通に治療すれば、二人は普通に歩けなくなる。それが嫌なんだ。」
「でも、そんなことできるはずがないです。失ってしまった身体の一部はもう潰れてなくなっているんですよ。そんなものを再生させるなんてそんなこと…………まさか⁉︎」
カノンは気づいた、彼が何を考えているのかを。
普通に治療すれば失った一部が再生するはずがない。そう、普通ならば。彼が考えているのは普通ではない治療法。つまり、
生物兵器への人体改造
カノンは反対しようとした。しかし、彼の願いは二人が身体の不自由なく生きられることだ。彼女は彼に任せることにした。
「生物兵器化ですね。私は反対しません。博士に任せます。」
「よし!すぐに取り掛かる。僕が作った新しいやつがあるはずだ。それを使おう。」
改造と言ってもサンプルを注射器で打ち込むだけだ。ハントには赤いサンプルを、レイジには青いサンプルを打ち込んだ。サンプルが入りきった瞬間に二人の身体がビクリと動き、沈黙した。
「適合するのに三日、傷が治るのに一日かかる。二人が意識を取り戻すのは五日後になると思う。それまでは安心できない。」
彼らは五日間寝ずに二人の様子をうかがった。
「う、うーん。」
ハントの目が覚める。今の彼には自分を襲った強烈な痛みのことまでしか記憶がない。
彼が今いる場所は鋼鉄製の壁に囲まれた実験場。鋼鉄製のはずなのに壁は所々に傷がついたり、凹んだりしていた。
何故ここにいるかわからない。何故ここにいるのかを考えているとアナウンスでアルバレストの声が聞こえてきた。
『ハントー、大丈夫か?』
「父さん!僕は大丈夫だよ。それよりも、どうしてここにいるの?」
『それについてはこちらに来てから話す。ゲートから出て研究室まで来てくれ。』
「はーい。」
ハントは研究室に走って向かう。彼は気づかなかったが、走る速さは人外じみたスピードだった。
研究室には研究所の者が全員集まっていた。
「よし!ハントも来たことだし話そう。
まず、ハントとレイジは生物兵器になった。完全な人間には戻れない。」
「「え⁉︎」」
ハントとレイジは驚いたがそれ以外の者の表情は変わらなかった。
「ハントとレイジは五日前の事故で死にかけた。だから、その治療のために改造したんだ。二人の意見を聞かなくてごめんな。」
それを聞いた二人は微妙な心境だった。自分は人間をやめさせられたのだ。それも自分の父親によってだ。少し怒りがわいたが自分が結果的に助かったことがあるため、なってしまったものは仕方ないと納得したことにしてお礼を言う。
「「父さん、ありがとう。」」
「うん。二人が納得してくれたみたいで良かったよ。これから生物兵器としての名前を発表する。レイジは『バスターキング』、ハントは『ハンターキング』だ。」
(僕は『ハンターキング』か、なんかかっこいい。)
(僕は『バスターキング』か、傍若無人なる王……悪くないな。)
「2人は昨日暴走して戦っていたんだ。次もいつ暴走かわからないから気をつけて生活してくれ。」
「ああ〜。だからあの部屋は壁がボロボロだったんだ。」
「そういうことだ。ハントとレイジの戦いはすごかったぞ。」
「結果はどうだったの?」
ハントは期待しながら訊ねる。訊ねこそしなかったが、レイジも目を輝かせている。
2人にとって最大のライバルは双子の兄弟であるそれぞれであり、その相手に勝てたときはとても嬉しいのだ。
「引き分けだ。それぞれのパンチがそれぞれの顔に当たって同時に気絶だった。」
2人は「またか」というような表情になる。今までに2人がしてきた勝負ではどちらかが勝っても異なる勝負で違う方が勝ち、五分五分なのだ。
自分の勝利で決着をつけたいレイジは提案をする。
「よし!ハント、これが終わったら後で勝負だ!」
「いいよ〜♪」
「ほどほどにしてくれよ。」
「「はーい。」」
「じゃあ、話はここまでだ。解散。」
話が終わり、全員はそれぞれの仕事に取り掛かった。研究員たちは研究を再開し、ハントとレイジは実験場に向かった。
この日、後に最高傑作と言われることになる一対の生物兵器が生まれた。
今回のゲストは栗里さん。
「昔の範人ってロングヘアだったんだね。頭の中には女の子みたいな範人が浮かんだんだけど……」
私も思いました。まぁ、子供の頃は範人も冷仁も女の子みたいな顔だったので似合っていたと思いますね。
「そういえば、範人って日本人とアメリカ人のハーフだったんだ。」
そうです。だから、日本語がペラペラなんです。もちろん、紫に教えてもらったということもありますが、それ以上に母親が話していたのを覚えたということが大きいです。
「あ、今回は範人の生物兵器としての名前の答え合わせだったね。」
はい。範人の生物兵器としての名前は『ハンターキング』です。なお、ハンターは特に関係ないです。共通点は暴走時に身体を覆う甲殻の色くらいですね。
それと、冷仁の生物兵器としての名前は『バスターキング』です。冷仁の能力を考えた際に傍若無人という単語が浮かんだので、範人に合わせて『キング』という単語をつけてみました。
「冷仁の変異時の姿は次回わかるよ。ついでに言うと、次回は普段の2倍くらいの文字数だよ。(普段は3,000字くらい)」
『ではまた、次回お会いしましょう。』